平成23年度 盲ろう者コミュニケーション訓練促進事業報告書 〜日本のヘレン・ケラーを支援する会〜 社会福祉法人 全国盲ろう者協会 目次 第1部 事業の概要  1−1 目的  1−2 平成23年度の事業内容 第2部 盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会  2−1 概要  2−2 研修会開催要領  2−3 研修会カリキュラム  2−4 科目別の内容   2-4-1 盲ろう者向けパソコン指導概論   2-4-2 画面インターフェースを活用した指導   2-4-3 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー FocusTalk for Brailleとアプリケーション   2-4-4 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー PC-Talker + BrailleWorksとアプリケーション   2-4-5 ブレイルセンスプラスの概説と演習   2-4-6 NPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」での取り組み ―誰もに優しいITの未来   2-4-7 盲ろう者へのパソコンサポートの実際  2−5 受講者からのアンケート結果 第3部 コミュニケーション訓練個別訪問指導  3−1 概要  3−2 募集要領  3−3 個別訪問指導報告(パソコン編)   3-3-1 Aさん   3-3-2 Bさん  3−4 個別訪問指導報告(ブレイルセンス編)   3-4-1 Cさん   3-4-2 Dさん  3−5 受講盲ろう者へのアンケート調査   3-5-1 パソコンと点字ディスプレイ   3-5-2 ブレイルセンス  3−6 考察 第4部 機器・ソフトウェア調査  4−1 はじめに  4−2 調査概要とその結果  4−3 まとめ 第1部 事業の概要 1−1 目的  当協会が、20年間かけて取り組んできた「盲ろう者向け通訳・介助員養成事業」「同派遣事業」は、障害者自立支援法の施行により、都道府県地域生活支援事業として、平成21年度よりようやく全都道府県に移行することができた。  しかしながら、各地域において同事業を円滑に運営していくためには、なお課題が多い。すなわち、@同事業を各地域で支えるための組織「盲ろう者友の会」等の組織強化、Aサービスの地域格差の是正、B盲ろう者自身のコミュニケーション手段の開発と能力の向上に取り組む必要がある。  本事業は、盲ろう者向けパソコン指導者の拡充を図るとともに、盲ろう者へのコミュニケーション訓練個別訪問指導を通じて、パソコン等情報機器を活用することで、Bの課題を解決しようとするものである。本事業によって盲ろう者のコミュニケーション能力を向上させ、社会参加の促進を図ることは、個々の盲ろう者が有する能力および適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営む上で、ぜひとも必要である。 1−2 平成23年度の事業内容  本事業は、次の四つを柱に実施した。 @盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会の開催  盲ろう者にパソコン等情報機器を指導する場合に、その盲ろう者の障害の程度やニーズを把握すること、それを受けて指導者として配慮すべき点や心構えとなる事項についての概論を皮切りに、盲ろう者がパソコンを活用する場合、画面を拡大して使用する方法、点字ディスプレイの表示を頼りに使用する方法の二つに大別されるが、この二つの方法を中心に、各種スクリーンリーダーやアプリケーション、また、点字情報端末ブレイルセンスプラスの操作方法ならびに指導法、さらに、パソコン等情報機器を使いこなせるようになった後も、サポートが重要になることなども含めて、講義と実習を組み合わせたカリキュラム編成で実施した。  今年度は、パソコンのOSが「Windows 7」に移行した現状を踏まえ、新たに昨春リリースされた点字表示に対応する「PC-Talker 7」と「BrailleWorks」を取り上げた他、近年徐々に盲ろう者の間で普及しつつあるブレイルセンスの理解をより確実にするために、充分な時間を確保して実施した。  また、個々の受講者のペースに合わせて実習を行えるよう、個別に課題を提示したり、グループ分けによるきめ細かな指導ができるよう試みた。  さらに、連携団体としてNPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」の協力を得て、すまいるで取り組んできている盲ろう者の活用を想定した開発ソフトウェアの紹介も行った。(第2部に詳述) Aコミュニケーション訓練個別訪問指導の実施  下記に示す4団体と連携して、コミュニケーション訓練個別訪問指導を希望する盲ろう者4人に対して、概ね11月〜1月の3ヶ月間、パソコン等情報機器を貸与し、盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会を受講した指導者等を派遣して訓練を行った。これに併せて講師を派遣し、盲ろう者および指導者を対象に、貸与期間の初期・中期・後期に講習会を実施した。3ヶ月という短い期間ではあったが、すべての盲ろう者がメールを送受信できるようになった。また、インターネット上のニュースや天気等の情報を独力で入手できるようになったケースもあり、日常生活において、これまでにはない情報入手手段が得られたと言える。(第3部に詳述) *連携団体 福島盲ろう者友の会、静岡盲ろう者友の会、広島盲ろう者友の会、宮崎県盲ろう者友の会 B盲ろう者向けパソコン等情報機器およびソフトウェアの評価・検討調査の実施  パソコンの世界では、OSがWindows 7へと本格的に移行した。よって、盲ろう者も自ずとこれらを使いこなす必要が出てきた。そこで、Windows 7上で動作し、点字表示にも本格対応したPC-Talker 7と、その点字表示機能を担うBrailleWorksを中心に、評価・検討調査を実施した。それを受けて、研修カリキュラムに取り入れた他、個別訪問指導でのメインスクリーンリーダーとして採用し、後述の「盲ろう者向け指導マニュアル」でも取り上げている。(第4部に詳述) C「盲ろう者向けパソコン指導マニュアル」の作成と配布  同マニュアルは平成19年度にWindows XP対応版として初版を作成し、関係機関に配布した。盲ろう者を対象としたこの種のマニュアルは初ということもあり、多くの盲ろう者関係機関ならびに関係者より、問い合わせ・頒布の希望があった。翌年度には、Windows Vista上での利用環境を加筆した改訂版を作成・配布し、めまぐるしく変化するパソコン環境に対応してきた。  しかしながら、その時点では、パソコンのOSはWindows XPが主流であり、今となってはもはや過去のOSとなりつつある。そこで、今回はWindows 7をベースに、スクリーンリーダーならびに主要なアプリケーションを取り上げて、最新の状況に対応したマニュアルを作成した。(別添参照) 第2部 盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会 2−1 概要  平成23年11月23日(水)〜27日(日)までの五日間、大阪府大阪市中央区城見1−2−27「クリスタルタワー」を会場に、「平成23年度盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会」を開催した。  今回は、大阪を拠点に活動しているNPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」の協力を得て、初めての大阪での開催となった。  全国各地から、盲ろう者団体関係者をはじめ、実際に盲ろう者へのパソコン指導を行っている方、盲ろう者へのパソコン指導を志すパソコンボランティアの方等々、受講者9人(内盲ろう者一人を含む)の参加があった。  五日間、講義と実習を通して、盲ろう者がパソコン等情報機器を活用することの有用性をはじめ、盲ろう者へのパソコン指導の心構えや注意点、必要な機器および各種ソフトウェアの紹介等、点字ディスプレイを使用してパソコンを利用する盲ろう者(点字ユーザー)、残存視力を活用してパソコンを利用する盲ろう者(画面ユーザー)の二つのタイプを想定してのカリキュラムを組んで実施した。  今年度の特徴としては、パソコンについてはOSを「Windows 7」とし、点字ユーザー向けのスクリーンリーダーでは「FocusTalk V3 for Braille」(以下、FocusTalk for Braille)に加え、点字表示に完全対応した「PC-Talker 7」と「BrailleWorks」を取り上げた。また、点字情報端末ブレイルセンスプラスについては、特に健常の指導者にとってはパソコンと本質的には同じものであるが、インターフェースは点字が基本ということもあり、操作方法ならびに指導法において、ややハードルが高くなってくること等に鑑み、十分な時間を取って講習を行った。さらに、実習については、個々のペースに合わせて取り組めるように、課題の提示、個別グループに分けての実技等の工夫を試みた。  さらに特記すべきは、本研修会の協力団体である「すまいる」において、盲ろう者へのコミュニケーション支援の一環として取り組んでいる、盲ろう者に使いやすいソフトウェア開発について、その開発に至るまでの動機等含めて講義をいただいた他、現在開発中のメールソフトである「すまいるM8(メイト)」と「Braille Mobile Communicator(BMC)」の実演が行われた。 2−2 研修会開催要領 平成23年度「盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会」開催要領 1.目的  本研修会は、盲ろう者向けパソコン指導者の養成を図り、もって盲ろう者がパソコン等情報機器の操作を学ぶ機会を拡大し、情報バリアフリーおよび社会参加の推進に資することを目的とする。 2.主催  社会福祉法人 全国盲ろう者協会 3.協力  NPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」 4.日程  平成23年11月23日(水)〜27日(日)五日間 5.場所  クリスタルタワー  〒540-6020 大阪市中央区城見1−2−27  TEL:06-6949-5151  http://www.crystaltower.jp/ 6.研修対象者  次の条件を満たす方 ・盲ろう者福祉に熱意があり、盲ろう者に対してのパソコン指導を志す方、もしくは学校・団体・個人等で指導に従事している方。 ・日常的にパソコンを活用し、メーラーのアカウント設定ができる方。  ※点字ディスプレイに表示されている点字を読むことが可能な方が望ましい。 7.受講定員  10人程度(障害は不問、盲ろう者枠二人予定) 8.カリキュラム 別途検討中  ※(別添2)「平成22年度盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会カリキュラム」参照 9.研修目標  ・盲ろう者を正しく理解する。  ・盲ろう者に合ったパソコン環境を選択・構築できる。  ・盲ろう者のニーズを汲み取り、その盲ろう者のコミュニケーション手段・必要なユーザーインターフェース等を考慮した上で、適切な指導ができる。 10.研修料  3千円(交通費・宿泊費・食費は自己負担とする) 11.受講証交付  一定時間の研修を受けた方に対しては受講証を交付する。 12.申し込み方法  (別添3)「平成23年度盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会受講者申し込み方法・諸注意」参照 13.申し込み締切  平成23年10月10日(月)必着 14.申込先 社会福祉法人 全国盲ろう者協会  〒162-0042 新宿区早稲田町67番地 早稲田クローバービル3階  TEL:03-5287-1140  FAX:03-5287-1141  E-mail:info@jdba.or.jp 2−3 研修会カリキュラム 平成23年度「盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会」カリキュラム 11月23日(水) 9:10〜 9:20 受付 9:20〜 9:30 開講式 9:30〜12:10 盲ろう者向けパソコン指導概論(大河内直之) 12:10〜13:20 昼食 13:20〜14:50 画面インターフェースを活用した指導1(高橋信行) 画面拡大ソフト「ZoomText」「拡大鏡」「あんだーまうす君」他 15:10〜16:40 画面インターフェースを活用した指導2(高橋信行、大河内直之、森下摩利) 11月24日(木) 9:00〜10:30 画面インターフェースを活用した指導3(高橋信行) メーラー「VoicePopper」「イージーパッド」、ブラウザー「Internet Explorer」「Firefox」他 10:40〜12:10 画面インターフェースを活用した指導4(高橋信行、大河内直之、森下摩利) 12:10〜13:20 昼食 13:20〜14:50 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー FocusTalk for Brailleとアプリケーション1(大河内直之) スクリーンリーダーの基礎 15:10〜16:40 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー FocusTalk for Brailleとアプリケーション2(大河内直之、高橋信行、森下摩利) メーラー「VoicePopper」 11月25日(金) 9:00〜10:30 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー FocusTalk for Brailleとアプリケーション3(大河内直之、白井康晴、森下摩利) ネット検索ツール「サーチエイド」 10:40〜12:10 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー PC-Talker + BrailleWorksとアプリケーション1(渡井秀匡) スクリーンリーダーの基礎 12:10〜13:20 昼食 13:20〜14:50 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー PC-Talker + BrailleWorksとアプリケーション2(渡井秀匡、白井康晴、村岡寿幸) メーラー「MyMail」、ニュース閲覧ソフト「MyNews」 15:10〜16:40 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー PC-Talker + BrailleWorksとアプリケーション3(渡井秀匡、白井康晴、村岡寿幸) 総合読書システム「MyBook」、他のマイシリーズアプリケーションの紹介 11月26日(土) 9:00〜10:30 ブレイルセンスプラスの概説(村岡寿幸) 10:40〜12:10 ブレイルセンスプラスの演習1(村岡寿幸、門川紳一郎、白井康晴、渡井秀匡、森下摩利) 12:10〜13:20 昼食 13:20〜16:40 ブレイルセンスプラスの演習2(村岡寿幸、門川紳一郎、白井康晴、渡井秀匡、森下摩利) 11月27日(日) 9:00〜12:10 NPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」での取り組み1 ―誰もに優しいITの未来(門川紳一郎) 10:40〜12:10 NPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」での取り組み2(門川紳一郎、白井康晴、森下摩利) 12:10〜13:20 昼食 13:20〜14:20 盲ろう者へのパソコンサポートの実際(森下摩利) 14:30〜15:00 質疑応答(森下摩利) 15:00〜15:10 閉講式 2−4 科目別の内容  以下、カリキュラムに従って、講義内容、実習内容を示す。 2-4-1 盲ろう者向けパソコン指導概論 大河内 直之  本講義では、視覚と聴覚の両方に障害を併せ持つ盲ろう者にとって、パソコン等の情報機器利用が果たす役割の大きさを確認しながら、そうした機器を盲ろう者に届ける際の心構えについて考えた。 1.盲ろう者の不便  視覚と聴覚の活用が難しい盲ろう者が抱える不便は、@移動、A情報入手、B他者とのコミュニケーションの三つである。その内、情報入手およびコミュニケーションの不便の一部が、パソコンを利用することにより軽減すると言われている。まずはこのことを確認した上で、プライバシー保護や人的支援が受けられない際の手段として、パソコン利用は盲ろう者の生活において非常に重要なツールであることを説明した。一方で、パソコンが担う支援は非常に限定的でもあり、盲ろう者の不便を軽減する手段の大半が、人的な支援に支えられている現状も併せて説明した。 2.盲ろう者のパソコン利用の現状  現在、多くの盲ろう者に利用されるパソコン等の情報機器であるが、そのほとんどが視覚障害者向けソフト・ハードである。盲ろう者向け機器の研究・開発も様々に行われているが、@ニーズが多様であること、Aユーザーの数が少ないこと等により、製品化にはつながっていない。こうした現状を説明した上で、盲ろう者が利用できる機能は極めて限定的であり、また様々な工夫や特殊な設定が必要であることを紹介した。 3.盲ろう者向けパソコン指導者の必要性と求められる要件  このような環境下では、盲ろう者はパソコンやその周辺機器、ソフトウェアを購入しただけでは利用することができないことは明白である。このことを共有した上で、盲ろう者がパソコンを利用できるようになるためには指導者が必須であること、従って本研修会の受講者の役割は、極めて重要であることを強調した。その上で、盲ろう者向けパソコン指導者に求められる要件として、@視覚障害者向けパソコンシステムの基本的な仕組みを知っていること、A点字の仕組みを知っていること、B盲ろう者のコミュニケーション手段を知っていることの三つがあることを確認した。 4.盲ろう者のパソコン利用の特性  多くの盲ろう者が、コミュニケーションをとる際に手を使うことが多い。従って盲ろう者は、パソコンの操作をしながら指導者の説明を聞くことができない。反対に、パソコンの操作をしているときは、指導者から説明を受けることもできない。  また、触覚にて点字ディスプレイを利用する盲ろう者においては、操作を行った際のパソコンからのフィードバックを瞬時に受けとることができない。そのため、キーボードを操作したら点字ディスプレイを確認し、またキーボードに手を戻して次の操作をする、というように、常にキーボードと点字ディスプレイの間で手の往復を強いられる。こうした盲ろう者の基本的な特性を紹介した上で、実際に指導にあたる際には、この特性をしっかり踏まえておかなければ盲ろう者に指導内容がなかなか伝わらないことを説明した。 5.盲ろう者向けパソコン指導における注意点  盲ろう者の特性を踏まえた上で、実際にどのような指導方法が有効であるかを紹介した。  まず、操作の説明をする場合は、一手順を説明したらその手順を実行していただき、また次の手順を説明して操作していただく、というように、一手順ずつ区切った説明が有効であることを紹介した。またその際に、絶対に操作中は説明をしないことが大切であることを強調した。  次に、サインを決めておくことの大切さについて説明した。盲ろう者が操作している際に、指導者側は説明することはできないが、その操作が合っているか間違っているか等の情報を盲ろう者に伝えられると、盲ろう者は安心して操作することができる。そのため、合っているときは○、間違っているときは×、操作を中断してほしいときは、肘を2回たたく等のサインを決めておくことが推奨されていることを紹介した。  最後に、特に点字ユーザーに対する工夫として、キーボードと点字ディスプレイの往復を極力軽減するために、パソコンのキーボードと点字ディスプレイの距離を近づけて設置する、入力については極力手の動きが少ない6点入力を採用する等の方法を紹介した。 2-4-2 画面インターフェースを活用した指導 高橋 信行  本講義では、ロービジョンの盲ろう者に対してパソコン指導を行う人のために、1)ロービジョンについて、2)GUIの最適化の視点および具体的方法について、3)各アプリケーションの指導上のポイント、4)指導上の配慮事項について説明した。 −−−−−− 指導対象盲ろう者 ・弱視ろう(弱視+全ろう) ・弱視難聴(弱視+難聴) −−−−−−  本講義で対象とする盲ろう者は、ロービジョンの盲ろう者である。「障害の程度」の区分では「弱視ろう」、「弱視難聴」が該当する。 1.ロービジョン(LV)の理解  様々なロービジョン者の見え方、見えにくさについて紹介した。 1−1.概要 −−−−−− ロービジョン(LV) とは ・眼鏡やコンタクトレンズ等で矯正しても、学習・日常生活に支障が生じる者 ・概ね、身体障害者手帳2〜6級が該当すると思われる −−−−−−  ロービジョンとは、眼鏡やコンタクトレンズ等で矯正してもなお、学習・日常生活に支障が生じる状態を指しており、概ね身体障害者手帳2〜6級が該当すると思われる。 −−−−−− 身体障害者手帳における視覚障害の等級表 ・視力(矯正視力) ・視能率 = 8方向の視野角の合計 / 560  視能率の損失 = 100 − 視能率 1級 両眼の視力の和が0.01以下のもの 2級 1.両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの    2.両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が95%以上のもの 3級 1.両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの    2.両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90%以上のもの −−−−−−  身体障害者手帳の視覚障害等級表の1〜3級までを示した。2級の判定基準に注目すると、視力および視能率による規定があり、視力による規定では、両眼の視力の和が0.02〜0.04となっている。これは眼鏡やコンタクト等で矯正された状態の視力である。視能率による規定では、視能率の損失率が95%以上となっている。正常者では、8方向の視野角の合計が約560゜になるので、それに対してその方の視野角の合計が正常者の何%になるかを表した数値が視能率である。 −−−−−− 例えば、身体障害者等級2級の視覚障害では 「両眼の視力の和が0.02以上0.04以下の者」である → 仮に左右の視力がそれぞれ0.01だとすると視力の和は0.02となり、2級に該当する最も低い視力 ・視力0.01における視認可能な視角は1度40分 ・30cmの距離からディスプレイを見た場合、切れ目幅約8.7mm、直径約43.5mmのランドルト環を判別できる −−−−−−  仮に左右の視力がそれぞれ0.01とすると、視力の和は0.02となり、2級に該当する最も低い視力と言える。視力0.01における視認可能な視角は1度40分である。これは、30cmの距離からディスプレイを見た場合、切れ目幅約8.7mm、直径約43.5mmのランドルト環を判別できる視力である。 −−−−−− 文字を読むために識別が要求される細部の寸法は8画の漢字で文字寸法の1/14とされている(中根) 中根 芳一: 印刷文字の見易さ及び適正照度に関する研究 日本建築学会論文報告集 111-120, 192,1975 → 視力0.01の者に対しては、122mmのサイズの文字を提示すれば判読できる → 24インチのディスプレイを用いて横に4文字を表示することが可能である(視距離10cmなら12文字) −−−−−−  中根の研究では、文字を読むために識別が要求される細部の寸法は、8画の漢字で文字寸法の1/14とされているので、視力0.01の者に対して122mmのサイズの文字を提示すれば、文字の判読ができることになる。24インチのディスプレイを用いた場合、横に4文字を表示できる。また、視距離10cmであれば12文字を表示できる。すなわち、視力が0.01であれば、GUIを使ってパソコン操作を行うことが期待できる。 −−−−−− 視能率の損失95%とは ・正常な人の視野の8方向の合計560° ・視能率の損失95%ということは、5%の視野を残しているということ  → 一方向 3.5°  → 7°の円形の視野が該当 ・中心部の視力がよく、細かい文字が視認できても、視野が狭い状態は2級に該当 −−−−−−  視能率の損失の点から考えていきたい。視能率は、8方向の視野の合計により算出されるため、視能率の損失95%は、一方向3.5度の状態であり、直径7度の円形の視野を残している状態は、2級に該当する。左図のように7度の視野があれば、残存視野で文字を判別できるので、視能率の損失95%においても、GUIを使ってパソコン操作を行うことが期待できる。 −−−−−− 渡辺(2007)らによる視覚障害者412名に対して行った調査では、視覚的な文字の読み書きの可能な者の割合  1級 10.5%  2級 67.4%  3〜6級 85.7% 渡辺 哲也、宮城 愛美、南谷 和範、長岡 英司: 視覚障害者のパソコン利用状況調査2007 電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 108:7-12,2008 ・墨字を使ってPC操作できるLVとは、概ね2〜6級である ・視覚障害等級2〜6級はおよそ18万9千人  視覚障害者約30万人に対し18万9千人がLVとして視覚的な文字を活用できるとすると、視覚障害者の63%が視覚的文字を活用 −−−−−−  2007年、渡辺らが視覚障害者412名に対してパソコン利用状況の調査を行っている。それによると、視覚障害の等級とパソコンを操作する際の文字について、1級では10.5%、2級では67.4%の方が墨字を使っていることから、墨字を使ってパソコンを操作するのは概ね2〜6級に該当する方と考えられる。これは、視覚障害者全体の約63%にあたる。 −−−−−− 平成16・17年度盲ろう者生活実態調査より 全国盲ろう者協会(平成18年3月) ・60.4%の盲ろう者が画面を活用 ・インターネットで情報を収集している盲ろう者は15% 推測 ・半分以上の盲ろう者が画面を活用している、あるいは活用できる ・盲ろう者は十分にインターネットを活用できていない −−−−−−  盲ろう者においても、平成16、17年度に行われた盲ろう者生活実態調査で、60.4%の方が画面を使ってパソコンを操作していると回答しており、半分以上の盲ろう者の方は画面を活用している、あるいは活用できると考えられる。一方、同調査ではインターネットで情報を収集している盲ろう者は15%であったことから、盲ろう者はまだまだパソコンやインターネットを充分に活用できていないと思われる。従って、本講義の受講者がGUIを使う盲ろう者や点字を使う盲ろう者に対して指導できるようになり、それぞれの地元で各々の盲ろう者に適した指導を行っていただくことは、とても有意義なことである。 −−−−−− PC操作方法による操作習得の難易度 ユーザーインターフェースとPC操作の難易度 操作方法:全盲操作方法 発信(コマンド):キーボードのみ 受信:スクリーンリーダ−、点字ディスプレイ  難易度:難 操作方法:LV 操作方法 発信(コマンド):マウス、キーボード 受信:GUI(画面を見る) 難易度:易 ・GUIを使わない操作方法は、難易度が高く、習得のハードルが高い ・可能であるならば、GUIを最適化して、マウスを使ったPC操作の習得にチャレンジ −−−−−−  パソコンの操作習得の難易度について考えてみたい。全盲者はキーボードのみで操作し、スクリーンリーダーや点字ディスプレイを使ってパソコンからの出力を受け取るが、そうした画面を使わない操作方法は、難易度が高いであろうことは想像できるだろう。これに対して、画面を見ながらマウスを使って操作する方法は、習得のためのハードルが低いと言える。GUIを最適化することで、ロービジョンの盲ろう者がGUIを活用したパソコン操作ができるようになるのであれば、マウスを使ったパソコン操作の習得にチャレンジする価値があると思われる。 −−−−−− LVの盲ろう者に対するPC指導とは 第1段階 LVの盲ろう者:機器・ソフト導入、セットアップ、操作環境最適化、GUIの最適化 指導者:盲ろう者の視覚特性評価、機器・ソフト導入のアドバイス、GUI最適化支援、操作環境最適化支援 第2段階 LVの盲ろう者:PC操作トレーニング 指導者:盲ろう者に適した操作方法を指導 第3段階 活用 LVの盲ろう者:メンテナンス 指導者:メンテナンス、スキルアップの支援 −−−−−−  ロービジョンの盲ろう者に対するパソコン指導を3段階に分け、各々の段階で指導者が行う支援をまとめた表を示す。 1−2.LVの見えにくさの理解  ロービジョンの盲ろう者における、代表的な見えにくさを取り上げて説明した。 −−−−−− 視覚の経路 →図は省略。 −−−−−−  見えにくさを理解するためには見える仕組みを理解する必要があるので、視覚の経路を簡単に図示した。視刺激は眼球の表面から、角膜、虹彩(瞳孔)、水晶体、硝子体を通過し、網膜に投影される。網膜には視細胞があり、ここで光刺激は神経の興奮に変換されて、視神経によって大脳の後頭葉に送られる。後頭葉に投影された情報は、さらに周囲の皮質等により認識されることで初めて「ものが見えた」ということになる。このように「ものが見える」ためには長い経路を辿っているので、そのどこかでトラブルが発生すると、見えない、見えにくいということが起こる。しかも、その程度や見えにくさは様々である。 −−−−−− 白濁と羞明 水晶体:透明でレンズの役割をする  正常:濁りのない水晶体  老人性白内障は周囲から濁りが出てくる  症候性の白内障は中心部より濁りが出てくることが多い −−−−−−  代表的な見えにくさをレビューしていきたい。まず「白濁(はくだく)」と「羞明(しゅうめい)」である。白濁とは白く濁ることで、例えば白内障という病気がある。これは、眼球の中のレンズに相当する水晶体が白く濁ってしまう病気で、晴眼者でも年齢とともに白く濁ってくる。これは老人性白内障と呼ばれ、水晶体の周囲から濁ってくることが多いようである。これに対して、症候性の白内障では中心部から濁ってくる場合が多く、この場合は、早期から見えにくさを訴えることになる。水晶体が濁ると、まぶしさを感じる。普通の人がまぶしさを感じないような明るさで、まぶしいと感じる症状を羞明と言う。 −−−−−− 屈折異常 →図は省略。 −−−−−−  次に「屈折異常」という見えにくさについて説明する。これは、水晶体の欠損や異常、水晶体を調節する毛様体筋の異常、眼球の前後径の異常等により、網膜で結像しないためピントが合わず、ぼやけて見えにくい状態のことを指す。 −−−−−− 中心暗点 ・視野の中心部が見えないので視力が出ない ・顔や目線を対象物からそらす仕草が目立つ −−−−−−  「中心暗点」という見えにくさについて説明する。視野の中心には、黄斑部と呼ばれる最も視力が良い部分があり、この部分が障害されると著しく視力が低下する。この場合、視野の周辺部で対象物を見ようとするため、対象物から視線をそらす仕草が目立つようになる。 −−−−−− 黄斑部の変性による中心暗点 →図は省略。 −−−−−−  黄斑部が変性している状態の模式図を示す。 −−−−−− 視野狭窄 ・視野とは見える範囲をいう ・正常な視野は  上が60度  下が70度  外側が100度  内側が60度 ・視野が狭くなることを「視野狭窄」という −−−−−−  「視野狭窄(しやきょうさく)」という見え方について説明する。視野とは見える範囲のことであり、その見える範囲が狭くなっている状態が、視野狭窄である。 −−−−−− 正常視野(右眼) →図は省略。 −−−−−−  正常な人の視野は、図のように上側60度、下側70度、鼻側60度、耳側100度である。視野が狭くなり、中央部の限られた範囲しか見えない状態を、視野狭窄と言う。 2.GUI環境の最適化  GUI環境の最適化について説明した。なお、GUIとはGraphic User Interfaceの略で、画面を使ったコンピューター操作を意味する。 −−−−−− 店で購入した状態のPCではLV者は使えない ! → LV者の見え方に合わせて画面表示最適化をする −−−−−−  通常購入したばかりのパソコンは、図のような配色、文字の大きさ、標準のマウスカーソルであり、この画面表示設定ではロービジョンの盲ろう者がパソコンを使うことは難しい。そこで、これらの設定をロービジョンの盲ろう者が見やすいように設定し直す必要がある。 −−−−−− logMARを使って視力を表す logMARは距離に依存しないので、logMARを使って、視力や最適文字サイズを表すと便利である logMARとは、視角の常用対数 MAR=minimum angle of resolution(最小分離閾角度) logMAR=Log10(視角(分) ) logMAR:2.0 視角:100 小数視力:0.01 logMAR:1.0 視角:10 小数視力:0.10 logMAR:0.0 視角:1 小数視力:1.00 logMAR:0.3 視角:0.5 小数視力:2.00 −−−−−−  ここで「logMAR」という単位について説明しておきたい。我々が日常、視力を表すときに用いる0.1や1.0といった数値は「小数視力」と呼ばれる視力の表し方である。これに対し、ロービジョンケアの分野ではlogMARという単位を使って、視力を表すことが多くなってきている。logMARは最小視認閾の視角を対数で表した単位である。logMARを用いて視力を表すことで、視距離に関わらず、文字の大きさや補助具の倍率を計算できるという利点がある。 −−−−−− LVのPC環境最適化手順 (1)LVの見え方を評価 (2)見え方に応じて ・画面デザインのカスタマイズ ・ツールの処方 ・使い方を練習 (3)調整 −−−−−−  ロービジョンの盲ろう者のパソコン操作環境最適化手順を示す。はじめに、盲ろう者の視覚特性を評価し、次に視覚特性に応じて画面デザインのカスタマイズ、ツールの処方、使い方のトレーニングを行った後、調整を行う。 2−1.画面デザイン (1)画面配色の設定 −−−−−− 画面配色の設定 ・コントラストポラリティ効果 ・空間周波数とコントラスト感度 −−−−−−  画面配色の設定を行う前に、「コントラストポラリティ効果」と「空間周波数とコントラスト感度」について理解する必要がある。 −−−−−− コントラストポラリティ効果 ・白文字黒背景 ・黒文字白背景 どちらが速く読めるか? −−−−−−  コントラストポラリティ効果について説明する。白文字黒背景と黒文字白背景のテキスト画面で、どちらが楽に読めるか、読み速度を指標として読みやすさの評価を行う。 −−−−−− コントラストポラリティ効果の計測 被験者は3文字のひらがなからなる単語を音読 フォントサイズを小さくしながら読字速度を計測 次の条件で読書速度を計測 @B/W AW/B −−−−−−  コントラストポラリティ効果の計測について説明する。被験者は、画面に表示される3文字のひらがなで構成された単語を音読し、フォントサイズを小さくしながら読字速度を計測する。このことを、黒文字白背景と白文字黒背景の2条件で実施し、読み速度の比較を行う。 −−−−−− 晴眼者の一例とLV-1〜4までのグラフ →図は省略。 −−−−−−  晴眼者一例とロービジョン者4例で計測した結果をグラフ化した。横軸は文字サイズ、縦軸は読み速度を示している。晴眼者の一例では、文字の大きさが「ある値」以上であれば読み速度がほぼ一定である。つまり、文字の大きさに関わらず速く読める、ということである。LV-1の方は、文字の大きさが大きすぎても小さすぎても読書速度が低下している。最適な文字の大きさが限られていることが分かる。LV-4の方は、文字が大きければ大きいほど高い読み速度が得られている。  各々のグラフには2本の折れ線が示されているが、一方は黒文字白背景(B/W)、他方は白文字黒背景(W/B)のデータである。晴眼者およびLV-4の方では、両者にそれほど違いは見られない。ところがLV-1の方では黒文字白背景、LV-2、LV-3の方では白文字黒背景が、高い読み速度が得られていることから、コントラストポラリティ効果が観察されていることが分かる。 −−−−−− コントラストとは ・明るい部分と暗い部分との差 マイケルソンコントラスト=(明るい−暗い)÷(明るい+暗い) コントラスト感度 = 1 ÷ マイケルソンコントラスト −−−−−−  コントラストについて説明する。コントラストは、輝度の高い部分と低い部分との差を示しており、マイケルソンコントラストがしばしば使われる。マイケルソンコントラストの計算法は、図に示した通りである。 −−−−−− コントラスト感度を評価する理由 通常の視力測定では真っ白の背景に真っ黒のランドルト環の切れ目が視認できるか、を測っている だが、我々の日常のシーンにおいて、そのような真白の背景に真黒のオブジェクトが存在することは稀である → 視力計測条件と日常生活(PCの画面を含む)に必要な視機能は乖離している → コントラスト感度の評価が必要 −−−−−−  コントラスト感度は、コントラストの逆数で表す。すなわち、どれだけ低いコントラストで対象物を識別できるかということである。我々は視力を検査する際、真っ白の背景に真っ黒のランドルト環の高コントラスト条件でどれほど細かい切れ目を識別できるか計測しているが、日常生活で私たちが目にするものは、大半が曖昧なコントラスト条件である。つまり、視力検査で得られた視力と私たちが日常生活で求められる視力は著しく乖離している。そこでコントラスト感度を考慮した視力評価が必要となる。 −−−−−− LV者と晴眼者のギャップ →図は省略。 −−−−−−  左から右に徐々に細かく、且つ上側から下側に向かうほどコントラストが低くなる縞模様を画面に描画した様子を図に示した。被験者に「縞模様が見えるところに線を引いていください」と指示すると、晴眼者では画面の下の方に線を引くが、ロービジョンの盲ろう者は上の方に線を引く。それらの線により、画面は三つのエリアに分けられる。上エリアは、盲ろう者も晴眼者も知覚できる条件。中エリアは、晴眼者は知覚できるが、ロービジョン者は知覚できない条件。下エリアは、ロービジョン者も晴眼者も知覚できない条件となる。中エリアの状態が、晴眼者とロービジョン者のギャップと言える。よって、中エリアの条件を上エリアに持っていくことが有効な支援になる、ということが分かるだろう。 −−−−−− 眼疾患とCSF(空間周波数ごとのコントラスト感度) ・LV者は健眼者に比べて感度が低下 ・LV者のCSFの低下のプロファイルは多様 ・網膜色素変性症の被験者の場合は、中心窩視力がよく残っており、高コントラストであれば高周波 まで測定できるにも関わらず、CSFはローバス型に なっている ・緑内障の被験者における中・低空間周波数帯域 での感度低下 引用:小田浩一・橋本千賀子・池谷・谷村:低視力者のコントラスト感度(CSF)の測定、第17回感覚代行シンポジウム発表論文集。71-74,1991 −−−−−−  先行研究で、眼疾患に特徴的な空間周波数ごとのコントラスト感度が報告されている。ロービジョンの盲ろう者では、その多くがコントラスト感度が低下していると考えてよいと思われる。 −−−−−− 画面デザインにおけるコントラストの比較 VISTAスタンダード ハイコントラスト黒 −−−−−−  ロービジョン者は、しばしば「ハイコントラスト黒」という画面配色を好んで用いるが、コントラストはどうなっているだろうか。「VISTAスタンダード」と「ハイコントラスト黒」における、各表示部分の文字色と背景色の輝度を計測し、コントラストをグラフ化した。 −−−−−− マイケルソンコントラストによるVISTAスタンダードとハイコントラスト黒の比較グラフ →図は省略。 −−−−−−  グラフを見る限り、VISTAスタンダードよりハイコントラスト黒の方が高コントラストであるという印象は無いが、前者ではコントラストが低い部分があることに対し、後者ではすべての部分で良好なコントラストを維持していることが分かる。つまり、低いコントラスト部分が無いことを示しており、前述の縞模様で示したエリアにおける中エリアの情報を、上エリアに移行させていることが分かる。 −−−−−− 配色設定方法 a)[Ctrl]+[Alt]+[PrtScr] を使う方法 b)画面のプロパティを操作する方法 c)コントロールパネルから設定する方法 d)「コンピューターの簡単操作センター」を使う方法 −−−−−−  「ハイコントラスト黒」の配色の設定方法を説明する。方法はいくつか挙げられるが、今回は四つの方法を説明する。 −−−−−− a)[Ctrl]+[Alt]+[PrtScr] を使う方法 @Windows 7が起動している状態で、[Ctrl]と[Alt]の両方を押した状態で、[PrtScr]をぽんと押す Aここで「はい」のボタンを押すと、画面表示は 「ハイコントラスト画面」になる Bもう一度同じ操作をすると元に戻る −−−−−−  複数ある方法の中でも、最初に盲ろう者に指導していただきたい方法が、[Ctrl]+[Alt]+[PrtScr]を使った操作である。この方法を盲ろう者に薦める理由として、他の方法では画面が見えにくい状態であり、盲ろう者自身が操作できない可能性が高いことが挙げられる。この方法であれば、キーボードの配置さえ知っていれば、画面が見えなくても即座に設定操作が可能となる。 −−−−−− b)画面のプロパティを操作する方法 @デスクトップを右クリック Aショートカットメニューから「個人設定」を選択 B最下部の「ウィンドウの色」をクリック C「ウィンドウの色とデザイン」ダイアログが表示される Dテーマを選択(例えば「ハイコントラスト黒」) E設定を終了 −−−−−−  二つめの方法は、画面のプロパティを操作する方法である。この方法は、後ほど文字のサイズや色など、画面表示の詳細を設定する際にも必要となる。 −−−−−− c)コントロールパネルから設定する方法 @[ウィンドウズ] Aコントロールパネル B「個人設定」 Cb)のB以降と同じ −−−−−−  三つめの方法は、コントロールパネルから設定する方法である。前述した画面のプロパティを操作する方法と、同じダイアログに到達する。 −−−−−− d)「コンピューターの簡単操作センター」を使う方法 方法1 [ウィンドウズ]+[U] 方法2 [ウィンドウズ]→「すべてのプログラム」→「アクセサリ」→「コンピューターの簡単操作」→「コンピューターの簡単操作センター」 方法3 [ウィンドウズ]→「コントロールパネル」→「コンピューターの簡単操作センター」 −−−−−−  最後に、コンピューターの簡単操作センターを使う方法を紹介する。この方法は、アクセシビリティに関する他の様々な設定も可能である。 −−−−−− ディスプレイの調節 ・OSにおける表示の設定とは別にディスプレイにも輝度やコントラストの調節が可能である −−−−−−  以上、Windowsの機能としての画面表示設定について解説した。Windowsにおける設定とは別に、ディスプレイ自体の輝度やコントラストの調整ができるので、これらも併せて調整を行い、ロービジョンの盲ろう者にとって見やすい画面表示の設定を行っていただきたい。 (2)文字サイズ −−−−−− 文字フォントの選択 ・同じ文字サイズでも、教科書体や明朝体は文字線幅が細くLV者に好まれない場合が多い ・かといって、文字線幅が太すぎても、複雑な文字では視認しづらい ・適したフォントは盲ろう者により異なる −−−−−−  ロービジョンの盲ろう者が使う画面に表示する文字サイズは、どのように決定されるべきだろうか。ここでは、文字サイズを決定する際の着目点や設定方法等について解説する。まず、文字サイズを決定する前に文字フォントを選択する必要がある。図では、異なる文字フォントを同じ文字サイズで表示しているが、印象がだいぶ異なることがお分かりいただけるだろう。大雑把だが、晴眼者では明朝体や教科書体といった細いフォント、比較的視力の保たれる視野狭窄型ロービジョン者ではMSゴシック体、視力低下型ロービジョン者ではHG創英角ゴシック等の太いフォントが好まれる傾向がある。但し、太いフォントは画数が多い文字の場合、文字がつぶれて見えてしまう欠点がある。 −−−−−− 文字サイズをどのように決定するか 印刷物の場合 ・近見視力からルーペの倍率決定 ・MNREAD-Jを用いて臨界文字サイズを計測 PCのディスプレイの場合はどうするか? −−−−−−  文字サイズの決定方法について、まず印刷物の文字サイズの決定方法を参考にする。 −−−−−− 近距離視力表 視距離30cmで0.02〜1.0まで計測可能 →図は省略。 −−−−−−  図は「近距離視力表」である。視距離30cmで、小数視力で0.02〜1.0まで計測できる。 −−−−−− 様々な書物を読むのに必要な視力 書物名:米国の新聞 必要な視力:0.4 研究:Sloan and Brown(1963) 書物名:教科書(3号の活字)の平仮名 必要な視力:0.1 研究:湖崎(1965) 書物名:教科書(3号の活字)の漢字 必要な視力:0.2 研究:湖崎(1965) 書物名:新聞(9ポイント)の平仮名 必要な視力:0.3 研究:湖崎(1965) 書物名:新聞(9ポイント)の漢字 必要な視力:0.4 研究:湖崎(1965) 書物名:辞書(6ポイント)の平仮名 必要な視力:0.5 研究:湖崎(1965) 書物名:新聞(6ポイント)の漢字 必要な視力:0.6 研究:湖崎(1965) 書物名:新聞の本文 必要な視力:0.5〜0.7 研究:永井(2000) 書物名:文庫本 必要な視力:0.4〜0.5 研究:永井(2000) 書物名:学校の黒板の字を最前列 必要な視力:0.3 研究:永井(2000) −−−−−−  先行研究で、様々な書物を読むために必要な視力が報告されている。それについてまとめたものが、左記の表である。 −−−−−− ルーペの倍率の計算 倍率=読書に必要な視力÷LVの視力 例えば、教科書の漢字を読むために必要な視力は0.2であるから、 ・LV者の視力が0.1ならば、2倍=0.2/0.1 ・LV者の視力が0.02ならば、10倍=0.2/0.02 −−−−−−  近見視力と書物を読むために必要な視力から、ルーペの倍率を計算できる。例えば、教科書を読むために必要な視力は0.2であるから、仮に盲ろう者の視力が0.02であれば、その盲ろう者に適したルーペの倍率=0.2÷0.02で、10倍の倍率のルーペを処方すれば良い。しかし、実際の読書において、このようにして求められたルーペの倍率が、必ずしも適した値になっていないという報告がある。よって「読書」と「視力」とは、分けて考える必要があると言えよう。 −−−−−− MNREAD-Jによって最適文字サイズを求める だんだんと文字を小さくしながら、音読するのにかかる時間を計測する −−−−−−  そこで「MNREAD」という評価方法が考案された。これは、実際に文字サイズを変えながら文章を読ませて、読み速度を指標として最適な文字サイズを決定するという考え方であり、「MNREAD-J」はその日本語版である。 −−−−−− 文字サイズと読書速度 文字サイズを小さくしていっても、「ある程度のサイズ」までは、読書速度はあまり変わらない。しかし「ある程度のサイズ」より文字サイズを小さくするとき、読書速度は急激に低下する →図は省略。 −−−−−−  晴眼者において「MNREAD-J」を用いて、文字サイズと読書速度の関係を計測すると、左記のグラフを示すことができる。 −−−−−− 臨界文字サイズとは 計測値を基に最適な文字サイズを求める ・CPS(臨界文字サイズ) Critical Print Size  最大の読書速度を保って読むことのできる最小の文字サイズ ・MRS(最大読書速度) Maximum Reading Speed  最大の読書速度を保っているときの平均読字数(単位 CPM) ・RA(読書視力)Reading Acuity  文字として知覚できなくなる視力(単位 logMAR) −−−−−−  晴眼者の読書曲線では、文字サイズが「ある値」以上であれば、読み速度はほぼ一定である。一方、「ある値」を下回ると急激に読み速度は低下する。これらのことから、「ある値」の文字サイズで文字を表示することが、最も効率良く文章を提示できると考えられる。この「ある値」をCritical Print Size(CPS:臨界文字サイズ)と呼ぶ。 −−−−−− 晴眼者 ・CPS以上の文字サイズでほぼ、読書速度が一定である 視力低下型LV ・文字サイズが大きければ、大きいほど、読書速度が速い 視野狭窄型LV ・文字サイズが大きすぎると、視野に入る文字数が減少し、読書速度が低下する ・MRSが得られる文字 サイズの範囲が狭い →図は省略。 −−−−−−  ロービジョン者ではどのような読書曲線を示すだろうか。計測した三つの読書曲線を図に示した。上段は晴眼者、中段は視力低下型ロービジョン者の読書曲線であり、文字サイズが大きいほど高い読書速度が得られるが、全体的に読書速度は低いことが分かる。一方、下段は視野狭窄型ロービジョン者の読書曲線であり、文字サイズが大きすぎても小さすぎても、読書速度が低下している。このことから、良好な読書速度を得られる文字サイズの範囲が狭いことが分かる。このタイプの方は、文字サイズが大きいと却ってパフォーマンスを落としてしまうので注意する必要がある。 −−−−−− 表示文字サイズの大きさを設定する 画面のデザインの詳細設定 @デスクトップを右クリック Aショートカットメニューから「個人設定」 B最下部の「ウィンドウの色」をクリック Cサンプルの該当部分をクリックするか、「設定する 部分」で選択する Dフォントサイズを設定する −−−−−−  表示文字サイズの大きさの設定方法を、図に示した。 −−−−−− メニュー項目文字サイズが操作時間に与える影響 →図は省略。 −−−−−−  メニュー項目の文字サイズは、操作時間にどのような影響を与えるのだろうか。ここでは、メニュー項目の文字サイズを変化させながら、操作にかかる時間を計測した。 −−−−−− 視力低下型LV ・メニュー文字サイズが大きければ大きいほど処理速度が速い ・画面サイズとメニュー項目の数において、許せる範囲で大きい文字サイズに設定する →図は省略。 −−−−−−  計測した結果得られたのが、左記のグラフである。視力低下型ロービジョン者は、メニュー項目の文字サイズが大きいほど操作時間が短く、スムーズに操作できていることが分かる。 −−−−−− 視野狭窄型LV ・メニュー文字サイズが大きすぎても、小さすぎても、処理速度が低下する ・処理速度が低下しない範囲で最も小さいサイズに設定する →図は省略。 −−−−−−  これに対し、視野狭窄型ロービジョン者は、メニュー項目の文字サイズが大きすぎても小さすぎてもパフォーマンスを落としていることから、ちょうど良い文字サイズにチューニングすることが重要となる。 (3)ウィンドウ境界線幅 −−−−−− ウィンドウ境界線幅の設定方法 画面のデザインの詳細設定 @デスクトップを右クリック Aショートカットメニューから「個人設定」 B最下部の「ウィンドウの色」をクリック C「設定する部分」で「アクティブウィンドウの境界」 「非アクティブウィンドウの境界」を選択する Dサイズを設定する −−−−−−  ウィンドウ境界線とは、各ウィンドウの最外側に表示されている境界線のことで、ここでは最適な境界線の色や太さを決定する。設定方法は、図に示した通りである。 −−−−−− 計測:有効線幅 →図は省略。 −−−−−−  視認性に与える線幅の影響を計測する方法は、いくつか考えられる。図の方法もその一つで、5×5の25個のひらがなをランダムに表示し、ランダムな線で結んだものを、被験者に左上隅の「あ」から線を辿って「ん」まで音読するという方法である。 −−−−−− 線幅と遂行時間 →図は省略。 −−−−−−  線幅を変えながら音読するために要する時間を計測して得られたのが、左記のグラフである。線幅を細くしていくと、あるところで急に音読時間が延びる。このような計測方法によって、その方に適した線幅を求めることができる。 −−−−−− 線幅が図形の認識時間に及ぼす影響の計測 ・5×5で整列した図形の中で、五角形の数をカウントするまでにかかる時間を計測する ・白、赤、青、青、黄で実施 −−−−−−  視認性に与える線幅の影響を計測する方法を、もう一つ紹介する。5×5の様々な図形を提示し、その中から五角形の数をカウントするという課題を課したときの課題遂行時間を計測する方法である。このことを赤、白、黄、青の4条件、線幅については、塗りつぶし、線幅8ピクセル、線幅1ピクセルで計測する。その結果をグラフ化したものを下記に示した。色ごとに視認しやすい線幅が異なることが分かる。 (4)アイコンサイズ −−−−−− 視認するための最適アイコンサイズの計測 ・Windowsで用いられる代表的なアイコンを視認するのに最も適したサイズを調べる ・画面に5×5の25個のアイコンを表示し、左上に表示されているアイコンが、その中に何個あるかをカウントする。アイコンサイズをおよそ100×100 Pixelの大きさから、0.1 logずつ小さくしながらカウントするのにかかる時間を計測する −−−−−−  Windowsでよく用いられるアイコンを5×5の計25個提示し、その中に左上隅のアイコンと同一のアイコンがいくつ含まれているかカウントする、という課題を課したときの課題遂行時間を計測する。アイコンサイズを縮小しながら、アイコンサイズの課題遂行時間に与える影響を観察する。 −−−−−− →図は省略。 −−−−−−  あるロービジョン者で計測した結果を、グラフで示した。こうした方法で、ロービジョンの盲ろう者に適したアイコンサイズを求めることができる。しかし、ロービジョンの盲ろう者でアイコンを視認しながらパソコンを操作することが、どれほど意味のあることかを考えると、それほどアイコンサイズにこだわる必要はないようにも思われる。 2−2.マウスポインター −−−−−− マウスポインターの設定方法 a)マウスのプロパティを設定する方法 ・標準のマウスポインター ・特大のマウスポインター ・軌跡の表示 b)アンダーマウス君 c)でかポインタ d)tarzanMouse(ターザンマウス) −−−−−−  マウスポインターの視認性を高めてマウス操作を容易にする設定方法はいくつかある。ここでは、四つ紹介する。 −−−−−− a)マウスのプロパティを設定する方法 @コントロールパネル→マウスでマウスの設定のダイアログを開く Aマウスポインターを「Windowsスタンダード特大フォント」として大きなマウスポインターに変更 Bポインターオプションで「ポインターを自動的に規定のボタン上に移動する」「ポインターの軌跡を表示する」「Ctrlキーを押すとポインターの位置を表示する」等にチェックを入れる COKボタンでダイアログを閉じる −−−−−−  特別なツールを使わずに、Windowsの標準機能の範囲で、ロービジョンの盲ろう者がマウスを視認しやすくする方法について説明する。「Windowsスタンダード特大のマウス」というマウスポインターを設定したり、マウスポインターに軌跡を表示させたり、マウスポインターが自動的にボタンの上に移動するようにする設定があり、視機能がある程度保たれている盲ろう者は、このような設定をすることでマウス操作がしやすくなる。 −−−−−− b)あんだーまうす君 @あらかじめインストールしておく色の種類があるので、背景を考慮して決める Aアイコンをクリックするかスタートアップに登録しておく B[ウィンドウズ]+[Ctrl]でオン/オフ切り換え Cフォーカスを移しておいて[Esc]で終了 −−−−−−  「あんだーまうす君」というツールを使う方法を説明する。「あんだーまうす君」はフリーソフトで、ダウンロードして使用する。起動すると、マウスカーソルに縦横の線が表示される。主に、視野狭窄の盲ろう者がマウスカーソルを見つけやすくする効果がある。 −−−−−− c)でかポインタ @あらかじめインストールしておく Aアイコンをクリックして起動するかスタートアップに登録しておく B[ウィンドウズ]+[Ctrl]でオン/オフ切り替え Cフォーカスを移しておいて[Esc]で終了 −−−−−−  「でかポインタ」を使う方法を説明する。「でかポインタ」もフリーソフトで、ダウンロードして使用する。起動すると、巨大なマウスポインターが表示される。大きさは3種類あるので、最も適した大きさを選択すると良い。このマウスポインターは、主に視力低下型ロービジョンの盲ろう者に適している。 −−−−−− d)tarzanMouse @あらかじめインストールしておく Aアイコンをクリックして起動するかスタートアップに登録しておく Bマウスカーソルを動かしたときだけ、補助機能が働く Cフォーカスを移して[Alt]+[F4]で終了 −−−−−−  「tarzanMouse」は著者が開発したマウスポインターで、マウスカーソルを動かしているときだけマウスに縦横の線、マウス位置に三角形のマーカーが表示される。動かすことを止めると、これらの線やマーカーは表示されなくなる。 −−−−−− 計測:マウス操作のパフォーマンス −−−−−−  さて、こうしたマウスポインターの視認性を高める支援方法は、ロービジョン者のマウス操作の向上にどれほど役に立っているのだろうか。実際にこれらのツールを使いながらパフォーマンス評価を行った。 −−−−−− マウスポインターによって操作パフォーマンスは影響を受ける @Windowsスタンダード標準 AWindowsスタンダード+最大軌跡 BWindowsスタンダード 特大 Cでかポインタミニ (75 ピクセルのマウスポインター) Dあんだーまうす君 (XY ラインマウスポインター) ターゲットサイズ:10、30、50ピクセルの3水準 マウスカーソルとターゲットの距離:100、200、300ピクセルの3水準 各8試行 −−−−−−  マウスポインターの状態が、操作パフォーマンスに与える影響の計測を行った。画面中央にターゲットを表示し、被験者はターゲットをマウスでクリックする。ターゲットサイズは10、30、50ピクセルの3水準、マウスカーソルとターゲットの距離は100、200、300ピクセルの3水準で、各8回ずつ行う。マウスの状態は、@Windowsスタンダード標準、AWindowsスタンダード標準+最大軌跡、BWindowsスタンダード特大、Cでかポインタミニ(75ピクセルのマウスポインター)、Dあんだーまうす君(XYラインのマウスポインター)の5条件である。 −−−−−− クリックまでにかかる時間の比較 晴眼者の例  帰無仮説「晴眼者では、マウスカーソルの違いによる所要時間の有意な差がない」を採択 LV者の例  ロービジョン者ではB、C、Dの状態で有意(p<0.01)に所要時間が短縮 →図は省略。 −−−−−−  クリック遂行時間の比較結果を図示した。晴眼者の例では、マウスポインターの違いによる有意な差は無かった。ロービジョンの盲ろう者の例では、B、C、Dのマウスの状態で有意に所要時間が短縮している。つまり、この盲ろう者にとって、これらのマウスツールが有効であったと言える。 −−−−−− フィッツ(Fitts)の法則により「視認性」と「ポインティングの困難性」を分離 MT=a+blog2(D/W+1) ・MTは所要時間 ・Dはターゲットまでの距離 ・Wはターゲットの大きさ ・a、bは経験的または実験的に導かれる係数  a は認知に要する時間  b はポインティングの難易度 −−−−−−  視認性とポインティングの困難性を分離して分析するため、フィッツの法則を用いる。フィッツの法則におけるMTは所要時間、Dはターゲットまでの距離、Wはターゲットの大きさ、aは認知にかかる時間、bはポインティングの難易度を表す。 −−−−−− マウスポインターの状態とフィッツの法則の係数値 計測データについて、回帰近似により係数a、bを計算 ・マウスポインターの視認性(a):LV者においてC>D>B>A>@の順でマウスポインターの視認時間の短縮 ・ポインティングの難易度(b):LV者におけるポインティングで@が最も低い難易度 →図は省略。 −−−−−−  マウスポインターの視認性(a)はロービジョン者においてC、Dで高いことが分かる。つまり、これらのツールによって、マウスポインターを見つけることが容易になったと言える。しかし、ポインティングの難易度(b)は、@が最も低いことから、これらのマウスポインターは正確なポインティングに貢献していないであろうことも指摘できる。 −−−−−− マウスポインター軌跡の比較 ・Normalマウスカーソル ・あんだーまうす君 →図は省略。 −−−−−−  ロービジョンの盲ろう者で、あんだーまうす君を使ったときと、そうでないときでのマウスカーソルの軌跡を図示した。あんだーまうす君を使わないときは、マウスを発見するまでに時間を要して無駄な動きが見られる。一方、あんだーまうす君を使ったときは、速やかにターゲットに移動してクリックできていることが分かる。 −−−−−− マウスポインター視認可能範囲 ・標準マウスポインター ・特大のマウスポインター ・でかポインタ →図は省略。 −−−−−−  画面中央を固視したときに、マウスポインターが視認できる範囲を計測した結果を図示した。でかポインタでは、より広い範囲で視認可能であることが分かる。 2−3.拡大表示ツール −−−−−− 「窓の大きさ」についての知見 私たちは文章を読むとき、1文字ずつ読むのではなく、 ある程度のまとまりとしてとらえながら読み進めている 視線は停留と跳躍を繰り返している 一度にとらえるのに適した文字数は4〜5文字 従って、拡大窓においても、これを下回ると読書速度が低下すると考えられる −−−−−−  拡大表示ツールについて説明する。拡大表示による支援を考えるとき、「窓の大きさ」についての知見は重要である。私たちが読書をするときは、文字を1文字ずつ認識するのではなく、ある程度まとまった単位で処理している。文字を拡大した結果、十分な表示領域を確保できず、一度に処理できる文字数が低下すると、読書のパフォーマンスを低下させてしまう恐れがあることを念頭に置く必要がある。なお、一度に処理する文字数は4〜5文字と言われている。 −−−−−− a)拡大鏡(スタートメニューからの起動) @[ウィンドウズ] Aプログラム Bアクセサリ C「コンピューターの簡単操作」 D拡大鏡 E拡大鏡の設定をする (拡大率、拡大ウィンドウの位置・大きさ、動作、反転、表示) −−−−−−  「Windows拡大鏡」は、Windowsに標準で実装されている拡大ツールである。拡大鏡の起動方法はいくつかあり、図の例は「コンピューターの簡単操作センター」を経由した方法である。 −−−−−− b)拡大鏡(ファイル名を指定して実行) @[ウィンドウズ] A「magnify」と入力して[Enter] Ba)のD以降と同じ −−−−−−  特に、ロービジョンの盲ろう者に指導していただきたいのが「ファイル名を指定して実行」により、拡大鏡を起動する方法である。その理由は、画面が見えなくても、キーボード操作だけで拡大鏡を起動できる点にある。 −−−−−− c)拡大鏡(ログインの前に起動する方法) @ログイン画面の時、[ウィンドウズ]を押しながら[U] A後はa)と同じ −−−−−−  Windowsのログインの前に拡大鏡を起動する方法を図示した。 −−−−−− d)老眼マウス @あらかじめインストールしておく Aメニューから実行、あるいはスタートアップに登録しておく B設定はタスクトレイの老眼マウスアイコンを右クリックしてダイアログで設定する C[Ctrl]を2回たたくとオン/オフ切り替え −−−−−−  「老眼マウス」というフリーソフトを使って、拡大表示する方法を説明する。老眼マウスをダウンロード、インストールした後起動すると、マウスカーソルがある部分が拡大表示される。タスクトレイ上の老眼マウスのアイコンをクリックすると、設定ダイアログが表示されるので、ロービジョンの盲ろう者の見え方に合わせてカスタマイズしていただきたい。 −−−−−− 10 Pixelターゲットクリック成功率の比較 @標準のマウス Aでかポインタ B老眼マウス →図は省略。 −−−−−−  画面を拡大表示するツールは、ロービジョンの盲ろう者のパソコン操作パフォーマンス向上に、どれくらい貢献するだろうか。10ピクセルの小さいターゲットをクリックする課題を課したときの成功率を、@Windows標準のマウス、Aでかポインタ、B老眼マウスで比較し図示した。その結果、圧倒的にB老眼マウスで高い成功率が得られることが分かる。 −−−−−− ZoomTextを使ってGUI環境のカスタマイズ @あらかじめZoomTextをインストールしておく Aスタート時に起動するようにしておくか、アイコンをクリックして起動する B「ポインタの変更」機能で見やすいマウスポインターの設定を選択する C画面の検索、テキストの検索機能を活用して表示位置の検索を行う B「色の設定」機能で見やすい設定を選択する −−−−−−  「ZoomText」というロービジョン用に市販されているソフトもある。このソフトを使うと、本講義で触れてきた配色、コントラスト、マウスポインターの視認性向上、拡大表示だけでなく、フォーカスの強調表示、オブジェクトの検索支援といった様々な機能を使うことができる。このソフトは、ウェブサイトからダウンロードして試用することができるので、試用期間中に気に入れば購入すると良いだろう。 3.各アプリケーションにおける指導  いくつかのアプリケーションにおける指導の要点を簡単に紹介した。 −−−−−− Microsoft Word @表示倍率のリアルタイム調節 ・[Ctrl]+マウスホイール Aアウトライン表示の活用 ・切り替え [Ctrl]+[Alt]+[O] ・横スクロールを生じさせない設定 ・オプション −−−−−−  Microsoft Wordでは、[Ctrl]+マウスホイールで表示倍率をリアルタイムに調節できる。全体を閲覧するときは縮小、細部を見るときは拡大といった操作を簡単に行えるので、ロービジョンの盲ろう者にとって必須の操作テクニックである。拡大率を上げたときの問題として、表示部が画面からはみ出して横スクロールが必要になる点が挙げられる。この状態は、パソコン操作のパフォーマンスを著しく低下させるので、オプション設定でアウトライン表示における横スクロールを発生させない設定を行うことが重要である。 −−−−−− Microsoft Excel @表示倍率のリアルタイム調節 −−−−−−  Microsoft Excelにおいても、[Ctrl]+マウスホイールの操作で、表示倍率をリアルタイムに調節することができる。 −−−−−− Internet Explorer(IE) 表示色の設定 メニュー→ツール→インターネットオプション→「全般」タブ→「色」ボタン ・文字列 ・背景 ・未表示 ・表示済 ・ポイント時の色 を設定 −−−−−−  盲ろう者の生活実態調査の結果から、盲ろう者がパソコンを習得する動機として最も多く挙げられているのは、メールの活用とホームページの閲覧である。よって、Internet Explorerの表示をロービジョンの盲ろう者にとって見やすい設定にすることが重要となる。その設定方法を図示した。 −−−−−− フォントの設定(IE) メニュー→ツール→インターネットオプション→「全般」タブ→「フォント」ボタン ・見やすいフォントを選択 −−−−−−  Internet Explorerの文字フォントの設定では、ゴシック体など、見やすいフォントを選択すると良いだろう。 −−−−−− ユーザー補助機能の設定(IE) メニュー→ツール→インターネットオプション→「全般」タブ→「ユーザー補助」ボタン ・「Webページで指定された色を使わない」にチェック ・「Webページで指定されたフォントスタイルを使わない」にチェック ・「Webページで指定されたフォントサイズを使わない」にチェック −−−−−−  ウェブサイト側で、背景色や文字色を指定している場合、前述した表示色およびフォント設定が反映されないため、Internet Explorerのユーザー補助機能において、ウェブサイト側で指定したフォントサイズや色などを使わない設定にする必要がある。 −−−−−− ユーザースタイルシートを使う方法(IE) ・「自分のスタイルシートでドキュメントの書式を設定する」にチェックを入れる ・my.cssを作成してそれを指定する  my.cssの作成ツールは数多くフリーソフトがある(例:FlashCSS) −−−−−−  さらに高度な支援方法として、ユーザースタイルシートを使う方法が挙げられる。ロービジョンの盲ろう者の見え方に応じて作成したユーザースタイルシートを使って、すべてのウェブサイトを盲ろう者に適したスタイルで表示させることにより、ウェブサイトの視認性を向上させることが期待できる。ユーザースタイルシートを作成する方法として、いくつかフリーソフト(FlashCSS等)があるので試していただきたい。 −−−−−− Firefox 画面の色とフォントの設定 @メニュー→「ツール」→「オプション」でダイアログを表示 A「コンテンツ」をクリック B「フォントと配色」の欄で ・規定のフォントをMSゴシック等に設定 ・サイズも適当なサイズとする C「配色設定」のボタンを押し、 ・テキスト、背景、未訪問リンク、訪問済みリンクの色を設定 ・「Webページが指定した配色を優先する」チェックボックスはチェックを外しておく −−−−−−  Internet Explorer以外にも、ロービジョンの盲ろう者にとって使いやすいウェブブラウザがある。Firefoxもその一つで、[Ctrl]+マウスホイールで表示倍率を上げても、画面から横幅がはみ出ないように、ぎりぎりまで堪えてくれる。色々なウェブブラウザを使い比べて、最も利用者に適したブラウザを使うことが望まれる。 −−−−−− フォントサイズのリアルタイム調節 ・[Ctrl]+マウスホイール ・[Ctrl]+[+]または[−] −−−−−−  FirefoxでもInternet Explorerと同様、表示倍率をリアルタイムに調節できる。 −−−−−− VoicePopper トップメニュー→オプション設定→表示の設定 ・フォントの種類 ・フォントサイズ ・画面配色 −−−−−−  ロービジョンの盲ろう者がVoice Popperを使う際の画面表示の設定についても触れておきたい。ここでは、配色とフォント、フォントサイズの設定方法を図示した。 −−−−−− イージーパッド ・表示色変更 [Shift]+[F12] ・フォントサイズ 大きく [Ctrl]+[F7] ・フォントサイズ 小さく [Shift]+[F7] −−−−−−  イージーパッドにおける配色、フォントサイズの設定方法を図示した。 4.指導上の配慮事項  その他、指導上の配慮事項を示した。 −−−−−− 部屋の照度 窓からの光(逆光、映りこみ) タッチタイピングもしくは点字キー入力のマスター 「待つこと」は最も重要な支援の一つ −−−−−−  部屋の照度は明るすぎても暗すぎても、操作に支障をきたす。また、窓からの光は逆光になったり、画面に映り込みを起こさないように注意する必要がある。盲ろう者がパソコンを操作できるようになるためには、タッチタイピングあるいは点字入力のスキルが必須となる。本人も指導者も、その重要性を理解して、焦らずじっくりと練習に励むことが大事である。 5.おわりに  最後に、盲ろう者に対してパソコン指導を行う上で、最も重要なことの一つとして「待つこと」を説明した。指導者は盲ろう者のペースに応じて、盲ろう者が様々な学習事項を処理するために必要な時間として「待つこと」が重要であることを常に気に留めて、指導にあたっていただきたい。  本講習会を通して、今後ロービジョンの盲ろう者へのパソコン指導が量・質ともに、より充実することを期待したい。 2-4-3 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー FocusTalk for Brailleとアプリケーション 大河内 直之  本講義では、スクリーンリーダーにFocusTalk for Brailleを選択して、点字環境を構築した場合の設定や操作について概説した後、FocusTalk for Braille上で利用しやすいメール・ニュース閲覧ソフト「VoicePopper」と、ネット検索ソフト「サーチエイド」について学習した。主に実習を中心とし、それぞれの課題に取り組みながら実際の操作や設定を体験した。 1.触覚のみでパソコンの電源のオン/オフを知る  視覚と聴覚が活用できない盲ろう者は、パソコンの電源のオン/オフを自力で確認する場合、工夫が必要である。まず、その方法を紹介した。 @DVDドライブのトレイを開ける方法  DVDドライブ搭載のパソコンが前提となるが、電源オン時にDVDドライブの開閉スイッチを操作するとトレイが開く。また電源オフ時にはトレイは開かない。この仕組みを利用することで、触覚のみでパソコンの電源のオン/オフを確認することができることを紹介した。 AUSBバスパワー駆動の点字ディスプレイで確認する方法  KGS社製の点字ディスプレイ「ブレイルテンダー46」のように、パソコンのUSBからのバスパワー駆動に対応した点字ディスプレイが数種類販売されている。これはパソコンの電源に連動して、点字ディスプレイの電源もオン/オフできる。こうした点字ディスプレイを選択すれば、盲ろう者が独力でパソコンの電源のオン/オフを知ることが可能であることを紹介した。 2.スタートメニューの整理  スタートメニューに、盲ろう者が利用するアプリケーションのみを表示させておくと、アプリケーションの起動が非常にスムーズである。初期状態のショートカットをすべて非表示にし、盲ろう者が利用するアプリケーションのショートカットのみを表示させる方法を紹介した。 (スタートメニューの例)  ・VoicePopper  ・サーチエイド  ・BookTerm 3.マウスのオフ  点字環境では、盲ろう者はマウスを使用せずキーボードのみで操作を行う。そのことを踏まえて、パソコンのマウスをオフにする設定を行い、キーボードのみで操作を行う環境を整えた。 4.入力  手の動きを最小限に留める方法として有効とされる、6点入力の設定について説明を行い、実際に6点入力の設定を行った。 @KTOSの自動起動設定  KTOSのメニューから、パソコン起動時にKTOSが自動起動する設定を行った。 A6点入力可能なキーボードであるかの確認  メモ帳等を開き、6点入力で使用するキー[F・D・S・J・K・L]を同時に入力した。入力した6個のキーすべての文字が表示され、6点入力可能なキーボードであることを確認した。 B6点入力の種類  6点入力には、[F・D・S・J・K・L]のキーを使って入力する「パーキンス方式」と、[O・K・M・E・F・V]のキーを使って入力する「ライトブレイラー方式」の2種類があり、稀にライトブレイラー方式を使う盲ろう者がいるが、ほとんどの人がパーキンス方式を利用していることを紹介した。 5.FocusTalk for Brailleの設定  主に点字環境で利用することを踏まえて、FocusTalk for Brailleの説明を行った。 @自動起動設定  盲ろう者がパソコンを利用する際、スクリーンリーダーは、パソコン起動時に自動起動することが必須である。そのことを確認した上で、FocusTalk for Brailleの自動起動設定を学習した。 A起動と終了のショートカット  FocusTalk for Brailleは、起動および終了のためのショートカットが、あらかじめキーに割り当てられている。そのことを確認した上で、もし何かのトラブルが起きた際、盲ろう者がこのショートカットを利用してスクリーンリーダーの再起動を行い、問題が解決できる場合があることを紹介した。 B点字設定  FocusTalk for Brailleを一度初期設定に戻した上で、点字設定について、以下の基本的な項目を確認しながら設定を行った。  ・点字ディスプレイの機種選択 → ブレイルテンダー46  ・COMポートの選択 COM1  ・通信速度 9600bps  ・点字表示のオン/オフの選択 オン  ・点字出力文字(かなor点漢字) かな  ・カーソル表示 アンダーライン  COMポートの選択については、インストール時にデバイスマネージャー等でポート番号の確認が必要であること、また点字で漢字を表現する「点漢字」を使う盲ろう者も稀にいるが、ほとんどは「かな点字」が利用されていること等を補足した。 6.VoicePopperのメール機能  メールが盲ろう者にとって非常に重要な連絡・コミュニケーションツールであることを踏まえて、以下の課題に取り組みながらVoicePopperのメール機能を学習した。 (1)実習の課題  @VoicePopperの起動と終了  Aメールを受信して本文を読む  B受信したメールに返信する  C受信したメールのアドレスをアドレス帳に登録する  Dアドレス帳を使って新規メールの作成と送信をする  Eアドレスを手動入力して新規メールの作成と送信をする (2)注意事項  初心者の盲ろう者にとって、メールアドレスなどアルファベットを読み書きすることは非常に難しい作業であるため、まずはメールを受信し、そのメールに返信する、また受信したメールのアドレスをアドレス帳に自動登録するという手順での覚え方が重要であることを説明した。 7.VoicePopperのニュース閲覧機能 (1)実習の課題  @「アサヒ・コム」の「社会」の1番目の記事を読む  A「毎日新聞」の「話題」の3番目の記事を読む  B「読売オンライン」の「経済」の5番目の記事を読む  C「NHKニュース」を「モジュールのダウンロード」からダウンロードし「主要ニュース」の2番目の記事を読む  D昨日の東京外国為替市場は1ドル何円で取引が終了したか調べる (2)注意点  同じ記事を一般のブラウザで閲覧すると、広告や余計なリンクが邪魔になって、点字ディスプレイのユーザーには非常に使いづらいことを説明した上で、メールと同じ操作性でネット上のニュース記事が読めるということが、いかに重要であるかを確認した。 8.サーチエイドの機能  基本的にVoicePopperと操作性が同じであることを確認した上で、同様にネットを検索する課題に取り組んだ。 (1)実習の課題  @「東京都足立区新田」の読み方を調べる  A「大阪府大阪市中央区城見クリスタルタワー(20階)」の郵便番号を調べる  B「課題2」の郵便番号を使ってその場所の天気予報を調べる  C「大阪」を18:00に出発すると「東京」には何時に到着するかを、一番早いルートで調べる  D「京橋(大阪)〜新大阪間」の最安片道料金を調べる  E18:33 東京発「ひかり525号(新大阪行)」の停車駅を調べる (2)注意点  ネット上の情報を点字ディスプレイのみで検索することは、ニュース閲覧以上に余計なリンクやタスクが増えるため、点字の上級者でも非常に難しい。そのことを共有した上で、サーチエイドのように情報が整理されて表示されることで、盲ろう者が自力で必要な情報に簡易にアクセス可能になることを確認した。 参考  本講義中、受講者に配布した実習課題は下記の通りである。  FocusTalk for Braille、VoicePopper、サーチエイドの実習 1.マウスと入力の設定 課題1 マウスパッドをオフにする 課題2 6点入力モードにする → KTOSの起動 2.FocusTalk for Braille 課題1 FocusTalk for Brailleの設定画面を開く 課題2 FocusTalk for Brailleの終了と起動 課題3 アンダーラインカーソルの設定をする 課題4 FocusTalk for Brailleを初期設定に戻す 課題5 FocusTalk for Brailleの点字ディスプレイ設定をする 3.VoicePopper(メール) 課題1 VoicePopperの起動と終了 課題2 メールを受信して本文を読む 課題3 受診したメールに返信する 課題4 受診したメールのアドレスをアドレス帳に登録する 課題5 アドレス帳を使って新規メールの作成と送信をする 課題6 アドレスを手動入力して新規メールの作成と送信をする 4.VoicePopper(ニュース) 課題1 「アサヒ・コム」の「社会」の1番目の記事を読む 課題2 「毎日新聞」の「話題」の3番目の記事を読む 課題3 「読売オンライン」の「経済」の5番目の記事を読む 課題4 「NHKニュース」を「」モジュールのダウンロード」からダウンロードし「主要ニュース」の2番目の記事を読む 課題5 昨日の東京外国為替市場は1ドル何円で取引が終了したか調べる ※どの新聞を使ってもかまいません 5.サーチエイド 課題1 「東京都足立区新田」の読み方を調べる 課題2 「大阪府大阪市中央区城見クリスタルタワー(20階)」の郵便番号を調べる 課題3 「課題2」の郵便番号を使ってその場所の天気予報を調べる 課題4 「大阪」を18:00に出発すると「東京」には何時に到着するかを、一番早いルートで調べる 課題5 「京橋(大阪)〜新大阪間」の最安片道料金を調べる 課題6 18:33 東京発「ひかり525号(新大阪行)」の停車駅を調べる 2-4-4 点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー PC-Talker + BrailleWorksとアプリケーション 渡井 秀匡  本講義では、株式会社高知システム開発のWindows 7対応のスクリーンリーダー「PC-Talker 7」と「BrailleWorks」の組み合わせで、主に点字ディスプレイを利用してパソコンを操作する盲ろう者にどの程度使えるか、実際にパソコンを操作していただきながら明らかにした。また、PC-Talker 7との組み合わせでメールの送受信や情報収集等ができるアプリケーションの使い方や設定を概説し、その後課題を提示しながら実習を行った。 1.PC-Talker 7とBrailleWorksの利点と課題  これまでPC-Talkerは、点字ディスプレイのみで操作する盲ろう者には文書編集が難しく推奨していなかったが、2011年3月に発売されたBrailleWorksの導入により、その問題が解決されていることを紹介した。またPC-Talkerは、現在視覚障害者に最も普及しているスクリーンリーダーでサポートが受けられやすいことや、付属している点字入力ソフトKTOSが安定して動作する等の利点があることも挙げた。しかし、同社は自前のアプリケーションへの対応に力を入れており、市販のアプリケーションへの対応は望めない。また、自前のアプリケーションは、同機能の他のアプリケーションに比べて割高であるため、新しいアプリケーションを導入するにあたってはコスト面の問題に留意したいことを補足した。  これらの利点や課題等を踏まえた上で、PC-Talker 7とBrailleWorksの使用方法を確認した。 2.PC-Talker 7の設定  盲ろう者が単独でパソコンの操作ができるようにするための、PC-Talker 7の設定画面に関する解説を行った。 (1)音声関係の設定  難聴の盲ろう者や点字出力に影響する音声ガイドに関する設定の概説を行った。 @音声基本設定  特に難聴の盲ろう者が音声ガイドを活用する場合、聞きやすい声質や、読み上げスピードに設定変更を行う必要があることを確認した。 A英語音声の設定  初期設定ではネイティブな音声エンジンを使用しているが、難聴の盲ろう者に限らず健聴の人でも慣れない人は聞き取りにくいため、チェックをすべて外すことを推奨した。 B音声ガイドの設定  「メニューの説明文をガイドする」や「項目の操作をガイドする」は、[矢印キー]を操作するたびに詳細に読み上げて煩わしく感じることもあるため、チェックを外しておくことを推奨した。また、「項目のショートカットキーをガイドする」については、ユーザーの操作方法によってチェックを外した方が良い場合もあることを紹介した。 (2)点字出力関係の設定  PC-Talker 7やBrailleWorksをインストールした状態では、点字が出力されないことを理解し、ピンディスプレイの設定の概説を行った。 @ピンディスプレイの設定  ユーザーの点字の触読能力に合わせて、下記の項目の設定変更を確認した。  ・ピンディスプレイを使用する  ・英語の点訳  ・カーソル  ・ステータスセル  ・点字メッセージ表示時間 Aピンディスプレイ機器の変更  接続されている点字ディスプレイの機種や通信ポートに合わせて、設定を変更する必要があることを確認した。 3.その他 (1)点字ディスプレイの対応状況の紹介 (2)パソコン起動時の点字表示の確認 (3)PC-Talker 7の起動や終了、点字出力のオン/オフ等のショートカットの確認 4.PC-Talker 7と組み合わせられるアプリケーションの操作方法や点字ディスプレイの使い方  MyMailIIIやMyNews等のマイシリーズの基本的な操作方法は共通であることを理解し、その操作ルールを確認した。また、点字ディスプレイの点字表示の仕方や、スクロールの操作方法を確認した。 5.MyMailIIIの実習  電話やファックス等が利用できない盲ろう者にとって、メールは独力で外部との連絡が取れる有効な方法であることを理解し、MyMailIIIでメールの送受信の実習を行った。 (1)実習の課題  @メールの受信  A返信メールの作成と送信  B差出人のメールアドレスの登録  C新規メールの作成と送信 (2)拡張メニューの設定について  受信ボックス等のメールを選んで[Enter]を押すと本文が開くが、点字表示が自動的に流れてしまい読みにくい問題がある。それを対処するための設定と使用方法を確認した。 6.MyNewsの実習  テレビやラジオ等での情報入手が難しい盲ろう者にとって、インターネット上にある新聞や天気予報等の情報サイトに簡単な操作でアクセスできるMyNewsを活用することにより、独力で情報収集ができることを理解しながら実習を行った。 (1)実習の課題  @朝日新聞の社会面の3番目の記事を開く  A明日の大阪の天気予報を調べる  BNHK(テレビ)の当日午後3時台の番組を調べる (2)注意事項  記事本文を点字ディスプレイで読む場合は、[Tab]を押して開く必要があることを確認した。 7.MyBookIIの実習  主にサピエ図書館の利用方法を中心に、点字図書データの検索やダウンロード等の実習を行った。 参考  本講義中、受講者に配布した実習課題は下記の通りである。 (1)MyMailIIIの実習  課題1 MyMailIIIの起動と終了  課題2 メールの受信、本文を表示させる  課題3 受信したメールに対して返信する  課題4 受信したメールのアドレスをアドレス帳に登録する  課題5 新規メールの作成と送信 (2)MyBookIIの実習  課題1 サピエ図書館で人気のある順、5位までのタイトルの内容を表示させる  課題2 サピエ図書館のタイトル・著者名の検索で、夏目漱石の「心」を選んで、表示させる  課題3 本棚を作る  課題4 点字図書データを本棚に保存する  課題5 本棚に保存した点字図書データを開く 2-4-5 ブレイルセンスプラスの概説と演習 村岡 寿幸 1.概説  ブレイルセンスは、いつでもどこでも、電子メールやインターネット等が利用できるWindows CE搭載のPDA(携帯情報端末)である。本体には点字入力キーボード、点字ディスプレイ等が装備されているため、盲ろう者のモバイル用情報端末機として活用され、近年その利用者も増えてきている。  例えば、外出途中に相手と連絡を取りたいときに電子メールを活用したり、出先でインターネットを利用して電車の時刻表等を調べることができる。その他に、GPS機能を利用した歩行支援システム、アクセサリ機能としてスケジュール管理、時計、電卓など、日常生活を支えるアプリケーションが豊富に用意されている。  ブレイルセンスは、現在「ブレイルセンスプラス」と「ブレイルセンスオンハンド」の2種類が販売されている。ブレイルセンスプラスは32マスの点字表示部を備え、ブレイルセンスオンハンドは18マスの点字表示部を備えている。外部機器接続用の端子や、使用できる外部メモリ等の多少の違いはあるものの、使用できる機能は同等と言える。  盲ろう者に使える主な機能としては、 @ワードプロセッサー  漢字かな交じり文と点字の文書の読み書きが可能で、テキストファイル、点字ファイルにて保存することができる。入力方法は点字入力となり、読み込み可能なファイルはtxt、brl、bes、hbl、docフォーマットに対応している。 A電子メール  インターネットメールの送受信を行うことができ、LANやモデム等で接続することができる。 Bウェブブラウザ  ホームページの閲覧や検索サイトを利用した情報収集ができる。 Cアドレス帳  氏名や住所、電話番号、メールアドレス等を管理できる。電子メールでメールアドレスの入力時にこのアドレス帳を利用することもできる。 等が挙げられる。その他にも、 D予定帳 → スケジュール管理 EMSNメッセンジャー → インターネット経由のチャット FGPSナビ(目的地の検索や歩行時のルート案内) G機能拡張プログラム → RSSリーダー(ホームページで提供されるRSSフィードを読む機能、新聞社のホームページにある記事等)、乗換案内(列車や空路を利用した乗換案内)、辞書検索 等々、多彩な機能が利用できる。  本講義では、以上のような概説に加え、  ・各部の名称とキーボードの役割  ・ブレイルセンスの起動と終了  ・メニューの構成 というように、ブレイルセンスプラスを使う上で、基本となる事柄の説明を行った。  その後は、受講者9人を5グループに分け、講師一人に受講者二人の体制で、次に示すステップに従って個別に実習を行った。 2.演習 ステップ1  各部の名称 ステップ2  基本操作 ステップ3  オプション設定 ステップ4  時計の表示と設定 ステップ5  バッテリー、ネットワーク状態の確認など ステップ6  メールの送受信、メールの受信、返信メールの作成と送信、差出人のアドレスをアドレス帳に登録する、新規メールの作成と送信 ステップ7  バックアップ、復旧方法 ステップ8  乗り換え検索 ステップ9  簡単スケジューラ ステップ10 スタートメニューのカスタマイズ ステップ11 その他(サピエ、ウィキペディア、点字辞書等々) ステップ12 インターネット接続、メールアカウント設定 3.おわりに  通常の使用に関して、パソコンについては充分熟知している受講者の皆さんではあるが、ブレイルセンスプラスとなると、パソコンと同様にWindowsが動いているものの、その勝手は違ってくる。入力方法は点字となり、出力は点字表示(音声合成による出力、小さい液晶ディスプレイでの表示も可能)となる。ある意味、本当の意味での点字ユーザー向けのパソコン環境の実体験をしていただけたと思われる。  前年度までは、ブレイルセンスプラスの講義と実習を併せて3時間かけて行っていた。しかし、上記のような理由から、また全員を対象として実習を行うと、どうしても時間が足りなくなり、十分な実習ができなかったという反省があった。そこで今回は、時間を2倍にして、概説の後はグループ分けを行い、グループ単位で上記ステップに従って実習を進めた。  各グループによって、進捗の差異は多少あったものの、受講者ごとのペースに合わせて、また質問・疑問等にも各講師が答える形で進められたことは、大変良かったと評価できるだろう。  各グループ共に、少なくとも盲ろう者がまず第一に希望する機能であるメール送受信を体験していただけた。その他、ほぼ全ステップを終えたグループもあった。  前述の通り、パソコンのように全体を見渡しての操作ができないため、メニュー等の構造を把握することが難しく、また、点字にあまり習熟していない受講者にとっては、さらなるハードルとなる。点字ユーザー向けに紹介しているパソコンと点字ディスプレイを接続しての使用方法と形態は異なるものの、本質的には同様な概念であることを、より理解しやすい形で提示する手法等を考えていく必要がある。具体的には、ブレイルセンスプラスのキー操作とパソコンのキーボード操作の類似性、限られた点字表示部での出力を頼りに使用する点字ユーザーの使用感を、「目で見て分かる」形で提示することが重要であろう。 2-4-6 NPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」での取り組み ―誰もに優しいITの未来 門川 紳一郎 1.すまいるの紹介 (1)すまいるとは  すまいるは、大阪市天王寺区にある盲ろう者活動の拠点である。毎日、支援者と一緒に盲ろう者が15人ほど通ってきている。施設の種別は、自立支援法の就労継続B型である。以前は、支援費制度のデイサービスセンターとして運営していた。自立支援法の施行以後、今の形態となり、盲ろう者の活動の拠点、働く場、就労に向けて訓練を行う場と位置づけて活動を続けている。また、毎週火曜日はクラブ活動として盲ろう者と通訳・介助員がペアとなり、通訳・介助員が後ろから合図をし、盲ろう者がばちで太鼓を叩く「和太鼓」にも取り組んでおり、この活動は8年目となる。  すまいるを紹介するときは、英単語の「SMILE」の頭文字で説明を行っている。  S → ソーシャルアクセス。社会にアクセスする。  M → メインストリーム。同化する。障害者と健常者が共に活動する。  I → インフォメーション。情報交換。盲ろう者は情報が入ってこず、情報を欲しているため、情報 交換は特に喜ばれる。1週間の内、基本的に月・木・土曜日に会議を開いている。  L → ラーニング。生涯学習。  E → エクスチェンジ。交流・交換。様々な人を招いて講演会を行う。最近では、10月にアメリカにお住まいの盲ろう者が大阪から訪ねてこられたので、お招きして講演会を開催した。 (2)ソフトウェア開発  コミュニケーション支援活動の一環として、ソフトウェア開発に取り組んでいる。コミュニケーション支援という意味では手話や点字があるが、情報機器の活用のノウハウを身につけていただくことを目的に取り組んでいる。  この取り組みは、2003年頃、ろうベースの盲ろう者にパソコンの使い方を指導しようと思案し、Windows上でのキーボード操作の指導を行っていたことが契機となった。若い方はキー入力に割と早く順応するが、特に高齢の方になればなるほど戸惑ってしまう様子を見て、もっと簡単にパソコンを操作する方法はないだろうかとソフトエンジニアと相談し、自前でソフトを作ることにした。 @イージーパッド  「簡単な操作でメールの送受信ができるように」という理念の下、最初に開発したソフトが「イージーパッド」である。これは、メーラー・ブラウザ・エディターの統合型ソフトで、「簡単な」ということを謳い文句にイージーパッドと命名した。点字による6点入力に対応している。  イージーパッドの良いところは、起動するとメモ帳のようなエディターが立ち上がり、そのまま文章を入力し、送信できる。また、ファンクションキーの[F1]で、すぐにメールを受信できる他、「受信ボックス」、「送信済みボックス」、「ゴミ箱」という三つのフォルダも用意されている。RSS機能とブラウザモードも用意されており、盲ろう者の中にはRSSで「アサヒ・コム」を読んでいる人もいる。  イージーパッドは、「XP Reader」の辞書を参考にしながら作ったため、XP Readerがインストールされている必要がある。しかし、残念ながらWindows 7には対応しきれておらず、点字入力が使えなくなっている。 Aその他のソフト  盲ろう者と盲ろう者以外の人との間のコミュニケーションを支援するツールとして開発した、テキストベースのチャットシステム「すまいるチャット」を公開している。テキストチャットを使うと、メールのように返事が来ることを待つ必要がなくなるので、リアルタイムでコミュニケーションをとることが可能となる。前述のイージーパッド、すまいるチャットともに無償で配布している。  もう一つ、「コーヒーブレイク」というRSSのテキストブラウザもある。休憩のときにコーヒーを飲みながらインターネットができたら、いろんな情報にアクセスできたら、という観点から、この名称を付けた。 (3)現在開発中のソフト @すまいるM8(メイト)  あるろうベースの盲ろう者で漢点字ユーザーの方がおり、漢点字でないとメールを書きたくないとおっしゃっていた。この方は、昔は見えていたので、漢字を見て意味を掴んでいた。見えづらくなってから、独学で漢点字を覚えたそうで、Windows XP上では「デンピツ」、「WinBRL」などを使って、漢点字入力を実現していた。このことをきっかけに開発したソフトが「すまいるM8」である。  これはパソコン用のソフトで、点字ディスプレイを接続して使用する。漢点字入力はもちろんのこと、6点入力をサポートするソフトの開発も行っている。現時点では、主にメーラー機能を実装しており、OSに関係なく使える仕様を検討している。 ABMC(Braille Mobile Communicator)  携帯電話と点字ディスプレイ(KGS社製ブレイルメモポケット)を接続して、携帯を使ってメールを点字で利用できるようにしたソフトである。携帯電話固有のメーラーを使うのではなく、メール機能、点字ディスプレイとの接続機能を持った、組み込み用のアプリケーションを開発している。点字ディスプレイのキー操作で、簡単にメールの読み書き、送受信を実現している。現時点ではWindows Mobileにのみ対応しているが、今後はアンドロイドにも対応予定である。 2.実習  受講者には、すまいるM8とBMCでのメールの送受信における使用感を体験していただいた。 3.おわりに  すまいるでは、このように複数のソフトを開発しており、特に「盲ろう者のキーボードアレルギーをなくしたい」、「簡単な操作だけで使うことができる」といったことを目指して開発を行っている。  盲ろう者がパソコンを使用するためには、点字ディスプレイと、それを動かすためのスクリーンリーダー、メーラーのVoicePopper、ネット検索ツールのサーチエイドというように、多額のコストが生じてしまうので、お金をかけて買わなくても済むように無償配布で作っている。こういったソフトを多くの盲ろう者に触っていただく中で、フィードバックを得て、それを基に改良を加えている。開発にはお金もかかる上、テストを何度も繰り返す等、色々と面倒なことも出てくる。開発に取りかかる前には、様々な盲ろう者にどういったソフトを作ってほしいか要望を聞いたり、調査やモニター活動も行っている。それを受けて、実際にプログラミングの開発に入っていくことになる。  今はまだ、盲ろう者に対するパソコンの指導者が慢性的に不足している。指導者には、点字の知識や、盲ろう者の見え方、聞こえ方も理解している必要があること等が求められる。  この研修会を修了された受講者の皆さんには、地元に帰ったら、ぜひ指導者として活動していただくことを期待している。 2-4-7 盲ろう者へのパソコンサポートの実際 森下 摩利  ここでは、私自身の指導事例を紹介し、盲ろう者にとってパソコンとはどういう存在であるか、またパソコンの指導をする上でどのような意識を持つべきかについて、以下の通り講義を行った。 1.盲ろう者が置かれているパソコン環境  五日間の研修会で画面インターフェース、点字インターフェース、ブレイルセンスプラスと学んできた。皆さんそれぞれ新しい発見があったのではないかと思う。また、ソフトウェアの不具合があったり、指導が難しい面があることにも気づかれたのではないか。  現在盲ろう者が置かれているパソコン環境は大変厳しいと言って良い。Windows 7が発売されてから約2年、家電量販店ではWindows 7のパソコンしか見かけなくなった今日において、盲ろう者がWindows 7上で使用できるソフトウェアは限定され、選択肢がほとんどないといった状況に置かれている。これは盲ろう者が使用できるソフトウェアの開発がOSの開発に追いついていないためで、使用できる数少ないソフトウェアも決して万全ではないことが、この研修会でお分かりいただけたのではないか。  盲ろう者にとって、特に全盲ろう者にとってパソコンとは、独力で情報が入手できる唯一の手段であり、電話、ファックス、新聞、テレビ、ラジオの代わりとなるものである。それだけに、盲ろう者は大変な努力をし、決して使いやすいとは言えないシステムに歩み寄る形でパソコンを利用されている。指導マニュアルに記載されている各ソフトウェアや機器の金額を見てほしい。盲ろう者が長い時間をかけて、ようやく使えるようになるシステムの総合計はいくらになるだろうか。果たして我々健常者が、使用にあたりこれだけ努力しなくてはならない機器に、これほどの金額を支払うだろうか。日常生活用具給付制度である程度保障されたとしても、携帯電話がほしいと思ったときに60万円近い携帯電話(ブレイルセンスプラス)を購入するだろうか。  このように、盲ろう者が利用できるパソコンおよび機器は限定的で、且つ高価であることを指導者は忘れてはならない。 2.指導事例  私が指導した盲ろう者はろうベースの弱視ろう者で、画面だけではパソコン操作は難しく、画面と点字を併用するという珍しいケースであった。  パソコンは全くの初めてで、パソコンや各ソフトウェアの概念形成が難しかった。ろうベースの方なので文章を入力する際、漢字の形は分かっても読み方が分からないので苦労されている様子があった。  パソコンを購入し本格的に知人とのメールのやりとりが始まった頃、相手の盲ろう者が画面ユーザーか点字ユーザーかによってメール本文の書き方を工夫しなくてはならないことにご本人が気づき、今は相手に合わせてメールを書くことができるようになっている。このように、最初にすべてを指導しなくてはいけないということではなく、経験を通して実感とともに学んでいくことも必要である。  よく通訳・介助員に見られることだが、携帯電話から盲ろう者へメールを送る際、タイトルにも本文にも送信者の名前を書かずに送ってしまうことがある。この盲ろう者も送信者が分からず困った経験があるので、名刺を作り「メールを送る際はお名前を」といったメッセージを載せたこともあった。  今でもこの盲ろう者のサポートは続いていて、指導期間を含め付き合いは6年以上経つ。時間をかけて進めてきた指導だったが、ご本人の理解度に合わせたゆっくりとしたペースが、結果的に効率の良い進め方であったと確信している。 3.指導者としての意識  この研修会を受講している間、皆さんは地域の盲ろう者の顔を思い浮かべることができただろうか。  パソコン指導者はパソコンに詳しいことが最も必要な要件と思われがちだが、実はそうではない。私たち指導者が見据えなくてはいけないのは、パソコンの向こうにいる盲ろう者である。その盲ろう者が充実した人生を歩むことが大切であり、パソコンが少しでもそれに寄与するのであれば、私たちは盲ろう者を知り、盲ろう者と共に歩む視点を持ち続けなくてはならない。  その視点こそが指導者として最も必要な要件である。  この五日間で学んだことを忘れずに今後も指導にあたっていただきたいと思っている。 2−5 受講者からのアンケート結果 受講者:9名 回答者:9名 回答率:100% 1.現在の勤務先および職種 勤務先(複数回答あり)  @視・聴覚障害者関係団体 0 Aその他障害者関係団体 0 B視・聴覚障害者関係施設 1 Cその他障害者関係施設 1 D社会福祉協議会 0 E都道府県 0 F市町村 0 Gその他 6(点字図書館非常勤、自営等) 無回答 1 職種(複数回答あり) @手話通訳者(手話奉仕員を含む) 2 A点訳奉仕員 2 B朗読奉仕員 0 C要約筆記奉仕員 1 Dガイドヘルパー 1 Eケースワーカー 1 Fホームヘルパー 0 G盲ろう通訳・介助員 4 Hその他 7(盲ろう者通所作業所指導員、ソフト開発、視覚障害生活訓練等指導者、コンサルタント、事務) 2.これまでに障害者福祉関係の業務に携わった経験のある方の年数 @1年未満 0 A1〜3年 2 B3年以上 4 無回答 3 3.盲ろう者との関わりの状況について @ 現在、あなたは盲ろう者に接していますか (a)はい 8 (b)いいえ 1 A これまでに盲ろう者に接した経験がありますか (a)はい 8 (b)いいえ 1 B 盲ろう者に接した年数 (a)1年未満 0 (b)1〜3年 4 (c)3年以上 4 無回答 1 C 盲ろう者に接しているときの主な活動内容(複数回答あり) (a)生活相談・就業相談等 1 (b)買い物等外出・移動時の支援 5 (c)第三者との対話等のコミュニケーション支援 4 (d)その他 4 無回答 1 4.本研修会を受講した動機および目的(複数回答あり) @動機 (a)自発的参加 6 (b)同僚・上司等の勧め 4 (c)その他 0 A目的 (a)学問的知識の補充 2 (b)実務に即した知識・情報の収集 5 (c)実務に即した技術の習得 6 (d)自己啓発・再動機づけ 5 (e)他の参加者との情報交換 0 (f)中央の情報収集 0 (g)その他 0 5.本研修会の運営等について ・開催時期や日数について 良い 4 普通 4 改善を望む 1  ・研修事務の進行等の対応 良い 6 普通 2 改善を望む 1 ・研修会場の設備・サービス 良い 6 普通 2 改善を望む 1 6.個々のプログラムおよび全体について ・盲ろう者向けパソコン指導概論 参考になった 9 普通 0 参考にならなかった 0 無回答 0 ・画面インターフェースを活用した指導 参考になった 7 普通 2 参考にならなかった 0 無回答 0 ・点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー(FocusTalk for Brailleとアプリケーション) 参考になった 9 普通 0 参考にならなかった 0 無回答 0 ・点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー(PC-Talker + BrailleWorksとアプリケーション) 参考になった 9 普通 0 参考にならなかった 0 無回答 0 ・ブレイルセンスプラスの概説・演習 参考になった 7 普通 2 参考にならなかった 0 無回答 0 ・NPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」での取り組み 参考になった 5 普通 3 参考にならなかった 1 無回答 0 ・盲ろう者へのパソコンサポートの実際 参考になった 7 普通 2 参考にならなかった 0 無回答 0 ・総合評価 参考になった 6 普通 2 参考にならなかった 0 無回答 1 <コメント> 5.本研修会の運営等について 〈開催時期や日数について〉 ・いろいろな行事があり全国的に調整は難しいと思うが…仕方ない。11月は大きな行事が他にも毎週あった。 ・実習の復習など繰り返しする時間がもっとあれば良いと思うがメニューがたくさんありこれも難しい。 ・春と秋で関東・関西別開催はどうか。もう少し日数短くても良いのでは。 ・平日が二日間だけなので、仕事の休みが最小限にとどめられた。 〈研修事務の進行等の対応〉 ・休憩時間を細かくとってくれて、身体も頭も休められた。 〈研修会の設備・サービス〉 ・新しいビルで設備面が充実していて、快適に過ごせた。 ・他の研修会等と重なってトイレはずいぶん並んだ。 ・同じビル内に食事ができる場所があるのが良い。 〈その他〉 ・操作上、困ったとき、直ぐにサポートに駆けつけてもらい感謝している。 6.個々のプログラムおよび全体について 〈盲ろう者向けパソコン指導概論〉 ・盲ろう者向けのパソコン指導の概要について参考になった。 ・盲ろう者にとって「パソコンをするということ」の意味を改めて考えることのできるお話。 ・盲ろう者がパソコンを使えるようになるまで大変な困難があることを改めて感じた。 ・考える時間を提供してくれるのが良い。 ・点字の必要性、対象者との信頼関係の重要性が伝わった。 ・盲ろう者の方にとってパソコンは大変便利で生活の質を大きく向上させるツールである一方、覚えづらい使いづらいものであることが分かった。 〈画面インターフェースを活用した指導〉 ・計測結果を使った定量的な評価手法が参考になった。 ・講義はとても興味深いものだった。実技はもっとゆっくりが良かった…。 ・検査については少し専門的な話のように感じたが、初めて聞く内容にとても興味をもった。 ・計測データから分析した質の高い内容で勉強になった。有料のソフトを使うことができ、参考になった。「待つこと」は重要な支援の一つで、放置ではないという言葉が心に残った。 ・障害をひとくくりにできない。個人で色々あることが分かった。 ・計測等をして、個人個人に合う設定をすることが一番大事なことだと理解できた。 ・研究発表の内容が多く、内容がよく分からなくなる部分があった。 ・弱視の方のための様々な機能があることが分かって良かった。実際は、弱視でない私には、どれほど役立つか実感はもてなかった。 〈点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー(FocusTalk for Brailleとアプリケーション)〉 ・FocusTalkを使った説明が初めてだったので役に立ちそう。 ・とても使いやすいソフトで、帰ってから広く宣伝したいと思う。 ・ソフトの操作から入ったが、実際は点字ディスプレイとパソコンの接続からスタートするので、その辺が不安。 ・マウスを使わないで、キーボードだけで動かすことがスムーズにできなかったため、いろいろな操作をすることに苦労した。 ・FocusTalk for Brailleは初めて使用したので、どのように表示し、表示の分かりやすさ、分かりにくさを体感することができた。 ・点字入力するのが大変だったが、やっている内に少し慣れてきた。サーチエイド・VoicePopperは盲ろう者だけでなく高齢者にも良いかもしれない。 〈点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー(PC-Talker + BrailleWorksとアプリケーション)〉 ・BrailleWorksを使った説明が初めてだったので役に立ちそう。 ・私も利用したいソフト。ゆっくり確認しながらで分かりやすかった。 ・ショートカットキーが理解できず、頭が混乱してしまった。 ・色々なソフトがあることが分かったが、盲ろう者へアドバイスするためには、ソフトの特性を理解しておかないといけないと痛感した。 ・FocusTalk for Brailleに比べると、操作が少し簡単になっているように思った。 ・BrailleWorksの動作を体験することができたのは良かった。 〈ブレイルセンスプラスの概説・演習〉 ・ブレイルセンスを使うのが初めてだったので役に立ちそう。 ・色々、新たに確認できて良かった。無線LANアカウント設定にもっと時間を取ってほしかった。 ・マンツーマンに近い指導を受けられたので、とても良く分かった。 ・グループに分かれての演習は分からないとき、遠慮なく尋ねることができ、良かった。 ・高額なことはネックだが、外出先でメールができることは、今後、盲ろう者の需要が増えていくと思われるので、ゆっくり時間をとって学べたことは良かった。 ・時間が足りなかった。 ・ブレイルセンスプラスの演習はとても分かりやすい説明だった。購入するときにはとても高いので安くなると良いと思う。 ・機器の操作が難しいこと、メニューや階層構造、コンピューター用語について知らない方にはカスタマイズである程度使いやすくなることが分かった。 ・意外と使いやすかった。ただ、高いのがネック。 ・とても良かった。 〈NPO法人視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」での取り組み〉 ・ソフト開発の取り組みについて参考になった。漢点字入力も参考になった。 ・すばらしい取り組みだと思った。現段階で、「ブレイルメモポケット」と「携帯」の使用方法などもっと簡単な紹介で、良かったのでは。 ・9月の報告会では携帯とポケットを実際に操作できなかったので今回操作することができて良かった。 ・ブレイルメモポケットを使って、メール送受信ができるようになると、盲ろう者の人生が豊かになると思った。開発が順調にいき、早く世の中に出てくることに期待する。 ・開発中のすまいるM8の体験ができて良かった。 ・盲ろう当事者がプログラムを開発して、より良い環境作りに取り組んでいることが知ることができた。 ・とてもすばらしい活動をされていると思った。ソフト作りも制約がある中、頑張られていると思った。 ・頑張って開発してほしい。 〈盲ろう者へのパソコンサポートの実際〉 ・心の部分の大切さに気付いた。 ・とても良い、納得できる話だった。 ・「パソコンの向こうにいる盲ろう者の顔を見ているか」この言葉に尽きる。盲ろう者支援のすべてに通じる言葉だと思った。 ・五日間の研修を終え、挫折して帰るところだったが、「パソコンが苦手でも普段から盲ろう者と関わっているから、できるサポートがある」と勇気付けられた。頑張ってパソコンの知識を増やし、活動に繋げていきたいと思う。 ・パソコンを利用する盲ろう者に寄り添って心が通い合うような支援ができるようになりたいと思った。 ・対象者に向き合うことが肝要。機器に向き合うこと、信頼関係が大切なことが理解できた。 ・研修を受けたことを活かしていきたいと思った。 その他 ・(点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー全体)実際に課題を与えられたので、失敗したり、いろいろ試しながらできたので理解しやすかった。 ・(点字インターフェースを活用したスクリーンリーダー全体)いろいろなアプリケーションがあってどれどれが良いと一概に言えない。買ってから不向きが分かっても困るので、お試し期間があれば使いやすいと思ったが、高価。 〈総合評価〉 ・今後、頑張って勉強していきたいと思う。指導マニュアルで改めて勉強したい。 ・自分の勉強あるのみだと思う。今後は勉強しつつ、盲ろう者と関わっていきたい。 ・最も必要な方、自分は単身でサポートがすぐに受けられない年金暮らしの方をイメージして受講したが、環境の整備を含めて、失敗させることの少ない方法について、その考え方について、研修会で紹介されると良いと思う。 ・知らないことばかりだったので大変勉強になった。 7.本研修について自由にお書きください。 ・長いと思った五日間が、終わってみると、あっという間だった。もうすでに忘れかけているので、帰って復習してみようと思う。名前だけは知っているソフトもあったので、使ってみることができて良かった。 ・盲ろう者にとってどのソフトが一番良いのか…。高額でもあり、どれを薦めたら良いのか、私自身使用していないので分からない。盲ろう者とも色々相談しながら考えていきたい。 ・自県では県立聴覚障害者情報センターの事業として盲ろう者向けパソコン相談事業も行っていて、友の会が助成金を申請してパソコン指導者養成講座も開いている。研修会にも毎年参加をしており、パソコン支援者となるべき人材が育ちつつある。ただ、研修に参加しただけではすぐに支援できるわけではなく、実際に訪問してサポートできるのは二人くらい。研修に参加した者と、パソコン訓練のときに派遣される通訳者で今後、情報交換と技術向上を目指したチームプレイが必要となってくると思う。逆に他県の参加者から、パソコンをやりたいという盲ろう者はいるけれども、研修に参加したものの、サポートするにはまだまだ知識と技術が足りないという声があった。今回の研修では演習があったが、盲ろう者に実際に指導する模擬演習というものがなかったので、最後の総合実習で盲ろう者と実際に話をするという内容を入れてもらえたらと思う。パソコンで何をしたいのかという話とか、パソコンの電源のオン/オフをするとか、簡単な内容での演習はどうか? ・日常パソコンを使うときはマウスで操作している。マウスを不使用にすると動作の一つひとつに困った。例えば「前の画面に戻って」とだけ言うのではなく「[Esc]を押して前の画面に戻って」とか「[Alt]を押しながら[F4]を押してキャンセルして」とか具体的にキー操作を指示しながら画面操作を教えてほしい。RSSとかGMUとか略語ばかりでなく正しいスペルと日本語での説明も加えてほしい。会では新会員の開拓は全くしておらず、会員は高齢者が多くパソコン操作は困難と考える方が多い。また、画面設定ができていないからかどうか、パソコン画面を見続けると視力が落ちると言われると無理強いはできない場合もあるが頑張ってみたい。 ・研修会に参加してみて、講師が何人も入れ替わったが、それぞれの講師が魅力的だった。様々な通訳のあり方も間近に確認できてとても良かった。パソコンの方はこれから勉強するべき点がたくさんあることに気付いた。 ・盲ろう者がパソコンを使うことが難しいということは本研修会を受講することで理解できると思った。それを理解しながら、どのように準備したら良いのか。日常生活用具や他の制度を理解し、導入できる環境について、対象者に寄り添って一緒に考えることが必要なことが、もっとシンプルに受講者に伝わるよう、内容を充実させていただくと良いと思う。 ・盲ろうの方が講師をされる姿にびっくりし、感動した。盲ろうの方々の困っていること、助けを必要としていること、我がこととして感じ、できることを一歩一歩やっていきたいと思う。 第3部 コミュニケーション訓練個別訪問指導 3−1 概要  日ごろパソコン等情報機器に触れることの少ない盲ろう者に対して、一定期間パソコン等情報機器を貸与し、その期間中に講習および日常的な個別訪問指導を実施することで、コミュニケーションツールとして、またはインターネットを通じての情報収集ツールとして体験してもらい、今後の日常生活において、パソコン等情報機器を活用していくきっかけとなるよう実施した。  訓練期間は、概ね11月〜1月の3ヶ月間で、4人の受講盲ろう者を募集し、同時に、地域の指導者となりうる通訳・介助員や盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会の受講者等を数名ずつ募り、訓練を進めた。また、訓練の足がかりとなるよう、本事業企画委員を講師として各地域へ派遣し、受講盲ろう者ならびに地域の指導者に対し、4〜6回の講習会を開催した。  パソコン等情報機器は、Windows 7搭載のノートパソコン、点字ディスプレイ、各ソフトウェア、ブレイルセンスプラス・オンハンド、その他周辺機器を、受講盲ろう者の希望に合わせて準備、貸与した。  訓練は、メールの送受信等を中心に行い、機器を返却した後も訓練や指導が途切れてしまわないよう、購入方法の支援、自宅のインターネット環境の整備も含めて行った。 3−2 募集要領 平成23年度「コミュニケーション訓練個別訪問指導」受講者募集要領 1.目的  パソコン等情報機器を活用した盲ろう者へのコミュニケーション訓練を実施することにより、盲ろう者のコミュニケーション能力の向上を図り、社会参加の促進に寄与することを目的とします。 2.コミュニケーション訓練内容  受講盲ろう者に、一定期間パソコン等情報機器を貸与し、メールの使用方法・ホームページ等からの情報収集法等について、その機器の使用方法等も含めての講習を行います。 3.受講対象者  盲ろう者で、パソコン等情報機器の活用に意欲のある方。  ただし、パソコン等情報機器をお持ちでなく、これまでに活用した経験のない方を優先します。 4.募集人数と訓練期間   平成23年10月〜12月(3ヶ月間) 4人 5.訓練対象機器  ・ノートパソコン(Windows 7あるいはWindows XP)+点字ディスプレイ(ブレイルテンダーあるいはブレイルメモ32)(スクリーンリーダー、画面拡大ソフト等をインストールしたもの)  ・ブレイルセンスプラスまたはブレイルセンスオンハンド(点字情報端末) 6.訓練期間中の講習ならびに指導体制、その実施方法  訓練期間開始時、訓練期間中に、全国盲ろう者協会より講師を派遣し、パソコン等情報機器のセッティング、操作方法等について講習を行います。(期間中4回程度)  この講習には、受講盲ろう者に加え、地元でその盲ろう者へのコミュニケーション訓練を実施できる指導者(盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会受講者、パソコンボランティア、盲ろう者向け通訳・介助員等)に参加していただきます。  指導者は受講盲ろう者に対して、訓練期間中(概ね週1回、5時間程度)の指導ならびにサポートを行っていただきます。  受講盲ろう者には、当協会より「コミュニケーション訓練利用券」を60枚(1ヶ月20枚)交付します。  受講盲ろう者は、コミュニケーション訓練個別訪問指導(サポート)終了後に、「コミュニケーション訓練利用券」を1時間につき1枚として、指導者に指導時間数分手渡していただきます。  指導者は、月ごとに「コミュニケーション訓練利用券」に所定の「コミュニケーション訓練指導実績報告書および指導内容報告書」を添えて、当協会へ提出していただきます。  当協会は、請求のあった指導者の個人の振込口座へ、謝金および交通費を送金します。  訓練期間終了時点に、受講盲ろう者には、アンケート調査を実施させていただきます。 7.申し込み方法  (訪問別紙2)「平成23年度コミュニケーション訓練個別訪問指導受講申し込み方法・諸注意」をお読みいただいた上で、(訪問別紙3)「平成23年度コミュニケーション訓練個別訪問指導受講申込書」に必要事項をご記入いただき、8月31日(水)までに、当協会に郵送またはファックス等で提出してください。 8.受講可否の決定  受講定員を超える場合には、申込書を参考にして、当協会にて受講の可否を決定し、決定通知書を送付します。また、受講決定者には、受講期間、初回の講師派遣による講習の日程等を相談させていただきます。 9.連携団体としての提出書類のお願い  本事業は、独立行政法人福祉医療機構の社会福祉振興助成事業(全国的・広域的ネットワーク活動支援事業)の一環として実施します。その関係から受講が決定した場合、その盲ろう者が所属する友の会には、本事業への連携団体として登録していただく必要があります。つきましては、受講決定とともにお知らせするご案内に沿って、確約書の提出をお願いすることになりますのであらかじめご了承下さい。 10.申し込み・問合せ先  社会福祉法人全国盲ろう者協会  〒162-0042 新宿区早稲田町67番地 早稲田クローバービル3階  TEL:03-5287-1140  FAX:03-5287-1141  E-mail:info@jdba.or.jp 3−3 個別訪問指導報告(パソコン編) 3-3-1 Aさん (1)受講盲ろう者について 性別 男性 年齢 40歳代 障害の程度 盲難聴 受障歴 <聴覚>幼少期から中耳炎を繰り返し、徐々に聞こえが悪くなった。現在は右、左ともに105dB。 <視覚>生まれたときから小眼球症で、眼球が欠損していた。中学生のときは、なんとか自転車に乗ることもできたが、高校生になってから全盲となった。 コミュニケーション方法 <受信>音声、点字による筆談 <発信>音声 点字の触読 可 使用文字 点字 パソコンの経験 なし 志望動機 聴力が落ちているので、今後独力で情報収集や外部との連絡手段にパソコンを活用したい。 希望するパソコン環境 パソコンと点字ディスプレイ (2)指導した機種・環境 本人が所有している機器・ソフトウェア なし 協会より貸与した機器・ソフトウェア パソコン ノート型パソコン OS Windows 7 ソフトウェア PC-Talker 7、BrailleWorks、KTOS、MyNews、MyMailIII 点字ディスプレイ ブレイルメモ32 その他 USB接続型日本語106キーボード 通信機器 無線LAN接続モバイルルーター 指導した機器・ソフトウェア 同上 (3)講師および指導者 講習会講師 渡井 秀匡 地域の指導者 3名 (4)講習会報告 第1回 期日 平成23年10月29日(土) 13:30〜17:30 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・パソコンやブレイルメモ32、外付けキーボードのキー配列の確認等 ・パソコンと無線LAN接続モバイルルーターの電源の確認 ・パソコンの起動と終了 ・MyNewsの起動と終了 ・MyNewsのメニューと操作ルールの確認 A地域の指導者に対して ・PC-Talker 7の設定方法 ・指導手順の方法 成果 @パソコンやブレイルメモ32、キーボードのキー配列の確認等  ノートパソコンと点字ディスプレイの接続状態を触って確認し、キーボードのキー配列を確認した。キー配列については、MyNewsを操作する際に必要な下記のキーのみ覚えてもらった。  ・[ウィンドウズ]  ・[Alt]  ・[上下、左右矢印キー]  ・[Enter](テンキーの一番右下角のキー)  ・[Esc] Aブレイルメモ32と無線LAN接続モバイルルーターの電源について  パソコンの電源を入れる前に、必ず無線LAN接続モバイルルーターの電源を入れる作業を忘れないように覚えてもらった。 Bパソコンの起動と終了  無線LAN接続モバイルルーターの電源を入れる → パソコンの電源を入れる、という操作手順で行うように説明した。パソコンの電源を入れた後は、ブレイルメモ32の点字出力の部分を触って待つように指導した。  起動時、点字ディスプレイに「ピンディスプレイを組み込みました」や「KBDC音声のメッセージ」等、状況によって表示される内容が変わるので少し混乱していたが、とにかくブレイルメモ32の初期画面から点字が出力されたら、正常に起動していることを説明した。  終了については、パソコンの電源が切れたことをブレイルメモ32の点字表示の部分で確認できることを説明した。 CMyNewsの起動と終了  MyNewsを起動するときは[ウィンドウズ]を押してスタートメニューから操作する方法、MyNewsを終了するときは[Alt]による操作方法を覚えてもらった。  英語点字はまだ読めないとのことだったので、スタートメニューの1番目にMyNewsのショートカットを置いて、[下矢印キー]を押す回数で覚えていただくことにした。ご本人からは、「これから英語点字に触れる機会が増えるだろうから、英語点字を習得する」とのお話があったので、英語点字のマニュアルを提供することにした。 DMyNewsのメニューと操作ルールの確認  MyNewsの起動直後は、点字ディスプレイに「目次」と表示されることを確認した。  MyNewsの基本操作は、[上下矢印キー]でメニュー項目を選択し、[Enter]を押すことで次の階層のメニューに入り、また[上下矢印キー]で現在位置のメニュー項目を選択する、という操作の繰り返しであることを説明した。一つ前の階層のメニューに戻りたいときは、[Esc]を押すことも説明した。  また、各階層には「目次1」、「目次2」等と点字ディスプレイに表示されるので、現在のメニューが何かを意識しながら操作してもらった。 E地域の指導者に対して  まずPC-Talker 7の設定の中にある「英語音声の設定」と「音声ガイドの設定」、「ピンディスプレイの設定」の仕方を実演しながら説明した。  次に、指導する際の注意事項について確認した。実際にご本人に指導するところを見せながら、キーの呼び方や操作手順を統一して説明したり、ご本人が操作している間、先回りしないよう待つ姿勢が大切であることを理解してもらった。 第2回 期日 平成23年10月30日(日) 9:30〜13:30 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・第1回の復習 ・MyNewsで新聞やスポーツ新聞を選択する方法 ・MyNewsで各記事の本文の読み方 A地域の指導者に対して ・点字シールの貼り方(工夫)について ・講習の進め方の相談 ・講習プログラムの作成 成果 @MyNewsで朝日新聞やスポーツ新聞を選択する方法  第1回で説明した基本操作を基に、各階層のメニュー項目を確認してもらった。次に、課題を出す形で朝日新聞の「社会」の記事一覧や、日刊スポーツの「野球トップ」の記事一覧を自分で探す練習をしてもらった。分からなくなったら、[Esc]を押して目次1から探し直すようにした。 AMyNewsで各記事の本文の読み方  ご本人宅の地域の天気予報を調べる練習をした。記事一覧になると選択された地域の名前と日付が表示されるので、[Tab]を押して本文を出す方法で操作してもらった。なお、ご本人は少し聞こえていらっしゃるので、音声ガイドを聞きながら本文を読みたいときは[Enter]を押しても良いことを説明した。  次に、点字ディスプレイのキーを押しながら本文が読めることを説明した。本文からメニューに戻りたいときは、[Esc]を押すように覚えてもらった。 B地域の指導者に対して  点字シール等は、ご本人が触って分かりやすいものを選んで貼るように説明した。  今後の講習は、ご本人宅から最も近い指導者が毎回行くことになった。また、講習は二人体制で行うことになり、もう一人は残りの二人で交代することで決まった。講習は原則週1回のペースで行う。  講習プログラムは講師が作成し、後日指導者にメールを送ることになった。 課題  ご本人宅から最も近い指導者は、パソコンの経験があまりないとのことだったので、MyNewsの体験版を紹介した。また、講習で指導した内容を文章化したものを指導者にメールすることになった。 所見  これまでご両親が先回りして手を出してしまう傾向があったらしく、自分で考えながら何かをするというチャンスに恵まれていなかったようである。この講習を通して、ゆっくりであるものの自分なりに理解して操作する様子を、ご両親が見て驚かれていたのが印象的であった。  講習の二日目には自分から質問をしたり、感想を述べるなど積極的だったので、パソコンの練習に意欲的であることが感じられて安心した。 第3回 期日 平成23年12月10日(土) 13:30〜17:30 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・トラブル時の対処方法 ・MyMailIIIの起動と終了 ・MyMailIIIのメニューとメール受信の確認 ・MyMailIIIで各フォルダの移動とメール本文の読み方 A地域の指導者に対して ・メールアドレスの設定 ・メール一覧の設定(メール番号を付加する設定) ・拡張機能オプションの設定(メール本文を点字ディスプレイで読みやすくするための設定) 指導方法 @トラブル時の対処方法  操作が効かなくなったときは、以下の手順で対処するよう説明した。  [Alt]と[Tab]を押してから、[矢印キー]等を押して動くか確認する。それでも動かないときはスタートメニューを開いて、シャットダウンを実行してみる。電源が切れないときは電源ボタンを長押しして、再度パソコンを起動してみる。 AMyMailIIIの起動と終了  MyNewsの起動と同様、スタートメニューから起動する操作手順で行った。また、終了もMyNewsと同じように[Alt]を押して終わらせる方法で行うことにした。 BMyMailIIIのメニューとメール受信の確認  あらかじめ練習用に発行したメールアドレスを使って講習を行った。  MyMailIIIを起動したときの点字表示を確認した後、ボックス選択のメニュー項目を一つずつ確認してもらった。その後メールの受信を行い、メール一覧の表示の仕方や移動方法の操作を学んでもらった。 CMyMailIIIで各フォルダの移動とメール本文の読み方  メールを受信した直後は未開封メールのフォルダでメール本文が読めるが、開封したメールは受信ボックスで読めることを理解した。その際の各フォルダへの移動方法を学び、MyMailIIIのメニューや操作ルールを理解してもらった。  次に、メール本文の読み方は二通りあり、[Enter]を押して本文を開く方法と、[Tab]を押して本文を開く方法を試してもらった。ご本人は少し聞こえていらっしゃるので、[Enter]を押して自動読み上げを聞く方法で様子を見ることになった。そして、点字で確認したいときだけ[上矢印キー]を押して読んでいただくことになった。 D地域の指導者に対して  メールアドレスの設定や拡張メニューを出す方法などを指導した。また、メール一覧のメール番号を付けることのメリットを説明し、その設定方法を指導した。 第4回 期日 平成23年12月11日(日) 10:00〜13:30 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・前回の復習 ・返信メールの作成と送信 ・新規メールの作成と送信 ・メールの削除 A地域の指導者に対して ・ネット接続の導入について ・パソコン購入について ・ソフトウェアや点字ディスプレイの補助の申請方法について 指導方法 @返信メールの作成と送信  返信メールの作成画面を出す方法は[Alt]からの操作ではなく、ワンタッチで実行できる[F4]を採用した。  ご本人は点字を知っていることから、少ないキーで文字入力ができる点字入力で作成していただくことになった。文章の入力は当面の間ひらがなのみとし、助詞の後や続けてしまうと分かりにくいところは、スペースで開けるように書いていただくことになった。また、助詞の「は」や「へ」は点字のルールではなく、墨字のルールに従って「は」や「へ」と入力するように注意した。  送信コマンドとして、[Ctrl]+[Shift]+[F5]を押す方法を指導しようとしたが、キーを押しにくい様子のため、[Alt]からの操作で覚えていただくことにした。 A新規メールの作成と送信  あらかじめ指導者や講師のメールアドレスをアドレス帳に登録して練習を行った。  新規メールの作成画面で、文字入力を間違えたときは[BackSpace]で消して修正したり、一文書いたら[Enter]を押して改行する等、編集の仕方を学んでもらった。  次に、返信メールの作成とは違ってアドレスの入力や題名の入力が必要であることを説明し、その方法を学んでもらった。 Bメールの削除  受信ボックス内では一つずつメールを削除する方法を行った。次に、送信済みボックスを確認していただき、すべてのメールを一括して削除する方法も覚えてもらった。 C地域の指導者に対して ・ネット接続について  安いプランのADSLを調べたところ、すべてご本人宅の地域では対応していないことが分かったため、OCNのフレッツADSLか光を検討することになった。 ・パソコンの購入について  指導者からはパソコンを選んで購入する自信がないとのお話があったので、講師が調べて紹介することになった。 ・ソフトウェアや点字ディスプレイの補助の申請方法について  購入してほしいソフトウェアや点字ディスプレイの内容を説明した。なお、購入の前に必ず申請を行う必要があり、おおよその流れを説明した。まずは、ご家族から最寄りの役場に問い合わせることになった。 課題  ご本人のご両親はご高齢のため、パソコンのサポートは難しいので、今後パソコンのトラブルがあったときの支援体制をどうしたら良いかとの相談があった。これについては、ご本人のご兄弟が近くにお住まいとのことなので、指導者から連絡を取って支援の協力要請をしてみることになった。  点字入力のキーを見つけるのに時間がかかっていたので、次回までに指導者が点字シールを用意して貼ることになった。  今回も講師が講習プログラムを作成して、指導者にメールで連絡することになった。 所見  MyNewsでは天気予報や地元の新聞の記事、スポーツ新聞等を読んでいるとのこと。また、ご家族から独力で情報が集められるようになり、毎日楽しそうであるとのお話があった。そのことからも分かるように、自分でできることを増やすことにより、自信が持てるようになったのではないかと思う。  また、ご本人からはホームページの検索にも興味があるとのお話があったので、メールの送受信ができるようになれば、サーチエイドの講習等も検討したい。 第5回 期日 平成24年2月4日(土) 13:30〜17:30 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @新しいパソコンの設定 ・スタートメニューの設定 ・PC-Talker 7の設定 ・MyMailIIIの設定 ・サーチエイドのインストール A受講盲ろう者に対して ・パソコンの起動方法やスタートメニューの確認 ・MyMailIIIやMyNewsの確認 ・サーチエイドの基本操作の学習 B地域の指導者に対して ・受講盲ろう者と同じ内容 設定について @スタートメニューの設定  スタートメニューで[下矢印キー]を押してMyMailIII、MyNews、サーチエイドを選択し、起動できるように設定した。 APC-Talker 7の設定  声質や読み上げスピード、英語エンジンを使用しない、余計な情報を読み上げない等、ご本人の聞きやすい環境に設定の変更を行った。また、ピンディスプレイの設定でステータスセルの表示や点字表示時間の変更等を行った。 BMyMailIIIの設定  メール一覧のメール番号を付加する設定を行った。また、協会のパソコンで登録したアドレス帳や、残しておきたいメールのデータを新しいパソコンにコピーする作業を行った。 Cサーチエイドのインストール  ホームページを閲覧したいとのご希望があったので、サーチエイドをインストールし、学習することになった。 指導方法 @パソコンの起動方法やスタートメニューの確認  ご本人専用のパソコンを購入したため、電源の位置や点字ディスプレイと接続するためのUSB端子等を触って、協会から貸し出したパソコンとの違いを確認した。  パソコンの電源を入れるところから各ソフトウェアの起動までを単独で操作できるか確認した。 AMyMailIIIやMyNewsの確認  MyMailIIIやMyNews等を単独で操作してもらい、これまでと変わっていないことを確認してもらった。 Bサーチエイドの基本操作の学習  サーチエイドのメインメニューが10項目あることを、[下矢印キー]で確認した。  [上下矢印キー]でメニュー項目を選択し、[Enter]を押すと次の階層に入ることや、[Esc]を押すと一つ前の状態に戻る等の操作ルールを理解してもらった。  グーグル検索等で見つけたホームページをブックマークに登録すると、次回からはブックマークからホームページにアクセスできることを確認した。 第6回 期日 平成24年2月5日(日) 10:00〜13:30 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・Google検索の使い方 ・検索したホームページをブックマークに登録する方法 ・ブックマークからホームページを開く方法 A地域の指導者に対して  ・受講盲ろう者と同じ内容 指導方法 @Google検索の使い方  メインメニューから[F5]を押してGoogle検索を開く方法で練習した。キーワードを入力し確定した後、点字ディスプレイで確認できないときは、[上矢印キー]を押して触ってもらった。  ホームページにはリンクが貼られていることを確認し、リンク上で[Enter]を押すと次のホームページが表示されることを確認した。  また、自動読み上げを途中で止めたいときは[Esc]を押し、その後は[下矢印キー]で1行ずつ読めることを確認した。 A検索したホームページをブックマークに登録する方法  検索したホームページで時々チェックしたい場合、ブックマークに登録すると便利であることを説明し、ブックマークの登録の操作手順を練習した。 Bブックマークからホームページを開く方法  改めて操作手順を確認しながら、ブックマークから登録したホームページにアクセスする方法を練習した。 課題 @文字入力の練習  これまでひらがなでの入力でメールの文章を作成していたため、漢字変換の入力ができなかった。ホームページの閲覧等を活用できるようにするためにも、今後の実習に漢字変換の練習を取り入れていただくことになった。 Aサーチエイドの学習について  サーチエイドのネット検索機能の練習はできなかったので、地域の指導者に引き継ぐことになった。 所見  ご本人の努力と指導者の手厚い支援のおかげで、MyMailIIIやMyNews等が使えるようになっている。また、パソコンの利用により家族以外の繋がりも持てるようになったとのお話があり、パソコン訓練を実施できたことの意義は大きかったと思われる。地域の指導者も熱心にパソコン指導に取り組んでいたので、今後の地域における盲ろう者へのパソコンサポートにも繋がることを期待したい。 (5)指導内容報告 指導期間 平成23年11月3日(木)〜平成24年1月30日(月) 指導回数 13回 指導時間 計60時間 主な指導内容 11月3日(木) ・パソコンおよびMyNewsの起動と終了。 ・パソコンが起動したことをブレイルメモ32で確認。 ・パソコン、モバイルルーター、キーボード、ブレイルメモ32、各キーの名前を言いながら操作し、名称を覚える。 ・[ウィンドウズ]と[Enter]にシール貼付。 ・訪問した際、練習をしていたらしくパソコンが固まりそのままになっていた。 ・パソコンの起動はスムーズにできた。 ・MyNewsの起動時に、[ウィンドウズ]を押すことを忘れてしまう。 ・MyNewsの終了は[Alt]、パソコンの電源を切るのは[ウィンドウズ]ということが、なかなか理解できていなかったが、繰り返し練習することによりスムーズに操作できるようになった。 11月11日(金) ・前回の復習。自分で練習したようで理解できている。 ・MyNewsで全国紙の記事を読む。 ・記事本文を読む際、[Tab]を使って読む方法が分からなくなり、講師に電話で問い合わせた。 ・パソコンが固まって動かなくなったりした。 ・ニュース本文を読むときの[下矢印キー]は、ブレイルメモ32のキーを使うなど、指導で教わった操作を忠実に行っている。 ・[下矢印キー]にシールを貼ったが、[下矢印キー]は左指で右から触って、1、2、3、4、5番目のキーという自分なりのリズムがある様子。頭の中にイメージを作って覚えているそうなので、そのイメージを壊さないように時間をかけて作業できるよう、待ちながら指導した。 11月16日(水) ・前回の復習。一人で迷わず操作できている。 ・MyNewsを起動し、全国紙の記事を読む。 ・目次の一覧に戻る方法。 ・ニュースの見出しを出して読むときに、[Tab]を使う手順が理解不足だった。繰り返し操作することでできるようになった。 ・地方紙も読んでみたが、全国紙と地方紙では目次の形態が異なり混乱していた。目次には色々な項目があることを理解していただく必要がある。 ・回を重ねるごとにキーボードの操作が早くなり、間違えたら[Esc]や[上下矢印キー]を使うことも分かってきた。 ・キーボードやブレイルメモ32を操作するとき、ほとんど左手で操作しているので、[矢印キー]など特に本文を読んでいるときには、右手で押すと点字から左手を話さず読めるとアドバイスしたが、やはり左手の操作の方が慣れている様子。 11月24日(木) ・前回の復習。 ・地方紙や天気予報を読む。 ・新聞記事の中から特定のニュースを自分で探す練習。 ・この一週間で全国に地方紙があることを知り、北海道の新聞を読んだことを生き生きと話していた。 ・前回よりも操作がスムーズになった。 ・北海道や沖縄のニュースを読み、目次の配列や内容も理解している。 ・点字を読むのもキーボードの操作も左手のため、右手でキーボードを操作することを提案したが、自分なりにスタイルがあるので今の段階では難しい。時々ブレイルメモ32のキーを、右手を使って操作するようになった。 12月2日(金) ・自分で好きなニュースを読む。 ・特定の記事を、自分で複数探し出す。 ・MyNewsの操作を習得できている。 ・点字のアルファベットが読めないので、次回までの課題とした。 ・自分なりに色々な目次を選んで探すことができた。 12月14日(水) ・MyMailIIIの学習へ移行。 ・指導者の携帯電話から送られてきたメールに返信する練習。 ・キーボードを打ちやすいように、6点入力で使うキーのシールを分かりやすいものに変更。[ S ][ D ][ K ][ L ]は丸いシール、[ F ][ J ]は四角のシールに改めた。 12月17日(土) ・MyMailIIIの起動まで一人で行う練習。起動時は必ず最初に送受信するよう確認。 ・新規メールから本文入力の練習、練習文の削除方法。 ・自分で受信してメールを読めるが、未開封メールをすべて確認していない様子。 ・返信メールの作成と送信。 ・MyMailIIIのときよりもパソコンに慣れてきたので覚えが早い。 ・文章を打つことが難しい様子。指の力が弱く、誤った文字が出る。新規メールの作成を開いて、6点入力の練習を行うよう指導した。 12月25日(日) ・メールの受信、受信ボックスのメール閲覧、返信の復習。 ・新規メールの作成と送信。 ・文章の改行方法の説明。 ・前回から今回の指導までの間に、指導者とメールのやり取りをしていた。 ・受信メールに対する返信はできるが、新規メールの操作は少し戸惑っていた。 ・前回より6点入力がスムーズになった。 ・ご本人からの返信メールが短いので、少し長めに書いてみるよう薦めた。 ・点字入力のため「おはよーございます」や「めーるおよみました」という文章になるが、やむを得ないと思う。 ・指導者と講師間でやりとりしている指導に関するメールをご本人にも転送し、情報共有した結果、講習がスムーズに進んだ。 1月7日(土) ・ご本人より「メールが送れなくなり、パソコンが動かない」と連絡があったので訪問した。 ・パソコンの状態を確認したところ、「受信エラー winsock Error 11002。これは通常、ホスト名の解決中の一時的なエラーでローカルサーバーが権限を持っているサーバーから応答を受信しなかったことを意味」とエラーが表示された。 ・講師に連絡がとれなかったため、パソコン環境を再点検し、電源を落としてしばらく放置したが復旧せず。自宅に戻ってから、講師にメールで相談することにした。 1月9日(月) ・講師から「無線のボタンを確認してください」との指示を受けて、再度訪問した。 ・パソコンの動作を確認したが異常はなく、インターネットの接続に問題がある様子。調べたところ、モバイルルーターが緩んでいたのでしっかり差し込んだ結果、インターネットに繋がった。 ・ご本人にはパソコンを動かしている内に自然と緩みが生じるので、同種のトラブルが起きたときは、ケーブルやモバイルルーター、プラグ等の接続を確認するよう指導した。 ・インターネットが繋がったので、MyNews、MyMailIIIの動作確認を行った。 1月12日(木) ・メールの受信、返信、新規メール作成を習得できている。 ・差出人のアドレスをアドレス帳に登録。 ・受信メールは音声で確認できている様子。 ・日付の点字表示について確認。 ・MyMailIIIの受信ボックス内のメールを削除。何日に受信したメールか、日付、内容を確認し、不要なメールであれば一覧に戻って、[Del]で削除するよう指導した。 ・必要なメールと不要なメールを確認するように説明した。丁寧に全部読んで確認している。題名から判断するのは難しいので、内容を確認しながら行っているが、徐々に慣れてくると思われる。 ・送信済みボックスも同様に日付、内容を確認。不要なメールを削除することを繰り返す。 ・次回の指導日までに受信ボックスの不要なメールを削除すること、お母様のアドレスを登録する課題を出した。 1月20日(金) ・前回までの復習。 ・前回出した課題もクリアできた。ただ、必要なメールの確認をしたのか不安が残るので、必要なメールと不要なメールの確認を再度指導する必要がある。 ・MyMailIIIから通訳・介助依頼を送る練習。指導者宛てに通訳・介助依頼を送る課題を出した。 ・MyMailIIIの操作は習得できているので、MyNewsの復習を行った。MyNewsも毎日操作しているようで、完璧な操作だった。 1月30日(月) ・新規メールの作成と送信。 ・返信メールの作成と送信。 ・メールの削除。 ・差出人のアドレスをアドレス帳に登録。 ・キーを打つことを不安がっていたが、自分流の流れがあるようで、声を出したりして確実に学習できた。 ・操作は習得できているが、自分からメールを作成して送信するのはあまり得意ではない様子。指示を出せば間違いなく操作できる。メールは楽しいものだと感じていただけるように指導していきたい。 ・点字のアルファベットが読めず、打つことができないため、受信したメールのアドレスは登録できるが、新規アドレスは登録できない。アルファベットを覚えることが今後の課題となる。 ※写真(ノートパソコンとブレイルメモ32) 3-3-2 Bさん (1)受講盲ろう者について 性別 女性 年齢 40歳代 障害の程度 全盲ろう 受障歴 <聴覚>生まれて間もなく、熱病とその治療薬の副作用により全ろうになる。     <視覚>12歳ごろから視力が弱くなりはじめ、10年前ぐらいに全盲になる。 コミュニケーション方法 <受信>触手話、50音式指文字、点字による筆談 <発信>手話、50音式指文字、手書文字 点字の触読 可(2秒につき1文字程度) 使用文字 点字 パソコンの経験 なし 志望動機 @家人にファックスを代筆・代読してもらわねばならず、苦労している。A友の会の会長でもあり、他県の友の会の方との通信手段がほしい。Bメールを使っている盲ろうの友人からも薦められ、早くメールができるようになりたい。 希望機種 パソコン+点字ディスプレイ (2)指導した機種・環境 本人が所有している機器・ソフトウェア  なし 協会より貸与した機器・ソフトウェア  パソコン ノート型パソコン  OS Windows 7  ソフトウェア PC-Talker 7、BrailleWorks、MyMailIII  点字ディスプレイ ブレイルテンダー  入力機器 USB接続型日本語106キーボード  通信機器 無線LAN接続モバイルルーター 指導した機器・ソフトウェア  同上 (3)講師および指導者 講習会講師 白井 康晴 地域の指導者 1名 (4)講習会報告 第1・2回 期日 第1回 平成23年12月23日(金) 12:30〜17:30    第2回 平成23年12月24日(土) 10:00〜16:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・パソコンの各部名称の確認 ・メモ帳で文字入力の練習 ・パソコンの起動 ・MyMailIIIの起動 ・新規メール作成で文字入力の練習 ・MyMailIIIの終了 ・パソコンの終了 A地域の指導者に対して ・キーボードからのWindows操作 成果 @主なキー識別のためのシール貼り  使うキーが増えるのに合わせ、必要なキーに印となる点字シールを貼り付けた。 Aパソコンの各部名称の確認  慎重に一つずつ確認しているので、混乱はないようだ。 Bメモ帳を使っての文字入力の練習  KTOSの点字入力で、ひらがな無変換の入力を行った。  ノートパソコンのキーボードでは打ちにくかったようで、外付けのキーボードに代えたところ、入力が非常にスムーズになった。  点字は日常使っているだけによく覚えているが、まだ打ち間違いが少し多い。  自ら打った点字をピンディスプレイで確認できるが、「う」が長音符、「は・へ」が「わ・え」に勝手に変換されて点字表示されることで、入力を間違えたのかと誤解してしまうので、カタカナ無変換での入力をすることにした。 Cパソコンの起動 → MyMailIIIの起動 → 新規メール → MyMailIIIの終了 → パソコンの終了という一連の流れを練習  メモ帳で文章編集の練習を時間をかけて行いたかったが、講習会の時間が限られているのでMyMailIIIの新規メール作成の本文で行うことにした。  パソコンの起動、MyMailIIIの起動、新規メールの本文で文章編集の練習、新規メールを保存して終了、MyMailIIIの終了、パソコンの終了という流れを何度も繰り返し練習した。  ご本人は粘り強く繰り返し練習をしていた。しかし手順が多く、すべてを覚えるにはまだ時間がかかりそうだ。 課題  MyMailIIIの新規メール作成の画面を「保存して終了」もしくは「保存しないで終了」する際、[Esc]を押すことで表示される終了メニューが、点字ディスプレイに表示されなかった。そのため他の方法で終了することにしたが、結果、操作手順が多くなってしまい、それが覚えにくさに繋がってしまったように思う。次回までに改善を図りたい。  点字表示を一手順ごとに確認していたが、次回は点字を読み飛ばすことを指導したい。  点字入力の練習では、[BackSpace]、[Enter]等が確実に使えるようになった。文字の打ち間違いがもう少し減れば、メールの練習に入れると思う。 所見  外付けのキーボードがかなり使いやすく感じられており、とりあえず持ち歩くことはないようなので、自ら購入するときにはデスクトップ型が良いと思われる。  パソコンは初めてということで、操作に慣れるまで時間がかかりそうである。  今回の講習中にメールの送受信まで指導できるようにしたい。 第3・4回 期日 第3回 平成24年1月21日(土) 12:30〜17:30    第4回 平成24年1月22日(日)  8:30〜17:30 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・前回の復習 ・MyMailIIIのメニュー構造の把握 ・新規メールの本文でメール本文の書き方を指導 ・宛先やアドレス帳の説明と操作方法 ・題名(タイトル)の意味と操作方法 ・メールの送受信 ・未開封メールを読む方法 ・機器やソフトウェアの購入について A地域の指導者に対して ・画面表示と点字表示の内容の違い 成果 @前回の復習  パソコンの起動 → MyMailIIIの起動 → 新規メール → MyMailIIIの終了 → パソコンの終了という一連の流れを復習。手順はすべて覚えておられた。ただ、点字を確認しながら操作を行うと途中で忘れてしまう場面が見られた。 AMyMailIIIのメニュー構造の把握  トップのボックス選択画面の構造と機能について説明した。手話での説明に加え、全体を把握しやすいよう、点字でも項目一覧を作って読むようにした。 Bメールの送信  今まで練習してきたメール本文の編集に加え、アドレス帳からの宛先選択、題名入力、送信方法を説明しメールの送信練習を行った。[Tab]、[Esc]、アドレス帳を開くためのショートカットキーである[F2]等のキーが加わったので、やや混乱されている様子だった。 Cメールの受信  受信したメールを読む練習を行った。「送受信」を選び、新着メールがあるときの点字表示を確認。しかし、新着メールが無いときをどう確認するかは次回の課題となる。 D点字を読み飛ばすことを指導  1回の操作ごとに点字を読むのは大変なので、読み飛ばして良いことを説明。読み飛ばすサインを手話ですると、すぐ次の操作に進むことができた。 E今後へ向けて  ご本人の機器やソフトウェアの購入、それらの購入補助制度、インターネット回線事業者との契約等について説明を行った。 課題  文章編集の練習から、メールを作成し送信、そしてメールを受信するという流れで練習を行ったが、次回は送信と受信を柔軟に使い分けられるよう指導したい。  メールの返信の練習に進みたかったが、時間が足りずできなかった。  操作が複雑になってきたこともあり、その都度指導者に操作手順を確認されるので、お一人で自信を持って操作できることを目指したい。  点字を読み飛ばすことを勉強したが、点字を確認すべきポイントを整理し、全文読むのではなく文頭の2、3文字で確認をする、という指導を次回行いたいと思う。  また、前回の点字ディスプレイ表示の不具合を直すため、PC-Talker 7の最新修正版(2.10β7)を適用したところ、今度は64ビット機、46マスのKGSの点字ディスプレイでのみ生じる不具合により、点字表示が行われなくなってしまい、その対応に時間を取られた。 所見  ご本人は熱心であり、文字入力の間違いが少なくなるとともに、操作が速くなってきている。  メールを送信、返事を受信し読むという操作ができるようになり、手応えを感じているようだ。  機器を購入することにも積極的である。外付けのキーボードが打ちやすそうなこと、また、機器を移動させる必要があまりなさそうな住宅環境のため、デスクトップパソコンを薦めた。価格面から、インターネット接続はADSLを薦めた。  機器の購入、障害者支援ソフトウェア・ハードウェアの購入補助制度の手続きと対象品目の検討、インターネット回線事業者の選定など、一人の地域の指導者に負担がかかってしまう状況なので、できる限り支援をしたい。 第5・6回 期日 第5回 平成24年2月11日(土) 13:00〜17:00    第6回 平成24年2月12日(日)  9:00〜17:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・前回の復習 ・メールの返信 ・メールを受信しそれに返信するという一連の流れ ・新着メールがないときの点字表示の確認 ・新規メールと返信メールの使い分け ・文書の全選択、[タッチカーソル]によるカーソル移動、[Del]での削除操作 ・受信ボックスのメール一覧をたどりながら、メールの内容を次々と読む ・本文が一行空いている場合の読み方や文末の区別 ・「ボックス選択」内の「送受信」「新規メール作成」「未開封メール」「受信ボックス」の役割と操作方法 A地域の指導者に対して ・メールの削除 ・誤操作をしてしまったときの復帰の仕方 成果 @前回の復習  前回までは一つ一つ操作方法を確認しながら操作していたが、全くというほど迷わずに一連の操作ができるようになった。 Aメールを受信し、それに返信するという一連の流れ  ボックス選択画面の項目の並び順も理解されているようで、ほぼ間違わず操作することができた。  受信メールより返信メールを作成すると本文の行頭より引用文が表示されてしまうため、[Ctrl]+[A]ですべて選択し、[BackSpace]で削除するよう指導した。二つのキーを同時に押すという新しい操作が加わったこともあり混乱されるかと心配していたが、すぐに覚えることができスムーズに操作することができた。 B[タッチカーソル]によるカーソル移動・[Del]での削除操作  今まで入力を間違えたときは[BackSpace]を使っていたが、[タッチカーソル]で間違った点字へカーソルを移動させ[Del]で削除し、また[タッチカーソル]で行末記号にカーソルを移動させるという練習を行った。すぐに操作できるようになった。 C受信ボックスの構造とメール一覧の点字表示について  メール一覧を読む練習をしていなかったので、受信ボックスでその練習を行い、受信ボックスには過去のメールが保存されていることも指導した。また、メール一覧の点字表示では題名や差出人が情報点字のカッコで括られているので、それはカッコなので読み飛ばすよう指導し、すぐに覚えることができた。 D「送受信」「新規メール作成」「未開封メール」「受信ボックス」の操作と相互間の移動  各メニューの作業が終わった後に、どの画面のどの項目位置に戻るかはそれぞれ違うので、各メニューの相互間の移動がスムーズに行えるよう練習を行った。いくつか課題をこなしていただくことで、新しいメールを読む、過去のメールを読む、新規のメール作成、返信の操作を任意に組み合わせて行ったが、実際の場面でいつ、どれを使えばいいのかはまだ理解されていないようだった。 EPC-Talker 7の修正版(2.10β7)に起こる不具合の修正  点字ディスプレイの設定をブレイルメモ32にしないと点字表示されないという不具合(32マス分しか表示されない不具合)があったが、今回BMユーティリティをインストールすることで、ブレイルテンダーの設定でも点字表示(46マス分表示)できるようになった。しかし、パソコンを起動した後の点字表示が変わってしまい、とにかく点字が変わったら[ウィンドウズ]を押すよう指導した。 課題  返信メール作成で本文を入力する前に引用文を削除する操作を、新規メール作成の本文を入力する場面で行おうとしてしまうことがあったので、繰り返し練習する中で両者の違いを覚えていただければと思っている。また、[BackSpace]と[Del]の使い分けも、今後、文章作成をされる中で覚えていってほしい。  ボックス選択の未開封メールの後ろに表示される数字について説明できなかったので、地域の指導者に引き継いだ。  今後、機器・ソフトウェアの購入を行わなければならないが、日常生活用具の給付を受けるにあたって、市の事情で来年度からでないと購入できないため、それまで可能な範囲で練習を繰り返す必要がある。 所見  6回の講習によって全くのパソコン初心者がメールの送受信操作まで一通りできるようになったことには、ご本人の点字の読み書きの基礎力がかなりあったことに加え、ご本人の意欲と集中力、地域の指導者の熱心な取り組みが相当に寄与している。  パソコン購入から使用できるまでの環境整備、その後のメンテナンスという長いサポートが途切れることのないよう、可能な限りの支援と連携を続けていきたい。 (5)指導内容報告 指導期間 平成23年12月23日(金)〜平成24年2月12日(日) 指導回数 16回 指導時間 計60時間 主な指導内容 12月28日(水) ・MyMailIIIまでの手順は、自分でスムーズにできるようになった。 ・MyMailIIIで文字入力の練習。打ち間違いが減った。 ・[BackSpace]で文字を消す練習をする。このとき、点字で文字が消えていくことを確認する。 ・MyMailIIIを閉じ、パソコンの電源を切るまでは手順が多く、一人では無理な様子。 ・次回は手順表を点字で作成する。 1月10日(火) ・パソコンの起動 → MyMailIIIの起動・終了 → パソコンの終了、という手順表を作成した。 ・6点入力を練習。間違えず入力していた。 ・手順表を手元に置いて確認しながら、途中一ヶ所間違いもあったが、ほぼ一人で起動から終了まで操作できた。 ・ご本人も「早くメールをしたい」と意欲的である。 1月17日(火) ・前回の復習。 ・点字ディスプレイの下ボタン8回の操作を、上ボタン2回にするよう操作手順を変更した。手順表を順番通り確認することを、数回繰り返した。 ・[Enter]を探すのに時間がかかっていた。 1月18日(水) ・前回の復習。 ・1回目は手順表を確認しながら、一人でパソコンの起動 → MyMailIIIの起動 → 新規作成までできた。終了までは、[Enter]を忘れてしまう場面がしばしば見られた。 ・2回目は手順表を見ずに新規作成まで進めた。 1月23日(月) ・前回の復習。 ・お母様のアドレスを指導者が入力した後、ご本人がメールを作成し送信した。 1月25日(水) ・ボックス選択の意味について説明した。 ・指導者にメールを送り、返信した。 1月31日(火) ・前回の復習。 ・指導者にメールを作成して送信。一度パソコンの電源を切り、再び電源を入れ、返信が届いているか送受信を行い、返信メールを確認。メールの内容を送りボタンで操作しながら読む。この手順を2回繰り返した。 2月3日(金) ・指導者にメールを送る。 ・パソコンの電源ボタンを押してから、[ウィンドウズ]を押すタイミングが分からず指示待ちの状態。点字表示で「頭のピンディスプレイを組み込みました」の「ピン」が出たら[ウィンドウズ]を押すように指示した。 ・6点入力時に、[ H ]を押してしまう。 ・打ち間違いが増えた。 ・指導者から返信が届いたか確認。送受信ではなく「新規メール」を開いてしまう。上下ボタンで、ボックスの中の項目を確認するよう指導した。 ・「?」が打てるようになった。 2月5日(日) ・指導者がご本人の横にいることで、指示を待ってしまうことが多いので隣の部屋で待機。 ・パソコンの電源を入れる → MyMailIIIの新規作成までは、一人でスムーズにできる。 ・6点入力の際、他のキーを押してしまうことが多い。[ H ]を押してしまうことが多く、キーボードに印を付けた。講師に付けていただいたシールが剥がれやすいため、後からでも簡単に剥がせる木工用ボンドで貼り付けた。 ・メールの送受信を数回繰り返した。お母様へもメールを送っていた。 ・6点入力でメールの文章を色々考えることが楽しい様子で、色々な話を打っている。 2月7日(火) ・新規メール作成、送受信を繰り返し練習。 ・マニュアルを作るため、一連の操作の流れを点字で打った。 ・起動から終了まで、マニュアルで確認しながら操作すれば一人でできるようになった。 ・指導者宛てにメールを送る約束をした。 ・ご本人とお母様に無線LAN接続モバイルルーターの電源の入れ方を伝えた。 2月9日(木) ・ご本人から指導者にメールを送る約束だったが届かなかった。確認のため、ご本人の自宅へ行くと無線LAN接続モバイルルーターの電源が入っていなかった。しかし、その他の操作は完璧だった。 ・無線LAN接続モバイルルーターの電源スイッチが小さすぎてオン/オフが分かりづらいとのこと。 ・ご本人の友人が来ており、本人の希望で友人にパソコン操作を見ていただいた。 ※写真(パソコンとブレイルテンダー) 3−4 個別訪問指導報告(ブレイルセンス編) 3-4-1 Cさん (1)受講盲ろう者について 性別 男性 年齢 50代後半 障害の程度 全盲ろう 受障歴 <聴覚>先天性のろう。     <視覚>小さい頃は暗くなると見えなかった。38歳で失明。 コミュニケーション方法 <受信>触手話、手書き文字、50音式指文字、点字による筆談 <発信>手話、手書き文字 点字の触読 可 使用文字 点字 パソコンの経験 あり(学習会等、短期間)。ブレイルセンスプラスは、今回が初体験。 志望動機 メールを利用して連絡をとりたい。 希望機種 ブレイルセンスプラス (2)指導した機種 本人が所有している機器・ソフトウェア  なし 協会より貸与した機器・ソフトウェア  点字情報端末 ブレイルセンスプラス  通信機器 無線LAN接続モバイルルーター 指導した機器・ソフトウェア  同上 (3)講師および指導者 講習会講師 村岡 寿幸 地域の指導者 4名 (4)講習会報告 第1回 期日 平成23年10月19日(水) 13:00〜17:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・本機の各部名称やキー配列の説明 ・メニュー一覧の確認 ・文字入力の練習 ・メール送受信の練習 A地域の指導者に対して ・本機の音声の発声確認 成果  以前から点字タイプライターやブリスタの経験があり、ブレイルセンスプラスのキー入力はできている。地域指導者の携帯電話とのメール送受信テストを行った。ブレイルセンスプラスで携帯電話とメールのやりとりができることを理解した。 課題  通信機器に用いた無線LAN接続モバイルルーターは、電源を入れてから認識するまで約2分を要する。認識に要する時間が長すぎる。  本機の音声をオンのままにすると、受信メールの本文を開いたときに自動で読み上げてしまうので、点字ディスプレイが動いて行が進んでしまい読みづらい。 第2回 期日 平成23年10月20日(木) 9:00〜13:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・メール送受信の練習 ・メールのヘッダー(受信日、時刻、差出人)の確認 ・RSSリーダーで新聞を閲覧 ・ウェブブラウザで閲覧 A地域の指導者に対して ・無線LAN接続モバイルルーターのランプの点灯確認 ・ブレイルセンスプラスのスピーカーによる音声操作ガイドを聞き慣れる 成果  文字入力に関しては、以前、点字タイプライターやブリスタを扱った経験があるので問題なく打てる。 課題  メールボックスの名前や、メールのヘッダーに差出人アドレスが表示されているが、ご本人はアルファベットを読めない。こちらからは、「分からなければ読み飛ばしても良い」と助言した。  新聞の記事は読めるか?と尋ねられたので、実際にRSSリーダーで新聞の記事を読んだ。記事中の「震災地」という単語を読んでも、意味を想像できない様子。  友の会の情報を知るにはどうすれば良いか?との質問があったので、ウェブブラウザで静岡盲ろう者友の会のホームページを閲覧した。 第3回 期日 平成23年12月1日(木) 13:00〜17:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・受信メール一覧の読み方  51通のメールを保存していた。タイトル名の後ろに付いている数字についてのイメージが思い浮かばず、理解できない様子。 ・受信メールの削除  ご本人が「そんなに削除するのか?そのままにしても良い」と頑なにおっしゃるので、1通のみ削除した。 ・RSSリーダーで新聞を閲覧  見出しを読んで、関心があるものを[Enter]で選択し、カーソルを下へ進めて記事を探したが、なかなか辿り着けなかった。新聞の記事が短すぎると不満を述べていた。以前、パソコンでVoicePopperを使って新聞を閲覧した経験があり、その方が読みやすいとのこと。 ・ウェブブラウザで閲覧  拡張機能のクイックブラウザに、ご本人が居住する地域の天気予報を登録し、現在の予報を閲覧した。天気が「曇り」だと分かると、興奮した様子。 ・拡張機能の乗り換え検索を体験  浜松から静岡間における、新幹線と在来線の所要時間や運賃の差を知ることができた。新幹線の運賃が高いことは聞いていたようだが、実際に乗り換え案内を読んで初めて運賃を知ったとのこと。 A地域の指導者に対して  質問が寄せられたので、下記の通り回答した。 ・センスプラス起動後や操作中、「同期失敗しました」と音声が鳴る。 (回答)気にせず続行して良い。メール送受信の際、ネットに接続できずエラーが出た場合は、ブレイルセンスプラスのリセットボタンで再起動するか、無線LAN接続モバイルルーターの電源スイッチを入れ直してみると良い。 ・受信したメールのタイトル名に「failure notice」という記載があり、ピンディスプレイを読んでも何か分からなかった。 (回答)音声はカタカナ読みで流れる。メールを送り直すか、本文を開いて最後の行を確認し、誰宛てのメールか分かったら送り直せば良い。 課題  ご本人から「メール本文を書き直すのは面倒くさい」という指摘があったので、次回は範囲指定、コピー、貼り付けといった編集検索機能の指導を行うべきか検討する。  拡張機能のウィキペディアを開くと、複数のリンクが並んでいて読みづらいことを事前に説明した後、実際に音声で確認した。リンクという意味が分かるまで、根気よく指導を続ける必要がある。 第4回 期日 平成24年2月2日(木) 13:00〜17:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・受信メールの日時を確認できるようになった。 ・受信メールのタイトル名の後ろに付いている現在の位置と保存受信メール数は、まだ理解できていない様子。 ・相手からの受信メールに対して、返信の操作ができるようになった。 A地域の指導者に対して ・受信メールへの返信の仕方について。繰り返し指導をしている内に、「新規メール作成」より「返信メール作成」の方が簡単という印象を抱かれたようだ。「新規メール作成」は、アドレス帳を開き、名前を探して選択し、[Tab]を何回か押すと本文が開いて編集という手順を踏むが、「返信メール作成」の場合、返信メール本文が開き、すぐに編集できるため簡単だと感じた様子。以来、ご本人は専ら「返信メール作成」を選択して編集し、送信しているため、「新規メール作成」の手順を忘れてしまったようだ。 (5)指導内容報告書 指導期間 平成23年10月19日(水)〜11月21日(月) 指導回数 7回 指導時間 計60時間 主な指導内容 10月24日(月) ・ご本人から「講師が帰った後、一人で操作したら動かなくなった。別の指導者に確認したら大丈夫だと言われた。そのときの音声やディスプレイの状態は分からない」と報告があった。 ・ブレイルセンスプラスを起動すると他のアプリケーションに入ってしまい、音声の読みが速く、ディスプレイも表示されない。講師に調整していただいたはずだが、直っていなかった。 ・スタートメニューに戻ることはできたが、音声とディスプレイの設定は直せなかったため、点字で確認しながら指導を行った。 ・手が大きく指が太いため、キーの位置を確認してキータッチする際、他のキーに触れてしまうため違う操作になってしまう。 ・メールを2件送信したが、新着メールの確認ができなかった。 ・ブレイルセンスプラスに直接点字を貼るなど工夫が必要。 ・ご本人と指導者が機器を理解することの必要性や指導の工夫など、今後の課題が出てきた。電源を入れた際、スタートメニューの状態に戻す方法や、各種設定の方法、ご本人が一人でブレイルセンスプラスを操作し、終了する際の流れなどを理解する必要がある。そのために、ご本人と指導者にとって分かりやすいマニュアルが必要。キー操作だけでなく、このキーを使ったらどのような操作ができる、といった記載もほしい。 ・ご本人には点字版マニュアルの他、パソコン用語を手話表現で覚える方法を採ると良いと思う。 10月31日(月) ・メール受信の確認。[ Z ]+[Enter]で操作しても接続できず、全国盲ろう者協会の担当者に連絡し、無線LANの設定をやり直した結果、メールを受信できた。 ・ニュースの見方。自分の読みたい見出しを選び、読み込む作業を行った。 ・最後にご本人一人で電源を切り、立ち上げからニュースが見られるところまでの操作を行った。トラブルなく終えることができた。 11月7日(月) ・ブレイルセンスプラスの点字マニュアルを希望されたので、指導者のメモをとったものに添って確認しながら指導した。 ・メールの受信とニュースを閲覧した。 ・[Enter]を右人差し指を使って押すので、キーを探す間に他のキーを触ってしまう。 ・[F1]〜[F4]の名称と機能を充分理解していないため、[下スクロール]で処理しようとすることが多い。 ・[下スクロール]の隣にあるピンディスプレイの点字が読みづらいため飛ばして読み、内容を把握できないことがあった。 ・自分でメールやニュースを読んでいるそうだが、指導者と一緒にいるときは指示待ちが多い。 11月14日(月) ・メールの受信と返信。 ・こちらが操作を伝えながら行うのではなく、本人が操作をし、分からないところは補う説明をして、ご本人自身で操作できる形で指導に関わるよう心がけた。 ・前回、点字版マニュアルを渡し、それに沿って進めるように伝えたが、指導者がいるとマニュアルを読まず、指導者に尋ねて確認する状況。指導者が促すとマニュアルを確認する。一人のときは、マニュアルを確認しながら操作を行っていると思われる。 ・色々な人とメールをすることを期待する気持ちが窺える。 ・操作手順を進めて機能を知ったり、自分一人で操作ができるという気持ちが持てれば(大きくなれば)覚えようという気持ちも強くなるのではないかと思う。そう思っていただけるよう、根気強く支援を続けていきたい。 11月21日(月) ・メール受信の確認。 ・ニュースの見方。 ・受信メールの内、4件に返信。返信の操作はスムーズに行えた。 ・前回よりも随分早く操作できるようになった。それぞれのキーの役割も理解できている。周りの人からの応援メールが、ご本人を元気にさせていると感じた。 ※写真(ブレイルセンスプラス) 3-4-2 Dさん (1)受講盲ろう者について 性別 男 年齢 60歳代 障害の程度 全盲難聴 受障歴 <聴覚>2006年より徐々に聴覚が低下した。     <視覚>1998年ベーチェット病により失明した。 コミュニケーション方法 <受信>音声、点字 <発信>音声 点字の触読 可 使用文字 点字 パソコンの経験 平成9年より数年間Windowsをパソコンで使用し、メール、掲示板、チャットなどを利用していた経験あり。 志望動機 現在、「盲ろう」という障害のため、情報入手が難しい状況である。先日、ブレイルセンスオンハンドを体験する機会があり、使いこなすことができれば色々な人とメールをしたり、インターネットを通じて様々な情報を得られることが分かった。そこで、是非ブレイルセンスオンハンドを使えるようになりたい。 (2)指導した機種・環境 本人が所有している機器・ソフトウェア  ブレイルセンスオンハンド 協会より貸与した機器・ソフトウェア  点字情報端末 ブレイルセンスオンハンド  通信機器 無線LAN接続モバイルルーター 指導した機器・ソフトウェア  同上(別途、家庭用無線LANを使用) (3)講師および指導者 講習会講師 高橋 信行 地域の指導者 1名 (4)講習会報告 第1・2回目 期日 第1回 平成23年10月29日(土) 13:00〜17:00    第2回 平成23年10月30日(日)  9:00〜12:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 講習内容 @受講盲ろう者に対して ・ブレイルセンスオンハンドの概要 ・ブレイルセンスオンハンドの各部の名称と役割の確認 ・メニューの説明 ・文書作成と保存方法 ・メールの受信 ・メールの送信 A地域の指導者に対して ・受講盲ろう者と同じ内容 ・指導において「待つことは最大の支援である」という姿勢が重要であること ・メールアカウントの作成について 成果 @ブレイルセンスオンハンドの概要の理解  ブレイルセンスオンハンドを使ってできることを理解した。 Aブレイルセンスオンハンドの各部の名称と役割の理解  ブレイルセンスオンハンドの電源、点字ディスプレイ、液晶ディスプレイ、スクロールボタン、ファンクションキー、ACアダプターのジャック、USBポート、メモリーカードスロット、リセットボタン等を一つ一つ触って名称と役割について確認した。理解が早く、スムーズに進められた。 Bメニュー構造の理解 C文書作成と保存方法  漢字変換や英語変換の仕方を繰り返し練習した。練習していく内に慣れてきた。 Dメールの受信  実際にメールを受信し、読み上げた。受信したメールからメールアドレスの登録方法も練習した。 Eメールの送信  受信したメールへの返信と、新規メール作成の練習をした。 課題  今回は予定していた講習会場において、無線LAN接続モバイルルーターの電波が届かず、急遽、受講盲ろう者の自宅に場所を移しての講習となった。充分に練習する時間が取れなかった。  ご本人自身が意欲を持って取り組んでいる。現在のところ、特に大きな課題はないと思われる。 所見  二日間の講習を通して、地域の指導者の協力もあり、良い雰囲気で進められた。 第3・4回目 期日 第3回 平成24年1月8日(日) 14:00〜17:00    第4回 平成24年1月9日(月)  9:00〜12:00 実施場所 受講盲ろう者自宅 指導内容 @受講盲ろう者に対して ・ウェブブラウザの基礎 ・ウェブブラウザを使ってホームページのブラウズ ・ウィキペディアの検索 ・スクロールボタンによる音声読み上げ機能の設定 ・日付と時間の設定 ・電子メールの送受信の復習 ・ネットワーク構築 成果 ・ウェブブラウザの基本的な操作を理解した。 ・ウェブブラウザを使ってGoogleのページを開き、ウェブ検索ができるようになった。 ・ウィキペディアを使って調べることができるようになった。 ・オプション設定において、スクロール読み上げの設定ができるようになった。 ・システムの日付と時間の設定ができるようになった。 ・電子メールの送受信の操作方法の再確認を行った。 ・今後の自宅におけるネットワーク環境構築について理解した。 課題  当日は地域の指導者のご都合が合わず、ご本人に対してのみ指導を行った。新しい機能や操作方法等を指導したため、本来であれば、地域の指導者も交えて指導を行うことが望ましい。今回は地域の指導者が1名のみであり、こうした緊急時のサポートができないことも懸念される。地域の指導者の養成を、さらに拡充する必要性を痛感した。 所見  4回の講習においてそれなりの成果があったが、今後も本人、指導者ともに継続的な支援が必要である。メールなどを使って、継続的に支援していきたい。 (5)指導内容報告 指導期間 平成23年10月29日(土)〜平成24年1月11日(水) 指導回数 5回 指導時間 計17時間 主な指導内容 11月15日(火) ・「メール本文に添付されたアドレスをアドレス帳に移したい」という要望を受けて、範囲の選択 → コピー → 移したい場所に貼り付け、までの操作手順を確認。 ・[タッチカーソル]を用いた範囲の選択手順を確認。マニュアルには必要な箇所の一つ前の[タッチカーソル]から選択すると記載されているが、英字符が先頭にある場合、今いる位置から選択して良いことを確認した。 ・ショートカットキーを用いたコピー、貼り付けの手順を確認。 12月1日(木) ・自宅を無線LANが使える環境にしたい、新規に入手したオンハンドをメールができる状態にしたい、という要望を受けて、無線LANルーターを設置 → オンハンドの設定を無線LAN接続にする → メールサービスの登録をする、までの流れを確認。無線LANルーターの設置は、進行を説明しながら指導者が行った。 ・ユーティリティからインターネット設定で無線LAN設定を行う手順を説明。 ・メールサービスの登録手順を説明。 ・ブレイルセンスオンハンドにメールを送り受信できるか確認。入力ミスがあり受信できなかったのでやり直した。 1月11日(水) ・メールやインターネット検索ができなくなった理由と対処法を伝え、解決した。 ・MLに返信できなくなった理由と対処法を伝え、解決した。 ※写真(ブレイルセンスオンハンド) 3−5 受講盲ろう者へのアンケート調査 3-5-1 パソコンと点字ディスプレイ 受講盲ろう者:2名 回答者:2名 回答率:100% 1.このたび3ヶ月の間、パソコンと点字ディスプレイを貸与させていただきました。 この期間についてお伺いします。 ア.短い 2 イ.ちょうどいい 0 ウ.長い 0 <コメント> ア.短い ・1年間。 2.今回のパソコンと点字ディスプレイの貸与期間中に、以下の事項の中で訓練を受けたものはどれになりますか? また、その訓練中に感じたこと(難しかった、分かりやすかった等)を、具体的にご自由にお書きください。(複数回答可) ア.キーボードからのフルキー入力 0 イ.キーボードからの点字による6点入力 2 ウ.入力における漢字への変換方法 0 エ.メールの受信方法 2 オ.メールの送信方法 2 カ.VoicePopperによるニュースの閲覧方法 1 キ.サーチエイドによる種々の検索方法 0 ク.ホームページの閲覧方法 0 ケ.ホームページの検索方法 0 コ.アドレス帳への登録方法 0 サ.その他 1 <コメント> イ.キーボードからの点字による6点入力 ・簡単だった。 ・初めての体験なので難しかった。 エ.メールの受信方法 ・簡単だった。 ・初めてだが、分かりやすかった。 オ.メールの送信方法 ・簡単だった。 ・初めてだが、分かりやすかった。 カ.VoicePopperによるニュースの閲覧方法 ・難しかった。 サ.その他 ・英語の表示を点字で読むのが難しかった。 3.今回の貸与期間を終了した後、引き続きパソコンと点字ディスプレイを使ってみたいと思いましたか? ア.はい 2 イ.いいえ 0 4.3で、「ア.はい」とお答えになった方へ。今後パソコンと点字ディスプレイを使ってどのようなことをしたいと考えていますか?具体的にご自由にお書きください。 <コメント> ・初めてだが、受けて良かった。やれなかったことをもっと学びたい。他の人と交流をしたり、知識を広めたい。 ・初めは難しかったけれど、3ヶ月経って覚えることができた。メールをしたい。 3-5-2 ブレイルセンス 受講盲ろう者:2名 回答者:2名 回答率:100% 1.このたび3ヶ月の間、ブレイルセンスを貸与させていただきました。 この期間についてお伺いします。     ア.短い 0 イ.ちょうどいい 2 ウ.長い 0 <コメント> イ.ちょうどいい ・長ければ良いというものではない。何をやりたいか目的をもって講習を受ける。それに伴い色々と分かってくる。いかに復習・実習以外にはないと思う。指導については分かりやすく言われることが理解でき、良き指導者で良かったです。終わったとはいえ、これからも分からないことはメールで質問させていただくことになっています。 2.今回のブレイルセンスの貸与期間中に、以下の事項の中で訓練を受けたものはどれになりますか?また、その訓練中に感じたこと(難しかった、分かりやすかった等)を、具体的にご自由にお書きください。(複数回答可) ア.入力の際の漢字への変換方法 1 イ.メールの受信方法 2 ウ.メールの送信方法 2 エ.ホームページの閲覧方法 2 オ.ホームページの検索方法 2 カ.アドレス帳への登録方法 1 キ.スケジュール管理(予定帳)の使用方法 0 ク.その他 1 <コメント> ウ.メールの送信方法 ・簡単だった。 エ.ホームページの閲覧方法 ・ニュースを読んだ。 オ.ホームページの検索方法 ・検索範囲が狭かった。 ク.その他(具体的にお書きください) ・電子辞書。時刻設定。  ・トラブルが起きたときの対応なども教えてもらえればと思った。 3.今回の貸与期間を終了した後、引き続きブレイルセンスを使ってみたいと思いましたか? ア.はい 1 イ.いいえ 1 4.3で、「イ.いいえ」とお答えになった方へ。その理由をご自由にお書きください。 <コメント> ・ニュースを読むことに限界があった。機能が少ない。本体価格が高額のため、購入できない。 3−6 考察 1.パソコン指導の考察  Aさんは、盲ベースの盲難聴の男性で、聴力の低下のため、点字を使った連絡手段、情報入手手段を獲得したいということから、今回の受講となった。しかし、現状では残存聴力により、スクリーンリーダーの音声合成も聞き取れそうだということから、点字表示と併用して使用してもらうこととなった。MyNewsを使って、ニュース記事を読むことから始め、MyMailIIIによるメールの送受信まで、今回の訓練でマスターできた。講師ならびに地元指導者の報告からも読み取れるように、意欲的に取り組んでいただいた。社会の日常的なニュース等の情報を自分のペースで得ることができたり、メールによって家族だけではなく、他者とのコミュニケーションツールとして活用し始め、日々の生活に潤いが出たのではないかと思われる。  Bさんは、ろうベースの全盲ろうの女性で、これまでは家人にファックスの代読・代筆をしてもらっていたが、これを何とか独力でできるようになりたい、また友の会会長として他県の友の会とも連絡が取れるようにメールを活用したいという動機から、今回の受講となった。点字の触読は、ややゆっくりではあるものの、操作手順等を反復練習する中で、独力での操作が可能となってきていることは大変喜ばしい。入力文字と点字の独特の表記法の違い(助詞の「は、へ」を点字では、「わ、え」と表記する)に戸惑われた面もあったようだが、これは徐々に慣れてもらうしか方法はない。  今回は、パソコンのスクリーンリーダーとして、現在点字入力と点字表示において一部不具合が報告されているFocusTalk for Brailleではなく、PC-Talker 7とBrailleWorksを採用した。PC-TalkerがBrailleWorksによる点字表示に対応したことで、盲ろう者が使えるスクリーンリーダーの選択肢が増えたことは大変望ましいことである。一方、FocusTalk for Brailleの早い段階でのメンテナンスにも期待したいところである。 2.ブレイルセンス指導の考察  Cさんは、ろうベースの全盲ろうの男性で、メールを利用して連絡を取れるようにしたいということから、今回の受講となった。慣れない操作手順であったようだが、点字での操作手順書の提供など、地元指導者の手厚いサポートもあり、メールの送受信ができるようになったことは大変喜ばしい。  初回の講習時点で、ブレイルセンスプラス(点字表示部32マス)とブレイルセンスオンハンド(点字表示部18マス)の両方を触ってもらい、どちらが良いか検討してもらったが、点字表示部32マスのブレイルセンスプラスを選択した。一度のスクロールで、多くの点字が表示される方が読みやすいということから、このような選択となったようだ。  Dさんは、盲ベースの全盲難聴の男性で、以前ブレイルセンスオンハンドを触る機会があり、ぜひこの機器を利用してメールの送受信やインターネットからの情報入手をしてみたいという希望があり、今回の受講となった。残存聴力の活用と点字の触読も可能であったことから、ブレイルセンスオンハンドの音声出力と点字表示を併用しての指導となった。10数年前に、一時パソコンを使用した経験もあったことからか、導入はスムーズで、メールの送受信に加え、インターネット上でのウェブ検索までできるようになった。また、地元の指導者は、過去の本事業で実施している盲ろう者向けパソコン指導者養成研修会の受講者でもあり、きめ細かな指導ならびにサポートをしていただけたことがうかがえる。 3.全体を通して  この個別訪問指導を通じて痛感するのは、地元の指導者の存在は必要不可欠であるということである。  その盲ろう者のペースに合わせて根気強く指導したり、その盲ろう者が理解しやすい形での操作手順のメモを作って渡したりといった適切な対応のおかげで、3ヶ月間程度の短い期間にもかかわらず、メールの送受信ができるようになっている。  また、講習を通して機器を使いこなせるようになったとしても、必ず何らかのトラブルには遭遇する。今回の指導期間中でも、インターネットに接続ができなくなった事例があった。結果的には、ケーブルの接続がきちんとできていなかったという単純なものであったが、そのトラブルの内容に応じてどのように対処するかなど、盲ろう者独力では限界がある。また、遠隔地からのサポートでは、先の例のような物理的な事柄には、なかなか対処が難しい面もある。そのようなときに、地元の指導者がすぐに駆けつけて対応できる状況が望ましい。  今回の受講者の内3人は、自費で機器を購入したり、購入の準備を進める等、貸与したものと同じ環境を整えている。また、ブレイルセンスプラスを体験した一人は、パソコンもやってみて、どちらが自分にとって有用か検討したいということから、地元の指導者の支援を受け準備を進めている。いずれにしても全員が今後も活用していきたいという意欲を見せている。盲ろう者へのパソコン指導およびサポートは、その盲ろう者に向き合い、付き合い続けることが重要で、各地域の指導者に期待するところは大きい。  今年度は4人の盲ろう者に対して個別訪問指導を実施することができた。多くの盲ろう者が本事業のように、じっくりと時間をかけて、これら機器類を体験する機会を希望している。今後もこの事業をきっかけに、指導者のネットワークが広がり、盲ろう者の生活向上が図られることを願っている。 第4部 機器・ソフトウェア調査 4−1 はじめに  盲ろう者のパソコン等の利用環境は、依然として選択肢が少なく、厳しい状況にあると言わざるを得ない。  パソコンの最新OSが「Windows 7」に移行し、これに対応した点字入出力機能を持つスクリーンリーダー「FocusTalk V3 for Braille」が2010年に発売された。  そして、2011年3月に視覚障害者用のスクリーンリーダーとして広く利用されている「PC-Talker」の点字出力機能を強化した「PC-Talker 7」が発売された。これまでも音声出力するものを点字でも出力するという機能は標準装備していたが、エディター等での文書編集において点字出力機能が不充分であり、点字出力を頼りにパソコンを操作しなければならない盲ろう者にとっては大変使いにくい、さらに言えば文書編集ができないという点で使えないと言わざるを得ない状況にあった。  今回PC-Talkerの点字出力機能を強化したオプションソフト「BrailleWorks」を導入することで、文書編集にも対応したということから、盲ろう者にとって新たな選択肢の一つになりうるかどうか、実際に盲ろう当事者のユーザーならびに盲ろう者のシステム環境をよく知る視覚障害の通訳・介助員等による評価・検討を実施した。本稿では、その結果について報告する。 4−2 調査概要とその結果 調査の目的  PC-Talker 7(株式会社高知システム開発)は、多くの視覚障害者に支持されているスクリーンリーダーの一つである。これまでも点字出力機能を備えてはいたものの、先にも述べたようにエディット機能において点字表示機能が不充分であったため、盲ろう者には普及していない。今回、点字出力機能を強化するべく開発・発売されたPC-Talker 7のオプションソフトであるBrailleWorks、およびこの環境下で動作する各種アプリケーションについて、点字使用の盲ろう者にとって、どの程度活用可能か、調査を行った。 システム構成と価格  PC-Talker 7にて点字出力を行うためには、別途点字出力をサポートするオプションソフトのBrailleWorksを購入する必要がある。  【開発・販売元】株式会社高知システム開発  【価格】 ・PC-Talker   39,900円(税込) ・BrailleWorks 29,400円(税込) ・MyMailIII   18,900円(税込) ・MyNews    21,000円(税込) ・MyBookII   39,900円(税込) 調査環境  OS Windows 7 64ビット版  点字ディスプレイ 主にブレイルメモ32とブレイルテンダー(ケージーエス株式会社) 調査結果の概要  点字出力・入力についての基本的な部分のみを記す。 (1)PC-Talker 7 + BrailleWorks  これまでのPC-Talker 7は、音声と全く同じ内容を点字ディスプレイにも出力するといったシンプルなものだったが、BrailleWorksを組み込むことで ・点字ディスプレイ上の[矢印キー]による項目間の移動 ・エディット画面内でのカーソル位置表示と、[タッチカーソル]による画面上のカーソルの移動 ・点字ディスプレイの表示に合わせたカーソル連動 ・選択範囲の表示 ・日本語入力時の変換候補や文節の区切り等の表示 ・ステータス表示による各種情報の提示 等が可能となり、点字出力だけを頼りに操作する盲ろう者にも、文書編集等がかなりできるようになったと言える。 @対応している点字ディスプレイ  KGS製点字ディスプレイの各機種に対応している。 ※その他にもFocus 40 Blue、ブレイルセンス、ブレイルセンスプラス、ブレイルセンスオンハンド、清華40、清華80、ALVA544(Windows XPのみ)に対応している。 A点字出力関連 ・表示する点字の種類  <かな点字>、<6点漢字>、<漢点字>の3種類から選択できる。また、英語点字の略字を使用するかどうか、あるいはNABCC(北米点字コンピューターコード)の選択ができる。漢字等をかな点字で特定するために、詳細な文字説明等を表示させるときのモードも設けているが、通常は<簡易読み>で問題ない。 ・文書の表示モード  <点訳モード>と<通常モード>が選べる。画面の情報を点字本のようなレイアウトで表示する<点訳モード>が設けられているが、長い文章を読み続ける場合等を除き、<通常モード>にしておく方が画面のレイアウトが把握しやすいと思われる。 ・ワードラップ表示  マスあけの所で行を移す慣習がある通常のかな点字では、ワードラップされている形が馴染みやすく、また読み取りの誤解も少なくなる。マス数の少ない点字ディスプレイを接続している場合は、1行が短くなり過ぎるので、<使用しない>に設定する方が読みやすくなる場合がある。 ・カーソル  画面上のカーソルの位置を点字ディスプレイ上にどのように表すかの選択が可能で、点字の下に下線を付けることで表す<ライン表示>(読みやすい)と、該当文字のピンが上下する<点滅表示>が選べる。文字を読むだけで良いような場合は<表示しない>を選択することで、余分な点に煩わされずに読むことができる。 ・ステータスセル  各種の状態をコンパクトに表示するので上級者には有用なものだが、余分な記号が常に表示されるので、点字やパソコン操作に不慣れなユーザーには<表示しない>が良いと思われる。 ・点字メッセージ表示時間  PC-Talker 7が発する追加情報は設定した時間だけ表示され、その後画面上の表示に戻る。<制限しない>に設定すると、[タッチカーソル]を押したり次の操作をするまで表示が継続されるので、点字の触読に慣れていないユーザーもゆっくり情報を読み取ることができる。 ・音声出力の停止  音声出力を必要としない場合には、点字ディスプレイのみの出力を行うように設定できる。点字ディスプレイのみの出力にするためにPC-Talker 7の音声出力を停止させたいときには、点字ディスプレイからの操作、またはパソコン本体側のミュートの機能で行う。PC-Talker 7自体の音声出力を停止すると、アクティブウィンドウ名、日付や時刻といった情報が点字表示されなくなる。 B点字ディスプレイ上のキー操作  点字ディスプレイ上のキー操作で、主要なパソコンのキーボード操作、点字表示に関連する切り替え等が行えるよう設計されている。頻繁に行う作業のたびに点字ディスプレイから手を離し、キーボードを操作しなければならないという作業の煩雑さ・非効率さを軽減できる。 ・パソコン上のキーに対応  [上下左右矢印キー]、[Esc]、[Tab]、[Del]、[BackSpace]、[Ins] ・点字表示の切り替えに対応  点字表示を左右にシフト、音声なし(点字出力のみ)・音声使用の切り替え、通常モードと点訳モードの切り替え、カーソル表示の切り替え、ステータスセル表示の有無と位置、表示する日本語点字の種類の切り替え、表示する英数記号点字の種類の切り替え、詳細読みの種類の切り替え、カーソル文字の詳細表示。 C点字入力KTOS  PC-Talker 7付属の点字入力用アプリケーションで、PC-Talker 7のインストール時に一緒にインストールすることができる。KTOS単体での販売は行われていない。  パーキンス式のみの入力で、[上下左右矢印キー]、頻繁に使われるPC-Talker 7のキーコマンド等を、点字キー周辺のキーに割り当てる機能がある。  漢点字・6点漢字による漢字の直接入力にも対応しており、漢点字ユーザー・6点漢字であれば前述のようにPC-Talker 7の漢点字・6点漢字の表示機能と併せて利用できる。 (2)MyMailIII  シンプルな操作性でありながら、プライバシーを守るデジタル署名と暗号化にも対応し、さらには弱視者を意識した拡大表示機能を備えたメーラーである。  基本操作として、 ・各メニュー項目間の移動は[上下矢印キー]  ※一番上の項目で[上矢印キー]、一番下の項目で[下矢印キー]を押しても、項目の移動は行われない ・選択された項目を実行したいときは[Enter] ・一つ前の状態に戻るときには[Esc] ・[Esc]を2回早押しすると、必ずトップのボックス選択のメニューに戻る 等が挙げられる。これらによって、 ・メールの受信 ・本文を読む ・返信メールの作成と送信 ・差出人のメールアドレスをアドレス帳に登録する ・新規メールの作成と送信 ・メールの削除 ・添付ファイルの保存 等の一連の操作が可能である。  ただし、メール一覧で[Enter]や[右矢印キー]を押しても本文を表示できるが、開くと同時に音声での読み上げが始まり、点字ディスプレイ上の点字も、読み上げに合わせて流れていってしまう。これを止めるには[Esc]を押さなければならない。  そこで、自動読み上げを回避するための設定を行った上で、[Tab]を使って本文を読むようにすると良い。ただし[Tab]でメールを読む場合には本文のみしか参照できず、ヘッダー情報等を読むことができない。 ※自動読み上げを回避するための設定 @<新規メール作成>以外の画面で、ショートカットメニューから<拡張機能オプション>を選択 A<プレビュー画面への[Tab]移動を可能にする>にチェックを入れる (3)MyNews  インターネット上のニュースを簡単な操作で読むことのできるソフトである。内容はニュースに限るが、フリーワードによる検索機能も備えている。  MyMailIIIと同様、メニュー構成や操作性が同じになるように設計されている。  起動するとニュースの読み込みが行われ、その後、トップのチャンネル選択のメニュー(<目次>と<ニュース検索>の2項目)が現れる。基本的な操作方法はMyMailIIIと同じである。  目次からの検索で、大項目から小項目へと階層を下りていくことでニュースを閲覧する場合でも、キーワードによる検索でニュースを閲覧する場合でも、いずれの方法でもニュースを読むことができる。MyMailIIIでメール本文を読むときと同様に、読みたい記事まで移動したら[Tab]で本文に移る必要がある。 ※一覧表示形式の設定  記事一覧に番号が付いている方が分かりやすいというユーザーには、  環境メニュー → <ニュース一覧オプション> → <項目を番号付きで読み上げる> にチェックを入れると良い。 (4)MyBookII  点字文書、テキスト、PDF、Microsoft Word、Microsoft Excel、ドットブックといった様々なデジタル文書、デイジーなどの音声図書を手軽に読むための読書システムである。  インターネット上のサービスも利用可能で、点字図書はサピエ図書館での検索とダウンロードに対応する他、青空文庫、理想書店などが検索できる。  集めた文書は本棚に登録でき、読み終えた位置が記憶されるので、次回起動したときに続きからすぐに読むことができ、しおりも設定できる等、「読書」にターゲットを置いたものと言える。  基本的な操作方法は、MyMailIIIと同様である。  サピエ図書館から点字図書を読む場合に、人気のある順から点字図書を選んだり、タイトル・著者名から点字図書を検索することによって読むことができる。  また、本棚を作る、本棚に図書を保存する、本棚に保存した図書を読む、本棚に保存した図書を削除する等の一連の操作が可能である。  MyMailIIIやMyNewsと同様に、その本を読む最終段階では、自動読み上げを回避する設定を行った上で、[Tab]で本文に入る必要がある。 ※自動読み上げを回避するための設定  MyBookIIの起動後に以下の設定をすると、読み上げを行わなくさせることができる(一部機能制限が生じる)。 @環境メニューから<図書オプション>を選択 A<本文テキストをプレビュー表示する>にチェックを入れる (5)その他 @MyEdit  PC-Talker 7に標準搭載されているテキストエディター「MyEdit」を使用することで、[タッチカーソル]による編集やワンタッチで実行できる行削除等の便利な機能が用意されている。また、MyEditは点字ファイルを読み込んで閲覧することが可能である。ただし、点字ファイルの編集はできない。 AInternet Explorer  PC-Talker 7は、Windows標準搭載のInternet Explorerを使って、HTMLファイルを閲覧する機能を備えている。疑似カーソルを使って行(項目)単位で移動しながら読むことができ、文書末や文書頭への移動、複数行のジャンプ等が可能である。  しかし、画像ラベルは行読みコマンドを使わないと表示しない、コンボボックス内の選択項目が表示されない、等の不具合がある。 BMicrosoft Excel  PC-Talker 7ではMicrosoft Excelがかなり使えるように工夫されており、BrailleWorksでは、セルの位置情報をステータスセルに表示しながら該当セルの内容を一つずつ表示するようになっているので、頭の中で表を組み立てる力はかなり必要だが、表を正しく捉えることが可能である。  現在、点字表字では数式バーの状態は確認できるが、罫線や書式に関する情報は確認できない。Microsoft Excel形式の表を読むためには、せめてシート名は確認できる必要がある。 CMicrosoft Word  文字フォント、罫線、用紙サイズ等の情報も得られるようになる。  Microsoft Word上の表形式の文書は、音声で読むことはある程度可能だが、ガイドが音声でしか行われないため、点字表示で読み取ることは難しい。 4−3 まとめ  以上のように、BrailleWorksの登場で、点字ディスプレイによる点字表示でのパソコン利用の選択肢が一つ増えたと言って良いだろう。  しかし、今回取り上げた一連のソフトを揃えるだけでもかなり高額となってしまう。自社製品に対応するのはもちろんであるが、今後他の幅広いアプリケーションへの対応を、節に願いたい。そうすることで、点字表示を頼りにパソコンを利用する盲ろう者にとっても、利便性が向上するだろう。  スクリーンリーダーとして、FocusTalk for BrailleとPC-Talker 7+BrailleWorksの二つが揃った。FocusTalk for Brailleには、現在いくつか報告されている不具合を早い段階で改善してもらいたい。また、中〜上級者向けには、「JAWS for Windows」という選択肢もある。  さらに、シェアウェアの「Catwalk」や、オープンソースとして開発が進んでいる「NVDA」等もある。  いずれにしても、盲ろう者(中でも点字表示に頼らざるを得ないユーザー)にとって、使いやすいパソコン環境の実現に向けて、さらなる関係者の努力を望むとともに、我々もその実現に向けて、ユーザビリティの観点から声を上げていきたい。 書名:平成23年度 盲ろう者コミュニケーション訓練促進事業報告書 発行:平成24年3月15日 発行・編集:〜日本のヘレン・ケラーを支援する会〜 社会福祉法人 全国盲ろう者協会 〒162-0042 東京都新宿区早稲田町67番地 早稲田クローバービル3階 TEL 03-5287-1140  FAX 03-5287-1141 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業