■表紙 盲ろう者の同行援護 「盲ろう者向け同行援護」と通訳・介助員派遣の活用のために ~日本のヘレン・ケラーを支援する会 R~ 社会福祉法人全国盲ろう者協会 ■P1 盲ろう者の同行援護 「盲ろう者向け同行援護」と通訳・介助員派遣の活用のために ■P3 はじめに これまで盲ろう者の社会参加のために、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業が重要な役割を果たしてきました。それに加え、2018年度から既存の同行援護事業において「盲ろう者加算」が創設され、今後、盲ろう者の同行援護事業の利用が増えていくことが期待されます。 そして、同行援護事業においては、原則として「サービス等利用計画」を作成する必要があります。通訳・介助員派遣事業と同行援護事業という、内容としては類似したサービスを盲ろう者が利用するにあたり、計画の作成をサポートする相談支援事業所の役割が重要なものとなります。 本書は、初めて盲ろう者の支援に携わる同行援護事業所や相談支援事業所の方にご覧いただくことを想定しています。そのため、盲ろう者の実態やコミュニケーション方法、通訳・介助員派遣事業などの基本的な内容についても、解説を加えています。同行援護事業所の方はⅠ章からⅢ章を、相談支援事業所の方はそれらに加え、Ⅳ章をお読みになることをお勧めします。 その一方で、通訳・介助員派遣事業にすでに登録している盲ろう者や通訳・介助員の方で、同行援護事業についての理解を深めたい方は、Ⅱ章をご覧いただくとよいでしょう。また、Ⅴ章でも、Q&A形式で、盲ろう者と通訳・介助員、それぞれの立場からの質問に回答しています。さらに、Q&Aでは、盲ろう者向けの同行援護事業所の設立を考えている盲ろう者団体の立場からの質問にも回答しています。 本書により、盲ろう者が同行援護事業や通訳・介助員派遣事業を存分に活用し、いきいきと生活できる方が増えることを願っています。 ■P4~8 ――目次―― Ⅰ:盲ろう概論 1.盲ろうの定義と人数 12 (1)「盲ろう」とは? (2)盲ろう者の人数 2.盲ろう者が抱える困難 14 3.盲ろうの分類 16 (1)障害の状態・程度 (2)盲ろうになるまでの経緯 4.盲ろう者のコミュニケーション方法 20  (1)受信方法 1)聴覚を活用する方法(音声) 22 2)視覚を活用する方法 24 【1】弱視手話(含む日本語式指文字視読) 【2】文字筆記(筆談) 3)触覚を活用する方法 28 【1】手書き文字 【2】触手話(含む日本語式指文字触読) 【3】点字筆記 【4】指点字 【5】ローマ字式指文字 (2)発信方法 36 5.盲ろう者の移動手段 38  (1)単独での歩行 (2)介助者との歩行 6.盲ろう者の情報入手手段 40 (1)文字 (2)音声読み上げ (3)点字 Ⅱ:通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」 1.盲ろう者福祉の動向 44 2.通訳・介助員派遣事業 46  (1)概要 (2)サービス内容 (3)利用対象者 (4)利用手続き (5)利用時間数 3.盲ろう者向け同行援護(盲ろう者加算が付いた同行援護) 50  (1)概要 (2)サービス内容 (3)利用対象者 (4)利用手続き (5)利用時間数 4.通訳・介助員派遣事業と盲ろう者向け同行援護の相違点 54  (1)利用内容 (2)支援内容 (3)利用期限 (4)利用者負担 Ⅲ:同行援護及び通訳・介助員派遣事業における従業者の業務の実際 1.通訳・介助員等の業務 58  (1)意思疎通支援 (2)移動支援 (3)情報支援 2.支援が必要となる場面 60 (1)日常の暮らしに関する場面 (2)生命や健康に関する場面 (3)社会活動や余暇活動に関する場面 (4)その他の場面 3.業務(支援)の実際 62 (1)待ち合わせ(業務開始) (2)移動 (3)買い物 (4)食事(外食) (5)通院 (6)会議 (7)解散(業務終了) Ⅳ:盲ろう者の計画相談における留意点 1.インテーク ~相談支援の開始~ 76  (1)コミュニケーション方法とその支援態勢の確認 (2)盲ろう者と直接対話する場合の配慮 (3)通訳・介助員等を介して対話する場合の配慮 2.アセスメント ~把握・確認すべきこと~ 78 (1)受信・発信のコミュニケーション方法や配慮 (2)移動介助の方法や配慮 (3)読み書きの方法や配慮 3.プランニング ~サービス等利用計画案の作成~ 80 (1)通訳・介助員派遣事業と盲ろう者向け同行援護の使い分け (2)複数態勢の配置 (3)意思疎通の状況と支援・配慮の必要性の明記 4.サービス担当者会議 82 Ⅴ:Q&A「盲ろう者向け同行援護」 利用者(盲ろう者)の立場からのQ&A 88 従業者(通訳・介助員)の立場からのQ&A 91 盲ろう者地域団体の立場からのQ&A 94 ■P9 本書の用語について ●通訳・介助員と通訳・介助員派遣事業 「通訳・介助員」及び「通訳・介助員派遣事業」は、厚生労働省が定めている名称で、各自治体で実施している派遣事業においても、多くはそれらの名称が用いられています。一方で、自治体によっては、「通訳・介助者」及び「通訳・介助者派遣事業」といった名称が用いられています。 本書では、いずれの場合においても、「通訳・介助員」、「通訳・介助員派遣事業」と表記します。 ●盲ろう者加算 同行援護の報酬算定において、「盲ろう者に対して、盲ろう者向け通訳・介助員が支援を行う場合」として設定されている加算部分を「盲ろう者加算」と表記します。 ●盲ろう者向け同行援護 盲ろう者によって利用される「盲ろう者加算」が付いた同行援護を「盲ろう者向け同行援護」と表記します。 ●通訳・介助員等 「通訳・介助員及び盲ろう者向け同行援護の従業者」を「通訳・介助員等」と表記します。 ●n 図の“n”は、調査結果の分析対象者数を示します。 ■P11 Ⅰ:盲ろう概論 視覚と聴覚の両方に障害のある人のことを「盲ろう者」といいます。 盲ろう者はどのような経緯で障害を負い、どのようにコミュニケーションをとって、生活を送っているのでしょうか。 本章では、盲ろう者の実態、障害の程度、コミュニケーション方法やそれぞれの方法における留意点などについて説明します。 ■P12 1 盲ろうの定義と人数 (1)「盲ろう」とは? 「盲ろう」とは、一般に「視覚と聴覚の両方に障害が重複している状態」をいいます。しかし、身体障害者福祉法をはじめとした関係法では、視覚障害と聴覚障害については明文化され、定義が示されているものの、その2つの障害を重複した「盲ろう」については、触れられていません。このように法的な定義がないことから、盲ろう関連の制度・事業を実施する自治体や団体ごとに様々な基準が存在します。  例えば、東京都が通訳・介助員派遣事業の運用のために定めた定義では、「視覚障害と聴覚・言語機能障害を重複して持つ身体障害者(児)であって、身体障害者手帳を所持する者」を「盲ろう者」としています。一方で、社会福祉法人全国盲ろう者協会では、「視覚と聴覚に何らかの障害を併せ持っている」人を「盲ろう者」としています。 (2)盲ろう者の人数  視覚と聴覚の両方の障害が身体障害者手帳に記載されている盲ろう者は全国に1万4千人ほど存在することが確認されています。視覚障害者と聴覚障害者の人数の推計からすると、概ね視覚障害者の20人に1人は聴覚障害があり、聴覚障害者の20人に1人は視覚障害があると考えられます。  また、手帳を交付されている盲ろう者の8割近くが65歳以上で、平均年齢は76歳となっており、加齢に伴い盲ろうになる人が多いことが考えられます。 ■P13 ――図表―― 盲ろう者の人数 「視覚障害者31万2000人」、「聴覚障害者29万7000人」と書かれた2つの円があり、 一部重なる部分に「盲ろう者1万4000人」と書かれている。 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」 ――図表―― 年齢層ごとの視覚と聴覚両方の身体障害者手帳所持者の人数 n=2744 10歳未満:24 10歳代:30 20歳代:51 30歳代:76 40歳代:126 50歳代:226 60歳代:426 70歳代:724 80歳代:779 90歳以上:282 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ■P14 2 盲ろう者が抱える困難  視覚と聴覚に障害を負うことで、他者と円滑に会話することが難しくなり、単独で安全に外出できず、新聞やテレビなどの情報も得られないといった困難に遭遇する盲ろう者は少なくありません。そのことから、盲ろう者は「コミュニケーション」、「移動」、「情報入手」の3つの困難を抱えているといわれています。  盲ろう者の会話(コミュニケーション)や外出(移動)、情報入手の頻度について、18歳以上65歳未満の若年・壮年層であっても、5人に1人は会話・外出の頻度がそれぞれ月2日以下、4人に1人は情報入手の頻度が月2日以下になっていることを示す調査結果もあります。  これら3つの困難は複合して、複雑に絡み合っています。1つの困難だけを解消しても、盲ろう者の生活のしづらさは解消されません。したがって、これらの困難さを同時に解消できるようにすることが、盲ろう者の切実なニーズといえます。 ――図表―― 盲ろう者が抱える場面ごとの困難を記載 ●コミュニケーション ・相手の声が聞こえず、筆談された文字も読めない ・話していることが相手に伝わっているかわからない ●移動 ・信号の色が見にくく、車の音も聞こえず、一人で外出すると車にぶつかりそうになることもある ・バス、電車の行き先表示が見えず、一人での移動が不安 ●情報入手 ・日常の文章や新聞、細かい文字が読めない ・テレビを見たり、本を読んだりすることができなくなり、楽しみがない ■P15 ――図表―― 盲ろう者の「3つの困難とニーズ」(買い物の例) ●コミュニケーション 困難:店員と話ができない/ニーズ:スムーズに店員とやりとりがしたい ●移動 困難:店舗まで安全に移動できない/ニーズ:店舗と自宅を安全に往復したい ●情報入手 困難:陳列されている商品がわからない/ニーズ:どんな商品があるかを知りたい ――図表―― 盲ろう者(18歳以上65歳未満)の社会参加の頻度の状況(n=676) ●会話頻度 毎日:52% 1週間に5~6日程度:9% 1週間に3~4日程度:9% 1週間に1~2日程度:6% 2週間に1~2日程度:2%  1ヶ月に1~2日程度:5%  ほとんどない:7%  まったくない:7% ※月に2日以下:19% ●外出頻度 毎日:22% 1週間に5~6日程度:19% 1週間に3~4日程度:15% 1週間に1~2日程度:17% 2週間に1~2日程度:5%  1ヶ月に1~2日程度:12%  ほとんどない:5%  まったくない:2% ※月に2日以下:19% ●情報入手頻度 毎日:36% 1週間に5~6日程度:10% 1週間に3~4日程度:9% 1週間に1~2日程度:10% 2週間に1~2日程度:3%  1ヶ月に1~2日程度:5%  ほとんどない:11%  まったくない:13% ※月に2日以下:29% 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ■P16 3 盲ろうの分類 (1) 障害の状態・程度  一言で「盲ろう」といっても、様々な見え方・聞こえ方があります。 見え方と聞こえ方の組み合わせによって 【1】全く見えず聞こえない「全盲ろう」 【2】見えにくく聞こえない「弱視ろう」 【3】全く見えず聞こえにくい「全盲難聴」 【4】見えにくく聞こえにくい「弱視難聴」 という4つに分類されます。  視覚・聴覚障害の状態・程度を把握することで、現在(もしくは今後)、どの感覚を活用してコミュニケーションや読み書きをするかを大まかに見通すことが可能になります。  コミュニケーションにおいては、全盲難聴や弱視難聴であれば補聴機器なども使いながら、残存する聴覚を活用することになります。弱視ろうでは聴覚の活用が困難であるため、残存する視覚を活用して文字や手話を読みとることになります。全盲ろうの場合は、視覚も聴覚も活用が困難であるため、触覚を活用することになります。  一方、読み書きにおいては、弱視ろうや弱視難聴では残存視力を活用し、状況に応じて、補助具により見えやすさを確保しつつ、文字の読み書きをします。全盲ろう、全盲難聴では、点字での読み書きが主要な方法になります。  分類ごとの割合としては、弱視難聴の盲ろう者が最も多く、次いで全盲難聴、弱視ろう、全盲ろうの順となっています。 ■P17 ――図表―― 障害の状態・程度ごとの分類 見えない 聞こえない 「全盲ろう」 見えにくい 聞こえない 「弱視ろう」 見えない 聞こえにくい 「全盲難聴」 見えにくい 聞こえにくい 「弱視難聴」 ――図表―― 分類ごとの割合(n=2744) 全盲ろう:11% 全盲難聴:24% 弱視ろう:12% 弱視難聴:44% 無回答:9% ●全盲 「光も感じない」~「明るい光は見える」 ●弱視 「目の前で手を動かせばわかる」~「小さな文字を読める」 ●ろう 「話し声を全く聞きとれない」 ●難聴 「耳元で大きな話し声なら聞きとれる」~「少し離れても普通の大きさの声を聞きとれる」 ※上記は調査上の定義です。 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ■P18 (2) 盲ろうになるまでの経緯 視覚障害と聴覚障害を発症した時期、つまり、盲ろうになるまでの経緯も多様です。 視覚障害と聴覚障害の発症時期の組み合わせによって、 【1】先天的(乳幼児期含む)に視覚と聴覚の障害を発症する「先天(早期)盲ろう」 【2】先天的な視覚障害があり、その後、聴覚障害が加わった「盲ベース盲ろう」 【3】先天的な聴覚障害があり、その後、視覚障害が加わった「ろうベース盲ろう」 【4】先天的には視覚・聴覚の障害はなく、中途で視覚・聴覚の障害を発症した「後天(後期)盲ろう」 の4つに分類されます。 視覚・聴覚障害の発症時期を把握することで、どのように教育を受け、どのようなコミュニケーションスキル(手話・点字・文字など)を獲得してきたか、大まかに見通すことが可能になります。 盲ベース盲ろうであれば、視覚特別支援学校(盲学校)などで点字を、ろうベース盲ろうであれば、聴覚特別支援学校(聾学校)や寄宿舎、手話サークルなどで手話を習得していることは少なくありません。後天盲ろうであれば、文字(活字)は習得していますが、点字や手話は未習得、先天盲ろうであれば、言語的手段そのものを習得しているケースが少なくなります。 分類ごとの割合としては、後天盲ろうが最も多く、次いでろうベース、先天盲ろうの順となっています。 ■P19 ――図表―― 障害の発症経緯ごとの分類 視覚障害の受障時期が先天で、聴覚障害の受障時期も先天の先天(早期)盲ろう 視覚障害の受障時期が先天で、聴覚障害の受障時期が中途の盲ベース盲ろう 視覚障害の受障時期が中途で、聴覚障害の受障時期が先天のろうベース盲ろう 視覚障害の受障時期が中途で、聴覚障害の受障時期も中途の後天(後期)盲ろう ――図表―― 発症経緯ごとの割合(n=2744) 先天(早期):8% 盲ベース:5% ろうベース:12% 後天(後期):65% 無回答:10%  ●先天(早期):視覚・聴覚とも4歳未満で受障  ●盲ベース:視覚は4歳未満、聴覚は4歳以後に受障  ●ろうベース:聴覚は4歳未満、視覚は4歳以後に受障  ●後天(後期):視覚・聴覚とも4歳以後に受障 ※上記は調査上の定義です。 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ■P20 4 盲ろう者のコミュニケーション方法  盲ろう者それぞれが使用するコミュニケーション方法は、障害の状態・程度や盲ろうになるまでの経緯などにより様々です。  以下では、盲ろう者が他者の意思を受けとる方法(受信方法)と、盲ろう者が自らの意思を他者に伝える方法(発信方法)に分けて、盲ろう者のコミュニケーション方法について概説します。 (1) 受信方法  視覚と聴覚の両方に障害を負った場合、受信方法は視覚及び聴覚の残存機能の有無や程度のほか、盲ろうになるまでに習得してきたコミュニケーション方法などによって変わってきます。  弱視難聴や全盲難聴であれば、聴覚を活用することが可能であるため、「音声」が受信手段になります。  弱視ろうであれば、聴覚活用は困難でも、視覚を活用することは可能であるため、手話や文字を残存視力で読みとる「弱視手話」や「文字筆記」により受信します。手話や文字の読みとりの得手不得手でいずれかの方法を選択するかが変わります。また、コミュニケーションを要する場面や内容(日常会話、会議・講演など)によって、受信手段を変える盲ろう者もいます。  全盲ろうになると、視覚と聴覚の活用が困難になるため、触覚を活用して受信します。方法としては、盲ろうになる以前に手話を習得していれば「触手話」、点字を習得していれば「点字筆記」や「指点字」、手話も点字も習得していなければ「手書き文字」により、触覚的に他者の意思を受けとることになります。 ■P21 ――図表―― 受信方法 「触手話」手話をもとに触る感覚を使用 「弱視手話」手話をもとに見る感覚を使用 「ローマ字式指文字」指文字をもとに触る感覚を使用 「日本語式指文字」指文字をもとに触る感覚と見る感覚を使用 「指点字」「点字筆記」点字をもとに触る感覚を使用 「手書き文字」文字をもとに触る感覚を使用 「文字筆記(筆談)」文字をもとに見る感覚を使用 「音声」音声をもとに聞く感覚を使用 ――図表―― 最も円滑な受信方法の割合(n=2744) 音声:60% 弱視手話:4% 触手話:4% 指文字視読:0.4% 指文字触読:0.4% 手書き文字:5% 筆記(筆談):9% 点字:0.7% 指点字:0.2% その他:3% 特にない:8% 無回答:6% 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ■P22 1)聴覚を活用する方法(音声)  聴覚活用が可能な全盲難聴や弱視難聴の盲ろう者に対して、耳元や補聴器のマイクなどに向かって話す方法です。  まず、話しかける際は、盲ろう者に話者の存在に気づいてもらう必要があります。難聴に加え、視覚障害があるため、周囲に誰がいるのか、誰に話しかけているのかが把握しにくい状況に置かれています。盲ろう者が自分(話者)に注意を向けたことを確認してから、話しかけるようにしましょう。  また、音量や抑揚、速さに気をつける必要があります。耳元で大きな声で話せば聞こえると考えられがちですが、過度に大きな声は聞きとれないだけでなく、不快感を与えることもあります。適度な音量で「ゆっくり・はっきり・区切って」話すようにしましょう。  さらに、騒がしい場所や音が反響する場所(階段の踊り場やじゅうたんの敷かれていない部屋など)での会話を避けるなど、環境的な配慮も必要です。しかし、このような配慮をしたとしても、状況によっては独力で正確に聞きとるには限界があります。例えば、騒がしい場所(繁華街や駅)、複数の話者がいる場所(会議や集会)、個別の音量の調整が難しい場所(マイクを通しての講演会の聴講)などでは、直接、話者の声を正確に聞きとることが難しくなります。  その場合、「音声通訳」が有効な方法になります。音声通訳は、【1】他者の話したことを耳元で復唱する、【2】誰が話しているかを伝える(話者の明確化)、【3】視覚的情報を伝達する(状況説明)を併せて行う方法です。  【1】については、聞きなれていない第三者の声を、聞きなれている通訳・介助員等の声に変換して聞きとりやすくするという意味もあります。 ■P23 ――図表―― 難聴の盲ろう者へのコミュニケーション上の配慮 ●話しかけ ・注意が向いてから話す ●音量 ・大きすぎず、適度な音量 ●抑揚・速さ ・ゆっくり・はっきり・区切って ●周囲の環境 ・騒がしい場所や音が反響する場所を避ける ●音声通訳 ・第三者が話したことを耳元で復唱する ・誰が話しているかを伝える(話者の明確化) ・視覚的情報を伝達する(状況説明) ――図表―― 音声通訳(買い物での例) (店員) 「いらっしゃいませ なにかお困りですか?」 (通訳・介助員等) 「店員さんがやってきました(状況説明) 店員さん(話者の明確化) 『いらっしゃいませ、何かお困りですか』(復唱)」 ■P24 2)視覚を活用する方法 【1】弱視手話(含む日本語式指文字視読) 視覚障害の状態は「ぼやけ」「まぶしさ」「視野狭窄」「中心暗点」など様々です。視覚障害の状態に合わせ、話者との距離や手話の大きさ、背景や服の色などを調整することによって、手話を目で読みとる方法です。 [見え方に応じた弱視手話の方法] ●ぼやけ:近い距離で、手話を提示する ●まぶしさ:話者が濃い色の服を着る、白い壁や窓を背にしないといった状態で手話を提示する ●視野狭窄:適度に距離をとる、手話を小さく提示するなどして、手話が視野に入るようにする ●中心暗点:中心部の暗点から外れる見えやすい位置を調整して手話を提示する これらの見えにくさは複合することがあり、それぞれの見え方に応じて、配慮を組み合わせる必要もあります。 また、手話で表現することが難しい語彙(名前や新しい言葉、語尾など)を表現する際は、日本語式指文字(P.31)も併用して用いられることがあります。日本語式指文字は、文字により上下左右に動くため、視野からはみ出ないように提示します。 ■P25 ――写真4点・イラスト4点―― ぼやけ、まぶしさ、視野狭窄、中心暗点の際の手話の見え方を表す写真4点と、それぞれの見え方に応じた弱視手話のイラスト4点。 ●ぼやけに対する手話の配慮:距離を近く ●まぶしさに対する手話の配慮:濃い色の服を着る/過度な光を遮る ●視野狭窄に対する手話の配慮:距離を遠くする/手話を小さくする ●中心暗点に対する手話の配慮:位置を変える ■P26 【2】文字筆記(筆談)  視覚活用が可能な盲ろう者に対して、紙にペンで文字を書く、パソコンで文字を入力するなどして伝える方法です。弱視手話と同様、「ぼやけ」「まぶしさ」「視野狭窄」「中心暗点」などの視覚障害の状態に合わせて、筆記具の種類や太さ、文字の間隔や大きさなどを変えます。 【見え方に応じた文字筆記(筆談)の方法】 ●ぼやけ:文字を拡大して提示する ●まぶしさ:背景を黒、文字を白にして文字を提示する(白黒反転) ●視野狭窄:通常の文字サイズで提示する ●中心暗点:文字を拡大して提示する これらの見えにくさは複合することがあり、それぞれの見え方に応じて、配慮を組み合わせる必要もあります。 ――写真2点―― 文字筆記(筆談)の方法 磁気式のボードを使用した筆談の様子と、パソコン通訳の様子の写真 ■P27 ――写真8点―― ぼやけ、まぶしさ、視野狭窄、中心暗点の際の、文字筆記の見え方を表す写真4点と、それぞれの見え方に応じた筆談の配慮の写真4点。 ●ぼやけに対する筆談の配慮:文字拡大 ●まぶしさに対する筆談の配慮:白黒反転 ●視野狭窄に対する筆談の配慮:通常の文字サイズ ●中心暗点に対する筆談の配慮:文字拡大 ■P28 3)触覚を活用する方法 【1】手書き文字  盲ろう者の手のひらに話者の指先で文字を書いて言葉を伝える方法です。盲ろう者の指をとり、盲ろう者の手のひらや机の上に書いていくという方法もあります。  手書き文字の中で伝達速度が速いのは、盲ろう者の手のひらに自分の指で書いていく方法ですが、盲ろう者が読み取りにくい場合は、盲ろう者の指を使う方法を用いると良いでしょう。  書き順、文字種(ひらがな・カタカナ・漢字かな交じりなど)や手のひらの向き(横並び・対面など)、スピードといった点に気を付けながら、読みやすく書いていきます。  文字を視覚的に学んでから盲ろうになった盲ろう者であれば、手書き文字でのコミュニケーションが可能である場合が多いです。本人も周囲も特別に訓練することなく、意思疎通がとれるのが大きなメリットといえるでしょう。 一方で、1文字ずつ手のひらに書いて伝えることになるので、どうしても意思疎通に時間がかかってしまいます。その結果、周囲も最低限のことしか伝えられないため、豊かなコミュニケーションがとれず、十分な情報が得られないという盲ろう者も少なくありません。  ろうベース盲ろうで手話が可能な場合は、触手話での受信の可能性を、後天盲ろうの場合は本人の年齢や意欲にもよりますが、指点字の習得の可能性を検討するのもひとつです。 ――図表―― 手書き文字の基本姿勢 縦軸で伝達速度、横軸で認識率(わかりやすさ)を表す図 ●盲ろう者の手のひらに、自分の指で書く:伝達速度は一番速いが、認識率は低くなる ●机や壁に、盲ろう者の指で書く:伝達速度は一番遅いが、認識率は高まる ●盲ろう者の手のひらに、盲ろう者の指で書く:伝達速度、認識率ともに上記2つの中間 ※盲ろう者の理解度を確認しながら3つの方法を使い分けていくことが重要 ■P29 ――イラスト2点・写真2点―― 手書き文字における配慮 ●書き順を間違えると誤読されることもある。 例:「桃(もも)ありますよ」の「もも」が「こしこし」と誤読されるなど ●文字種の確認:どの文字種が読みやすいか、本人に確認する。 1 すべてカタカナで書く「キョウノ ランチハ テンプラテイショクデス」 2 すべてひらがなで書く「きょうの らんちは てんぷらていしょくです」 3 漢字かな混じりで書く「今日の ランチは 天ぷら定食です」 ●手のひらの向き:横並びのほうが読みやすいと感じる人が多い ・盲ろう者と通訳・介助員等が横並び:文字の向きが同じになるため読みやすい ・盲ろう者と通訳・介助員等が対面:文字の向きが180度変わるため、読みにくくなる ■P30 【2】触手話(含む日本語式指文字触読)  手話を目で見て読みとることが困難な盲ろう者に対して、話者の手話の形や位置を盲ろう者の手で直接触れてもらうことによって手話を伝える方法です。通常、向かい合ったうえで、話者の手話に盲ろう者が上から両手を重ねるようにして、手指の動きを読みとります。触手話の熟達度や場面によっては片手で読みとる盲ろう者や両方を併用する盲ろう者もいます。  触手話でスムーズに意思疎通ができる盲ろう者の多くは、もともと聴覚障害者として生きてきた過程において、手話を習得している「ろうベースの盲ろう者」です。  触手話でのコミュニケーションに習熟した人のなかには、音声での聞きとりと同等のスピードで受信することができる人もいます。  一方で、手話でコミュニケーションをとる際に重要になる話者の表情や口形などは目で読みとれません。そのため、手指を使う表現に変換して伝える必要があります。  弱視手話と同様、手話で表現することが難しい語彙(名前や新しい言葉、語尾など)を表現する際は、日本語式指文字も併用して用いられることがあります。 ――写真2点―― ●両手での触手話 ●片手での触手話 ■P31 ――図表―― 日本語式指文字一覧(相手から見た形) 出典:社会福祉法人全国盲ろう者協会編著『盲ろう者向け通訳・介助員養成講習会指導者のための手引書』読書工房刊、2016P.96-97より転載 ■P32 【3】点字筆記  点字の触読が可能な盲ろう者に対して、点字を書いて伝える方法です。「ブリスタ」という速記用点字タイプライターを用いて打ち出された点字のテープや、パソコンを用いて「点字ディスプレイ」に表示された点字を盲ろう者が触読します。  点字筆記でコミュニケーションをとるためには、一定以上の速度で点字を触読できる必要があります。そのため、早期に重度の視覚障害があり、盲学校などで点字を習得した「盲ベースの盲ろう者」にとって、有用な方法といえます。ただし、ブリスタなどの機器を持ち歩く必要があるため、移動中に情報を伝えるには不向きな点があります。 ――写真1点―― ブリスタでの触読 【4】指点字  盲ろう者の指を点字タイプライターの6つのキーに見立てて、左右の人指し指から薬指までの6本の指に直接タッチする方法です。点字の原理及び点字タイプライターの操作方法を元にしているため、点字筆記と同様、「盲ベースの盲ろう者」にとって、比較的導入しやすい方法といえます。  一方で、指点字は6指がタッチされているかどうかで認識するため、点字筆記に比べると認識が容易で、点字の触読を習得していない中途の盲ろう者でも習得可能です。 ――写真1点―― 指点字での触読 ■P33 ――図表―― 指点字・点字一覧表(パーキンス式) ■P34 【5】ローマ字式指文字  アメリカ式アルファベット指文字をローマ字表記で表し、盲ろう者の手に直接触れることによって伝える方法です。  例えば、「りんご」であれば、アルファベットの指文字を「R」「I」「N」「G」「O」の順でローマ字表記で表現します。  ローマ字式指文字は、戦後まもなく山梨県立盲学校で盲ろう児に対して行われた教育実践で導入されたことがきっかけで、主に盲学校での先天の盲ろう児のコミュニケーション方法の導入において、用いられてきました。  日本語式指文字と比較すると、手の上下左右の動きが少なく、少ない数の文字で表現できるという利点があります。また、ローマ字式の母音と子音の組み合わせは、点字の構成に共通する部分が多く、点字学習との相乗効果も期待できるといわれています。  ローマ字式指文字で受信する盲ろう者の場合、多くは発信もローマ字式指文字になります。したがって、話者はローマ字式指文字を提示するだけでなく、盲ろう者から表出された指文字を読みとる必要があります。 ――写真1点―― ローマ字式指文字の触読 ――イラスト5点―― 盲ろう者が開いた片方の手のひらに、ローマ字式指文字(A、I、U、E、O)を出す時の指文字のあて方の例 ■P35 ――図表―― ローマ字式指文字表 出典:社会福祉法人全国盲ろう者協会編著『盲ろう者向け通訳・介助員養成講習会指導者のための手引書』読書工房刊、2016P.136-137より転載 ■P36 (2)受信方法  盲ろう者が他者に意思を発信する方法(発信方法)については、基本的には盲ろうになる前もなった後も変化はありません(進行性の疾患がある場合を除く)。  音声の聞きとりが可能な場合や聴覚が活用できなくとも音声言語を獲得した後に失聴した場合は、盲ろうの状態になった後も明瞭に発話できる盲ろう者が多いです。  一方で、先天的に重度の難聴がある場合は、教育歴にもよりますが、明瞭な発話が難しい盲ろう者もいます。その場合、不明瞭な発話、もしくは、手話や指文字、文字(筆談や手書き文字)といった発話以外の方法で表出された意思を読みとることが必要になってきます。  盲ろう者の発信方法で意思を読みとることが困難である場合、その発信方法に慣れている通訳・介助員等が意思疎通支援を担います。  例えば、不明瞭な発話を聞きとり、明瞭に発話する「聞きとり通訳」、手話・指文字・筆記などの視覚的コミュニケーション方法を読みとり、音声言語に変換して伝える「読みとり通訳」などがあります。  明瞭な発話が困難な場合は、「聞きとり通訳」「読みとり通訳」などの必要性が高くなるといえるでしょう。 ■P37 ――図表―― 最も円滑な発信コミュニケーション方法(n=2744) 音声:65% 手話:7% 指文字:0.9% 文字:9% その他:4% 特にない:9% 無回答:5% ※「文字」は筆談・空書き・手書き文字を示す 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ――イラスト1点―― 読みとり通訳(市役所にて) 通訳・介助員等が盲ろう者の手話を読みとり、職員に音声で伝える ■P38 5 盲ろう者の移動手段 (1)単独での歩行  視覚障害の状態・程度により、単独での安全な移動が可能かどうか大きく変わります。弱視ろう、弱視難聴では半数以上は単独での外出が可能である一方、全盲ろう、全盲難聴では単独で外出できる盲ろう者は極めて少なくなります。  弱視ろう、弱視難聴の盲ろう者であっても、限られた視力・視野、聴力で移動することになるため、信号の確認や道路の横断、バスや電車の行き先や出発時刻の確認など、安全・安心な移動のための諸情報が制約されたなかで、リスクを冒し、外出することになります。 (2)介助者との歩行  介助者が盲ろう者の一歩前に立ち、盲ろう者が後ろから介助者の腕をつかむのが基本姿勢です。そして、盲ろう者がつかんでいる側の腕はまっすぐに伸ばして脇を締め、盲ろう者の支えになるようにします。  盲ろう者と介助者の身長差がある場合は、介助者の肩をつかむといった姿勢をとることもあります。  また、触手話、指点字、手書き文字などの触覚的コミュニケーション方法を使う盲ろう者のなかには、介助者から情報を得ながら歩くことができるような移動介助方法を使っている人もいます。このような方法を使う背景には、視覚に加え、聴覚にも障害があるゆえに、一般的な移動介助方法では、移動中の情報が入ってこないため、安心して移動することができないという、盲ろう者の切実なニーズがあるといえるでしょう。 ■P39 ――図表―― 障害の状態・程度ごとの盲ろう者の移動能力 ●全盲ろう(n=315) 自宅内の移動困難:23%/自宅内の移動可能:57%/外出可能:7%/交通機関の利用可能:4%/無回答:9% ●全盲難聴(n=645) 自宅内の移動困難:22%/自宅内の移動可能:53%/外出可能:12%/交通機関の利用可能:5%/無回答:8% ●弱視ろう(n=333) 自宅内の移動困難:7%/自宅内の移動可能:28%/外出可能:25%/交通機関の利用可能:32%/無回答:8% ●弱視難聴(n=1207) 自宅内の移動困難:7%/自宅内の移動可能:28%/外出可能:27%/交通機関の利用可能:32%/無回答:6% 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ――イラスト6点―― 盲ろう者の移動介助方法 ・盲ろう者が通訳・介助員等の肘につかまる ・盲ろう者が通訳・介助員等の肩につかまる ・盲ろう者が通訳・介助員等と腕を組む ・盲ろう者が通訳・介助員等から触手話を受けながら ・盲ろう者が通訳・介助員等から指点字を受けながら ・盲ろう者が通訳・介助員等から手書き文字を受けながら ■P40 6 盲ろう者の情報入手手段 (1)文字  視覚の活用が可能な盲ろう者であれば、文字を読みとって情報を得ます。ただ、通常の通りの文字の大きさや背景では、読みとりにくさを感じる盲ろう者は少なくありません。  文書を提供する場合は、個々の希望を聞いたうえで、文字の大きさや白黒反転の有無を調整し印刷するという方法が1つです。また、盲ろう者によっては、ルーペや拡大読書器、パソコンやタブレットなどで見えやすさを調整することができる場合もあります。 (2)音声読み上げ  難聴で視覚の活用が難しい盲ろう者の場合、音声で情報を得る方法を用います。他者が文字を読み上げるほかに、電子データをパソコンやタブレットなどで読み上げたり、スキャン・撮影した文字データを機器やアプリなどで読み上げることも可能です。 (3)点字  全盲で点字を習得している盲ろう者であれば、点字を触読して情報を得ます。点字は用紙に打ち出されたものだけではなく、文字データを点字に変換し、点字ディスプレイに出力させた点字を読むという方法もあります。  盲ろう者全体としてみると点字を使用している盲ろう者は多くありません。点字の触読の習得のためには、多くの学習時間を要し、さらに年齢を重ねるごとに実用的な読書速度を身に付けることが困難になるといわれています。一方で、全盲ろうの盲ろう者にとっては、ゆっくりでも点字を触読できるようになると、点字ディスプレイを使って、電子メールの送受信やWebサイトの閲覧による「独力での情報入手」の可能性が開かれることになります。 ■P41 ――写真4点―― ●ルーペ ●拡大読書器 ●点字ディスプレイ ●パソコン(画面拡大ソフト) ――図表―― 盲ろう者の障害の状態・程度ごとの点字使用率 全盲ろう(n=291):26% 全盲難聴(n=579):24% 弱視ろう(n=320):5% 弱視難聴(n=1147):4% 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ■P43 Ⅱ:通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」 視覚と聴覚の両方に障害を負うことで、盲ろう者の社会参加を支える人的支援サービスの必要性は大きなものとなります。 本章では、盲ろう者を対象とした通訳・介助員派遣事業、及び、新設された盲ろう者加算の付いた同行援護事業(通称:盲ろう者向け同行援護)の特徴とともに、類似性のある2つの事業の相違点について説明します。 ■P44 1 盲ろう者福祉の動向  全盲ろうの盲ろう者、福島智氏(現・東京大学教授)を支援する会が母体となって、1991年に社会福祉法人全国盲ろう者協会が発足しました。それとともに同協会の事業として「訪問相談員派遣事業」という名称で実施されたのが通訳・介助員派遣事業の始まりです。  1996年からは東京都と大阪市において、地方自治体の補助による通訳・介助員の派遣が実施され、2000年からは国の補助による各都道府県及び政令指定都市の試行事業として実施されるようになりました。  そして、2006年10月からの障害者自立支援法の完全施行に伴い、都道府県地域生活支援事業の一つに加わり、2013年4月からの障害者総合支援法の施行により、都道府県、政令指定都市、中核市が必ず実施する事業として位置づけられるようになりました。  このように、通訳・介助員派遣事業の実施が全国的に広がる一方で、大きな課題も残っていました。通訳・介助員派遣事業は、自治体により、盲ろう者が利用できる時間数はまちまちであり、また、その時間数も少なく、全国平均では1人年間200時間程度です。  そのため、盲ろう者は、通訳・介助員派遣事業と類似した内容である同行援護事業を活用することが、豊かな社会参加のために重要になりますが、利用できる盲ろう者は限られていました。なぜかと言うと、同行援護事業の従業者は、盲ろう者独自のコミュニケーション方法を身に付けていないことがほとんどで、音声でのやりとりが困難な盲ろう者にとっては、円滑なコミュニケーションが難しく、十分なサポートを受けることが難しいためです。 このような状況をふまえ、同行援護において盲ろう者が意思疎通支援も含めた支援が受けられるように、2018年4月から、「盲ろう者加算」が同行援護で新設されることになりました。 本書では、盲ろう者によって利用される「盲ろう者加算」が付いた同行援護を「盲ろう者向け同行援護」と表記します。 ■P45 ――図表―― 盲ろう者福祉の流れ 1981年 「福島智君とともに歩む会」設立。福島智さんの大学での支援体制を構築 1991年 社会福祉法人全国盲ろう者協会設立。独自で協会登録盲ろう者に対する訪問相談員派遣を実施 1996年 東京都で「通訳・介助者派遣事業」、大阪市で「盲ろう者ガイド・コミュニケーター派遣事業」開始 2000年 国による盲ろう者向け通訳・介助員派遣試行事業開始 2006年 障害者自立支援法の施行に伴い、都道府県地域生活支援事業の任意事業として、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業が位置付けられる 2013年 障害者総合支援法の施行に伴い、都道府県地域生活支援事業の必須事業として、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業が位置付けられる 2018年 区市町村が実施する自立支援給付の同行援護事業に「盲ろう者加算」が創設される ――図表―― 盲ろう者の福祉制度利用状況(n=2744) ●通訳・介助員 週1回以上:6%/月1回以上:5%/利用していない:85%/無回答:4% ●手話通訳者・要約筆記者 週1回以上:1%/月1回以上:3%/利用していない:91%/無回答:4% ●移動支援・同行援護 週1回以上:8%/月1回以上:4%/利用していない:84%/無回答:4% ●ホームヘルパー 週1回以上:18%/月1回以上:1%/利用していない:76%/無回答:4% ●その他の福祉サービス 週1回以上:18%/月1回以上:2%/利用していない:74%/無回答:5% 社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」 ■P46 2 通訳・介助員派遣事業 (1)概要  通訳・介助員派遣事業は、盲ろう者の自立と社会参加を図るため、コミュニケーション及び移動等の支援 を行う「通訳・介助員」を盲ろう者に派遣する事業です。 自治体の創意工夫で行うとされている地域生活支援事業に位置付けられているため、自治体(都道府県・政令指定都市・中核市)によって、運用が異なります。 日本においては、視覚と聴覚の両方の障害が身体障害者手帳に記載されている盲ろう者が1万4千人いると推計されています。この1万4千人の盲ろう者の多くは、通訳・介助員派遣事業に登録し、利用することができますが、その登録率は1割に満たない状況です。この背景には、「障害の程度が軽く支援を必要としていない」「他のサービスの利用でニーズが満たされている」という盲ろう者もいることが想定されます。 しかし、なかには盲ろうゆえの支援の必要性を感じていながら、盲ろう者を対象とした支援サービスがあるという情報が、視覚と聴覚の両方に障害があるゆえに本人のもとに届かないという人も存在すると考えられます。 また、1万4千人以外に視覚と聴覚に障害があるにもかかわらず、何らかの事情や理由で行政に手帳の申請をしていない「盲ろう者」も多数存在することが推測されます。 (2)サービス内容  「コミュニケーションと移動の支援」が基本的なサービス内容です。利用範囲としては、通院や役所での手続きのほか、買い物やレクリエーション、講演会や地域のサークルへの参加など、多様な用途に利用を認めている自治体がほとんどです。ただし、掃除や調理などの生活援助には原則利用できません。 ■P47 ――図表―― 都道府県別の盲ろう者数と派遣事業登録盲ろう者数 ●都道府県在住盲ろう者数(推計) (2012年10月現在 全国盲ろう者協会調べ) ●派遣事業登録盲ろう者数 (2019年4月現在 全国盲ろう者協会調べ) 〇北海道・東北 自治体名 盲ろう者数 派遣事業登録盲ろう者数 北海道 884 30 青森県 150 5 岩手県 167 12 宮城県 179 15 秋田県 114* 7 山形県 162 12 福島県 171* 8 〇関東・甲信越 自治体名 盲ろう者数 派遣事業登録盲ろう者数 茨城県 159 12 栃木県 171 14 群馬県 241* 13 埼玉県 334 43 千葉県 296* 35 東京都 854* 146 神奈川県 617 57 新潟県 275 27 山梨県 98 8 長野県 204 7 〇東海・北陸 自治体名 盲ろう者数 派遣事業登録盲ろう者数 富山県 147 4 石川県 100 9 福井県 139 25 岐阜県 200 10 静岡県 269 39 愛知県 953 49 三重県 223 11 〇近畿 自治体名 盲ろう者数 派遣事業登録盲ろう者数 滋賀県 134 20 京都府 438 28 大阪府 1,076 121 兵庫県 527 60 奈良県 358 9 和歌山県 223 20 〇中国・四国 自治体名 盲ろう者数 派遣事業登録盲ろう者数 鳥取県 70 16 島根県 180 18 岡山県 173 16 広島県 371 27 山口県 189* 21 徳島県 76 11 香川県 182 8 愛媛県 244 16 高知県 122 12 〇九州・沖縄 自治体名 盲ろう者数 派遣事業登録盲ろう者数 福岡県 770* 41 佐賀県 156 5 長崎県 363 38 熊本県 372 17 大分県 225 8 宮崎県 161 9 鹿児島県 603 16 沖縄県 209 26 合計 14329* 1,161 注: *印は推計 ■P48 (3)利用対象者  ほとんどの自治体は「視覚障害と聴覚障害の両方が身体障害者手帳に記載されている者」を利用対象としています。ただし、利用を認める障害等級の条件は、自治体により異なります。「視覚障害と聴覚障害がそれぞれ6級以上」という自治体もあれば、それに加え「総合等級2級以上」を条件にしている自治体、「視覚障害と聴覚障害が4級以上、総合等級は1級」という自治体など様々です。  年齢については、制限を設けていない自治体がほとんどですが、18歳未満の登録を認めていない自治体も1割程度あります。 (4)利用手続き  多くの自治体は、盲ろう者団体や聴覚障害者団体などの障害者団体に通訳・介助員派遣事業を委託して実施しています。利用に際しては、まず登録が必要になり、【1】通訳・介助員派遣事業を受託している団体(派遣事務所)に連絡、【2】団体の職員から事業の内容や利用方法などの説明を受ける(利用相談)、【3】利用登録申込の書類を提出、【4】登録手続き終了後に利用開始、といった流れが典型的です。 利用にあたっては、事前に派遣希望の日時、内容、待ち合わせ場所などを派遣事務所に連絡します。派遣事務所が適任の通訳・介助員をコーディネートし、当日、求めのあった場所に派遣します。派遣事務所によっては、特定の通訳・介助員を希望して依頼することや盲ろう者から通訳・介助員に派遣を直接打診することを認めている場合もあります。 (5)利用時間数  一人当たり利用できる時間数は、自治体によって異なり、実施要綱上定められている時間数としては、年間180時間から1080時間まであり、240時間の自治体が最も多いです。一人当たり利用できる時間の制限を定めていない自治体もありますが、一人当たり年間200時間に満たない時間数で予算が計上されており、「無制限に使える」とは言えない状況があります。 ■P49 ――図表―― 利用開始までの手続き 1 受託団体(派遣事務所)に連絡:盲ろう者団体、聴覚障害者団体、視覚障害者団体、身体障害者団体等 2 利用相談、利用登録申込書を提出 3 登録、サービス利用 ――図表―― 利用の流れ 1 依頼 電話・FAX・電子メール・来所などで登録盲ろう者からの派遣依頼を受け付けます。 2 選定・打診 盲ろう者のコミュニケーション方法や派遣内容に応じ、適任となる通訳・介助員を選び、打診をします。 3 派遣 コーディネートした通訳・介助員を盲ろう者の指定する待ち合わせ場所(自宅・最寄り駅)に派遣します。 ■P50 3 「盲ろう者向け同行援護」(盲ろう者加算が付いた同行援護) (1) 概要  同行援護は、視覚障害者に視覚情報の提供及び移動の支援をすることを目的に「同行援護従業者」を視覚障害者に派遣する事業です。2011年10月より実施されてきた同行援護ですが、盲ろう者の利用を促進するために、報酬改定により2018年4月から通称「盲ろう者加算」が新設されました。  「報酬」とは、行政からサービスを提供した事業所に支払われる金銭のことで、条件を満たした場合にその額が高くなることを「加算」といいます。 同行援護事業において「盲ろう者に対して、盲ろう者向け通訳・介助員が支援を行う場合」に、基本報酬に25%が加算されます(右図【1】)。  なお、原則として、通訳・介助員は同行援護の資格も有していないと、「盲ろう者加算」の対象になりません。ただし、3年間の経過措置として、2017年度までに通訳・介助員として登録・活動していた者については、同行援護の資格がなくとも、同行援護従業者として同行援護に従事することは可能で、かつ盲ろう者加算の対象になります(ただし10%減算[右図【2】])。  また、盲ろう者の障害支援区分が3に該当すると20%(右図【3】)、4以上に該当すると40%(右図【4】)加算される通称「重度者加算」も新設されました。「盲ろう者加算」と重複して加算することが可能です。  これらの加算により、通訳・介助員の資格を持つ同行援護従業者を盲ろう者に派遣した事業所は、これまでより高い報酬が得られることになりました。事業所にとっては、盲ろう者のコミュニケーション方法を身に付けた者(通訳・介助員)に対し、その専門性に応じた給与を支払うことが可能となり、人材の確保及び盲ろう者への質の高い支援の提供が実現しやすくなったといえます。  通訳・介助員派遣事業とは異なり、自立支援給付に位置付けられているため、原則として、全国共通の運用になっています。 ■P51 ――図表―― 同行援護の報酬 ●基本部分と単位 30分未満 単位:184 30分以上1時間未満 単位:292 1時間以上1時間30分未満 単位:421 1時間30分以上2時間未満 単位:485 2時間以2時間30分未満 単位:548 2時間30分以上3時間未満 単位:611 3時間以上3時間30分未満 単位:674 3時間30分以上4時間未満 単位:737 4時間以上4時間30分未満 単位:800 4時間30分以上5時間未満 単位:863 5時間以上5時間30分未満 単位:926 5時間30分以上6時間未満 単位:989 6時間以上6時間30分未満 単位:1052 6時間30分以上7時間未満 単位:1115 7時間以上7時間30分未満 単位:1178 7時間30分以上8時間未満 単位:1241 ●加算・減算部分 1.盲ろう者に対して盲ろう者向け通訳・介助員が支援を行う場合:+25% 2.盲ろう者向け通訳・介助員により行われる場合:-10% 3.障害支援区分3に該当する場合:+20% 4.障害支援区分4に該当する場合:+40% ※上記に地域ごとに設定された単価(10.0円~11.2円)を乗じた額が事業所の報酬額となる ――図表―― 「盲ろう者向け同行援護」の従業者要件(2020年3月現在) その1 同行援護従業者養成研修(一般課程)修了 + 通訳・介助員登録 その2 介護や視覚障害ガイドヘルパーの研修修了 + 視覚障害者の支援経験(1年以上・180日以上)+ 通訳・介助員登録  その3 ※2021年3月末まで従業可 通訳・介助員登録 + 2018年3月までに通訳・介助員として実際に活動 ■P52 (2) サービス内容  「視覚的情報の支援、移動の援護、排泄・食事等の介護」がサービス内容です。これに「盲ろう者加算」が新設されたことで、通訳・介助員による意思疎通支援(通訳)も実質的にサービス内容に加わりました。通訳・介助員派遣事業と類似した内容ですが、介護の提供が可能、居宅での利用は不可など、通訳・介助員派遣事業と異なる部分もあります。 (3) 利用対象者  利用対象者は、視力障害、視野障害、夜盲のいずれかがあり、かつ移動障害があることが基本的な条件となります。  そのうえで、聴覚障害が身体障害者手帳に記載されていれば、「盲ろう者加算」の対象になります。 (4) 利用手続き  在住する区市町村の役所の担当課(障害福祉課、福祉事務所など)に利用の申請をします。そのうえで、視力障害、視野障害、夜盲、移動障害の有無の調査を受け(同行援護アセスメント)、利用対象者に該当するか判定を受けます。以後の手続きは右図に示すように、他の訪問系の障害福祉サービス(介護給付)と同様です。  障害支援区分の認定については、同行援護では必ずしも必要とされていません。しかし、2018年の報酬改定により障害支援区分により評価する「重度者加算」も新設されたことから、その対象になるかどうかの判定の意味も含めて、認定の検討をする必要があります。 (5) 利用時間数  月50時間程度を支給する自治体が多いものの、本人の利用意向や自治体の判断により、利用できる時間数には、ばらつきがあります。 ■P53 ――図表―― 同行援護アセスメント調査票 ●視力障害の調査項目:視力 0点:普通(日常生活に支障がない) 1点:約1m離れた視力確認票の図が見える/目の前に置いた視力確認票の図が見える 2点:ほとんど見えない/見えているのか判断不能 ●視野障害の調査項目:視野 0点:ない、または1点・2点の内容以外 1点:両眼の視野がそれぞれ10度以内で、かつ両眼による視野について視野率による損失率が90%以上(身体障害者手帳3級に相当) 2点:両眼の視野がそれぞれ10度以内で、かつ両眼による視野について視野率による損失率が95%以上(身体障害者手帳2級に相当) ●夜盲の調査項目:網膜色素変性症等による夜盲等 0点:ない、または1点の内容以外 1点:暗い場所や夜間等の移動の際、慣れた場所以外では歩行できない程度の視野、視力等の能力の低下がある 2点:規定なし ●移動障害の調査項目:盲人安全つえ(または盲導犬)の使用による単独歩行 0点:慣れていない場所であっても歩行ができる 1点:慣れた場所での歩行のみできる 2点:できない ※視力障害・視野障害・夜盲のうちどれかが1点以上、かつ移動障害が1点以上で同行援護の利用対象者になる さらに、「盲ろう者向け同行援護」では、「聴覚障害」が身体障害者手帳に記載してあることが条件になる ――図表―― 利用手続きの流れ 1 役所に相談:在住する役所に盲ろう者が訪問 2 同行援護アセスメント:同行援護の対象者かどうかを役所が判定 3 障害支援区分の認定:支援の必要度を役所が判定 4 サービス等利用計画(案)の作成:いつ、どのくらい同行援護を使いたいか、相談支援事業所と相談、利用計画案を作成 5 支給決定:1か月に使ってよい同行援護の時間数を役所から盲ろう者に通知 6 サービス等利用計画の作成:支給決定をふまえて、利用計画案の見直し 7 契約と個別支援計画の作成:本人と相談しながら、利用内容や支援上の留意点を整理し、個別支援計画を作成 8 サービス利用開始 ■P54 4 通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」の相違点 (1) 利用内容  「盲ろう者向け同行援護」は「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出」については、利用ができないとされています。そのため、通所や通学、人工透析のための日々の通院などについての利用は、原則、認められていません。一方、通訳・介助員派遣事業において、それらの内容に利用できるかどうかは、自治体により異なります。  また、「盲ろう者向け同行援護」は外出時の支援が前提となりますが、通訳・介助員派遣事業では居宅内での利用を認めている自治体も少なくありません。 (2) 支援内容  「盲ろう者向け同行援護」では、外出中の排泄・食事などの際の介護については、業務として認められています。一方、通訳・介助員派遣事業では、それらの介護行為は業務の範囲外になります。  また、盲ろう者向け同行援護においては、利用者が従業者の車で移動している時間は、報酬の対象になりません。一方、通訳・介助員派遣事業では、一部の自治体において、従業者の車での利用者の移動を業務の範囲として認めています。 (3) 利用期限  「盲ろう者向け同行援護」では、個々に月ごとのサービスの利用時間数の上限が決定され、翌月に持ち越すことはできません。一方、通訳・介助員派遣事業では、自治体の多くは、月ごとの上限を定めていません。 (4)利用者負担  「盲ろう者向け同行援護」では、他の障害福祉サービスと同様、原則、報酬額の1割を利用者が負担することになります(所得による負担額の上限あり)。通訳・介助員派遣事業では、同行中の交通費や入場料などを除き、ほとんどの自治体において、利用に伴う自己負担はありません。 ■P55 ――図表―― 通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」の相違点 〇:原則として認められている △:自治体により異なる ×:原則として認められていない ●通年かつ長期にわたる外出(通所・通学など) 通訳・介助員派遣:△、盲ろう者向け同行援護:× ●居宅内 通訳・介助員派遣:△、盲ろう者向け同行援護:× ●従業者の車での移動 通訳・介助員派遣:△、盲ろう者向け同行援護:× ●介護(排泄・食事など) 通訳・介助員派遣:×、盲ろう者向け同行援護:〇 ●利用期限 通訳・介助員派遣:年度ごと、盲ろう者向け同行援護:月ごと ●自己負担 通訳・介助員派遣:なし、盲ろう者向け同行援護:あり ※ ※盲ろう者と配偶者の年収合計が概ね300万円以下だと、利用者負担は発生しない ――図表―― 利用制限(東京都の場合) ●盲ろう者向け同行援護(利用上限が月50時間の場合) 1月 50時間利用 2月 30時間利用 ※20時間分は繰り越せず消失 3月 60時間利用 ※超過した10時間分は全額自己負担 ●通訳・介助員派遣(利用上限が月50時間相当で、年度内残り150時間分の場合) 1月 50時間利用 2月 30時間利用 ※20時間分は消失せず、翌月に利用可 3月 60時間利用 ※月の相当分を超過しても問題なし。ただし、残り10時間分は翌年度には繰り越せない ■P57 Ⅲ:同行援護及び通訳・介助員派遣事業における従業者の業務の実際 通訳・介助員や「盲ろう者向け同行援護」の従業者(以下、通訳・介助員等)の支援は盲ろう者のコミュニケーションや情報入手、移動の困難を解消するために欠かせません。 本章では、通訳・介助員等の業務の内容やその必要性、及び通訳・介助業務の依頼から派遣までの流れについて説明します。 ■P58 1 通訳・介助員等の業務  盲ろう者が周囲と円滑にコミュニケーションをとり、安心して安全に外出し、必要かつ十分な情報を得るために、通訳・介助員等の存在は欠かすことができません。  通訳・介助者等の業務の内容は、大きく分けて3つあります。 (1) 意思疎通支援  盲ろう者の様々なコミュニケーション方法に合わせて、意思疎通を支援します。その内容は「1対1での対話」や「通訳」です。通訳とは、周囲の言葉を盲ろう者のコミュニケーション方法に変換する(例:音声→触手話)とともに、必要に応じて、盲ろう者の発信を他の人がわかる方法に変換する(例:手話→音声)行為です。 (2) 移動支援  盲ろう者が安心して安全に移動できるように、移動介助をします。直接、通訳・介助員等の肘や肩を盲ろう者につかんでもらうことで、移動介助をする方法が一般的です。ただし、弱視の盲ろう者のなかには、本人の意向により、触れずに盲ろう者に手が届くくらいの距離を保ちながら通訳・介助員等が見守ることもあります。 (3) 情報支援  目で見ることのできる視覚的情報(例:人の表情、駅の電光掲示板、郵便物など)や言葉以外の聴覚的情報(例:笑い声、電車の発車ベルなど)を、盲ろう者のコミュニケーション方法に合わせて伝えます。問診票やアンケートの記入など、盲ろう者本人の求めがあれば、代わりに書く(代筆する)こともあります。 ■P59 ――イラスト2点―― 2つの意思疎通支援 【1】周囲の言葉を盲ろう者に伝わるよう変換 他者→通訳・介助員等→盲ろう者 1 通訳・介助員等が他者の意思を把握(声を聞きとる等) 2 通訳・介助員等が他者の意思を盲ろう者に伝える(指点字・触手話・手話・手書き文字等) 【2】盲ろう者の言葉を周囲に伝わるよう変換 盲ろう者→通訳・介助員等→他者 1 盲ろう者の意思を把握(手話を読みとる等) 2 他者に盲ろう者の意思を伝える(読みとった内容を発声等) ――写真1点・イラスト1点―― 情報支援の例 ●駅のホームで(電光掲示板の写真) 通訳・介助員等 「次の新宿方面の電車は、三鷹行きです。17時45分発なので、あと5分くらいできます」 ●喫茶店で(店内のイラスト) 通訳・介助員等 「4人掛けの机が3つ、カウンター席が5席、店員2人の小さな喫茶店です。大きな窓があり、店内の照明は控えめで一人の女性客が多く落ち着いた雰囲気のお店です」 ■P60 2 支援が必要となる場面 (1) 日常の暮らしに関する場面  買い物や食事(外食)、家族や友人、近所の人々とのコミュニケーション、役所での各種手続きなどに、盲ろう者は日常的に困難を抱えます。そこで、買い物であれば、通訳・介助員等は、「店までの移動」「商品の種類、消費期限や価格」「店員とのやり取りの通訳」といった支援を提供することになります。 (2) 生命や健康に関する場面  盲ろう者自身の生命や健康を守るために、病院での診察・入院・手術、また自宅への往診や訪問看護などが必要になることがあります。こうした際に通訳・介助員等は、病院への同行や医師とのやり取りの通訳、処方箋の代読や問診票の代筆などの支援を行います。 (3) 社会活動や余暇活動に関する場面  所属している障害者団体の会議、盲ろう者の交流会や地域のサークルへの参加、スポーツ、文化活動(講演会・研修会)など、盲ろう者が様々なコミュニティに参加をし、活動する際にも通訳・介助員等は欠かせません。会議であれば、会場までの移動介助や参加者の発言内容の通訳、座席の状況や出席者の氏名・人数といった視覚的情報の提供を行います。 (4) その他の場面  警察や裁判所などの司法関連場面、学校や自立訓練などの教育場面、職場やハローワークなどでの労働場面など、様々な場面で通訳・介助員等が必要になります(ただし、通勤、通学や通所などの通年かつ長期にわたる外出については、「盲ろう者向け同行援護」では、原則として利用が認められていません)。 ■P61 ――イラスト4点―― 支援が必要となる場面の例 ●日常の暮らし【例:買い物】 品物の情報についての通訳を受けることで、本当に必要なものを自分の判断で選ぶことができます。 ●生命や健康維持【例:通院】 通訳・介助員等の移動介助を受け、病院に向かいます。医師の診断は通訳・介助員等から触手話で 伝えてもらいます。 ●社会活動や余暇活動【例:交流会】 盲ろうの仲間と楽しくおしゃべり。通訳・介助員等にコミュニケーションのフォローや状況説明を お願いしています。 ●その他【例:訓練】 講師の発言を通訳・介助員等から伝えてもらうことで、就労に向けたパソコン訓練が受講できます。 ■P62 3 業務(支援)の実際  ここでは「自宅近くの複合商業施設(ショッピングモール)での買い物や通院のあと、電車で移動し、盲ろう者団体の会議に出席する」という通訳・介助員等の利用事例をもとに、業務における留意点を説明します。 (1) 待ち合わせ(業務開始) 【1】待ち合わせ場所・時間 業務の開始となる待ち合わせ場所は、自宅のほか、駅の改札やホーム・イベント会場・入所している施設など、盲ろう者の障害の状態や都合により様々です。自宅で待ち合わせる場合、「呼び鈴を押すことによって同居家族から本人に伝えてもらう」、「呼び鈴に連動した光や振動の装置で通訳・介助員等の来訪に気づく」、「時間になると盲ろう者が自宅から出てくる」、「呼び鈴を押さずに時間になったら通訳・介助員等が玄関の扉を開ける」といった方法があります。どのような方法で来訪を知らせて会うのが良いか、事前に派遣事務所や事業所に確認しておくようにします。  待ち合わせ時間については、交通機関の乱れなども想定したうえで、遅れないように余裕を持って到着するよう心がけます。 【2】声掛けと業務開始時間の確認  盲ろう者と会ったら、まず「通訳・介助員(または、同行援護従業者)の○○です」と自分の名前を伝えます。そのうえで「現在、10時ちょうどですね。今日はよろしくお願いします」と業務開始時間を確認し、挨拶をします。 ■P63 ――図表―― ある1日の通訳・介助員等の利用事例 通訳・介助員等の派遣を利用 10:00 自宅にて待ち合わせ(業務開始) 10:00~10:20 移動(徒歩) 10:20~11:30 買い物 11:30~12:30 昼食 12:30~13:30 通院 13:30~14:00 移動(徒歩・電車) 14:00~16:00 会議 16:00~17:00 移動(徒歩・電車) 17:00 自宅にて解散(業務終了) ――イラスト6点―― 待ち合わせ場所と自宅での呼び出しの例 ●自宅で 1.呼び鈴が押されたことを回転灯や振動などで把握 2.時間になったら盲ろう者が出てくる 3.時間になると通訳・介助員等が扉を開ける出てくる ●駅の改札 ●イベント会場 ■P64 (2) 移動 【1】移動ルート 行き先までの移動ルートについては、盲ろう者の希望をふまえながら個別的に対応するのが原則です。一見、不便や遠回りと思える経路を選んだとしても「交通費が安い」「歩き慣れている」など、その人なりの理由があるかもしれません。一方的に否定するのではなく、「そのルートでも行けますが、○○を経由すると10分ぐらい早く到着できるようです」と情報提供をし、盲ろう者に選んでもらえるようなやり取りをするようにします。 【2】移動中の会話 通訳・介助員等との会話は、盲ろう者にとって、新たな情報を得ることのできる絶好の機会です。会話をするなかで、盲ろう者は通訳・介助員等の人柄や性格を知り、信頼に足る人かどうかを判断できます。また、通訳・介助員等にとっては、盲ろう者の興味や関心、価値観を知り、より良い情報提供をするヒントが得られます。公共交通機関で移動している際など、盲ろう者が会話を楽しめるように心がけます。 【3】公共交通機関の割引 公共交通機関を利用する場合、本人と介助者1名までは障害者割引が適用されることがほとんどです。 電車の場合、「盲ろう者と通訳・介助員等の分として、小児切符を2枚購入」、「盲ろう者は自治体が発行する無料パスを利用し、通訳・介助員等の分として小児切符を1枚購入」など、様々なケースがありますので、盲ろう者に確認をとりながら対応するようにします。 ■P65 ――イラスト3点―― 電車での割引の受け方(JR) 【1】子ども用切符を2枚購入 【2】有人改札で障害者手帳を提示 ※上記が正式なルールだが、実際は、障害者手帳を提示せずに有人改札や自動改札を通過することも認められることが多い ――図表―― 交通機関ごとの割引率 ●JR、私鉄、私バス:盲ろう者、通訳・介助員等ともに50%割引 ●タクシー:盲ろう者、通訳・介助員等ともに1割引 ●コミュニティバス:事業者による。盲ろう者も通訳・介助員等も無料、盲ろう者のみ無料で通訳・介助員等は50%割引などがある。 ■P66 (3)買い物 【1】買い物の進め方  買い物においては、すでに購入する商品が決まっている場合と、そうでない場合とがあります。  すでに商品が決まっている場合は、商品のある場所まで一緒に移動したうえで、値段や種類、メーカーなどを伝えます。食料品(特に生鮮食料品や乳製品など)は、消費期限も伝えると良いでしょう。衣料品については、色や柄、サイズなども伝えます。  商品が決まっていない場合は、館内の配置図などをもとに「1階には食料品、2階には衣料品、3階にはリビング用品があります。どちらに行きますか?」など、盲ろう者が行き先を選べるよう、情報を提供します。 【2】金銭の管理  支払いの際は、盲ろう者が自分で財布から金銭を取り出して、店員に支払うことが原則です。もし盲ろう者から財布を預かって通訳・介助員等が支払い、その後に何らかの原因で帳尻が合わなくなった場合、大きなトラブルに発展する可能性があります。どうしても盲ろう者自身での金銭管理が難しく、支払いを代行せざるを得ないような場合は、業務終了後に速やかに派遣事務所や事業所に報告をするとともに、今後の対応を相談するようにします。 ■P67 ――イラスト3点―― 買い物での支援の例(デパートにて) 受信:指点字、発信:音声の盲ろう者 通訳・介助員等 「今、デパートに入りました。目の前は季節のグッズの特設コーナーになっています。扇風機や扇子などが並べられていて、たくさんの人が集まりとても賑やかです。店員さんは、アロハシャツを着ていますよ」 盲ろう者 「レストランはどこにある?」 通訳・介助員等 「入口のフロアガイドを見ると、6階にあるようです。近くに案内のカウンターがありますが、念のため聞いてみますか?」 盲ろう者 「ありがとう。とりあえず、6階に行きましょう」 通訳・介助員等 「わかりました。目の前にエスカレーターがあります。エレベーターもこの階の端にありますが、どうしますか?」 盲ろう者 「エスカレーターで行きましょう」 ■P68 (4)食事(外食) 【1】飲食店の決め方  比較的長時間の外出の際には、盲ろう者が飲食店で食事をとることもあります。橋やフォークを使って、食事を口に運ぶという行為は、多くの盲ろう者は自分でできます。だからといって通訳・介助員等が盲ろう者のそばから離れてしまうと、メニューの情報が得られず、注文や支払いの際の店員とのコミュニケーションも難しくなってしまいます。そのため、基本的には一緒にお店に入り、一緒に食事をすることがほとんどです。  飲食店を決める際は、店名やジャンル(定食屋・中華料理屋・そば屋など)を伝え、盲ろう者の希望を尋ねるようにします。ただし、通訳・介助員等の体調やアレルギーで特定の飲食物を避ける必要がある場合は、盲ろう者にその旨を伝えるようにします。 【2】メニューの伝え方  飲食店でメニューを伝える際には、盲ろう者が情報を把握しやすいように、整理して伝えるとわかりやすくなります。例えば、20種類ほどの料理があるお店で、「日替わり定食は豚の生姜焼きで800円、焼サバ定食700円、とんかつ定食1000円、海鮮丼1200円…」と延々と伝えると、説明し終わったころには盲ろう者も説明を受けた内容を忘れてしまいます。したがって「今日の日替わり定食は、豚の生姜焼きで800円です。他に20種類くらいあり、大きく分けると肉料理の定食と魚料理の定食、丼ものがあります。値段は700円から1200円です。どのような料理がいいですか?」と対話をしながら、選択肢を示すような工夫も必要になります。 ■P69 ――イラスト3点―― 外食での支援の例(レストランにて) 受信:指点字、発信:音声の盲ろう者 通訳・介助員等 「店内は和風に飾られています。隣の席とはすだれで仕切られています。白熱灯の温かい灯りで落ち着いた雰囲気です。30席ほどで、いまは満席です」 盲ろう者 「あら、じゃあ早く食べて出ないといけないかしら」 通訳・介助員等 「店員さんがお茶を運んできました」 店員 「お決まりになりましたらお呼びください」 通訳・介助員等(指点字で通訳) 「店員『お決まりになりましたらお呼びください』」 盲ろう者 「はい、どうも」 通訳・介助員等 「今日の日替わり定食は、豚の生姜焼きで800円です。他に20種類くらいあり、大きく分けると肉料理の定食と魚料理の定食、丼ものがあります。値段は700円から1200円です。どのような料理がいいですか?」 盲ろう者 「魚料理はどんなものがある?」 ■P70 (5)通院 【1】通訳・介助員等の立場の理解  医療機関での通訳は、盲ろう者の生命や健康を守るためにも、大変責任のある業務です。医師をはじめとした医療従事者と盲ろう者の間で、適切に意思疎通が図れるよう支援します。  医療従事者のなかには、通訳・介助員等を家族と勘違いしたり、あるいは家族と同じような存在として扱い、盲ろう者の症状を通訳・介助員等に聞いたり、診断結果を通訳・介助員等に向けて話すようなこともあります。それに対して、通訳・介助員等が医療従事者からの問いかけに直接返答してしまうと、盲ろう者が自分の状態を把握することが困難になり、同時に盲ろう者自身が質問をする機会も奪われてしまいます。  通訳・介助員等は、盲ろう者の家族や代理人ではありません。医療従事者の話を通訳することに徹することが必要です。 【2】書類の代筆  初診時には、診察を受ける前に待合室で問診票に記入を求められることがあります。まず盲ろう者に問診票の提出を求められていることを伝え、誰がどのように記入をするかを確認します。通訳・介助員等が代筆するよう意思表示された場合は、記入する項目を1つずつ伝え、盲ろう者の返答をしっかり把握してから項目欄に記入します。氏名や住所、症状や既往症など、これまでの通訳・介助業務のなかで知っていた内容があったとしても、通訳・介助員等が独断で記入しないよう気をつけなければいけません。 ■P71 ――イラスト2点―― 通院での支援の例(整形外科にて) 受信:触手話、発信:手話 ●待合室 受付 「山田さん、診察室へお入りください」 通訳・介助員等(触手話で通訳) 「受付『山田さん、診察室へお入りください』」 盲ろう者(山田) 「お、意外に早かったね。行きましょうか」 ●診察室 医師 「こんにちは、今日はどうされましたか?」 通訳・介助員等(触手話で通訳) 「医師『こんにちは、今日はどうされましたか?』」 盲ろう者 「2週間くらいから、左の小指が痛くて。朝、起きたばかりのときが特に。今は痛みは和らいでるのですが」(通訳・介助員等が盲ろう者の手話を読み取って発話) 医師 「何か小指に負担をかけるようなことをした覚えはありますか?」 通訳・介助員等(触手話で通訳) 「医師『何か小指に負担をかけるようなことをした覚えはありますか?』」 ■P72 (6)会議 【1】通訳・介助員等の複数配置  進行の速度が速く、集中力が必要となる会議などでは、通訳・介助員等2名の態勢で、15分から20分で交代しながら通訳をすることがあります。ペアの通訳・介助員等が通訳をしている間は「聞き逃した言葉を復唱して伝える」「会議中に出てきた数字や固有名詞をメモし、必要なときに提示する」など、ペアの通訳・介助員等がより良い通訳ができるようフォローします。 【2】会議資料の扱い 通訳に際し受け取った会議資料や会議中にとったメモは、原則としてその場にいる主催者に返却し、会議についての情報が外部に漏れないようにする必要があります。 (7)解散(業務終了) 【1】業務終了時刻などの確認  解散場所に到着したら「今、ご自宅の玄関前です。17時5分ですね」などと現在地を説明し、業務終了時刻を確認します。そのうえで、盲ろう者から業務報告書にサインをもらう、または連絡票(チケット)を受け取ります。 【2】解散場所の確認 盲ろう者と解散場所で別れる際は、盲ろう者が今どこにいるかを理解したかどうか確認し、しばらく見守ってから業務を終了するようにします。 確認や見守りをしないと「盲ろう者が住むマンションの部屋の前で別れたが、通訳・介助員等が間違って別の階の同型の部屋の前に案内していた」「駅の改札前で盲ろう者と別れたが、盲ろう者が想像していた改札口と違ったため、逆の方面の電車に乗ってしまった」というようなことが発生するおそれがあります。 ■P73 ――イラスト1点―― 会議での通訳・介助態勢の例 10名の参加者(盲ろう者含む)がいる会議場面 参加者の内訳 ・男性(全盲ろう、触手話)とその通訳・介助者等2名 ・女性(全盲ろう、指点字)とその通訳・介助者等2名 ・男性(全ろう、手話)とその手話通訳者2名 ・女性(健常者) ――イラスト1点―― 業務終了時刻などの確認 ・現在地の説明 ・業務終了時刻の確認 ・業務報告書等へのサインや連絡票(チケット)の受取 ■P75 Ⅳ:盲ろう者の計画相談における留意点 「盲ろう者向け同行援護」の開始により、これまで以上に盲ろう者が計画相談(サービス等利用計画の作成支援)を利用する機会が増えてくることが見込まれます。 本章では、相談支援専門員が盲ろう者を対象とした計画相談に携わる際の留意点について、計画相談の一連の流れをもとに説明します。 ■P76 1 インテーク ~相談支援の開始~  インテークは「相談支援の開始」を意味します。ここでは、相談支援を希望する盲ろう者と面談する際の留意点を説明します。 (1)コミュニケーション方法とその支援態勢の確認 相談支援を希望する利用者が、盲ろう者であることがわかっている場合、前もって、他者の意思を受け取る方法(受信方法)と自分の意思を表す方法(発信方法)を確認します。確認した方法では、相談支援専門員が直接本人に伝えたり、本人の意思を受け取ったりすることが困難だと考えられる場合は、通訳・介助員等の派遣事業の利用の有無を尋ね、利用している場合は、それらの支援者も面談に同行するよう依頼します。 (2)盲ろう者と直接対話する場合の配慮  盲ろう者が自分で発話可能で、音声、筆談、手書き文字といった受信方法を用いているのであれば、通訳・介助員等を介さずに面談の対応が可能な場合もあるかと思います。その際、Ⅰ章で示したような配慮を参考に、面談を進めます。例えば、音声であれば、聞きとりやすい声の大きさや方向、速さなど、筆談であれば、読みとりやすい文字の大きさや背景・文字の色、部屋の明るさなどを確認しながら面談を進める必要があります。また、意思疎通に時間がかかることを想定し、十分な面談時間を確保しつつ、疲労度を確認しながら、途中で休憩を入れるといった配慮も必要になってきます。 (3)通訳・介助員等を介して対話する場合の配慮  通訳・介助員等を介して対話をする場合も、通常の発言より速度を落とし、内容がしっかりと通訳されるように配慮します。また、通訳・介助員等は家族や代理人ではありません。あくまで盲ろう者本人と対話をする姿勢を 崩さないようにしましょう。 ■P77 ――図表―― コミュニケーション方法とその支援態勢 盲ろう者が最も円滑な手段でコミュニケーションできる環境を整え、相談を進める。  手話や点字が未習得の相談支援専門員が、手話使用の盲ろう者(弱視手話・触手話)、点字使用の盲ろう者(点字筆記・指点字)、文字・音声使用の盲ろう者(筆談・手書き文字・音声)と相談する場合、通訳・介助員等を介して対話することが望ましいです。  その場合、原則として、盲ろう者から派遣事務所や事業所などに、通訳・介助員等の派遣依頼をするとよいでしょう。  なお、相談支援専門員が、文字・音声使用の盲ろう者と直接対話する場合は、それぞれのコミュニケーション方法に合わせた配慮を忘れないようにしましょう。 ――イラスト1点―― 通訳・介助員等を介して対話をする場合の配慮 相談支援専門員は通訳・介助員に向かって説明するのではなく、盲ろう者本人に向かって説明する。通訳・介助員は内容を把握して、盲ろう者に通訳する。 ■P78 2 アセスメント ~把握・確認すべきこと~ アセスメントは、「本人のニーズや状況の把握」を意味します。ここでは盲ろうという障害状況において、特にアセスメントが必要な点について説明します。 (1)受信・発信のコミュニケーション方法や配慮  通訳・介助員等による意思疎通支援の提供はもちろん、ほかの障害福祉サービスの利用を検討する際にも、受信と発信それぞれにおいて、可能なコミュニケーション方法を把握することが必要です。また、それらの方法のうち、どれが最も円滑に意思疎通できる方法なのかを把握することは極めて重要です。 また、音声で1対1の対話が可能であったとしても、複数の参加者が集まる会議では、話者を伝え、発言内容を復唱するといった音声通訳が必要になる場合もあります。場面に応じたコミュニケーション方法や配慮も把握するようにしましょう。 (2)移動介助の方法や配慮  移動介助が常時必要なのか、部分的に必要なのかを確認したうえで、部分的に必要な場合は、どのような場面で必要になるのかを把握します(夜間は必要、初めて行く場所では必要など)。 (3)読み書きの方法や配慮  独力で読むための文字種や必要な配慮(Ⅰ章(6))とともに、自筆可能か、代筆が必要かといったことは、サービス等利用計画や個別支援計画、契約書などの各種文書の交付段階から必要な情報になります。  また、パソコンやスマートフォン、ファックス等のコミュニケーションツールの利用状況を把握することも、その後のやり取りを重ねていくうえで大切な情報になります。 ■P79 ――イラスト1点―― 受信・発信のコミュニケーション方法や配慮の把握と共有 「サービス等利用計画」でコミュニケーション方法や必要な配慮を把握し、同行援護個別支援計画や居宅介護個別支援計画、生活介護個別支援計画などを作成する各サービス事業所と共有する。 ――イラスト1点―― ある盲ろう者の可能な受信方法と円滑な受信方法 可能な受信方法が「触手話」「手書き文字」、円滑な受信方法が「触手話」の場合 (盲ろう者より) 「手話ができない人とは手書き文字で伝えてもらうけど、細かい話まで読みとるのは大変…。 触手話で話してくれれば、早く伝わるし、楽しく会話できる」 ■P80 3 プランニング ~サービス等利用計画案の作成~  プランニングとは「サービス利用のための計画の立案」を意味します。ここでは、計画相談におけるサービス等利用計画案の作成を想定して、盲ろう者を対象とした際の留意点を説明します。 (1)通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」の使い分け  通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」は、コミュニケーションと移動の支援を提供するという点では、類似しています。  ただし、以下に挙げる点を考慮したうえで使い分ける必要があり、それらを反映したサービス等利用計画案を作成します。 【1】通年かつ長期にわたる外出  「盲ろう者向け同行援護」では、通所、通学、透析治療など「通年かつ長期にわたる外出」での利用が認められていません。一方、通訳・介助員派遣事業では、「通年かつ長期にわたる外出」を自治体が認めている場合があります。自治体や派遣事務所等に確認のうえ、認められる内容については、通訳・介助員派遣事業の利用を計画案に記載します。 【2】外出先での介護  外出先での食事や排泄などの介護行為については、原則として、通訳・介助員派遣事業では業務の範囲外になります。したがって、外出先で介護が必要な内容については、「盲ろう者向け同行援護」を計画案に記載します。 【3】居宅での支援  「盲ろう者向け同行援護」は居宅では利用できません。居宅内で支援が必要な場合は、自治体や派遣事務所等に確認のうえ、通訳・介助員派遣事業を計画案に記載します(内容によっては、居宅介護や訪問介護等の利用も検討します)。 【4】利用者負担  通訳・介助員派遣事業は、ほとんどの自治体で利用者負担がありません。一方、「盲ろう者向け同行援護」は本人及び配偶者の所得によって、利用者負担が発生します。利用者負担が発生する場合、「盲ろう者向け同行援護」を利用するのか、あるいは通訳・介助員派遣事業のみの利用にするかなど、利用者の意向を確認し、計画案を作成します。 ■P81 ――イラスト1点―― 通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」の使い分け 【1】通年かつ長期にわたる外出 【2】外出先での介護 【3】居宅での支援 【4】利用者負担 【5】利用期限 【6】契約する事業所の支援力 本人の意向やサービスの適用範囲などをふまえて、通訳・介助員派遣事業と「盲ろう者向け同行援護」の使い分けを検討し、サービス等利用計画案を作成 ――図表―― 「盲ろう者向け同行援護」における利用者負担上限 ●区分:生活保護 世帯の収入状況:生活保護受給世帯  負担上限月額:0円 ●区分:低所得 世帯の収入状況:市町村民税非課税世帯  負担上限月額:0円 ●区分:一般1 世帯の収入状況:市町村民税課税世帯  負担上限月額:9,300円 ●区分:一般2 世帯の収入状況:上記以外  負担上限月額:37,200円 ※「世帯」の範囲は障害者本人と配偶者(18歳以上の場合)  概ね「一般1」は世帯年収300万円以上、「一般2」は600万円以上 ■P82 【5】利用期限  「盲ろう者向け同行援護」のサービスの利用量は月単位で決められており使いきれなかったとしても、翌月には持ち越せません。利用者負担を考慮しつつ、毎月の定期的な内容は、同行援護を優先するなどして、効率的にサービスの利用が可能になるよう検討します。 【6】契約する事業所の支援力  現状の同行援護事業所においては、十分な人数の通訳・介助員が所属していないことが見込まれ、「盲ろう者向け同行援護」において、質・量ともに安定的な派遣が難しい状況があることが考えられます。契約する(可能性のある)同行援護事業所の状況をふまえつつ、意思疎通支援が主となる内容には通訳・介助員派遣事業、移動支援が主となる内容は「盲ろう者向け同行援護」といった使い分けも考慮に入れる必要があります。 (2)複数態勢の配置  継続的で長時間にわたる通訳(会議・講演会など)を希望する場合、通訳の質の確保、及び通訳・介助員等の健康被害の防止のため、複数名の配置を検討します。通訳・介助員派遣事業では、複数名の配置が可能です。一方、「盲ろう者向け同行援護」では、区市町村の判断に委ねられており、サービス等利用計画案に複数態勢について明記する必要があります。 (3)意思疎通の状況と支援・配慮の必要性の明記  盲ろう者は意思疎通に困難を抱えているものの、その支援の必要性は見落とされがちです。サービス等利用計画案の申請者の現状の「概要」には、利用者の受信・発信のコミュニケーション方法や必要な配慮、その他「留意事項」には、「解決すべき課題(ニーズ)」や「支援目標」に応じた意思疎通支援の必要性を明記します。 ■P83 ――図表―― 意思疎通の状況と支援・配慮の必要性の明記の例 「概要」欄での記載例 コミュニケーション方法は受信・発信とも音声である。静かな場所での1対1の会話は聞きとれるが、複数の話者が会話する場面では聞きとりが困難で、話者の発言内容を耳元で復唱する必要がある 可能なコミュニケーション方法は、受信は触手話と手書き文字、発信は手話と発話である。手書き文字のみで長文を読みとることが難しいため、触手話での意思疎通が必要となる。また、発信については、発話は不明瞭で、家族や慣れた通訳・介助員等が聞きとれるにとどまり、他者との会話場面の多くは、手話の読みとりが必要になる 「その他留意事項」欄での記載例 ●解決すべき課題(ニーズ):買い物に行きたい ●支援目標:希望する店舗を見つけ欲しい商品を購入する ●その他 留意事項 (1)店員とのやり取りの際に触手話での通訳が必要 (2)店舗の場所や商品の種類や価格について触手話での情報提供が必要 上記(1)(2)のようにコミュニケーション方法や必要な配慮、意思疎通支援の必要性を明確に示す ■P84 4 サービス担当者会議  サービス担当者会議は、本人や家族、利用する事業所や相談支援専門員などの関係者を集め、サービス等利用計画をもとに、利用者のニーズ、支援の方針、サービスの内容、事業所ごとの役割などの共通理解を図ることを目的に実施されます。  本人も含めた多数の出席者が集うサービス担当者会議においては、たとえ、盲ろう者本人は音声が聞こえていたとしても、通訳・介助員等による通訳が必要となると考えられます。多数の人の音声が混在することで本人に情報が伝わりにくくなり、内容を把握し、適切な判断を下すことが困難になるためです。聴覚を活用できず、ほかのコミュニケーション方法を使う場合であれば、さらに通訳・介助員等による通訳の必要性は増します。  また、通訳・介助員等が配置されたとしても、しっかりと盲ろう者に情報が届くようにするためには、配慮が必要になります。以下のような点を全員で共有できるようにします。 1)発言する際は、挙手する 2)発言を始める際は、まず名前を言う 3)本人及び通訳・介助員の状況を確認しながら、ゆっくり話す 4)会議が長時間に及ぶ場合は、休憩を入れる(1時間ごとに1回以上)  挙手することで出席者の発言が重なりにくくなり、名前を言うことで、「発言者は誰か」という想起をせずに済むため、通訳・介助員等の負担を減らすことができます。そして、盲ろう者のコミュニケーション手段の速度に合わせ、ゆっくり発言することで、適切に内容を伝えることが可能になります。 ■P85 ――イラスト4点―― サービス担当者会議における配慮 ●発言する際は挙手する ●発言を始める際は名前を言う ●ゆっくり話す ●適宜休憩を入れる ■P87 V:Q&A「盲ろう者向け同行援護」 本章では、「盲ろう者向け同行援護」について、利用者になる「盲ろう者」、従業者になる「通訳・介助員」、そして、これから同行援護事業を実施することを考えている「盲ろう者地域団体」の三者の立場からの疑問・質問に回答します。 ※「盲ろう者向け同行援護」の運用やルールについて、自治体や事業所で判断が分かれることがあります。なるべく多くの自治体や事業所にあてはまるように回答していますが、「絶対に正しい」、「どこの地域や事業所でも共通」とは言い切れません。その点、ご承知おきいただいたうえで、ご覧ください。 ■P88-90 利用者(盲ろう者)の立場からのQ&A Q1.「盲ろう者向け同行援護」で利用できない内容として、「通年かつ長期にわたる外出」が挙げられていました。週3日ほどの買い物やずっと参加している月1回の手話サークルには利用できないのでしょうか? A1.日々の買い物やサークル参加といった社会参加や余暇活動には問題なく利用できます。一方、施設への通所、学校への通学、透析治療などについては、利用できないこととされています。この線引きについては、自治体によって判断が分かれる部分もあり、判断が難しい場合は、契約する同行援護事業所や相談支援事業所、あるいは自治体の担当課などに問い合わせると良いでしょう。 Q2.「盲ろう者向け同行援護」では、自宅の中では利用できないとのことですが、外出の際に自分のカバンが見当たらないときに、従業者に自宅に入って探してもらうこともダメなのでしょうか? A2.外出に関わる簡単な準備・片づけは可能とされています。そのため、従業者に自宅に入ってもらい、カバンを探すことは問題ないと考えられます。ただし、自宅内で手紙を読んでもらう、書類を代わりに書いてもらうといったことは、できません。外出先ならば、そのような代読や代筆も可能です。 Q3.「盲ろう者向け同行援護」の利用を申し込みたいのですが、まず、どこに行けばよいのでしょうか? A3.お住まいの市町村の障害福祉課や福祉事務所を訪ね、「同行援護事業を利用したい」といったことを、役所の係員の方に伝えます。そうすると、その場で、同行援護事業の対象者かどうかを確認されます。これを「同行援護アセスメント」といいます。「同行援護アセスメント」で対象者として認められれば、次の手続きへ進みます。詳しくは、Ⅱ章の3「利用手続きの流れ」をご覧ください。 Q4.「盲ろう者向け同行援護」を利用できる時間数はどのくらいでしょうか? A4.国は一人当たり月50時間程度の予算を確保していますが、実際は、盲ろう者個人やお住まいの地域によって、様々です。現状の実態を見ると、希望した通り、月100時間以上の利用を認められている人もいれば、どんなに希望しても、月20時間程度の利用しか認められていない人もいます。利用される方が希望する時間や、区市町村の財政状況や方針によって、利用できる時間数には、ばらつきがあるようです。 Q5.盲ろう者は障害が重いので、単一の視覚障害者より、利用できる時間数を増やしてもらえないのでしょうか? A5.原則、「盲ろう者」ということだけでは、利用できる時間数を増やしてもらうことはできません。ただ、盲ろう者の中には、会議や講演会に参加し、長時間の通訳が必要になる場面では、どうしても同行援護従業者が複数必要になることがあると思います。その必要性を行政にわかってもらうことで、複数の派遣が認められ、利用できる時間を増やしてもらえることがあります。 行政に必要性を伝えるためには、「サービス等利用計画(案)」の作成を担当する相談支援専門員に相談しましょう。相談支援専門員に、複数の同行援護従業者の派遣が同時に必要である場面や理由をしっかりと明記してもらうことで、行政もその必要性を把握し、検討することができます。 Q6.サービス等利用計画を自分で作ることはできますか? A6.サービス等利用計画は、役所への提出が義務になっています。サービス等利用計画は、サービスの計画の作成を担当する相談支援事業所にお願いする方が多いですが、自分で作成することもできます。 Q7.自分の地域では、通訳・介助員派遣は1日8時間までと制限があります。「盲ろう者向け同行援護」には、そのような制限はあるでしょうか? A7.事業として、1日の時間数の上限は定められていません。事業所の方針によって、1日の時間数の上限を設けている場合と、そうでない場合があります。 Q8.「盲ろう者向け同行援護」と通訳・介助員派遣は、同じ日や同じ時間に併用できますか? A8.はい、同じ日に利用することができます。たとえば、「10時~11時は盲ろう者向け同行援護、11時~14時は通訳・介助員派遣」といったように、同じ日に使うことも可能です。  また、会議や講演会などの場面での通訳が必要にも関わらず、「盲ろう者向け同行援護」での複数派遣が認められない場合などに、1名は「盲ろう者向け同行援護」、もう1名は通訳・介助員派遣として、同じ時間に両方の制度を利用することも可能です。 Q9.65歳以上になると、障害者向けのサービスは使えなくなり、高齢者向けの介護サービスに切り替わると聞きました。高齢の盲ろう者は「盲ろう者向け同行援護」を使えないのでしょうか? A9.高齢者向けのサービスと同じような障害者向けサービスがある場合、高齢者向けのサービスの利用が優先されることがあります。同行援護事業の場合、同じようなサービスが高齢者向けにはないため、高齢の盲ろう者でも「盲ろう者向け同行援護」を利用することができます。 Q10.どのようなことに気を付けて、同行援護事業所と契約をすればよいでしょうか? A10.利用者はどの同行援護事業所と契約するか、選ぶことができます。契約する事業所を考えるにあたって、「自分のコミュニケーション方法に対応できる従業者がどのくらいいるか」、「自分の希望する日時にその従業者を派遣できそうか」といった点を確認しておくと良いでしょう。また、同行援護を利用するなかで、困ったことや要望したいことがあったときに、相談に乗ってくれるのが「サービス提供責任者」です。事業所のサービス提供責任者が自分の話をよく聞き、気持ちを受け止めてくれそうな人かどうか、見極めることも大事です。 ■P91-93 従業者(通訳・介助員)の立場からのQ&A Q11.登録通訳・介助員ですが、「盲ろう者向け同行援護」で働くにあたり、新たに資格が必要になりますか? A11.通訳・介助員として登録し、2018年3月までに活動実績があれば、新たに資格を取得しなくとも、「盲ろう者向け同行援護」の従業者として、業務に従事することができます。ただし、これは2021年3月までの特別な措置です。2021年4月以降も、「盲ろう者向け同行援護」の従業者として業務を続けるためには、同行援護従業者の資格を新たに取得する必要があります。 (※国の判断により、この特別措置が延長される可能性もあります) Q12.同行援護従業者の資格を得るための方法を教えてください。 A12.大きく分けて、2つの方法があります。  1つは、「同行援護従業者養成研修」の一般課程(20時間)を修了することです。研修会は、市町村や社会福祉協議会、専門学校や資格学校、障害者団体などが主催して、全国各地で実施されています。全国共通のカリキュラム内容であり、修了すればどの地域でも資格は有効です。なお、同行援護従業者養成研修には、応用課程(12時間)もありますが、こちらは受講しなくても、従業者として従事できます。  もう1つは、ホームヘルパーやガイドヘルパーの研修を受け、視覚障害児・者の介助等の直接支援に1年以上携わっている場合です。視覚障害児・者の介助等の直接支援には、通訳・介助員派遣事業における盲ろう者への支援も含まれます。したがって、ホームヘルパーやガイドヘルパーの資格を持っている方が、通訳・介助員派遣事業でも一定期間活動していれば、それをもって、同行援護従業者の資格要件を満たす可能性があります。  また、例外的ですが、大阪府や神奈川県(平成18~23年度修了)では、それぞれの自治体での盲ろう者向け通訳・介助員養成講習会を修了した場合、同行援護従業者の資格要件を満たしたと認めています。 Q13.同行援護従業者と通訳・介助員では、働き手としてどのような違いがありますか? A13.働き手として、同行援護従業者と通訳・介助員で大きく異なるのは、「雇用契約の有無」です。 同行援護従業者は、事業者と雇用契約を結ぶ必要があります。雇用契約を結ぶということは、従業者はその事業者が雇用する労働者という位置づけになり、労働基準法が適用される労働者になります。労働基準法では、毎月1回以上、最低賃金以上の賃金を支払うよう定めています。また、勤続年数や労働日数に応じて、有給休暇を付与することも定めています。 一方、通訳・介助員は、通訳・介助員派遣事業を実施する自治体や事業を運営する団体との間で、雇用契約は結びません。「登録」という「有償ボランティア」や「業務委託」のような形態で、原則として、労働基準法の対象にはなっていません。そのため、自治体によっては、謝金の振り込みが数カ月に1回であったり、最低賃金を下回る謝金単価であったりします。 上記のことから、通訳・介助員より同行援護従業者のほうが、労働者の立場が守られやすいと考えられます。 一方で、すでにサラリーマンや公務員など、本業のある方については、本業以外の事業者と雇用契約を結ぶことになるので、明らかな「副業」になります。トラブルを防ぐためにも、同行援護事業所と雇用契約をすることについて、予め本業先に承諾を得ておいたほうがよいでしょう。 Q14.「盲ろう者向け同行援護」では外出時の介護も業務に入っているようですが、私は介護を学んだことはないため、技術がありません。介護もやらなければいけないのでしょうか? A14.「盲ろう者向け同行援護」では、外出時の食事や排せつなどの介助も業務内容に含まれています。しかしながら、通訳・介助員の養成講習会はもちろん、同行援護従業者の養成研修でも、ほとんど取り上げられないので、それらの介護技術をお持ちでない方も多いかと思います。  「事業所のサービス提供責任者に介護技術は未習得であることを伝える」、「思いがけず、介護が必要な場面に遭遇した際には、可能な範囲で対応し、その状況をサービス提供責任者に伝える」といった方法で対応していくことが考えられます。 Q15.盲ろう者が「盲ろう者向け同行援護」の利用手続きをするにあたり、その通訳を担当する通訳・介助員として、どのような心構えが必要でしょうか? A15.「盲ろう者向け同行援護」の利用に至るまでには、様々な手続きを経る必要があると同時に、多くの支援関係者が盲ろう者本人と関わることになります。 たとえば、「障害支援区分認定調査」では認定調査員、「サービス等利用計画(案)」の作成では相談支援専門員、「サービス担当者会議」では同行援護事業所のサービス提供責任者と、盲ろう者本人が面談・対話することになります。 その際に通訳・介助員としては、「話者や話の内容をしっかり伝える」ことはもちろん、盲ろう者にその場で十分に内容を理解してもらえるように、「ゆっくり話す」、「もう一度話す」ことを参加者に依頼することも重要です(「環境調整」の技術)。 また、「支援関係者がどのような意図で盲ろう者に問いかけているか」がわかると、より適切に通訳することができます。「認定調査」や「サービス等利用計画(案)」で何を問われているか、関連する資料などを取り寄せたり、Webサイトで調べたりするなど、事前に必要な情報を把握し、内容を理解しておくことも大事でしょう。 【参考】 障害者総合支援法における障害支援区分認定調査員マニュアル(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/6_5.pdf ■P94-97 盲ろう者地域団体の立場からのQ&A Q16.同行援護事業所を新たに立ち上げるには、まず何が必要になりますか? A16. 同行援護事業を始めるには、都道府県に「指定」を受ける必要があります。指定をうけるための条件は大きく分けて3つあります。「法人格」、「設備基準」、「人員基準」の3つです。この3つの条件を満たすように、準備を進めていく必要があります。 法人格 株式会社、NPO法人、一般社団法人、社会福祉法人などの法人格を持つ 設備基準 事務所に、事務室、相談室を設ける 設備・備品(事務機器、鍵付き書庫など)を設置する 人員基準 管理者(常勤1名)、サービス提供責任者(常勤1名以上)、従業者(常勤換算で2.5名以上)を確保する Q17.従業者の「常勤換算」とは、どのようなことでしょうか? A17. 一般的に常勤の労働者は、1日8時間、月20日働くことになります。月にすると、160時間です。同行援護を開始する際、2.5名分以上を常勤の労働者に換算して、準備しておく必要があります。つまり、月に400時間(160時間×2.5名)、働けるだけの従業者が必要になります。ただし、人数には制限はありません。したがって、以下のような従業者数で必要とされる時間数を確保すれば、基準を満たすことができます。  ・常勤2名(160時間×2)・非常勤1名(80時間×1)  ・非常勤10名(40時間×10)  ・非常勤40名(10時間×40) いずれの場合も月400時間を満たすことができます。常勤職員の人数ではなく、常勤職員の労働時間をもとに、必要な従業者の人数を揃える考え方を「常勤換算」といいます。 ? Q18.同行援護事業で必要とされる人員は、どのような条件がありますか? A18. 同行援護事業の指定を受けるためには、「管理者」、「サービス提供責任者」、「従業者」の3つの職種が必要になります。 職種 資格要件 管理者 なし サービス提供責任者 [(1)か(2)のいずれかを満たす者] (1)次の①と②をいずれも満たす ①介護福祉士、もしくは実務者研修などの介護関係の研修の修了 ②同行援護従業者養成研修課程修了(一般・応用)をした者 (2)国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科修了者等 従業者 [(1)~(4)のいずれかを満たす者] (1)同行援護従業者養成研修修了者(一般課程) (2)次の①と②をいずれも満たす ①視覚障害者外出介護従業者(ガイドヘルパー)養成研修や居宅介護職員初任者(ホームヘルパー2級)研修の修了者など、旧制度における研修の修了 ②視覚障害児・者の福祉に関する事業に1年以上従事した経験のある者 (3)国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科修了者等 (4)2018年3月までに、通訳・介助員として活動したことがある者(2021年3月までの経過措置) 管理者は「代表者や所長」、サービス提供責任者は「派遣コーディネーター」、従業者は「ヘルパーや通訳・介助員」と置き換えると、イメージしやすいかと思います。管理者とサービス提供責任者は、兼務(一人の人が両方の役割を兼ねること)が可能です。 Q19.「盲ろう者向け同行援護」を事業として安定させるためには、どのくらいの利用者数や利用時間が必要になるでしょうか? A19.同行援護事業は、利用者にサービスを提供した時間数に応じて、行政から事業所に報酬が支払われる仕組みになっています。その報酬のなかで、従業者への給与はもちろん、サービス提供責任者の給与、事務所の賃貸料、光熱水費、通信費などの経費を払う必要があります。 つまり、サービスの提供時間が多ければ黒字になり、少なければ赤字になります。赤字が続くと、事業を続けることもできなくなってしまいます。  そのため、新たに同行援護事業の開始を検討するにあたり、どの程度の利用者を確保し、どの程度のサービス提供が必要かを前もってシミュレート(予測)しておく必要があります。  以下、加算対象の盲ろう者10人がそれぞれ月40時間、利用したときの収支予測です。報酬として100万円ほどの収入が見込まれますが、人件費や事務所の運営費を考えると、収支の差額はありません。人件費の単価や事務所の賃料によっても、採算がとれるかどうかは変化します。地域の実情に合わせて、右ページ下の表に数字を記入し、シミュレートしてみると良いでしょう。 ■同行援護事業の収支のシミュレーション(利用者10名×月40時間の例) 収入 同行援護報酬 報酬単価2,500円※1×利用人数見込10人×一人当たりの平均利用時間40時間=収入合計1,000,000円 支出 サービス提供責任者(常勤)人件費※2 時間単価1,650円※3×人数1人×月間労働時間160 時間=小計264,000円 同行援護従業者人件費 時間単価1,650円※4×月間労働時間400時間※5=小計660,000円 事業所運営費 賃料60,000円+光熱水費5,000円+通信費5,000円+雑費6,000円=小計76,000円 支出合計1,000,000円 収支0円 ※1 「盲ろう者向け同行援護」を4時間提供した場合のおおよその時間単価 ※2 サービス提供責任者は「管理者」を兼務 ※3 時給(1,400円)+通勤手当・社会保険料(250円/時間)で設定 ※4 時給(1,500円)+通勤手当(150円/時間)で設定 ※5 利用人数見込×一人当たりの平均利用時間 ■同行援護事業の収支のシミュレーション (上記から、単価を省き空欄にした表) Q.自分の地域では把握している盲ろう者も少なく、同行援護事業所を立ち上げても、採算が取れる見込みがありません。「盲ろう者向け同行援護」を盲ろう者が利用できるようにするため、どのような方法が考えられるでしょうか? A.盲ろう者が「盲ろう者向け同行援護」を利用するために、「盲ろう者とその盲ろう者が派遣を希望する通訳・介助員が、すでに同行援護事業を実施している事業所と契約する」という方法が最も早いと考えられます。 既存の同行援護事業所のほとんどは、視覚障害者を対象に事業を実施しています。そのため、「従業者の人手が足りず、一緒に事業所と契約した通訳・介助員が、他の視覚障害者ばかりに派遣される」、「移動支援とともに、通訳も必要なのに、盲ろう者のサポートと視覚障害者のサポートの時給が同じ」といったことになる可能性もあります。「自分(盲ろう者)とともに契約した通訳・介助員については、他の利用者ではなく、自分に派遣するよう調整してほしい」、「盲ろう者加算として報酬が上がる部分は、通訳・介助員の給与に還元してほしい」といったことを、管理者やサービス提供責任者に伝え、理解してもらうことも必要になるでしょう。 ■P99 主な参考文献 ●盲ろう者関係 『盲ろう者への通訳・介助―「光」と「音」を伝えるための方法と技術』  /社会福祉法人全国盲ろう者協会編/読書工房/2008年 『盲ろう者の移動介助』/前田晃秀/東京盲ろう者友の会/2008年 『指点字ガイドブック ~盲ろう者と心をつなぐ~』   /認定NPO法人東京盲ろう者友の会編/読書工房/2012年 『盲ろう者に関する実態調査報告書』 /社会福祉法人全国盲ろう者協会/2013年 『盲ろう者向け通訳・介助員養成講習会指導者のための手引書』  /社会福祉法人全国盲ろう者協会編著/2016年 ●同行援護関係 『同行援護従業者養成研修テキスト 第3版』   /同行援護従業者養成研修テキスト編集委員会編/中央法規/2014年 『同行援護事業Q&A』/日本盲人会連合/2018年 ●相談支援関係 『サービス等利用計画作成サポートブック』 /日本相談支援専門員協会/2012年 『東京都相談支援従事者初任者研修テキスト』   /東京都心身障害者福祉センター 『武蔵野市相談支援専門員ガイドライン』  /武蔵野市健康福祉部障害福祉課/2016年 ■P101 『盲ろう者の同行援護』 ~「盲ろう者向け同行援護」と通訳・介助員派遣の活用のために~ 著者:前田 晃秀(まえだ・あきひで)  認定NPO法人東京盲ろう者友の会 事務局長  東京都盲ろう者支援センター センター長  同行・居宅・相談支援事業所かけはし 管理者・相談支援専門員  群馬大学共同教育学部 客員准教授  独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター  聴覚・平衡覚研究部 研究員  社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員 デザイン・レイアウト:荒木 敏雄+street studio inc. イラスト:小山 ゆうこ 図版協力:三浦 嘉久(miura design office) 発行:~日本のヘレン・ケラーを支援する会 R ~ 社会福祉法人全国盲ろう者協会    〒162-0042 東京都新宿区早稲田町67番地 早稲田クローバービル3階 電話:03-5287-1140 FAX:03-5287-1141 http://www.jdba.or.jp/ info@jdba.or.jp 2020年3月31日初版発行 ※本書は、前田晃秀著『盲ろう者の相談支援 ~通訳・介助者派遣と「盲ろう者向け同行援護」の活用のために~』(東京盲ろう者友の会、2019年発行)をもとに、タイトルを改め、加筆・修正したものです。