平成30年度盲ろう者国際協力推進事業海外調査報告書 〜日本のヘレン・ケラーを支援する会 〜 社会福祉法人 全国盲ろう者協会 ***** 目次 I 平成30年度盲ろう者国際協力推進事業海外調査要領 II 海外調査日程および調査機関等 III 調査報告 1.第11回ヘレン・ケラー世界会議及び第5回世界盲ろう者連盟総会 2.フィリピン盲ろう者支援プロジェクト 3.第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議 4.盲ろう者国際協力人材育成研修会 <参考資料> 1.盲ろう者の状況と権利に関するグローバル・レポート「盲ろう者と不平等 ―障害者権利条約と持続可能な開発目標の実践から排除されないために―」 2.WFDB Constitution 3.Nordic Definition of Deafblindness 4.Japanese Approach to Promote Social Participation of Persons with Deafblindness ***** T 平成30年度盲ろう者国際協力推進事業海外調査要領 1 目的  本調査は、調査員を世界盲ろう者連盟加盟国等へ派遣し、それらの国における盲ろう者福祉に関する施策の実施状況等について実地に調査し、世界各国の盲ろう者および盲ろう者関係団体等に必要な情報を提供することにより、盲ろう者をはじめ盲ろう者関係団体等の協力関係の構築および活動の強化を図ることを目的とする。 2 主催  社会福祉法人 全国盲ろう者協会 3 調査実施国  スペイン  フィリピン  ※このほか、インド・韓国・マレーシア・ネパール・シンガポール・ウズベキスタン・タイの盲ろう当事者及び支援者を日本に招聘し、会議を行った。 4 調査項目  ・盲ろう者のおかれている現状  ・盲ろう者支援システムの現状  ・盲ろう者支援システム構築のための関係団体の有無と現状  ・盲ろう者組織ならびにネットワークの現状  ・盲ろう者の就労・職業訓練等の現状  ・その他 5 調査実施期間  スペイン :平成30(2018)年6月19日〜27日  フィリピン:平成30(2018)年8月8日〜10日  第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議:平成30(2018)年8月31日〜9月3日  盲ろう者国際協力人材育成研修会:平成31(2019)年3月9日    6 調査の実施方法  実地調査は、調査機関および会議等を訪問し、情報収集を行い、また、盲ろう当事者・サービス提供者・支援者等から聞き取り調査を行う。 ----- U 海外調査日程および調査機関等  日程:平成30(2018)年6月19日〜27日  調査内容:スペイン・ベニドルムにて開催された第11回ヘレン・ケラー世界会議及び第5回世界盲ろう者連盟総会に出席    日程:平成30(2018)年8月8日〜10日  調査内容:フィリピンにて、フィリピン盲ろう者支援協会とともに、盲ろう児・者、家族、障害関係団体との対話の実施、盲ろうについての啓発セミナー、及び特別支援教育職員むけのミニ講座の開催  日程:平成30(2018)年8月31日〜9月3日  調査内容:千葉県千葉市にて、韓国・ウズベキスタン・ネパール・マレーシア・シンガポール・インド・タイから盲ろう当事者及び支援者を招聘し、第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議を開催    日程:平成31年(2019)年3月9日  調査内容:東京都新宿区にて盲ろう者国際協力人材育成研修会を開催、盲ろう当事者7名が受講した。 ----- V 調査報告 1.第11回ヘレン・ケラー世界会議及び第5回世界盲ろう者連盟総会 1.1 概要  平成30(2018)年6月19日(火)〜27日(水)の9日間にわたり、スペイン・ベニドルムにて、「第11回ヘレン・ケラー世界会議」および「第5回世界盲ろう者連盟総会」が開催された。この世界会議および総会は、原則4年に一度開催されており、前回は2013年フィリピンで開かれ、本来は2017年に開催される予定だったが、ホスト国となるスペインの事情により、1年延びて、今年の開催となった。  日本からは、全国盲ろう者協会評議員・国際協力推進委員の福田暁子氏を代表として、一般参加も含めて、盲ろう者4名、通訳・介助員、日英通訳者等総勢20名が参加した。本会議には、世界50カ国から530名程度の参加があった。  19日(火)の歓迎ディナーに始まり、第5回世界盲ろう者連盟総会、市内観光、ヘレン・ケラー世界会議、27日(水)の最終日には、世界盲ろう者の日の記念イベントおよびGALAディナー等、盛りだくさんのプログラムが組まれた。  連盟総会では、役員選挙が行われ、当協会福島智理事がアジア地域代表に再選された。また、平成25(2013)年のフィリピンでの総会以降、連盟事務局長を務めてきた福田氏は、今回は役員選挙には立候補せず、福島理事とともに、アジアでの盲ろう者のネットワーク構築に注力することとした。  ヘレン・ケラー世界会議では、ワークショップの中で、全国盲ろう者団体連絡協議会会長・全国盲ろう者協会評議員の高橋信行氏が、「日本における盲ろう者の社会参加促進の取り組み」と題して発表を行った。(参考資料4)また、最終日27日には、ベニドルムのシティーホールにて、レティシア王妃ご臨席の下、「世界盲ろう者の日の記念イベント」が開催された。  今回の世界会議で、特筆すべきこととしては、後述する盲ろう者のグローバルレポート(参考資料1)の作成に向けて、各国参加者と情報共有するとともに、各国参加者からの意見を集約したことといえるだろう。 <調査員>  福田暁子(全国盲ろう者協会評議員・国際協力推進委員)   通訳・介助員および身体介護者:三科聡子、和田みさ、市村亜衣、尾形菜々  瀧澤亜紀(日英通訳者)   榊幸子(日英通訳者)  亀井笑(全国盲ろう者協会事務局)  橋間信市(全国盲ろう者協会事務局)  一般参加者11名 <会場>  グラン・ホテル・バリ  住所: Calle Luis Prendes, 4, 03502, Benidorm, Spain  URL: http://www.granhotelbali.com/en/ <日程>  平成30(2018)年6月19日〜27日  19日   到着  夜    レセプションディナー  20〜21日 世界盲ろう者連盟総会  22日   NOLB(No One Left Behind)プロジェクトの日  23日   エクスカージョン  24〜26日 ヘレン・ケラー世界会議  27日   世界盲ろう者の日記念イベント  夜    出国 1.2 第5回世界盲ろう者連盟総会 1.2.1 議事次第  6月20日、21日の両日及び22日午前にかけて、オブザーバー1か国を含む、37か国が出席し、以下の議事次第に基づき、総会が行われた。 世界盲ろう者連盟第5回総会 2018年6月20日〜22日 スペイン 議事次第: 1. 開会 a. 開会挨拶 Francisco Trigueros FASOCIDE(スペイン盲ろう者連盟)会長 b. 開会宣言 Geir Jensen WFDB会長 c. WFDB会長より記念スピーチ 2. 来賓、出資者より挨拶 3. 議長、書記の任命 4. 加盟団体の確認 5. 議事の承認 6. 無記名投票の開票者(3名)の任命 7. 議事録の署名人(2名)の任命 8. 決議委員会委員(3名)の任命 9. 規約改正の提案 10. 選挙方法の説明 11. 選挙管理委員会より候補者の紹介   a. 会長候補者   b. 役員会メンバー候補者 12. 報告   a. 会長   b. 会計   c. 監査役 13. 会長候補者によるスピーチ 14. 会長選挙 15. 地域代表者からの報告 16. 副会長、事務局長、会計候補者によるスピーチ 17. 役員選挙   a. 副会長   b. 事務局長   c. 会計 18. 役員会地域代表候補者によるスピーチ 19. 地域代表選挙 20. 監査役(2名)選挙 21. 選挙管理委員(3名)選挙 22. 会員団体による提案事項の審議 23. 会費についての審議 24. 決議委員会による提案事項の報告と審議 25. 2022年第6回世界盲ろう者連盟総会及び第12回ヘレン・ケラー世界会議の開催地についての審議 26. 閉会 1.2.2 新役員選挙  世界盲ろう者連盟総会は4年に一度、ヘレン・ケラー世界会議と同時に行われ、次期4年間の役員会メンバーの選出が行われる。今回は、本総会中に、連盟の規約の変更が行われ(「1.2.3 主な内容」で後述)、5名の役員が選出された。また、地域代表者(アフリカ、アジア、太平洋地域、北米、南米、ヨーロッパ)等も選出された。  当協会福島智理事は、引き続き、アジア地域代表に再選された。また、平成25(2013)年のフィリピンでの総会以降、連盟事務局長を務めてきた福田氏は、今回は役員選挙には立候補せず、福島理事とともに、アジアでの盲ろう者のネットワーク構築に注力することとした。 【役員】  会長:Geir Jensen(ゲイール・イェンセン) ノルウェー  副会長:Klas Nelfelt(クラス・ネルフェルト) スウェーデン  役員(3名):  Sonnia Margarita Villacres(ソニア・マルガリータ・ヴィラクレス) エクアドル  Puspa Raj Rimal(プスパ・ラジ・リマル) ネパール  Irene McMinn(アイリーン・マックミン) オーストラリア 【地域代表】  アフリカ代表:Juliet Wakubabo(ジュリエット・ワクバボ) ウガンダ  アジア代表:福島 智 日本  太平洋地域代表:David Murray(デビッド・マレイ) オーストラリア  北米代表:Chris Woodfill(クリス・ウッドフィル) アメリカ  南米代表:Samuel Valencia(サミュエル・バレンシア) コロンビア  ヨーロッパ代表:Riku Virtanen(リク・ヴィルタネン) フィンランド 【監査役】  Eulalia Cordeiro(ユーラリア・コーデイロ) ブラジル  Francisco J. Trigueros Molina(フランシスコ・J・トリゲロス・モリーナ)   スペイン 【選挙管理委員】  Bert Van de Sompele(バート・バン・デ・サンペレ) ベルギー  David Shaba(デビッド・シャバ) タンザニア  Miriam Torres(ミリアム・トーレス) ベネズエラ 1.2.3 主な内容 A.規約の改正 ・役員数の削減及び選出について  これまでは、役員は、会長、副会長、事務局長、会計、6名の地域代表で構成されていた。これらの10名から、会長、副会長、3名を役員とする5名に削減することが提案された。理由としては、役員会を開催するに当たって、10名の役員が集まる場合、それらに関わる通訳を含めると、総勢30名から40名の人数となり、交通費、宿泊費等コスト面、事務作業が大きな課題であった。役員数を減らすことで、コストの削減、事務作業の軽減に寄与するというものであり、承認された。  役員選出においては、会長、副会長、3名の役員のうち、少なくとも2名の役員はグローバル・サウスから選出しなければならないこと、男女比にも配慮すること等が付記された。 ・用語の変更  「deafblind people」 → 「persons with deafblindness」と変更することとなった。  「deafblindという言葉にアイデンティティーを持っているので、変更すべきではない」との意見もあったが、会長より、「規約全体を通じての統一した表現に変えるだけである」との回答があった。 ・規約については、「参考資料2」に掲載する。 B.スウェーデンからの提案事項 ・北欧の盲ろうの定義「盲ろうとは、視覚と聴覚の障害が複合した状態であり、その重度差は、損失した感覚がお互いを保完することが難しい状態である。つまり、盲ろうとは、明確な個別の障害である。」(参考資料3)  世界盲ろう者連盟では、この北欧の盲ろうの定義を今後使用してはどうかという提案がなされ、承認された。 ・紅白の杖(白杖に3本の赤いラインを入れたもの)について  この紅白の杖を世界的な盲ろう者のシンボルとして、世界盲ろう者連盟でも指示して、使うことができるように承認して欲しい。  各国からさまざまな意見が表明され、役員会で、再度議論した後、次回の総会で取り上げることとなった。 主な意見: ・紅白の杖は、盲ろう者の啓発活動として大切だと思う。10月15日が国際白杖の日となっている。盲ろう者も紅白の杖をシンボルとして広めていくことは重要だと思う。 ・移動の際の安全の確保だけではなくて、可視化する意味があると思う。盲ろう者だと分かってもらうこともあるし、ロゴとしても使える。いろいろな場で使うことができると思う。 ・私たちは、盲人は白、弱視は赤、盲ろう者は紅白の杖を使っている。紅白の杖を盲ろう者のシンボルにすることには賛成である。 ・私たちは、紅白の杖を、盲ろう者のグローバル・スタンダード、シンボルにするということは、受け入れる準備はない。なぜなら、他の人に自分が盲ろうであることを知られることはとても危険、つまり攻撃を受ける危険がある。盲ろう者であることを伝えることは危険だと思っている。2つ目の理由は、盲人を守るための法律がある。白杖を持っている人を守る交通法。よって、世界盲人連合などと相談し、協調して作るべきだと思う。そうでないと、私たちのシンボルを法に取り込むことはできない。 C.会費について  年間25ユーロ、4年間で100ユーロで据え置くことで、承認された。 D.総会決議  以下のような内容で、総会において決議された。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 世界盲ろう者連盟(WFDB) 世界盲ろう者連盟第5回総会決議 2018年6月22日スペイン ベニドルムにおいて採択 第5回世界盲ろう者連盟総会 2006年12月13日に国連において採択された「障害者権利条約」(CRPD)並びに2015年9月25日に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ及びそのための持続可能な開発目標」(SDGs)において、世界の全ての人々、すなわち盲ろう者も制限を受けることなく、すべての人々の人権を確認し、 盲ろう者は、世界的に見ても、未だに固有で独特の障害としての認識がされていない点を憂慮しつつ、 他の障害者のグループのために策定された支援サービスと同様の、世界共通の支援サービスを作り発展させていくためにも、このような盲ろう者の認知が必要である点を訴え、 盲ろう者が必要とする基本的な支援サービスとして、盲ろう者のための専門的な通訳への公的な資金の投入が必要であるということを、繰り返し述べ、 盲ろう者の通訳サービスの利用が確保されなければ、盲ろう者の完全で平等なインクルージョンと参加は達成できないということを再認識させる。 盲ろう者が引き続き最も周縁化され、他の障害者グループと比べても取り残された存在であり続ける恐れがある。 第5回世界盲ろう者連盟総会において、 1 国連の締約国、市民社会組織やその他の人たちに対して、盲ろうが固有で独特な障害であることを、完全かつ共通の認識とするよう促し、 2 公的資金による盲ろう者の専門的な通訳サービスのためのモデルの開発を開始することを進め、 3 国連の締約国、市民社会組織やその他の人々に対し、盲ろう者に関するリサーチや解析を行うための資金の投入の継続とさらなる増加を進め、 4 国連の締約国、市民社会組織、その他の人々に対し、盲ろう者を代表とする障害者団体が、盲ろう者自身または支援者に関するプロセスに完全参加するために必要なテクニカルサポートや支援を行うため、利用できる資金を提供することを進め、 5 国連の締約国、市民社会組織、その他の人々に、今後、障害者権利条約やSDGsの実施プロセスへの盲ろう者の完全参加とインクルージョンに関する進捗の度合いを報告するためのモニタリングツールを作成するという責任を課す。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 E.2022年第6回世界盲ろう者連盟総会及び第12回ヘレン・ケラー世界会議の開催地についての審議  本件については、役員会で検討した上で、決定することとなった。 1.3 No one left behind(誰も取り残さない) プロジェクト  6月22日(金)は、ノルウェー・イギリスの外務省から資金援助を受けて、世界盲ろう者連盟、国際障害同盟(IDA)、センス・インターナショナル共同により、世界の盲ろう者の状況に関するグローバル・レポートの作成が進められており、このレポートに世界各国から参加している盲ろう当事者の声を反映させるために設けられた日であった。  タイトルは、「盲ろう者と不平等 ―障害者権利条約と持続可能な開発目標の実践から排除されないために―」とされ、盲ろう者がインクルーシブな開発及び障害者の権利条約から取り残されることのないように、国際的なステークフォルダーから注目されることを目指しているとのことであった。また、SDGs(持続可能な開発目標)のモニタリングのためのベースラインを作ることが、2015年に採択され、2030年までに達成することを目標としている。ヘレン・ケラー世界会議と並行して、4年ごとにモニタリングレポートを発行していくとのことであった。  午前には、これまでの取り組みを含め、本レポートの目標・異議等について概要が説明され、午後には、6つのワークショップを設けて、各国の参加者からの意見集約が行われた。  6つのワーキンググループのテーマは、 A.盲ろう障害の認知、通訳・介助者について B.教育 C.雇用、社会保障 D.社会参加(家族、コミュニティ) E.医療・保険 F.政治参加 であった。これらのテーマごとに、次の3つの観点から、各国からの意見集約が行われた。 1.盲ろう者にとって一番のバリアとなっているものは何か 2.よい実践はあるか 3.現状をよりよくするために、政府が取り組むべき課題についての提言  このレポートは、世界各国の盲ろう者の状況を把握するためにも、また、今後、国際協力活動を進めていく上でも、大変有意義な資料であることから、全文和訳を「参考資料1」に掲載する。  なお、世界会議終了後に、日本における盲ろう者の現状、及び2012年度に厚生労働省補助事業として、全国盲ろう者協会が実施した「盲ろう者に関する実態調査」から、全国の盲ろう者数等の調査結果のデータ提供を行った。  日本における盲ろう者の現状についての報告は、下記の通りである。 A.前提条件、認識、盲ろう者への通訳、ガイド 追記事項 ・日本の法律では、「盲ろう」が独自の障害種別として位置づけられていない。障害者権利条約第24条の英単語「deafblind」の日本政府の日本語訳案が、当初「重複障害」となっていた。盲ろう者協会はじめ関係団体が政府に対して粘り強く働きかけたおかげで、条約批准の際には正式な訳が「盲聾」(もうろう)となった。 ・2014年10月現在の全国の盲ろう者の数は約1万4千人であることがわかった。しかし、そのうち、約千人(7%)しか、通訳・介助員派遣サービスを利用していない。 ※「盲ろう者に関する実態調査」の盲ろう者数の結果のデータを提供。 B.教育 追記事項 ・子どもが盲ろうとわかった時、親が子育ての方法や教育について相談できる機関がない。 ・日本には盲ろう学校がない。盲ろう児は、盲学校・ろう学校・養護学校等に在籍しているが、十分な教育が受けられていない。 ・日本の教育において、「盲ろう」は重複障害のひとつとして位置づけられてきた。そのため、盲ろうに特化した教育カリキュラムや教員の養成システムがない。 C.雇用、社会保障 追記事項 ・通勤や職場内外での情報保障のために必要な通訳・介助支援を受けることができない。 ・圧倒的多数の盲ろう者が就労にありつけず、家に閉じこもった生活を強いられている。 ・盲ろう者の特性に配慮した職業訓練が受けられない。 D.社会参加 追記事項 ・日本のすべての都道府県(47)に盲ろう者地域団体がある。盲ろう者とその家族の相談に乗ったり、交流会やコミュニケーション学習会等を企画して、盲ろう者の社会参加を支援している。 ・盲ろう者の高齢化・障害の重度化が進む中、親亡き後の生活をどうするか、大きな不安を抱えている。 ・2017年3月、日本で初めて、大阪市で盲ろう者専門のグループホームが設立された。しかし、資金不足や支援者の人材不足が深刻である。 ・公共施設、交通機関の設備が、見えるか聞こえるかが前提で作られている。そのため、盲ろう者がアクセスできる設備がほとんどない。 例: @銀行の現金預け払い機(ATM)や駅の券売機はタッチパネル式なので、盲ろう者には使えない。 A体重計・血圧計・体温計などの健康機器は盲ろう者には使えず、自分で健康管理ができない。 B信号機の色が分からないため、自力で横断歩道を渡れない。 ・盲ろう者が使える支援機器が少ない。 ・点字ディスプレイは国や自治体からの補助で支給されるが、上限額が低く、盲ろう者には負担が大きい。 ・盲ろう者が情報機器を使いこなせるように全国盲ろう者協会が政府のお金で指導者を養成したり、訪問指導をしている。しかし、人材不足で地域での盲ろう者への支援システムがなかなか確立できない。 E.医療・保険 追記事項 ・盲ろう者が必要とする支援や、通訳・介助員の通訳行為に対して医師や看護師等の医療従事者の理解がない。そのため、盲ろう者は適切な医療が受けられない。 ・医師、とりわけ、眼科医や耳鼻科医の「アッシャー症候群」等の盲ろうの原因疾患についての理解がないため、適切な治療とハビリテーションが受けられない。 F.政治参加 ・選挙公報や政見放送等の情報が得られないため、どの政治家を選べばよいかわからない。 ・投票所での投票行為において、通訳・介助員との同行が認められないケースが多い。 ・選挙運動など政治活動では通訳・介助員派遣サービスが利用できない。 1.4 第11回ヘレン・ケラー世界会議 1.4.1 概要 メイントピック:「私たちの権利、私たちの声 私たちがリードする」(Our rights; Our Voice; We lead the Way)  「第11回ヘレン・ケラー世界会議では、世界、地域、国、地方など、私たちの生きるすべての社会において、あらゆる面で完全かつ公平な盲ろう者のインクルージョンを実現し、人権、民主化、平等を強化することに取り組みます。」  上記のスローガンの下、6月24日(日)〜26日(火)の3日間にわたって、世界会議が開催された。下記の5つのテーマを設け、全体会・分科会を通して、各国での盲ろう者のおかれている現状、改善していくための取り組み等について、報告がなされるとともに、活発な意見交換が行われた。 テーマ1:人権と民主主義 〜国連障害者権利条約と持続可能な開発目標2030アジェンダを通して“国連障害者権利条約は盲ろう者にいかに適用されるか?” テーマ2:情報・コミュニケーションにアクセスする権利“情報・コミュニケーションの権利” テーマ3:教育と文化にアクセスする権利“教育の機会均等への道” テーマ4:盲ろう者団体―その位置と役割“世界の盲ろう者の人権擁護のために盲ろう者団体の活性化を” テーマ5:権利擁護―その影響力と効果“盲ろうという障害、盲ろう者の存在、社会における盲ろう者の権利を主張する意義”  日本からはテーマ4の分科会において、全国盲ろう者団体連絡協議会会長・全国盲ろう者協会評議員の高橋信行氏が、「日本における盲ろう者の社会参加促進の取り組み」と題して発表を行った。(参考資料4) 1.4.2 プログラム 6月24日(日) ヘレン・ケラー世界会議  会場:Glas Auditorium(全体会)、各分科会会場(分科会) 09:00-12:00 開会式 12:00-15:00 ランチ、展示コーナー見学 15:00-15:50   全体会1 人権と民主主義 〜国連障害者権利条約と持続可能な開発目標2030アジェンダを通して“国連障害者権利条約は盲ろう者にいかに適用されるか?”  発表者:Sanja Tarczay(クロアチア) 16:00-17:00   分科会1-1 “盲ろう女性と人権”   発表者:Marina Martin(スペイン)  分科会1-2 “マラウィにおける盲ろう者とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(妊娠、出産、避妊などに関わる問題)”   発表者:Catherine Uteka(マラウィ)  分科会1-3 “家庭内暴力へのより有効な対応策とは:障害者の声を聞く”   発表者:Sanna Paasonen(フィンランド) 17:00-19:30 展示コーナー見学 19:30-21:00 ディナー 6月25日(月) ヘレン・ケラー世界会議  会場:Glas Auditorium(全体会)、各分科会会場(分科会) 09:00-09:30 オリエンテーション 09:30-10:30   全体会2 情報・コミュニケーションにアクセスする権利“情報・コミュニケーションの権利”  発表者:Francisco Molina(スペイン) 10:30-11:00 コーヒー/ティー・ブレイク 11:00-11:50   分科会2-1 盲ろう者のためのテレコミュニケーション・エコシステムの構築   発表者:Ryan Bondroff(米国)  分科会2-2 盲ろうを固有の障害と認めさせるまでの長い闘い   発表者:Uwe Zelle(ドイツ)  分科会2-3 コミュニケーション方法:マラウィの統合教育促進を妨げるもの   発表者:Ishmael Supliano(マラウィ) 12:00-15:00 ランチ、展示コーナー見学 15:00-15:50 全体会3 教育と文化にアクセスする権利 “教育の機会均等への道”   発表者:Javier Garica Pajares(スペイン) 16:00-16:30 コーヒー/ティー・ブレイク 16:30-17:30   分科会3-1 コロンビアにおける盲ろう者の教育権保障を求める動き   発表者:German Guerrero(コロンビア)  分科会3-2 “公立学校教師として障害児に接した経験から”   発表者:Edgar Reyes Tejeda(ドミニカ共和国)  分科会3-3 “芸術・文化活動への権利”   発表者:Eneida Guadalupe Rendon Nieblas(メキシコ) 17:30-19:30 展示コーナー見学 19:30-21:00 ディナー 6月26日(火) ヘレン・ケラー世界会議  会場:Glas Auditorium(全体会)、各分科会会場(分科会) 09:00-09:30 オリエンテーション 09:30-10:30 全体会4 盲ろう者団体―その位置と役割  “世界の盲ろう者の人権擁護のために盲ろう者団体の活性化を”   発表者:Lackson Chipato(ザンビア) 10:30-11:00 コーヒー/ティー・ブレイク 11:00-11:50   分科会4-1 “盲ろう者団体の活動とネットワークの強化”  発表者:Dany Lopez Villegas(ペルー)  分科会4-2 “日本における盲ろう者の社会参加促進の取り組み”   発表者:Nobuyuki Takahashi(日本)  分科会4-3 “盲ろう者の自己主張”   発表者:Carleeta Manser/Irene McMinn(オーストラリア) 12:00-15:00 ランチ、展示コーナー見学。 15:00-15:50   全体会5 権利擁護 ― その影響力と効果  “盲ろうという障害、盲ろう者の存在、社会における盲ろう者の権利を主張する意義”   発表者:Melba Benjamin(ドミニカ共和国) 16:00-16:30 コーヒー/ティー・ブレイク 16:30-17:30   分科会5-1 “障害者権利条約の適用が盲ろう者の権利の法的保障に貢献”   発表者:Mireya Cisne(ニカラグア)  分科会5-2 “盲ろうの若者達の視点”   発表者:Vanessa Vlajkovic(オーストラリア)  分科会5-3 “働く権利を保障することにより得られる充実した生活”   発表者:Roger Orlando Gallo(ホンジュラス) 17:45-18:30 閉会式  全体会、分科会発表者への謝意 ― Sonnia Margarita Villacres WFDB学術委員会長  参加者への謝意 ― Francisco Trigueros FASOCIDE(スペイン盲ろう者連盟)会長  閉会宣言 ― Geir Jensen WFDB会長  主催団体からの事務連絡 1.5「世界盲ろう者の日」記念イベント  最終日6月27日(水)には、ベニドルムのシティーホールにて、レティシア王妃ご臨席の下、「世界盲ろう者の日」の記念イベントが行われた。野外会場で、レティシア王妃からのご挨拶をいただき、また、世界盲ろう者連盟役員は、直接、王妃との懇談を持つことができた。また、ランチには、参加者にジャンボパエリアが振る舞われ、この記念となる日を祝った。そして、夜には、世界会議会場のホテルに場所を移し、GALAディナーが行われた。最終日には、「盲ろう者のマニフェスト」を採択して、すべての会議日程を終えることができた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「盲ろう者のマニフェスト」 第11回ヘレン・ケラー世界会議の開催を祝うと共に、本日2018年6月27日、ヘレン・ケラー没後50年を記念し、世界50か国以上の盲ろう者が一堂に会し、国際盲ろう者の日を祝った。私たちは、社会全体に私たちの認知度を高め、存在を知らしめ、私たちのニーズと能力を見せることを通じて、啓発のためのアピールを行うために、手を掲げて、声を上げる。 上記の理由で、私たちは以下のことを訴える。 盲ろうは、視覚と聴覚の両方の知覚を喪失していることによる固有の障害であり、コミュニケーションやトレーニングや情報へのアクセスの困難だけでなく、世界的な認識に関する問題をもたらしている。それに加えて、移動の問題、社会的な背景としての盲ろう者に対する関心の低さ、ノーマルな方法では、社会に参加できないという大きな困難も生み出している。 盲ろうは、広範囲で多様な障害を持つ人々であると共に、特別なニーズを持ち、特別な治療を必要とする固有の障害である。この事実は、私たちの日々の生活に影響を与えている。つまり自立した生活を送る上で、困難に直面しているということ。そのため、私たちは、それぞれの特別なコミュニケーション方法を使用し、私たちと共に活動してくれる専門の資格のある優秀なスタッフと、特別なサービスが、最大の重要事項であると認識している。 スペイン連邦盲ろう者協会(FASOCIDE)は、地域協会9団体で構成されている。FASOCIDEは、私たち盲ろうの当事者団体であり、私たち自身を代表するプラットフォームであり、私たちのために戦っている。FASOCIDEは、私たち盲ろうの男女によって牽引・運営されており、私たちの社会参加と自立生活の達成を目的とし、権利と利益のために、官民を問わず、私たちを代表し、権利擁護活動を行っている。 私たちFASOCIDEが直面している課題は、スペイン憲法第9条第2項10,14Y49や国連の障害者権利条約にも述べられているような、他の者と平等に、盲ろう者の権利を実質的、効果的に行使していくことだけでなく、平等な取り扱いと機会の均等を達成することである。 上記のような理由で、私たち盲ろう者は、以下のことを求めている。 1. 自立した生活と生活に関わる全ての事柄への完全参加を可能とする。それを可能にするために、政府機関は、盲ろう者が他の者と平等に、すべての情報にアクセスできることを保証するため、必要な措置を講じるべきである。 2. 他の市民と同様に、私たちが自己決定をする権利を行使できるようになる。その実現のために、政府機関は、安定し資格を有する通訳・介助サービスの利用を可能とするための制度を策定する責務を負うべきである。これによって、盲ろう者の情報のバリアを解消することができ、日常生活における様々な社会参加を促進することに貢献することになる。 3. テクノロジーへのアクセスだけでなく、プロの通訳・介助者やコミュニケーションのための仲介者のような、私たちが求めている人材を利用できるようになる。 これによって、私たちが、他の者と平等に、医療システム・教育・雇用・司法・スポーツ・文化・レジャー等への利用が保障される。 4. 新しいテクノロジーに関する調査や利用を推進する。新しいテクノロジーは、盲ろう者にとって、情報やコミュニケーションの利用に関して、革命となることができる。私たちは、現在盲ろう者にとって革命といえる新しいテクノロジーとして、テレビの字幕と点字を利用できる機器を繋ぐことによって、世界で初めて文化とレジャーへのアクセスにおけるバリアを取り除くことのできるアプリケーション「GoAll」を挙げることができる。 5.このことは、新しいテクノロジーが、私たちにとって味方となるものであることを示しており、これは継続していくべきである。それゆえ、私たちは、この分野の研究への支援の継続を要求する。スペイン国内全体で、盲ろう者が利用可能な資源の発展と革新、盲ろう者が利用可能なサービスの向上、またこれらの課題に取り組む専門家たちの資格認定について、推進すべきである。 6.私たち盲ろう者は、私たち自身の可能性を広げるために協力するという、公的機関、民間事業者の善意を認識している。しかし、盲ろう者の現実を知らずに、法制化を進めることは難しい。そのため、私たちは、上記の各機関に対し、協力して活動を行うよう働きかけている。私たちは、盲ろう者の支援に関心のある人たちだけでなく、施設、公的または民間機関、専門家、そして家族に対して、情報、アドバイス、技術的サポート等を提供している。 7.社会サービス、医療システム等の様々な分野について、盲ろう者やその家族、専門家に対して、盲ろうに関連したトピックについての研修コースの実施、アドバイスやガイダンスの提供を可能とする。このサービスは、盲ろう者の個人的、社会的、文化的な発展のためと、より良いサービスを保障するために、盲ろう者の課題に関する深い理解、情報交換、適切な方法の活用を容易にするようなものであるべきである。 8.盲ろう者各々が使用している様々な特殊なコミュニケーションシステムを、盲ろう者のグループすべてに広め、利用を推進するために、調査を推進していく必要がある。このことによって、盲ろう者が他の人々とのかかわりを増やすことになり、盲ろう者と共にそして盲ろう者のために活動し、盲ろう者の特殊な状況や言語の価値を認識することができる専門家の資格認定も進めることになる。 9.私たち、盲ろうの女性と女子たちは、盲ろうの固有性と、それが日々の生活の全てに与える影響の結果により、他の障害のある女性や女子と比較しても、高い確率で、より深刻で複数の形態の差別に直面している。同様に、私たちは、虐待に関しても、かなり高いリスクを抱えている。 それゆえ、私たちは、盲ろうの女性を集団として、また個人としても認識することを、公的機関に求めている。政府が特別な公的な政策を策定する際、盲ろう者についても考慮されるべきであり、また障害の有無にかかわらず、他の女性や女子と同様に、基本的な権利を享受できることを保証するための対策が講じられる必要がある。私たちは、医療の問題の取り扱い、治療計画へのアクセスを推進するための措置、他の障害のある女性や女子と同様にいかなる虐待を受けた際にも報告ができるようにする等、女性としての特別なニーズについて、きちんと対応する必要があるということを強調する。 10.ここには、盲ろうの青年も参加している。私たちは、他のスペインの青年たちと同様に、楽しんで生活を送れることを望んでいる。私たちは、研修を受講したいし、外国語をマスターしたいし、バーやディスコ、図書館やスポーツセンターで楽しみたい。私たちは、大学で学びたいし、仕事をしたいし、給料を稼ぎたい。私たちは、情報コミュニケーションテクノロジーによってもたらされるバーチャルリアリティーを楽しみたい。私たちは、私たちが読んでいる小説の登場人物になる夢を見たり、映画やテレビのキャラクターのように感じたい。私たちは、ここで生まれ、ここで育ち、ここで暮らしているのだから、私たちはここにいるし、この場所のすべてやここでの活動の全ては、私たちのものである。それにも拘わらず、私たちは、それらすべての事柄が、まるで私たちのためではないように感じている。私たちは、これらが私たちを含むすべての人たちにとって利用可能になるよう要求する。私たちも、他の若い人たちと同じように、物事を牽引するような役割を果たしたい。私たちの中には、若い女性もいるし、いずれ高齢者にもなっていくため、今まで述べられてきたことにも同意する。私たちは、2つの共通点がある。それは、盲ろう者であるということと、他の人々と同様に暮らしたいという意思を持っていることである。 上記に述べたように、障害者の人権と基本的な権利を完全に有するために、盲ろう者として、政府機関にアピールし、以下について要望する。 盲ろう者が、もし法や制度によって守られているならば、それが他の社会の人たちと同様の権利を有しているということの一番の保証となるため、早急に盲ろう者を固有の障害として、法的に認識するべきである。 私たちは、盲ろう者の正確な人数を把握するための公的調査の実施を要求する。 現在、そういった調査は実施されておらず、つまりそれは私たちは、他の障害者の中に含まれているということを意味する。私たちは、私たちが存在していることを知っているが、私たちがどこに何人いるのかを把握できていない。 私たちは、政府機関に対して、コミュニケーションは私たちの権利であるということを認識するよう要求する。私たちが、プロの通訳・介助者や仲介者を無料で利用できなければ、虐待などを被る危険がある。 これらの専門職の存在が、私たちを私たちの周囲とつないでくれ、私たちが自己決定する機会を与えてくれる。 私たちの団体は、補助金に関して保証されておらず、その資金に依存できていない状況を、政府機関は認識すべきである。 私たちは、経済的な資源がなければ、盲ろう者の生活の質の向上のためのプログラムを作り上げることもできない。 それゆえ、私たちは、予算措置の中で、コミュニケーションを取る権利を保障するため、私たちがコミュニケーションを取るための専門家のための資金について考慮することを政府に要求する。 私たちの要望が実行されさえすれば、私たちのモットーも主張できる。 「私たちの権利、私たちの声、私たちがリードする。」 FASOCIDEの645名による署名 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2. フィリピン盲ろう者支援プロジェクト 2.1 概要  本事業は、フィリピン盲ろう者支援協会(Deafblind Support Philippines。以下、DBSP)の要請を受けて、フィリピンでの盲ろう者啓発活動に協力する目的で、日本から、全国盲ろう者協会評議員・国際協力推進委員の福田暁子氏、森敦史氏、通訳・介助員4名、身体介護者1名、日英通訳者2名、全国盲ろう者協会職員1名の合わせて10名を、平成30(2018)年8月7日(火)〜11日(土)の5日間、フィリピンに派遣した。  8日(水)には、「盲ろう児・者、家族、障害関係団体との対話〜盲ろう/重複感覚障害をもつ子ども・ユースのインクルージョンと支援を考えよう〜」というテーマで、盲ろう当事者・家族、フィリピン支援協会関係者20名ほどを交えて、意見・情報交換が行われた。9日(木)には、フィリピン全土の障害者問題を管轄する全国障害者協議会(NCDA)を会場に、フィリピンの教育省、保健省から政府関係者、および教育関係者を中心に40名ほどの参加を得て、「盲ろうについての啓発セミナー」を開催した。10日(金)には、フィリピン盲学校を会場に、「特殊教育職員むけのミニ講座〜盲ろう者のコミュニケーション方法と指点字の基礎〜」と題して、教職員40名ほどを対象に、盲ろう者のコミュニケーション方法と指点字の紹介を行った。 <調査員>  福田暁子(全国盲ろう者協会評議員・国際協力推進委員)  通訳・介助員および身体介護者:杉浦節子、三科聡子、上田綾乃  森敦史(全国盲ろう者協会国際協力推進委員)  通訳・介助員:内田美春、花城圭亮  阿久津真美(日英通訳者)   瀧澤亜紀(日英通訳者)  小林真悟(事務局) 2.2 目的  現地の盲ろう者のQOLを向上させるため、現地における盲ろう者の実態を可能な限り把握し、DBSP以外に盲ろう者と接点を持ち得る関係機関・関係者に対し、盲ろう障害やコミュニケーション手段への理解、通訳・介助員の養成方法といった情報を提供することにより、DBSPの組織強化及び活動の活性化を図ることを目的とする。同時に、ASEAN諸国における障害団体ネットワークに「盲ろう」という障害を包摂するための方向性を模索する。 2.3 活動報告 <8月8日(水) プロジェクト1日目> 盲ろう児・者、家族、障害関係団体との対話 「盲ろう/重複感覚障害をもつ子ども・ユースのインクルージョンと支援を考えよう」 ・実施場所:29F Meeting Room, Holiday Inn Manila Galleria ・参加者数:約20名(盲ろう当事者5名、ろう学校に通う児童2名、現地の視覚障害者団体関係者、教育関係者、家族、支援者など) ・内容:フィリピンと日本、両国の盲ろう者がそれぞれ自己の生い立ちを紹介。その後、日本の盲ろう者の福祉施策を紹介しつつ、盲ろう者の社会参加には通訳・介助員が不可欠であることを伝えた。また、盲ろう児の教育や、盲ろう者の就労、レクリエーション等について質問があり、それぞれ日本の事例を紹介した。翌日のプログラムでは、フィリピンの教育省、保健省などの政府関係者が参加するため、DBSPとして、盲ろう者を支援するための具体的なプログラムを作るべく、政府からの支援を得たいということを、盲ろう当事者自身が伝えられるよう促した。 <8月9日(木) プロジェクト2日目> 盲ろうについての啓発セミナー ・実施場所:Boardroom, NCDA Building, 15 Dona Isidora St. Quezon City ・参加者数:約40名(フィリピン教育省、保健省、フィリピン全国障害者協議会、教育関係者、盲ろう当事者と家族、盲ろう者の支援者) ・内容:フィリピン全土の障害者問題を管轄する全国障害者協議会(以下、NCDA)を会場に、フィリピンの教育省、保健省から政府関係者、および教育関係者を中心に40名近くが参加した。  冒頭、DBSPのエドガルド・ガルシア氏より、フィリピンの盲ろう者の概要が把握できていない旨、報告があった。NCDAが中心となり、現在、障害者のリストをまとめているが、そこに盲ろうという障害が盛り込まれているかは不明確な状況であること。また、2年前に通訳・介助員の研修を行ったが、その研修を受けた人は収入になることを理由に渡米してしまったことが紹介された。  次にフィリピン教育省のサルベ氏より、フィリピンで進めようとしているインクルーシブ教育についての説明があったが、盲ろう児が何人いるか把握できていないため、参加していた教育関係者からは、重度の障害を持つ児童への教育プログラムを考えると同時に、盲ろう児の把握にも力を注ぐよう要望が寄せられた。  日本側からは、森氏、福田氏がそれぞれ自身の受けた教育についてスライド、動画を交えて説明した。サルベ氏からは、森氏に対し、義務教育および大学在籍時にどのような合理的配慮が行われてきたか質問があった。また、同じく教育省のシステマ氏からは、指点字などコミュニケーション方法をどのように学んだか、また、学校教員と家族との連携についての質問があった。  福田氏からは、日本の盲ろう者の概況(人数、利用できる福祉サービス等)や、通訳・介助員の役割、自身の生計・就労についての説明も行った。  プログラム後半では、DBSP会長の盲ろう当事者・パトリック氏が、フィリピンの盲ろう者を招き、盲ろうのコミュニティを作る活動をしていること、フィリピンの盲ろう者を支援したいということを、自身の声で会場に向かって語った。NCDAから補聴器を提供してもらったというパトリック氏は、初めてNCDAを訪れることができたことに感激し、涙を流していた。他の盲ろう当事者2名も発言し、盲ろう当事者自身が訴えることの重要性を体現できた。  最後にNCDA事務局長のカルメン氏より、2013年にフィリピンで開催されたヘレン・ケラー世界会議の際に発見された盲ろう児の状況を追跡できていないことや、盲ろう者にどのようなサービスを受けさせればよいか、何人の盲ろう者がいるのか分からないことについて、改めて言及があった。盲ろう者向けサービスの提供や、盲ろう児を含めた障害児教育の充実などを政府が責任をもって進めるよう、意見提起がなされた。その上で、日本の全国盲ろう者協会とも連携しながら、フィリピンの盲ろう者福祉の整備を進めていくことを相互に確認した。 <8月10日(金) プロジェクト3日目> 特殊教育職員向けのミニ講座 「盲ろう者のコミュニケーション方法と指点字の基礎」 ・実施場所:Philippine National School for the Blind, D. Galvez, Pasay City. ・参加者数:約40名(フィリピン盲学校、ろう学校、特殊教育学校の教員、盲ろう当事者、支援者) ・内容:フィリピン盲学校の教室をお借りし、教職員向けに盲ろう者のコミュニケーション方法と指点字の紹介を行った。当日は盲学校、ろう学校の校長をはじめ、両校の教員や特殊教育学校の教員が集まり、点字と手話についての基礎講座も含むプログラムを行った。フィリピン側から指点字を紹介してほしいという要望が寄せられていたが、指点字を使うためには盲ろう児が点字を理解すること、また、それ以前に「ものには名前があること」を理解する必要があり、ここで学んだことをすぐに子ども達に教えるのではなく、子ども達が発することば(音声言語だけでなく、身振り手振りなどで表されるもの)を理解し、教員と子どもが共に作り上げていくことが大切であることを伝えた。参加者からは日本で自分たちが参加できるセミナーやワークショップがあれば教えてほしい、といった質問が寄せられるなど、意欲的な一面を見ることができた。 2.4 考察  今後DBSPが活動を続けていく上で、重要となる連携団体である視覚障害者団体、聴覚障害者団体から、3日間のプログラムを通じて、いずれも参加が得られたことは有意義だった。また、2日目はフィリピン全土の障害者問題を扱うNCDAでプログラムを開催し、NCDA事務局長とも交流を深められたことは大きな一歩と考えられる。また、教育機関では、2日目にフィリピン教育省の関係者が参加し、盲ろう児の実態把握から教育における支援について、直接訴えることができた。また、3日目は教育現場に立つ教員らと、盲ろう児とのコミュニケーションの取り方について具体的な話し合いをもつことができた。いずれも今後のDBSPの活動、ひいてはフィリピンの盲ろう者を支援する流れを加速させる要素となったものと考える。  今回の訪問前に、フィリピンにおける盲ろう者の掘り起こし(実態調査)が行えなかったが、今後DBSPが活動していく上で、もっとも重要な要素となることから、政府機関、NCDAへの働きかけ、ノウハウの提供を行っていきたい。  DBSPとは今後も継続的に連絡を取り合っていくことを確認した。今回は日本から人材を派遣し、日本国内の盲ろう者福祉に関するノウハウを口頭あるいは資料で伝えたが、盲ろう者を支援する通訳・介助員を養成するためのテキストの英訳版は、現状では整備できていない。こうしたテキストは、技術提供の要となるため、現地に出向いた際、口頭による説明だけでなく、対応するテキストを現地に残していけるような取り組みが必要と考える。 3.第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議 3.1 概要  本会議は、日本財団の助成により、平成30(2018)年度より5ヵ年計画で実施する「アジアにおける盲ろう者団体ネットワークの構築事業」の一環として行ったものである。平成30(2018)年8月31日(金)〜9月3日(月)の4日間に渡り、千葉県千葉市の「幕張メッセ」を会場に開催した。  全国盲ろう者協会は、世界盲ろう者連盟の加盟団体として、海外の盲ろう者に関する情報収集や、わが国からの情報発信等を行うとともに、盲ろう者福祉が立ち遅れているアジア各国への支援活動を積極的に展開してきた。アジアの多くの国々では、盲ろうという障害が固有の障害として認知されておらず、また、盲ろう者の団体が設立されている国もまだまだ少ないという現状にある。一方、世界に眼を向けると、アジア地域以外の北米・南米・ヨーロッパ・アフリカそれぞれの地域において、盲ろう者団体のネットワークがすでに構築されている。そのような背景から、初の試みとして、アジア地域の盲ろう当事者をはじめ、盲ろう者を支援する通訳・介助員等の知識、経験等を集約、共有することにより、アジア地域における盲ろう者福祉の向上を図るとともに、アジアにおける盲ろう者団体のネットワーク構築をめざす会議を開催することとした。  アジア7カ国から、盲ろう者11名(インド1名、韓国5名、マレーシア1名、ネパール1名、シンガポール2名、ウズベキスタン1名、タイは支援者のみ)を含む33名の参加があった。日本からは、全国盲ろう者協会国際協力推進事業の委員でもある福島智理事、福田暁子評議員、森敦史氏を中心に、本会議に参加した。  本会議は、毎年夏に開催している「全国盲ろう者大会」と同時並行で開催することで、日本の大会参加者とアジアからの参加者の有意義な交流の場となった。9月1日(土)午後に開催した、全国大会参加者との合同の分科会では、大会参加者も200名以上が参加し、各国の参加盲ろう者から、これまでの生い立ちや、現在の生活状況、自国での盲ろう者のおかれている現状等の報告がなされた。 <日程>  平成30(2018)年8月31日(金)〜9月3日(月) <会場>  幕張メッセ 国際会議場  千葉県千葉市美浜区中瀬2-1 <各国からの盲ろう参加者一覧> (※を付記したものが日本から招聘した方々、その他の方々は自費参加)  Pradeep Sinha(プラディープ・シンハ)(インド)※  Jo Wonseok(チョ・ウォンソク)(韓国)※  Kim Yongjae(キム・ヨンジェ)(韓国)  Lee Taegyeong(リー・テギョン)(韓国)  Park Kwanchan(パーク・クワンチャン)(韓国)  Son Changhwan(ソン・チャンワン)(韓国)  Kong Guat Lay(コン・グアット・レイ)(マレーシア)※  Puspa Raj Rimal(プスパ・ラジ・リマル)(ネパール)※  Francis Foo(フランシス・フー)(シンガポール)※  Lisa Loh(リサ・ロー)(シンガポール)※  Sojida Tadjieva(ソジダ・タジエバ)(ウズベキスタン)※  福島 智(ふくしま さとし)(日本)  福田 暁子(ふくだ あきこ)(日本)  森 敦史(もり あつし)(日本) <招聘者について>  6カ国から、総勢18名を招聘した。  盲ろう者及び通訳・介助員、言語通訳者を含む。  インド3名、韓国3名、マレーシア3名、ネパール2名、シンガポール3名、ウズベキスタン4名。その他15名は自費参加であった。 3.2 プログラム 第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議 1st Asia Deafblind Conference 会場: Makuhari Messe, Chiba Japan 8月31日(金)Friendship Day :お互いを知る 9月1日(土)Presentation Day:自分たちのことを発表する 9月2日(日)Communication Day:コミュニケーションを深める 9月3日(月)Envisioning Day:これからを考える Day1 8月31日(金) Friendship Day:お互いを知る 9:30 参加者受付開始 10:00-12:00 Item 1: 開会式  場所:302会議室    担当:福田暁子 10:00-11:00 (1)諸連絡  通訳体制確認、参加者紹介、配付資料の確認、カンファレンスの流れの説明:福田暁子 11:00-11:10 休憩 11:10-12:00 (2)開会宣言:福島智 (3)来賓のごあいさつ:日本財団 公益事業部部長 石井靖乃 (4)世界盲ろう者連盟代表挨拶:プスパ・ラジ・リマル 12:00-14:00 昼食・休憩 14:00-16:00 Item 2: 第27回全国盲ろう者大会開会式参加  場所:コンベンションホール(2階) 16:00-17:00 休憩 17:00-20:00 Item 3: 全国盲ろう者大会歓迎パーティー参加  場所:ホテルニューオータニ幕張 2階 鶴の間 Day 2 9月1日(土) Presentation Day:自分たちのことを発表する  Item 4: 自由討議 9:00-12:00  場所:203会議室     司会:福田暁子  内容:  全国盲ろう者協会理事長 真砂靖からの挨拶  自由討議「盲ろう者が直面しているバリアにはどのようなものがあるか?」 12:00-14:00 昼食・休憩 14:00-17:00 Item 5: プレゼンテーション(全国盲ろう者大会参加者合同)  会場:国際会議室(2階)  司会:福田暁子  内容:  第1部(14:00-15:00)  司会挨拶(5分):福田暁子  世界盲ろう者連盟アジア代表挨拶(5分):福島智  マレーシア(10分):Guat Lay Kong「盲ろう者としての自分の経験」  ウズベキスタン(10分):Sojida Tadjiyeva「盲ろう者としての自分の経験」 ウズベキスタン(10分):Guzal Shodieva「ウズベキスタンの盲ろう者の状況、タシケント    市ろう者文化センターの取り組み」  Q&A(20分)  休憩(15:00-15:10)  第2部(15:10-16:00)  韓国(15分):Wonseok Jo「韓国の盲ろう者の状況、盲ろう者団体Hold Handについて」  インド(15分):Pradeep Sinha「自分の経験、盲ろう者団体SEDBについて」  Q&A(20分)  第3部(16:10-17:00)   シンガポール(10分):Foo Wei Yin (Francis) 「盲ろう者としての自分の経験」  シンガポール(10分):Yee Chen Loh (Lisa)「シンガポールの盲ろう者の状況」  ネパール(10分):Puspa Raj Rimal「ネパールの盲ろう者の状況、盲ろう者団体Deafblind     Association Nepal(DAN)の取り組み」  Q&Aとまとめ(20分) 17:00-18:00 休憩 18:00-20:00 Item 6: 自由討議  場所:302会議室  司会:福田暁子  内容:プレゼンテーションの振り返り、Item4自由討議の続き  ・盲ろう者の集まりをどのように始めるか  ・盲ろう者の役割  ・通訳者、通訳・介助者の役割  ・支援者の役割 Day 3 9月2日(日)Communication Day:コミュニケーションを深める 9:00-15:00 Item 7(オプション@): 社会見学「東京コース」 9:00-16:00 Item 7(オプションA):全国盲ろう者大会参加(分科会、全体会、閉会式)  オプション@は日英言語通訳が同行します。  オプションAでは、分科会参加は申込みは不要です。原則、日英通訳や英語文字通訳の準備   がないことを前提にご参加ください。 Day 4 9月3日(月)Envisioning Day:これからを考える 9:00-12:00 Item 8: International meeting: Wrap-up and closing  場所:302会議室  司会:森敦史  内容:  ・意見交換、自由討議(9:00-11:00)  それぞれの国でどのように取り組んで行きたいか?   アジア地域アジア盲ろう者団体ネットワークの構築のためのアクションは何か?どのように協力していくか?  世界盲ろう者連盟関係の情報提供  ・閉会式(11:30-12:00) 12:00- Item 9: Farewell Lunch and Group photo  場所:302会議室    司会:森敦史 3.3 報告 3.3.1 Day 1 Friendship Day :お互いを知る(8月31日)  初日午前は、第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議の開会式、午後には、同時並行の第27回全国盲ろう者大会の開会式、続いて、夜の歓迎パーティーへの参加というスケジュールであった。  開会式では、福島智氏(全国盲ろう者協会理事、世界盲ろう者連盟アジア地域代表)の開会の言葉、来賓として日本財団公益事業部部長・石井靖乃氏よりご挨拶、ネパールから参加したプスパ・ラジ・リマル氏(世界盲ろう者連盟役員)よりご挨拶いただき、本会議の幕開けとなった。  開会に当たり、本会議全般に渡りコーディネーターとして、またメインの司会を務めた福田暁子氏が、次のような言葉を述べている。  今日が我々の未来を一緒に考える最初の日です。  今日が行動を一緒に起こす最初の日です。  今日が同じ盲ろうの友人を一緒に思う最初の日です。     我々の人生はちょっと難しいけれども、ひとりぼっちでなければ素晴らしいものになることを我々は知っています。  アジア地域での初めての盲ろう者会議です。4日間、一緒に会議を作っていきます。だからお互いに助け合っていきましょう。 3.3.2 Day 2 Presentation Day:自分たちのことを発表する(9月1日)  この日は、午前・午後・夜間にわたり、活発な意見交換がなされた。特に、午後に、全国盲ろう者大会プログラムとして設けた分科会では、日本の大会参加者が200名以上となり、関心の高さがうかがえた。 <自由討議「盲ろう者が直面しているバリアにはどのようなものがあるか?」>  各国の盲ろう参加者から、自国での盲ろう障害に対する規定、障害の需要、コミュニケーション手段の獲得、教育、職業、盲ろう者団体の立ち上げ等々、さまざまな発言・問題提起がなされた。  以下に、発言内容、要約を記す。 ウズベキスタン・ソジダ:  盲ろうになって職を失った。日本や、アジア各国の盲ろう者の職業について知りたい。 インド・プラディープ:  インドには43万人の盲ろう者がいる。そのほとんどが雇用されておらず、家に閉じこもっている。盲ろう者の職業訓練について、どのように情報提供し、意識を変えていくかが今後の課題である。農村部ほど深刻で、盲ろう者をどうやって探すのか、またICTの活用やコミュニケーション方法をどうやって伝えていくかが重要な課題である。 シンガポール・フランシス:  もともと聴覚障害があり、視力を失った際には、大変寂しい思いをした。触手話を使うようになってから、人と会うようになった。現在は無職で家で1人で過ごしている。家から1人で出かけることは、私にとって大変困難である。外出の際に、車や人が、私に気づいてくれるように、杖が光るような工夫をしている。最近、リサが私を連れ出して、このロープを使って走るようになった。 マレーシア・コン:  マレーシアでは、私のような盲ろう者は知られていない。国内で、他の盲ろう者、その関係者、支援者を見つけることは大変困難である。家族ですら、盲ろうのことが分かっていない。マレーシアには、視覚障害者団体、聴覚障害者団体はあるが、盲ろう者の団体はない。盲ろう者の組織を作ることは重要だと思っている。  私は聴覚障害者として生まれ、後で視覚障害になった。私は点字を覚え、友人からの支援を受けた。もっと勉強すれば、もっと人生を楽しむことができると思う。 韓国・リー:  韓国にはASLを学ぶ場所がある。ゆっくり学んでいるが、私がASLを学ぶのは難しい。 韓国・キム:  私たちはどのようにして盲ろう者組織を作っていけばよいのかを話し合いたい。 日本・森:  私は盲ろうとして生まれたが、私たちが新しいコミュニケーション方法を学ぶことは、難しいと思う。人生の半ばで盲ろう障害となった人は、特に容易ではない。日本には、コミュニケーション方法を知らないために自宅にいる盲ろう者もたくさんいる。 この後、次のテーマで話し合いが進んだ。 ・各国における盲ろうに関する定義があるのか、または、障害種別として盲ろうが規定されているのか  ネパール、インドでは定義されている。その他の国では、定義がない。  ネパール、インドでは、盲ろうという障害種別が規定されている。また、韓国でも、障害種別の1つに盲ろうを加えるように運動を進めている。  日本では「障害者手帳」という紙ベースのものがあるが、韓国、インドではIDカードタイプになっている。写真と住民番号、障害名等が記載されている。  ネパールでは、盲ろうは固有の障害として、最重度に認められている。日本では、重度は1級、2級といったように区分されるが、ネパールは色分けして区分されている。重度の障害者は赤、中度は青、軽度は黄。  また、韓国ではこのカードが「福祉カード」と呼ばれ、銀行のキャッシュカード、交通機関を利用するカードとしても使える。その他、交通機関、国立公園・美術館、映画館の割引の証明としても使える。現在は、障害の種類としては、視覚及び聴覚障害が記載されている。  ウズベキスタンでは障害者カードがあり、3つのグレード(級)に区分されている。ソジダ氏の場合は、1級であり、正式な証明書としては利用できないが、手当てが受給できることと、バスが無料、地下鉄が10時から16時の間無料になる。聴覚障害のみは2級、難聴者は3級となる。  タイはカードタイプで、登録することで、年金や無料の教育・交通機関・医療サービスを受けることができる。 ・職業について 韓国・ソン:  韓国の保険会社でマッサージ師として働いている。以前は、スーパーマーケットで働いていたが、視野が狭くなり、退職した。その後、職を探していたが、マッサージ師になろうと、2年間学んで、免許を取得した。  最初は、盲ろうということを理由に、マッサージ協会、盲学校からも受け入れられなかったが、3度目の交渉で、ようやく受け入れられた。そして、協会で知り合った手話通訳者の支援を受けて、卒業することができた。  職場でのクライアントとのコミュニケーション方法は、私からは紙に文字を書いて示し、クライアントは、私の手のひらに文字を書く方法で、やり取りしている。 ネパール・プスパ:  私は、教員をしている。しかし、政府によって雇用されている盲ろうの教員は私だけ。盲ろうになる前(視覚障害のみ)、臨時の教員だった。フルタイムの教員試験の時には、すでに盲ろうになっていた。私はその時、非障害の人々と競争しなければならなかった。現在、私は視覚障害の子供たちを教えている。盲ろうの教員のためのガイドラインが、政府にはない。視覚障害者のための役に立つ機器もなく、入手も困難である。ネパール盲ろう者協会は、政府とこの問題を協議している。この場で、情報アクセシビリティについて話し合いたい。 ・教育について インド・プラディープ:  私は、生まれつきのろうで、近所の健聴の子供たちと遊んでいたが、徐々に視力を失った。その後は、家にいなければならなくなった。クリケットもフットボールもできなくなり、なぜ、家にいなければならないのか理解できずに、両親に怒りを感じていた。学校にも行かなかった。両親は、私に発声させようと試みたが、私にはそれが理解できなかった。次に、ジェスチャーを教えようとして、私にいろいろなものを触らせたりもした。  近所に1人のろう者がいて、彼は私のところへ来て、私の手を取り、手話を使った。私はそれが理解できるようになり、嬉しかった。彼は、展望を失った私の両親に話をし、説得した。「彼(プラディープ)は外に出て行くべきだ」と。そのおかげで、私は外に遊びに出るようになり、自転車に乗ったり、水泳を習ったりすることができた。その頃、私は白杖を使うことができなかったので、ゆっくりと歩いていた。時々、落ちたこともあった。足で探りながら歩いていた。  しかし、私は学校に行っていなかった。母は、私にいろんなことを教えてくれた。その1つとして、私の手のひらに文字を書いてくれた。それは私が文字を学ぶ機会となった。毎日、母は私の手のひらに文字を書いた。私の視力は失われつつあったが、私は自信を持っていた。母は、盲ろう児である私の学ぶことへの熱心さに驚いていた。私は学校に行きたかった。しかし、学校は盲ろう児をどのように教育すればよいか知らなかった。  姉の助言もあって、母は私を学校に連れて行った。その学校の校長は、本当に私を支援したいと思ってくれた。私が文字を学んだということを知っていて、学びたいという気持ちを持っていることを理解してくれた。彼は、盲ろう児を教えることのできる学校探しを手伝ってくれた。学校が、ボンベイにあると分かり、とても嬉しかった。両親はとても心配したと思うが、私をその学校に行かせることにした。1991年のことだった。 <プレゼンテーション(全国盲ろう者大会参加者合同)>  本セッションでは、司会を努めた福田暁子氏、福島智氏の挨拶を経て、各国参加者からのプレゼンテーションがなされた。以下に、その発表の要約を記す。 マレーシア・コン(盲ろう者):  私は、先天性のろう者で、弱視だった。その後、視力を失い盲ろうになった。  私は、以前はろう学校の教師だった。その後、右目が見えなくなり、左目も見えなくなった。6年間仕事を続けた後、26歳のときに結婚した。1991年に男の子が生まれ、1992年に女の子が生まれた。  子供を育てているうちに、右目がどんどん見えなくなり、全く見えなくなった。左目は少し見えていたが、だんだん目の状況が心配になり、子どもたちを夫とその両親に預け、実家に戻り、病院へ行くようになった。心配で、毎日泣いていた。病院に行き、いろいろな治療をしたが、どれも効果はなく、食事も喉を通らなくなった。だんだん子供に会いたくなり、さびしくなった。しかし、その頃はテクノロジーも発達しておらず、離れている子どもの様子は分からなかった。そんなとき、私の母が夫の両親に連絡し、数週間後、サプライズで私に会いにきてくれた。子どもたちに会えず寂しかったので、私はまた夫と家族のところへ戻ることにした。  見えないなりに、いろいろしなければならなかったので、朝6時に起きて、子どもたちの食事の準備をした。昼ご飯は子どもたちが帰ってくるので、作って待っていた。怖くて、外にでかけることはしなかった。窓のすぐ近くに座って、子どもたちを待っていると、帰ってきた子供が肩を叩くので、ドアを開けて迎えるようにしていた。  私がいろいろ物を壊してしまい、よく夫の父に怒られた。なんとか自分で掃除や料理をしたりして、両親に助けてもらわなくても家事が出来るようになりたいと思っていたが、私が家事を身につけて自立している姿を見せるようになると、夫の両親も私を信頼してくれるようになった。  今は子どもたちもすっかり大きくなった。私は子どもたちに、「いろんな失敗をしてもいい、大きな成功をしなくてもいい、でも自立した人になってほしい」と言っていた。今、子どもたちは大学を卒業して仕事をしている。  最初盲ろうになった時は、苦しくて、辛かったが、自分が自立できるようになってきて、だんだん幸せに思えてきた。そして、私が幸せであることが、家族も幸せになれると分かった。  多くの人が、盲ろう者は仕事ができないと考えている。しかし、私はそうではないと思う。私は、家の中でもとても活動的だし、いろいろなことを家でやり、その姿を見せることができるようになった。寝たり、食べたりするだけの存在にはなりたくない。 ウズベキスタン・ソジダ(盲ろう者):  タシケント市で、1974年に生まれた。私はろうとして生まれたが、視力は当時は良かった。1人で道も歩けたので、介助者は不要だった。私は、ろう学校に通った。1988年に学校を卒業すると、私はろう者が働く特別な会社で、洋裁の仕事をした。  1992年に結婚した。1994年に最初の息子を生んだ。彼の名前はベクゾッドと名づけた。息子が3歳の時に高熱を出したが、義理の両親は、ウズベキスタン伝統の割礼を行なうことにした。しかし、彼の状態は急激に悪くなり、命を失った。  私は、2度目の妊娠をした。残念ながら、そのときは流産した。ちゃんと食事も摂れなかった。そのときの家庭状況も良くなかったからだ。  そして、また妊娠した。けれども、そのときもまた、流産した。私は義母との関係が悪くなった。私の子供がみんな死んでしまったからだ。  2002年にまた妊娠した。私の母親は私を実家に連れて帰った。それにより、私は今度は女の子を産むことができた。私たちは彼女に、メフリニソーと名づけた。  毎回流産する度に、私の視力は落ちていった。2003年の出産後に左目が完全に見えなくなった。2011年が私にとってのターニングポイントとなり、完全な盲ろう者になった。  私は外出するのが怖くなった。私の実の母が、娘の世話をしてくれた。母は自分自身も病気だったが、娘の世話をしてくれた。今、娘は15歳。娘は、学校に通っている。  私の夫は、ろう者。彼は会社を辞めて、朝から娘が学校から帰るまで私を助け、世話をしてくれる。私は義理の両親と再び暮らしだし、夫には2人の兄弟がいるので、今は4世帯の大家族で生活している。義理の母は、料理や掃除をさせてくれず、私は1人で家にいて何もさせてもらえなかった。夫と暮らしだして25年になる。  私をこの会議に招待してくださったことに心より感謝する。以前は、私は自分みたいな盲ろう者が存在していることを知らなかった。他にも自分と同じような人がいることを知り、人生に希望が持てた。 ウズベキスタン・グザル(ろう者):  タシケント市ろう者文化センターの所長をしている。センターで40年間働いている。  働いている町は、ろう者の町と言われている。そこには5つの建物があり、そこでろう者と盲ろう者が暮らしている。ろう者のための4階建ての寮が作られている。大きな体育館のような運動ができるところもある。このようにろう者の町があることを私はほこりに思っている。  2009年に、私たちは1つのチームを作り、大阪に行き、ろう者のためのコンサートを開いた。そのコンサートの時に、1列目に盲ろう者たちがいて、盲ろう者には、それぞれ通訳・介助者がついているのを見た。参加してくれた盲ろう者の顔を見ると、すごく嬉しそうだった。通訳・介助者が、きちんと情報を伝えていることが分かった。  ウズベキスタンに帰って、盲ろう者のためのプロジェクトを始めることを決めた。JICAと一緒にプロジェクトを進め、ウズベキスタンで127名の盲ろう者を見つけることができた。福田暁子さんが、このプロジェクトに参加してくれ、タシケントに来てくださり、盲ろう者の通訳・介助者のためのセミナーを開いてくれた。このセミナーには150名が参加し、盲ろう者に対する支援方法を学ぶことができた。通訳、移動介助方法を学んだ。  最近、ウズベキスタンの大統領が私たちのセンターを訪問した。センター全体の改修工事が行なわれ、体育館のようなスタジアムや文化センターも新しくなり、バスも2台新しくなった。  ウズベキスタンでは、盲ろう者支援についての課題がたくさんある。特に、大きな問題は、盲ろう児を教育する学校がない。また、都市ではなく田舎の状況が大変。盲ろう児の親たちの理解がなく、家の中に閉じ込めている。こうした両親に、盲ろう児が学校に行くことの必要性を働きかける必要がある。  ウズベキスタンの大統領は、障害者を取り巻く環境をよくすることに関して、さまざまな約束をしてくれた。センターとして、盲ろう者のために多くのことができる可能性を考えていかなくてはと思っている。 韓国・チョ(盲ろう者):  今日は、このように皆様にお会いできて心からうれしく思っている。韓国は、日本と物理的に近いというだけでなく、同じ文化圏にあり、人々の外見と言語、さらには手話も似ている点が多い。今日は、私の経験を元に韓国の盲ろう者のこの10年についてお話したい。短い時間ですべてのことをお話しすることは難しいが、よりよい未来のために一歩ずつ歩んでいる韓国の盲ろう者たちを応援する立場で、聞いていただけると嬉しい。  私は、現在、大学を卒業した状態だが、盲学校に通っていた時のことを今でもはっきりと覚えている。特にその中でも、中学に入学した年をこれからも決して忘れることはないだろう。その年の3月、私は、私のような人を盲ろう者ということを初めて知った。そのとき、私はわけもわからずに母と一緒にある行事に参加することになった。  このとき、私の母は、ヘレン・ケラーのように目が見えなくて、耳が聞こえない人を盲ろう者というのだと教えてくれ、東洋のヘレン・ケラーと呼ばれる日本のある教授に会うのだと教えてくれた。しかし、私は、たとえよく聞こえなくてもそれを聴覚障害と認識したことがなかったので、母の説明に戸惑った。それでも有名な人に会うために学校に行かなくてもいいと思うと楽しかった記憶がある。そうして、行事に参加した私は、全てのことに戸惑いながら、福島智教授にお会いでき、歓迎の花束を直接差し上げた。後になって知ったのだが、今から11年前、私が母と一緒に参加したその行事は、盲ろう者支援団体の創立式だった。  しかし、盲ろう者が主人公でなければならない、その行事に参加した盲ろう当事者の中には、その行事がどんなものか分からないまま、介助者のするままに従う人がたくさんいた。だからだったのか、韓国最初の盲ろう者支援団体は、マスコミの注目の中で大きな一歩を踏み出したが、その歩みはあまり長くは続かなかった。いくらも経たないうちに団体は解散してしまった。  私がこのような事実を知ったのは、その団体の創立式があってから、5年が経ってからのことだった。この5年の間、私は誰からもその団体について話を聞くことはなかった。ただ、その団体に対して期待せず、私自身の足で立ち上がってほしいと、母から言われた。母がそのように言ったのをみると、私なりにその団体に対して何かを期待していたようだ。そして、私はそれがその団体でなく、私自身の未来に対する期待だったことを悟った。  そのときから、私はおぼろげながら韓国の盲ろう者の福祉のために仕事をしようという夢を持つようになった。何年か後、再会した盲ろう者たちと活動をするなかで、おぼろげだった夢は、人生の目標になった。  去年の4月、韓国の盲ろう者の権利擁護のための団体「ソンチャプタ」を結成した。私自身が盲ろう者だという事実を知ってからちょうど10年後のことである。こうして、韓国の盲ろう者は、よりよい未来に向かって、また新しい1歩を踏み出した。「ソンチャプタ」とは、英語では“Hold hands”、日本語では“手をつなぐ”という意味。「福島智くんとともに歩む会」をモデルとしている。今は、法人ではない小さな団体にすぎないが、韓国視聴覚障害者協会を設立するために一歩ずつ進んでいる。  私は去年と一昨年、アメリカに行って、盲ろう者の研修を受けたり、盲ろう者のキャンプに参加したりした。そして、去る6月韓国から初めて、スペインで開かれた世界盲ろう者連盟の総会とヘレン・ケラー世界会議にも参加して、多くを学んだ。  一方では、寂しく、不安だった。なぜなら、他の国はすべて韓国よりずっと前を行っているから。しかし、皆さんが私の話、韓国の盲ろう者たちの話を聞いてくださっている今この瞬間、皆さんが私を応援してくださっているようで、私の胸がどれほどワクワクしているか分からない。韓国の盲ろう者の過去はあまり明るくなかったが、これからは明るい未来を期待できるように関心を持って、力になってくださることを願ってやまない。  韓国には「江南(カンナム)スタイル」のPSY(サイ)もいるし、ヨン様もいるが、韓国の盲ろう者たちもいることを覚えておいてください。私たちは、皆さんと手をつないで一緒に歩いて行きたい。 インド・プラディープ(盲ろう者):  今日は、インドの団体である盲ろう者団体、略してSEDB(インド盲ろう者エンパワメント協会)と呼んでいるが、このエンパワメント協会のお話をする。  私は先天性のろう者だが、幼いときに視覚も失った。私の父はろう学校に入学させようとして色々なろう学校に問い合わせたが、ほとんどのろう学校が私を受け入れてくれなかった。ろう学校が受け入れてくれなかったのは、私が視覚障害も持っていたためだ。  カルカッタに住んでいるときは、家の外に出ることも許してもらえなかった。白杖の使い方など、歩行訓練等まったく知らなかった。出かけたとき、家に帰ろうとしたときは、いろいろな物を触りながら帰った。ときには、転んでしまうこともあった。足をそろそろと出して、地面の状況をさぐって足先で感じながら、家に帰っていた。  家の中にいても見えないので、文字を読んだりすることはできなかった。何か小さな手作りの物を作るという手作業をやっていた。人形を作ったり、編み物をしたり、刺繍をしたりした。帽子や洋服を作ることもできた。手作りで作ったものを売っていたが、皆さんに気に入ってもらえたようだった。  次に教育について話したい。  私は、その後ボンベイにある盲ろう者の学校に入学することになった。1991年のことである。そこでは、歩行訓練を受け、コミュニケーションの方法を学んだ。2009年に卒業した。  そこで学んだことは、どうやって自立して生活していくのかということだった。学校では、まず歩行訓練、コミュニケーションを学ぶと同時に、墨字、点字、触手話も学んだ。買い物に行って店の人と話すときには、相手の手の平に文字を書いてコミュニケーションすることができるようになった。白杖の使い方も学んだので、移動することもできるようになった。人に頼るのではなく、独立して自分自身の力でできるようになった。学校では、料理、洗濯も学び、いろんな事が自立してできるようになった。  盲ろうの友人にたくさん出会うことができた。新しい盲ろうの友だちと共に、たくさんの新しい経験をすることができた。  次に、これまでに訪れた国について話す。  私はこれまでにアメリカ、イギリス、ベトナム、バングラデシュを訪問した。私の趣味は水泳と山登り、トレッキングである。走ること、体を動かすことが大好きである。家の中に閉じこもっているのが大嫌い。健康のためにもよいから外に出て行くのが大好きである。  次に私の仕事について話す。  私は手作りが大好きで、特に作っていたのは、籐の椅子。また、点字ディスプレイを使ってコンピューターを使うこともできるようになった。点字ディスプレイを使って電話をかけることもできるようになったので、より自立して活動することができるようになった。  そして、私はろう者や盲ろう者にコンピューターの使い方を指導する教師になった。ボンベイでアパートを借り、ろう者の友人と共同生活をしていた。そこに13年間住んでいた。アルバイトもしていた。  仕事を探すために、バンガロールに引っ越した。そこでは、イネーブル・インディアという団体と、Dellというコンピューター会社が共同で研修をしていたので、それに参加した。そこでは、ITに関するリサーチと、テクノロジーに関する仕事をしていた。テクノロジーは、私にとって本当に大切である。  今、私は、SEDBで仕事をしている。SEDBは、インドにいる盲ろう者の権利を守る活動をしている。とくに、生計を立てることやさまざまな分野で平等を勝ち取ること、より多くの機会を盲ろう者が得られるようにしている。私は、SEDBの会長である。この団体では、盲ろう者の権利を守る、特に子どもでも大人の盲ろう者でも教育を受ける権利を守る活動をしている。  このような活動は、世界の人と一緒に行いたい。私たちは、皆さんと共に、盲ろう者のより多くの権利が守られるよう、また、盲ろう者がより自立して生活できるように、より多くの雇用の機会を得ることができるよう考えていきたいと思う。 シンガポール・フランシス(盲ろう者):  私は、ろうとして生まれた。学校では、中国語と英語を学んだ。成績は良かった。  放課後は、スポーツをしていた。スポーツをしている時に、私は自分がよく事故にあうことに気づいた。人によくぶつかる。それがなぜだか分からなかった。そのために、よく病院に行った。ときには1〜2日、入院したこともあった。  友だちとコミュニケーションを取っているとき、暗い場所だとうまくコミュニケーションできないと気づいた。暗闇ではよく見えないため、うまく歩けずに、怖く感じることがあった。親に自分の状況を説明しても、親は「大丈夫。心配するな」とだけ言う。何が悪いのかわからず、ただもっと気をつけるようにしないといけないと思っていた。  とても退屈だったので、家でペットとして犬を飼い、犬と外へ出るようになり、海へ行ったりもした。スポーツとしては、走ることがとても好きで、それ以外には、サイクリングもやっていた。親がロードバイクを買ってくれて、私はとてもうれしかった。しかし、スポーツをしているとき、やはり怪我をしたり、頭を何かにぶつけることが多々あった。  在学中どんどん視力が落ちていって、学校の成績が悪くなり、特に数学の成績がよくなかった。親から怒られた。一方で、口話法の学校だったが、アメリカ手話がカリキュラムとして導入され、英語と手話を学び始めた。親は、私が英語を読み書きでき、英語の手話でコミュニケーションがとれることに驚いた。私はとても刺激を受け、アメリカに勉強に行きたかったが、兄や両親が心配して許してくれなかった。私は家族のアドバイスに従ってシンガポールに残ることにした。  学校を卒業すると、さらに視力を失っていった。周りの人とのコミュニケーションが難しくなっていった。私には、耳が聞こえる友だちが多く、彼らは手話を知らなかったので、基本的なジェスチャーでコミュニケーションをとった。  年を重ねるにつれ、視力も悪くなり、もっと事故にあうようになった。病院で目をさまし、なぜここにいるのかがわからないことがあった。何日間か意識を失い、自分に何が起きたのか、全然分からないときもあった。  清掃の仕事をしていた。しかし、見えなくなって、職を失った。隣にいるリサさんに会うまでは、家で孤独に暮らしていた。彼女がどうやってコミュニケーションを取るのかを教えてくれた。彼女はランニングをする活動に連れて行ってくれた。今回リサさんが、この会議に参加するために日本まで連れてきてくれた。素晴らしい時間を過ごしている。 シンガポール・リサ(盲ろう者):  5年前、ダスキンのプログラムで日本に来た。たくさんの日本人と友達になることができ、また、たくさんの方とこの会場で再会することができている。日本にいる間に、盲ろう者のための制度を学ぶことができた。  シンガポールで盲ろう者の団体を立ち上げたいと考えた。しかし、それはとても難しく、一生懸命に頑張っても叶えられない夢のように思えた。盲ろう者の団体を立ち上げるのは、簡単なことではないと気づいた。それは、シンガポールには、聴覚障害者と視覚障害者の団体があるが、この2つの団体を連携して、まとめていくことが、非常に難しかった。問題は、聞こえない人と見えない人が集まったときのコミュニケーションだった。  また、なによりも人材が不足している。盲ろう者のための活動をしていたのが、私1人だけだった。  まず、基盤を固めることが大切だと思った。最初に、周りの人に盲ろう者とのコミュニケーションについて、どうすればいいのかを話したり、教えたりするようになった。周りの人を増やすことで、私の夢である盲ろう者団体を立ち上げることに繋がると考えた。シンガポールでもっとたくさんの盲ろう者が出会う機会をつくり、盲ろう者団体を立ち上げたいと思っている。 ネパール・プスパ(盲ろう者):  ネパールの盲ろう者協会は、2012年に設立された。この団体ができる前は、ネパールの人たちは、盲ろう者についての知識がほとんどなかった。政府は、政策として、生まれつきの盲ろう者のための身分証・IDカードを作った。しかし、そこには中途で盲ろうになった人は含まれていなかった。  私自身は、中途で盲ろうになった。そうなったときに、住んでいるポカラで、周りの人たちと一緒に盲ろう者団体を立ち上げ、私たちは盲ろう者の権利を守る活動を始めた。例えば、教育、保健サービス、雇用、障害者の権利を守る活動を始めた。ネパールには、ろう者の団体があり、その団体とも協力して活動を進めていった。  今、私たちの活動はどんどん広がり、ネパールの中で4つの地域、8つの場所において活動を行っている。その中で、盲ろう者の触手話でのコミュニケーション指導を行ったり、盲ろう者の能力・スキルを高めるための活動、ネットワークづくりをしている。それ以外のプロジェクトとして、盲ろう者を特定するためのアセスメントを行っている。  ネパールの盲ろう者の置かれている状況はまだまだ遅れている。盲ろう者のための通訳・介助者制度がない。個人的、個別にサポートするようなアシスタントサービスもない。盲ろう者のためのプログラム、研修、教育の機会もない。テクノロジーについても非常に高価なので、盲ろう者はこうした高価な機器を買うことができないでいる。 日本・福島(盲ろう者):  このプログラムで、皆さんから頂いたお話はすべて将来への希望が持てるすばらしいお話だったと思う。特に韓国のチョさんとプラディープさんのお話は、将来に希望が持てる素晴らしいお話だったと思う。  私がもっとも心を打たれた話、そして胸が痛んだ体験は、ウズベキスタンのソジダさんのお話だった。何度も何度もとても辛い経験をなさって、努力してここまで生きてこられた。私は、ソジダさんの自己紹介の文章を、今朝早く英語で読んだ。そこには、もっと辛い話が書かれていて、そもそも結婚するときに、本当は好きな人がほかにいたのに、親同士がソジダさんに相談しないで勝手に決めて、結婚をさせられた、という経験が書かれていた。これほどつらい経験をしながらも人生を諦めずに生きてこられたからこそ、素敵なお嬢さんを授かったのだと思う。盲ろう者は、みな辛いが、辛い経験をしても、ソジダさんに倣って人生諦めずに生きていこう。 ・質疑応答 大会参加者A:  ウズベキスタンでは、国内に盲ろう者が何人いるのか把握されているのか。 ウズベキスタン・グザル:  ウズベキスタンでは、盲ろう者としての分類で公式な統計ができたのは最近のこと。よって、データはあまり明確ではなく、それが信用できるか怪しいところがある。私自身の意見としては、盲ろう者はたくさんいるとは思っている。 大会参加者B:  マレーシアとウズベキスタンでは、それぞれの国で盲ろう者という障害は法律できちんと認められているのか。そして、法律による支援は盲ろう者向けにあるのか。 マレーシア・コン:  法律の中で、盲ろうとして1つの障害としては認められていない。盲ろう者は重複障害の一部とみなされている。いつか出来ればいいなと思っている。 ウズベキスタン・ソジダ:  ウズベキスタンには、障害を持つ人たちの社会的保護に関する法律がある。でも、そこには正式な障害種別として盲ろうということは規定されていない。団体としては、視覚障害、ろう者の団体がある。盲ろう者のための団体はなく、社会サービスというものは提供されていない。あるのは、ろう者文化センターだけ。 大会参加者C:  韓国に質問。6年前、盲ろう者を含め障害者がスムーズに情報を入手できるようにする法律を作るために、韓国の状況を調べる目的で視察に行った。そのとき、保健省の役人の方たちといろいろ話をした。「韓国の盲ろう者は何人いるのか?」と尋ねたら、「盲ろう者とは何?」と、逆に聞かれた。現在、国は盲ろう者がいることを理解しているのか。  インドに質問。ボンベイの盲ろう学校で、人に頼らず、自立することを学んだという話があった。現在、インドでは盲ろう者を支援するための通訳・介助員の組織はあるのか。まだないのであれば、今後作ることを考えているのか、お聞きしたい。 韓国・チョ:  実は、韓国政府は盲ろう者についてまだよく分からないと思う。この4月、私は国会で、障害者福祉法で盲ろう障害を規定するよう改定を要望した。 インド・プラディープ:  すでにSEDBは、小さいながら通訳活動をしている。将来的には、これをもっと大きくしたいと思っている。 <自由討議>  このセッションは、海外からの参加者と日本の盲ろうリーダーとの議論の場として設けられた。その要約を記す。 ・日本からの参加者自己紹介 門川紳一郎:  私は、生まれつきの視覚障害で、今は光を感じるくらい、耳は、4歳のときの高熱が原因で、全く聞こえない、盲ろう者。大阪で一人暮らしをしている。  大阪で、盲ろう者を支援するサービス系事業所「すまいる」を運営し、理事長を務めている。「すまいる」は、立ち上げてから20年になる。昨年から盲ろう者の共同生活の場となるグループホームを始めた。日中の活動の場所から3分のところにある。グループホームは、新築した建物で、10名が生活している。また、「すまいる」では、同行援護・居宅介護のサービスも提供している。  通常は大阪で、盲ろう者支援をしているが、全国盲ろう者協会の理事も務め、その活動にも関わっている。私は、大学卒業後、アメリカに5年ほど留学した。タイや韓国にも訪問したことがある。 高橋信行:  私は、全国盲ろう者団体連絡協議会の会長を務めている。仕事は盲学校で、情報処理、理療科の教員をしている。教員をしながら、大学でも研究を続けて、6年前に工学博士を取得した。  6月に、スペインでのヘレン・ケラー世界会議で発表をした。みなさんも参加されただろうか。 小林功治:  私は、弱視難聴の盲ろう者で、近くの人の表情が見えるか見えないかくらいの視力で、耳には人工内耳をしている。  仕事は、聴覚障害者情報提供施設に勤めており、盲ろう者の関連事業を担当している。通訳・介助員の派遣、養成講習、現任研修、相談、IT講習事業等を担当している。地元の盲ろう者友の会の役員も務めている。フィリピンで行われたヘレン・ケラー世界会議に参加した。 森敦史:  私は先天性の盲ろうで、今は、大学院で学んでいる。大学では、触手話・ガイドヘルプの支援を受けている。また、盲ろう者向け通訳・介助員派遣サービスも利用している。  全国盲ろう者協会では、国際協力の委員を務めている。また、東京盲ろう者友の会の理事も務めている。 大杉勝則:  私は、高橋さんと同じ全国盲ろう者団体連絡協議会の副会長を務めている。  私は生まれたときから耳は聞こえず、20歳のときから視力が低下し始め、今55歳だが、全盲ろうである。  東京から900km離れた広島県に住んでいて、広島盲ろう者友の会の理事長を務めている。通訳・介助員の養成講習会や派遣事業等行っている。  趣味は、マラソンとボウリング。夢は、アジアや世界の盲ろう者のみなさんと一緒に走ること。 庵悟:  私は日本の中央に位置する岐阜県で生まれた。3歳の時、難聴になり、中学校のとき、夜、見えづらいことに気がついた。歳をとるにつれて、聴力が悪くなり、視野も狭くなっていった。補聴器を使っているが、補聴器だけではうまくコミュニケーションが取れないため、FMマイクを使って、通訳を受けたり、話をする。見え方は、ちょうど5円玉の穴から覗くくらいの視野である。人と話すとき、表情を見ることは難しい。  私は、全国盲ろう者協会の職員として、14年働いている。盲ろう者のリーダーを育成する研修を担当している。また、その他に、日本には、さまざまな障害種別ごとに団体があるが、それらの団体と連携して活動もしている。私は、2006年にバングラデシュで開催されたDbI世界会議に参加した。 村岡美和:  私は視野狭窄のある弱視ろうの盲ろう者で、コミュニケーションの方法は、弱視手話、または触手話で会話する。家族は2人で、夫は、全盲ろうである。  私は、全国盲ろう者協会の職員で、働き始めて14年目になる。協会には、11名のスタッフがおり、2名が盲ろう者で、庵さんと私となる。  担当業務は、盲ろう者の相談支援を担当している。また、通訳・介助員の養成の仕事もしている。以前は、全国盲ろう者大会の担当もしていた。  昨年、日本では「もうろうをいきる」という映画が製作され、全国各地で上映されている。この映画は、7名の盲ろう者のドキュメンタリー映画である。啓発のため、この映画の上映の際に、私も舞台挨拶に回っている。盲ろう者についての理解の促進に繋がると信じている。DVDの英語版がある。 福島智:  私は9歳で失明し、18歳で失聴した。コミュニケーションをとることに困ったが、私の母親が指点字という方法を思いついた。  私は、周りの人が指点字通訳の支援をしてくれ、大学・大学院で学び、大学の教授になった。その一方で、他の人々の協力を得て、全国盲ろう者協会の設立にも貢献できた。  私は、韓国、ネパール、タイ、フィリピンを訪れたことがある。私は世界盲ろう者連盟のアジア地域代表であるが、現実には、福田暁子さんに多くを担ってもらっている。 ・アジア各国の参加者、日本の参加者との意見・情報交換 韓国・パーク:  私は、弱視で難聴の盲ろう者で、とても健康である。私は法科大学の大学院を卒業し、障害のある学生のための講師であり、コラムニスト等、フリーランスでさまざまな活動をしている。  門川さんに質問。大阪にお住まいとのことだが、先日大阪で大地震があったと思う。私が暮らしているところでも、何度か地震があった。地震やその他の自然災害の場合、盲ろう者はどのように避難するのか、移動するのか知りたい。 門川:  6月18日の朝だった。突然、揺れを感じた。大阪では、めったに地震がないので、メディアでも大きく取り上げられた。  大阪では地震はめったにないので、あまり避難の経験がなかった。私は、「すまいる」の仲間たちの安否が心配になったので、メールをみんなに送った。幸い、建物への被害もなく、みんな無事だった。地震等の災害に関しては、関東や東北地方の方が多く発生しているので、防災対策等、具体的に計画されているのではないかと思う。しかし、地震はいつ起こるか分からないので、地震に備えて、日ごろから対策を考えておくことが課題だと思っている。 福田:  2011年の震災後の取り組みのひとつとして、東京盲ろう者友の会では、盲ろう者の情報と必要な支援内容を記載したSOSカードを作成した。それとは別に、ヘルプカードというものがあって、それを持ち歩いて、緊急時に使うものとして用意されている。 韓国・ソン:  この会議に参加できて、嬉しく思っている。  3つの質問がある。  1つ目。韓国では、2年前に、触手話で対話するソンクッセという団体が設立された。ソンクッセは、チョ・ウォンソクさんが立ち上げたソンチャプタより、早く立ち上げられた。ソンクッセには、10名の盲ろう者と30名の触手話通訳者がいる。韓国で全国の盲ろう者のために活動しているが、外出できない盲ろう者をどのように支援していったらよいか知りたい。  2つ目。先日、韓国で、第1回目の触手話通訳者を育成するための講座が開催された。日本にも、このような触手話通訳者養成コースがあるのか知りたい。もし、あるならば、どのように運営しているか知りたい。  3つ目。盲ろう者には、ろうベースの盲ろう者、盲ベースの盲ろう者がいると思うが、お互いにどのように交流しているのかを知りたい。なぜなら、盲ろう者の中でも、発話ができる人、手話だけの人がいるので、お互いにどのように意思疎通しているのかを知りたい。 福島:  1つ目。外出できない盲ろう者とは、要するに、視力・聴力がかなり落ちていて、1人では歩くことが難しい盲ろう者だと思う。盲ろう者への支援は、通訳ではなく、通訳・介助と呼んでいる。結局は、盲ろう者のための通訳・介助員の派遣制度を作るしかないと思う。重要なことは、各団体がばらばらに活動したり、国や自治体に要望するのではなく、1つにまとまること。3つ目の質問に関係してくる。  3つ目。ろうベースの盲ろう者と盲ベースの盲ろう者が、どうやって交流するのか、1対1の会話であれば、盲ベースの人が手話を覚えたり、ろうベースの人が点字を覚えたりする方法がある。しかし、会議等で複数の人が話し合う場合は、通訳者が不可欠。ろうベースの盲ろう者の手話表現を上手に音声に通訳する人が大切。そして、盲ベースの人は、ゆっくりと分かりやすい表現で話すことが大切。ただ、盲ベース、ろうベースという分類は、あまり意味がない。森さんのように生まれつき盲ろうの人は何と呼ぶのか。そして、盲ろう者全体の中で、もっとも数が多いのは、成人になってから、事故や病気で盲ろうになった人たちである。盲ベースやろうベースといった狭いカテゴリーに捕らわれるのではなく、皆、目と耳に障害を持ち、それぞれに苦労している人たちの集まりだと考えることが大事。 小林:  私が住んでいる愛知県では、通訳・介助員の養成講習会を行っている。これは、ろう者のための手話通訳者や視覚障害者のためのガイドの養成と異なり、盲ろう者に特化した通訳・介助員の養成講習会である。  日本では、各都道府県が、この講習会を必須事業として行っている。標準カリキュラムが示されているが、各都道府県で実施するため、その地域の盲ろう者の実態に応じて、カリキュラムが構成されている。大事なことは、ろう者のための手話通訳、視覚障害のためのガイドヘルパーを利用するのではなく、盲ろう者に特化した支援者を利用できるようにするために、盲ろう者向けの通訳・介助員養成講習会が行えるとよいと思う。 ウズベキスタン・ムラト氏(ソジダ氏言語通訳者):  ウズベキスタンにも障害者年金制度がある。月に、本人は日本円で7,000円、配偶者は4,500円受け取ることができる。  十分なお金ではないので、ソジダさんが、通訳を使いたいと思ってもお金が払えず利用できない。政府が提供する公式な通訳・介助員制度はない。日本と比べると、収入の低い途上国において、どのようにして通訳・介助制度を始めたらよいのか。国家予算も不足しているため、年金額の上乗せもできない。 シンガポール・リサ:  盲ろう者に、どうやって点字を教えられるのか知りたい。盲ろう者から点字を教えて欲しいという要望があり、視覚障害者協会にコンタクトを取ったが、拒否されてしまった。盲ろう者には点字は必要だと思うが、どこにそのリソースがあると思うか教えて欲しい。 福田:  ウズベキスタンからの質問。盲ろう者が、もっと公の場に姿を現して、意思決定については、通訳・介助員が必要だということを訴えていくことが大切だと思う。それが、ひとつの権利擁護運動だと思う。 福島:  福田さんが言ったように、公的な場での盲ろう者の社会参加がとても大切である。しかし、通訳・介助員がいないと、盲ろう者は外出できない。では、どうするのか。日本では、最初は、私と門川さんを支援するグループを作り、寄付を募った。私や門川さんは、お金は払っていない。少しずつの金額で、大勢の人から寄付を集めた。このように実例を示して、国や自治体に交渉した。  ウズベキスタンでは、ろう者文化センターに、大統領が視察に来たとおっしゃった。今度は、みなさんの方から、大統領府に訪ねていくようアポイントを取るとよい。ウズベキスタンは、経済的にあまり豊かではないかもしれない。しかし、国の経済力と盲ろう者の福祉は、必ずしも比例しない。  日本は、GDPがだいたい5兆ドル。しかし、GDPが12兆ドルの中国には、盲ろう者福祉はない。19兆ドルで世界一のアメリカには、ほとんどの地域で盲ろう者のための通訳・介助員派遣制度がない。盲ろう者は人数が少ないので、大した予算はかからない、と国に働きかけるとよい。 森:  シンガポールからの質問。  盲ろう者の状況によると思うが、日本の場合は、盲ろう者支援センターがあり、そこで点字やパソコン等のさまざまなスキルを教えている。日常生活で必要な料理の方法、家事についてトレーニングを受けることができる。重要なのは、盲ろう者専門の支援センターを設立することだと思う。  盲ろう者協会を設立する機会があるならば、その中で、通訳・介助員養成講習会だけではなく、盲ろう者に対する訓練等ができる場を設けることが、大切だと思う。そうした盲ろう者協会の中で、例えば、点字を教えられる人がいない場合は、視覚障害者協会の中で見つけるか、あるいは、盲学校の教員にお願いすることも1つの方法だと思う。盲ろう者のための点字の学習会を開催しているところもある。点字の一覧表があれば、それを使って、盲ろう者と支援者で勉強する方法も考えられる。 庵:  私は、日本点字図書館で、中途視覚障害者向けの点字教室が行われており、1週間に一度通った。通訳・介助員派遣制度を利用して、通訳・介助員と一緒に通った。各都道府県に点字図書館があり、そこで点字教室が開かれ、多くの盲ろう者が通訳・介助員と一緒に通っている。 門川:  点字について一言。リサさんの質問の意図は、聴覚障害から盲ろうになった人にどうやって点字を指導したらよいのか、ということだと思う。  聴覚障害者は、点字について、自分とは無縁のものと思っている場合も多く、聴覚障害から盲ろうになった人は、点字を敬遠する人もいる。私の経験では、聴覚障害から盲ろうになった人が、同じ障害の人に教えることが一番の近道だと思う。それと、聴覚障害者が点字を習得して、そして、盲ろう者に教えるということも考えられると思う。要するにピア・サポートという考えがあってもよいと思う。 3.3.3 Day3 Communication Day:コミュニケーションを深める(9月2日)  会議3日目となるこの日は、各国参加者には、全国盲ろう者大会プログラムに個々に参加してもらい、日本からの大会参加者と交流を深めてもらう日とした。  インド・シンガポール・ネパール・マレーシアの参加者は、社会見学「東京コース(スカイツリー・浅草散策・水上バス等)」に参加し、東京の観光名所を満喫した。また、その他の国の参加者は、大会会場に残り、午前の各分科会、午後の閉会式、その他機器展示・作品販売・友の会コーナー等に参加したり、福島氏、福田氏、森氏らと活発な情報交換を行う等、交流を深めた。  また、タイ・インドから参加した盲ろう児教育関係者は、ふうわ(盲ろうの子とその家族の会)が企画したプログラムに参加し、日本の盲ろう教育関係者、家族らと情報・意見交換を行うことができ、大変有意義な機会となった。 3.3.4 Day4 Envisioning Day:これからを考える(9月3日)  会議4日目となる最終日は、「これからを考える」というテーマで、意見交換が行われた。そして、フェアウェル・ランチを持って、4日間の会議を終えた。  まずは、各国参加者から、本会議開催への感謝の意が示されるとともに、次のような意見が述べられた。  「みなさんと経験を共有できてよかった。」(シンガポール)  「各国の参加者と出会えて、よい学びの機会となった。自国でも、盲ろう者へのサービスを作っていきたい。」(マレーシア)  「まずは、各国で盲ろう者の団体を作っていくことが大切。自国の団体→アジア盲ろう者団体ネットワーク→世界盲ろう者連盟と繋がることが重要である。よって、各国で盲ろう者団体を設立し、世界盲ろう者連盟に繋がっていけるようにしよう。」(ネパール)  「盲ろう者団体を設立したいと思う。」(ウズベキスタン)  「これを機に、2回、3回と回を重ね、盲ろう者の活動を続けていきたい。」(韓国)  そして、最後に、「アジア盲ろう者団体ネットワーク構築」に向けての議論がなされた。  日本・福島氏から、次のような提案を行った。  「この会議をきっかけに、みなさんとネットワークを作っていきたい。  当面の間、事務局は日本が務め、コーディネーターは、福田暁子氏にお願いする。  最終的には、アジア盲ろう者団体ネットワークを目指す。  しかし、当面の間は、各国で盲ろう者の団体がなければ、盲ろう者福祉は進まないと思う。  今、まだ盲ろう者団体がない国は、皆で協力して団体を設立するようにしていこう。  アジアの盲ろう者ネットワークは、今すでに団体がある国の繋がりだけでなく、これから団体を作ろうとしている国、そしてこれから作ろうとしている団体を支援する人たち、全ての人が繋がる。そこから始めたい。  ぜひこうしたネットワークを作ることに皆さんも賛同してほしい。」  その後、コーディネーターを務める福田氏より、今後ネットワーク構築に向けて、どう取り組んでいくかについて、下記のような提案がなされた。  「3つアイディアがある。  情報がキーになる。皆さんから情報を集め、メールマガジンを発行してはどうか。  ホームページを立ち上げてはどうか。  私たちの声を届けるために、自己紹介『マイ・ストーリー』を作ったが、ほかの盲ろう者の話も集めて、それを届けていってはどうか。」  これらの日本からの提案に対して、一部の参加者から、「アジアにおけるネットワークを作ることには賛成だが、日本の負担が重過ぎるのではないか。」、「アジア盲ろう者団体のネットワークは、世界盲ろう者連盟の傘下となるのか?」、「計画・準備を全て日本に任せることは、少し違うと思う。」等の声が挙がった。  これに対して、再度、福田氏、福島氏より、下記のような説明を行った。 福田:この6月まで、世界盲ろう者連盟の事務局長をしていたが、それを辞めたのは、アジアでの活動を、誰かがやらなければならない大切なことだと気づいたから。世界盲ろう者連盟事務局長時代は、世界各地の盲ろう者団体と連絡を取り合っていた。そうして気づいたのは、アジアの国々で盲ろう者団体がある国がとても少ない。  大きな地域団体としては、FLASCというラテンアメリカの地域団体。同じくアフリカ地域では、アフリカ盲ろう者連盟という地域団体がある。そして、最大の地域団体はEDBUというヨーロッパ盲ろう者連合になる。北米には2カ国しかないが、地域団体がある。そしてアジアとオセアニアは、地域団体が存在しない。これらの地域団体は、世界盲ろう者連盟の傘下の団体ではない。例えば、アフリカ盲ろう者連盟に所属しているが、世界盲ろう者連盟には加盟していない国もある。 福島:世界盲ろう者連盟の構成団体は、地域団体ではなく、国団体となる。  アジア盲ろう者団体ネットワークを作ろうと思ったのは、アジア地域は世界の中で盲ろう者福祉が遅れている。世界盲ろう者連盟傘下ではなくても、アジアネットワークを作れば発言力が強まる。  発言力が強まれば、2つ意味がある。この発言力というのは、世界的組織、例えば、国連、世界盲ろう者連盟等に対する発言力と、それぞれの国の政府に対する影響力が強まる。  日本だけで進めるのではなく、みなさんに仕事を依頼したい。日本がリーダーになる、というわけでもない。コーディネーターに過ぎない。このネットワークは、各国に盲ろう者団体が出来ることをお互いに応援しようというところから始めたい。 福田:今回は、みんなが集まり、みんなのことを知るということが大事だと考えている。  夢は大きく持つべきだが、小さいことから始めよう。  この後、フェアウェルランチをもって、4日間の会議日程をすべて終えた。 3.4 各国参加盲ろう者自己紹介「マイ・ストーリー」  前節のプレゼンテーション内容と一部重複する部分もあるが、各国からの盲ろう参加者の自己紹介を掲載する。 Pradeep Sinha(プラディープ・シンハ)(インド)  私は、プラディープ・シンハと申します。インドから来ました。今、カルナータカ州のバンガロールにあるIT Asset Management(ITAM)というDELLの会社で働いています。カルナータカは、私の生まれ故郷であるコルカタから1856kmとかなり離れていて、電車でほぼ2日かかります。これから、私の旅の話をします。  私は、大勢の家族の中で、唯一のろう者であり、兄弟の中で唯一の男です。私には、現在まで私を愛してくれ、私もいつも気にかけている5人の女兄弟がいます。  私が視力を失い始めたのは、はっきりとは覚えていないほど、かなり小さなころでした。そのころのことで、唯一覚えていることは、ほかの子供たちと、もう外に遊びに行くことができなくなったということです。そのことで酷く腹を立て、退屈していたことを覚えています。私は編み物を覚えて、1日中暇をつぶしていました。  ある日、父と母と共に、家から遠く離れたボンベイまで電車で旅をしました。  周囲を取り巻くさまざまな匂いも、食べ物の味も違っていました。私たちの目的は、盲ろうの子供たちのための学校に行くことでした。学校生活が始まってしばらくすると、私にも数人の友達ができました。現在は、さまざまな場所に住んでいますが、今も皆友達です。  私は、全国学力テストに合格し、学校を卒業し、コンピューターの教師になるための資格を取得しました。この時期に、多くのことを学び、多くの友達を作り、さまざまな興味深い経験をしました。私は、インドのさまざまな州や街を旅して、友達を訪問しました。両親は、大変心配しましたが、私にとっては楽しい旅でした。  点字印刷の会社で働くようになってから、さまざまなテクノロジーの活用について関心を持つようになりました。テクノロジーを活用することで、さまざまな形で私たちの生活を支援することができるようになると考えており、全ての障害者が利用できるようにすべきであると私は信じています。ですから、Enable India(イネーブル・インディア)を通じてバンガロール市にあるEMCでのインターンのオファーを受けたとき、大変興奮しました。  私が家族や盲ろうの友達から遠く離れ、一人暮らしをすることとなったことで、私の人生における新しいステージが始まりました。この新しい街で、生活の方法について学び、多くのつながりを作り、人生の新しい道を発見しました。  EMCでは、自分の技術と業務スキルを伸ばすことができ、現在、テクニカルリサーチ部門でテクノロジーに関する業務に従事しています。  現在も、一人暮らしをしています。そして、職場やろう者のクラブ活動、Enable Indiaを通じてできた友達とたくさん出会うことができました。  長い就業時間ですが、一人暮らしをしているため、友達と会話したり出かけたりしたいと思っています。  大変光栄なことに、私は、インド盲ろう者エンパワメント協会(SEDB)の議長に就任しました。SEDBは、インドの盲ろうの当事者によって初めて立ち上げられた団体です。私の友人であるZamir Dhaleによって設立されたNGOです。SEDBは、きちんとした教育、研修、支援機器や雇用の機会の提供を通じて、ろう者と盲ろう者をエンパワメントしていくことを目的としています。また、SEDBは、インドの盲ろう者の権利や政策についての運動も行っています。皆さん、SEDBがより一層強く積極的な団体となれるよう、ご支援、激励をよろしくお願いします。   Jo Wonseok(チョ・ウォンソク)(韓国)  みなさん、こんにちは!  韓国から参りました、チョ・ウォンソクと申します。男性で盲ろう者です。  私は1993年10月に生まれました。5歳のときに盲ろうになりました。深刻な風邪を引いて髄膜炎を起こしてしまい、全ての視力と聴力の半分を失いました。今は、何も見ることができません。大きな音なら聞くことができるので、大声でゆっくりと話しかけていただければ、聞き取ることができます。  13歳のときに、福島智教授にお会いしました。教授にお会いして以来、私は夢をもつようになりました。  その夢とは、韓国盲ろう者協会と韓国のヘレン・ケラー・センターを設立するということです。  私は崇実(スンシル)大学で社会福祉とジャーナリズムについて学び、福祉サービスによる盲ろう者の支援の方法について、卒業論文を執筆しました。また、盲ろう者の自立生活の支援というテーマで、環境、コミュニケーション、情報通信のナビゲートという論文を書きました。  現在、「盲ろう者のために手をつなごう(Hold Hands)」という盲ろう者のグループの代表をしています。  私の趣味は、水泳、ドラム演奏、話すこと、食べること、飲むことです!  ありがとうございました! Kim Yongjae(キム・ヨンジェ)(韓国)  私は、キム・ヨンジェと申します。男性です。1976年に生まれました。44歳までろう者でしたが、44歳のときに、視力を完全に失いました。アッシャー症候群で、囲碁が得意です。また、他の盲ろう者のためにボランティア活動をしています。  私は盲ろう者協会もしくは盲ろう者のためのセンターを設立したいと考えています。 Lee Taegyeong(リー・テギョン)(韓国)  みなさん、こんにちは。はじめまして。リー・テギョンと申します。男性です。1982年5月に生まれました。  趣味は、読書をすること、友達を作ること、海外旅行をすることです。  2歳のときに、高熱が出て、その後、聴覚の全てと視力の半分を失いました。そして、20歳代になってから盲ろうになりました。  人生の転換点は、24歳のときに、友人と一緒に教会に行ったときでした。友人は、触手話を使って私に通訳をしてくれました。それまで私は、さまよい歩いていましたが、神様がお救いくださいました。  現在は、私を助けてくれる人がたくさんいるのでとても幸せです。私はブレイルノートテイカーも持っています。  私の夢は、外国人の友達を作ることと釜山で盲ろう者のためのグループを立ち上げることです。 Park Kwanchan(パーク・クワンチャン)(韓国)  私はパーク・クワンチャンと申します。男性です。1987年に生まれました。私は視神経萎縮により盲ろうになりました。  韓国障害者雇用エージェンシーの記者として働いており、盲ろう者としてのコラムニストとしても活動しています。  また、障害に対する意識を向上させるための活動も行っています。  私は、活動家になりたいと思っています。 Son Changhwan(ソン・チャンワン)(韓国)  私はソン・チャンワンと申します。男性です。1970年12月に生まれました。子供のころからろう者で、弱視です。ろう学校に通い、手話を学びました。  趣味は、舞台で演劇をすることです。  現在、マッサージセラピストとして働いています。また、ろうベースの盲ろう者のためのクリスチャンの会合に参加しています。  夢は、盲ろう者または高齢の盲ろう者のためのセンターを設立すること、そして諸外国の盲ろう者のセンターを訪問することです。 Kong Guat Lay(コン・グアット・レイ)(マレーシア)  私は、コン・グアット・レイと申します。1964年5月25日生まれの54歳で、先天性のろう者です。  成長するにつれて、私の視力は徐々にぼやけるようになりましたが、私自身にも原因が何かわかりませんでした。  学校を卒業後、タイピストになるための勉強をしました。2年後、就職をしましたが、視力がはっきりしないまま、コンピューターを使いながら仕事をしていました。上司は、少し気分を害していましたが、私がなぜミスをしているのか教え続けてくれました。  私は退職することを決め、その後、クアラルンプールにあるYMCA(キリスト教青年会)で働き始めました。まだ22歳のときでした。  私が、ある特定の作業で、いつも同じミスを繰り返していたため、マネージャーは私の視力を心配するようになりました。  在職して6年目、マネージャーが、私に受診するよう言ってきたので、それに同意しました。いくつかの治療や精密検査を受ける必要があるという診断だったため、私は合併症があるのではないかということを恐れていました。飲み薬も役には立ちませんでした。  上司がカナダから帰国しました。彼女は、私がこの先、視力を失う可能性があること、触覚を使ったコミュニケーションの方法を学ぶ必要があることを教えてくれました。  それからの4年間、私はクアラルンプールとムラカを行き来しました。その後、仕事を辞めることを決め、夫と共にムラカに住むことになり、1990年に結婚しました。最初の子供を妊娠した1991年ごろには、視力はだんだん下がっており、ものがよく見えなくなってきていました。1992年に、2人目の子供を出産しましたが、右目の視力が悪化し始め、30歳ごろには視力を失いました。そして、すぐに左目の視力も衰え始め、2000年、36歳で全盲になりました。私は、すごく落ち込んで、泣いてばかりいました。  その後、私は家族のもとに戻りました。朝、学校に行くための準備をするなど、2人の子供たちの母としての責任を果たさなければなりません。  私は、家の周囲を移動する方法や子供たちのために料理を作る方法、子供たちをスクールバスに乗せるために家の前まで連れていく方法など、さまざまなことを学びました。現在、2人の子供は、無事に成人しました。 Puspa Raj Rimal(プスパ・ラジ・リマル)(ネパール)  生年月日:1976年8月20日  障害:盲ろう(生まれつき全盲で、2010年からろう者となり、盲ろうになりました。)  婚姻状態:既婚  家族:妻と1人の息子  教育資格:学士課程修了  職業:教師  働いている学校:Amarsingh Secondary School(ネパールの9〜12年生が通う義務教育ではない学校)  卒業した学校:Namuna Machhindra Secondary Boarding School(ナムナマヒンドラ高等中学校)  業務経験:  A.1996〜1999年 ネパール盲人協会(NAB)理事  B.2008〜2012年 Kaski(カスキ)地域盲人協会副議長  C.2014〜2016年 障害者全国連盟、Kaski地域副議長  D.2012〜2018年8月 ネパール盲ろう者協会議長   E.2018年6月21日〜 世界盲ろう者連盟役員 Francis Foo(フランシス・フー)(シンガポール)  私は、フランシス・フーと申します。男性です。1955年に生まれました。  私は、夜に見えにくくなったり、スポーツで多くの事故にあうようになったことで、自分の視覚に問題があることに気が付きました。スポーツをすることが大好きでしたが、目の状態が悪くなってからは、セーリングに行くのをやめました。  リサと知り合い、彼女から触手話を習うようになりました。触手話は、私のコミュニケーションスキルを伸ばす手助けとなってくれ、触手話が、日々のコミュニケーションを取る上で、最高の方法だと気づきました。  また、リサは、毎週木曜日、私のランニングの伴走も務めてくれたり、伴走をしてくれる人たちを紹介したりしてくれました。現在は、以前と比べて自信を持つことができています。  今は引退し、2人の孫のおじいちゃんとして、家で大半の時間を過ごしています。そして、毎週木曜日に走っています。  私は、シンガポールの地域レベルで、盲ろう者のための支援がもっと増えることを願っています。 Lisa Loh(リサ・ロー)(シンガポール)  私はリサ・ローと申します。30歳の女性です。シンガポールから参りました。  私は、夜にいろいろな事故に遭うようになったため、眼科の専門医を受診することを決意しました。そこで、網膜色素変性症と診断を受けました。  病気が発見されてから、私は数年間希望をなくし、ダスキン研修プログラムという海外研修への応募を決意するまでの間、盲ろう者として生きていくことについて心配ばかりしていました。この研修が、私の人生にとって、本当に大きな転換点となりました。  現在、フルタイムで働いている一方で、障害学の学士コースで学んでいます。そして、毎週木曜日の夜は、フランシスさんをガイドしながらランニングをしています。私は、もっと多くの盲ろう者が社会の主流なところに参加し、障害のない人たちと同じような選択をしていけるような社会になることを望んでいます。 Sojida Tadjieva(ソジダ・タジエバ)(ウズベキスタン)  私は、ソジダ・タジエバと申します。1974年6月27日に、旧ソビエト連邦(現在のウズベキスタン)のタシケントで先天性の聴力障害で生まれました。  5歳のとき、就学前の聴覚障害児のための特別な寄宿学校102番に入りました。そして、7歳からは、同じ学校で小学1年生となり、1988年に卒業しました。学校に在籍していたころは、視力は良かったのですが、白内障という診断を受けました。  1992年(18歳のとき)に、裁縫師として働いていた聴覚障害者のための特別な研修と製品を作成する会社で出会ったろう者の男性とお見合い結婚させられました。私は、彼とその母(のちの私の義母)とそのときに初めて出会いました。そのとき、私にはボーイフレンドがいたにもかかわらず、私の両親と、のちに夫となる彼の両親は結婚することを主張し、私の同意もないまま早急に婚姻を結ばされました。  1994年、私たちに男の子が生まれ、ベクゾッドと名付けました。息子を出産してから、私の視力は徐々に低下していきました。  1997年、私の長男であるベクゾッドは、高熱があるにも拘わらず割礼を受けさせられた結果、突然亡くなってしまいました。  結婚以来、私は私の義理の両親に加えて、夫の3人の兄弟の家族の家事を担っていました。  当時私たちを助けてくれた人は誰もいませんでした。誰も救急車を呼んでくれませんでしたし、子供の面倒を見るなど助けてくれた人もいませんでした。私が2度目の妊娠をしたときは、インフルエンザにかかってしまい、4か月で子供を流産してしまいました。その後、また5か月半の子供を流産してしまいました。流産を繰り返す一方で、視力も徐々に失われていると感じていました。暗いところではあまりものが見えなくなり、夜盲を経験するようになったことで、ナーバスになっていきました。  もう家庭でも家事をすることができなくなり、しばしば病気にもかかっていましたが、全盲になるとは考えていませんでした。  2001年、4回目の妊娠をし、赤ちゃんは生まれましたが、彼は数ヶ月しか生きられずに亡くなってしまいました。2003年、5回目の妊娠をして、私の唯一の娘であるMekhriniso(メフリニソー)を出産しました。彼女は現在15歳です。中等部で10年生になっています。  最後の出産以降、片目の視力は悪化し、片方の目でしか見ることができなくなりました。実の母は、私を助けることを決め、私の生まれたばかりの娘を家に連れて帰り、3年の間彼女の面倒を見てくれました。  人生の転換期は、2011年に視力が完全に失われ、盲ろうになったときに訪れました。私は裁縫師として働いていた会社での仕事を失いました。  しかし、私が手話を知っていたことは、他の人とコミュニケーションをとる上で、おおいに役に立ちました。現在、私はなんの仕事もしておらず、1日中家で過ごしています。  夫は、娘が学校から帰ってくるまでの間、私の面倒を見ることができるよう、転職しました。  私は、何かすることで、気分を落ち着かせるためにも、在宅で仕事をしたいと思っています。時々通りに置いた椅子に座って過ごしていますが、もっと歩きたいと思っています。  将来的には、適切な仕事を見つけて、この怠惰な生活から抜け出したいと思っています。 福島 智(ふくしま さとし)(日本)  東京大学教授(先端科学技術研究センター)  全国盲ろう者協会理事・世界盲ろう者連盟アジア地域代表  私は9歳で失明し、18歳で失聴した全盲ろう者です。私が盲ろう者となったのは今から37年前、ちょうど国際障害者年の年である1981年の初めのことでした。18歳で全盲の状態から盲ろう者になったとき、とてつもなく大きな衝撃を私は受けました。私に最も大きな苦痛を与えたものは、見えない、聞こえないということそのものではなく、他者とのコミュニケーションが消えてしまったということでした。  私は驚きました。他者とのコミュニケーションがこれほど大切なものであるということをそれまで考えたことがなかったからです。私は深い孤独と苦悩の中で考えました。「人は見えなくて、聞こえなくても生きていけるだろう。しかし、コミュニケーションが奪われて、果たして生きていけるのだろうか」と。  このように、私は絶望の状態にありましたが、その暗黒と静寂の牢獄から解放されるときがやってきました。その解放には3つの段階がありました。  第1はコミュニケーション方法の獲得、私の場合は新しいコミュニケーション方法の発見でした。つまり、「指点字」という新しいコミュニケーション法が母によって発見され、私は再び他者とのコミュニケーションをとり戻すことによって、生きる意欲と勇気がよみがえってきたのです。  私にとっての解放のための第2の段階は指点字という「手段」を用いて実際にコミュニケーションをとる相手、身近な他者に恵まれた、ということでした。  そして、第3の段階は、「通訳」というサポート、すなわち、私にコミュニケーションの自由を保障してくれるサポートを安定的に受けられる状態になった、ということです。  その後まもなく、1981年の11月に、私を支援するための民間のボランティアグループが東京で結成されました。そのグループの活動内容は、私の大学進学と入学後の生活を支援するために必要な通訳者の確保と養成、派遣を行うということでした。私はこのグループから派遣される複数の指点字通訳者たちによるサポートを受けながら、1983年に日本で初めての盲ろう者の大学生となりました。盲ろう児のための教育学を専攻し、大学院に進み、いくつかの大学で教員として勤めた後、現在は東京大学で教授として働き、障害学を研究しています。  そうして、私が盲ろう者となって10年がたった1991年、この東京のグループが出発点となって、全国盲ろう者協会(JDBA)という社会福祉法人が設立されたのです。これは政府の補助と民間の寄附を財源に、盲ろう者の自立と社会参加を支援するための活動を行う協会です。  このように、この40年近い年月はいったん盲ろう者としての孤独のどん底を体験してから、そこから三つの段階を経て徐々に解放されていくプロセスだったように思います。  福田 暁子(ふくだ あきこ)(日本)  私の名前は福田暁子です。1977年生まれの女性です。東京に住んでいます。通訳・介助員派遣制度を含むさまざまなサービスを利用しながら一人暮らしをしています。猫を飼っています。料理をするのも大好きです。  生まれたときは弱視でした。17歳のときに多発性硬化症を発症し、それが原因で視覚障害以外に、聴覚障害、歩行障害、呼吸器障害などが加わりました。盲ろう者になったのは2006年、28歳のときです。  小学校、中学校は、養護学校のサポートを受けながら一般の学校に通いました。  高校は地元の盲学校と東京の盲学校のサポートを受けながら一般の高校に通いました。高校卒業後、東京の大学に進学して英米文学を学びました。  大学卒業後、アメリカの大学院に進学して、ソーシャルワークとリハビリテーション・カウンセリングを学びました。大学院卒業後、国際機関、NGO、大学、医療機器メーカーなどで働きました。  2006年に難聴が始まり、2011年頃には補聴器を使ってもほとんど聞こえなくなりました。2011年に東京盲ろう者友の会の支援につながるまで、自分が盲ろう者であるとは知りませんでした。東京盲ろう者友の会を通して、たくさんの盲ろうの友だちができました。東京都盲ろう者支援センターで、触手話の訓練を受けました。それまで、障害者関係の仕事や活動をしてきたのに、自分が盲ろう者になるまで、盲ろう者がいることに気づいていなかったことがとてもショックでした。  2012年から全国盲ろう者協会の国際情報委員会の委員として活動を始めました。最初は自信がありませんでしたが、盲ろうになる前の経験と、盲ろうになってからの経験を活かすことができて嬉しいです。2013年から2018年まで世界盲ろう者連盟の事務局長を務めました。2018年7月から、アジア・デフブラインド・ネットワークのコーディネーターになりました。国際協力活動の他に、大学や専門学校で教えています。地域の自立支援協議会の活動や仕事をしています。 森 敦史(もり あつし)(日本)  私の名前は、森敦史です。生まれたときから盲ろうです。現在27歳です。コミュニケーション方法は触手話、指点字及びコミュニケーションボードです。  現在、私は筑波技術大学大学院で情報アクセシビリティを専攻しています。  3歳のときに、難聴の子供たちのための就学前教育を受け始めました。6歳で地元のろう学校に入学しましたが、10歳のときに東京の筑波大学附属盲学校(現 筑波大学附属視覚特別支援学校)に転校しました。19歳で大学に入学し、25歳から大学院に進学しました。  私は、日本の盲ろう者の安全で快適な生活環境の計画の立案とその構築に貢献したいと思います。 3.5 その後の各国の状況(2019年3月現在)  第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議に参加した各国の状況を、以下に記す。 <シンガポール>  盲ろう当事者フランシス氏、リサ氏の2人で、大学等で講演を行い、啓発活動を始めている。  また、盲ベースの盲ろう者がいることも分かり、指点字通訳についても学び始めた。  多くの盲ろう者に会いたいということから、2019年8月にオーストラリアで開催されるDbI世界会議に参加する予定。 <インド>  プラディープ氏が会長を務めるSEDB(盲ろう者団体)が、世界盲ろう者連盟に会員申請を行っているが、センスインディアがすでに会員認定されていることから、保留状態になっている。SEDBは、盲ろう当事者中心の団体であること、アジア盲ろう者団体ネットワーク会議にも招聘したことなどを、日本から、世界盲ろう者連盟会長にも説明した。 <ネパール>  デンマークの盲ろう者協会の支援が入っている。触手話支援者養成講座、盲ろう者掘り起こしキャラバン活動がなされている。ろう学校を対象に、眼科検診を行い、見えにくい生徒を探す活動も実施している。 <ウズベキスタン>  タシケント市ろう者文化センターが、タシケント市ろう者・盲ろう者文化センターに変わった。盲ろう者のリソースルームを作っている。 <韓国>  2019年4月初旬に、韓国盲ろう者大会を開催すべく準備を進めている。2014年頃にも開かれているが、その後は行われていない。昨夏のアジア会議に参加したチョ・ウォンソク氏が立ち上げたソンチャプタと、ろうベースの触手話利用者を対象とするソンクッセがあるが、アジア会議に参加したことにより、盲ベース・ろうベースの盲ろう者がいっしょになって活動できることを確信した盲ろう者が中心となり、大会を計画している。 <タイ>  アジア会議には、盲ろう教育関係者の教師が参加していたが、盲ろう教育を進めていきながら、成人の盲ろう者に関する活動も続けていく方向。タイの盲ろう児教育の中心は、チェンマイになり、2019年10月にシリントン王女の訪問が計画されている。 4.盲ろう者国際協力人材育成研修会 4.1 背景、目的  全国盲ろう者協会では、2003年から盲ろう者国際協力推進事業を展開し、世界盲ろう者連盟の加盟団体となり、世界の盲ろう者に関する情報収集を行うとともに、日本からも情報を発信する活動を続けている。近年では、盲ろう障害への認知度が低いアジア各国への支援に注力している。そのような中で、2018年から5カ年計画で、日本財団の助成を受け、「アジアにおける盲ろう者団体ネットワークの構築」事業を実施することとなった。本研修会は、盲ろう者の国際協力に興味関心のある盲ろう当事者を対象として、世界各国、特にアジア各国の盲ろう者のおかれた現状を共有するとともに、日本からどのような国際協力ができるのかを考え、今後国際協力に携わることのできる者を育成する目的で開催することとした。 4.2 日時、会場、受講者、プログラム <日時>  2019(平成31)年 3月9日(土)9:30〜16:30(9:00より受付開始) <会場>  全国障害者総合福祉センター(戸山サンライズ) 2階大研修室  〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1  URL http://www.normanet.ne.jp/~ww100006/tizu.htm <受講者>  盲ろう当事者7名(東京6名、鳥取1名) <プログラム> 9:00 受付開始 9:30 開会  第11回ヘレン・ケラー世界会議及び第5回世界盲ろう者連盟総会報告  第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議開催報告 12:30 昼食・休憩 13:30 ワークショップ ―日本の盲ろう者の現状とアジア各国の盲ろう者の現状を知り、盲ろう者国際協力のあり方を考える―  閉会 16:30 終了 <講師> 福田暁子氏(全国盲ろう者協会評議員、国際協力推進事業委員) 森敦史氏(全国盲ろう者協会国際協力推進事業委員) 4.3 主な内容  福田暁子氏をメイン講師として、また、森敦史氏のご協力の下、本研修受講者と対話を通しての1日研修となった。  午前中は、受講者・講師の自己紹介に続いて、2018(平成30)年6月19日(火)〜27日(水)にスペインで開催された「第11回ヘレン・ケラー世界会議」及び「第5回世界盲ろう者連盟総会」、また、2018(平成30)年8月31日(金)〜9月3日(月)に千葉県千葉市で開催した「第1回アジア盲ろう者団体ネットワーク会議」について、受講者との情報共有の場となった。  また、午後には、障害者の権利に関する条約(CRPD)、及び持続可能な開発目標(SDGs)の内容を取り上げながら、国際協力の必要性・重要性について、理解を深める場となった。  以下は、講師の福田暁子氏の発言内容を要約した上で記す。 <福田暁子氏が国際協力に関わるようになったきっかけ>  私は、盲ろうになる前に国際関係の仕事をしていた。日本の大学、アメリカの大学院卒業後、国際機関で公務員として、障害者の国際協力の仕事をすることになった。しかし、事務所内での仕事が多く、現場に出ることが少なかったこともあり、何かむなしい、もの足りない気持ちを抱いていた。  その後、タイに引っ越し、タイの障害者のNGOで働いた。仕事は、主に災害の起こった地域での障害者の支援、障害者を現地に派遣する担当になった。障害者が、同じような障害を持った人に会って、がんばろうと励ますこと、それが一番効果的だったことを今でも覚えている。  一例として、パキスタンで大きな地震があった。そのときに、日本の障害者がパキスタンの障害者へ支援物資などを届けるために、大型バスで助けに行った。障害者が行ったことには、とても意味があった。突然、障害者になってどうしたらいいのかも分からず、もう私の人生は終わりだと思っていたところに、同じような障害を持った人が、車椅子に乗って、元気に自分を助けに来てくれたから。自分も誰かを助けたいと言ってくれた。障害当事者が現地に直接行って、支援をすることの大切さを学んだ。  その頃、ちょうど私自身が耳がどんどん聞こえなくなっていき、目も、もともと弱視だったが、視力も落ちていった。日本に帰ってきて、どうしようかなと思っていたときに、大震災(2011年)が起きた。この大震災がきっかけで、また障害者の支援に携わるようになった。2011年の震災後、ようやく東京盲ろう者友の会につながり、そして、翌年、全国盲ろう者協会の国際協力推進事業の委員にならないかと声をかけられた。はじめは自信がなかったため断ったが、何度も誘われたこともあり、試してみることにした。これが大きなスタートだった。  実際にやってみて分かることがある。私は障害者の支援に関わってきたが、途上国で盲ろう者に会ったことがなかった。自分が盲ろう者になってから、「あれ?盲ろう者は途上国のどこにいるのだろう、いるはずだな」と思い、そこから盲ろう者探しが始まった。  国際協力の携わり方はとてもシンプルで、一番の武器、力になるものは、皆さんの自分自身の経験と存在。自分自身の今までの辛かったこと、楽しかったこと、他の人と関わってきたこと、何でもすべてが力になる。それを持って、直接出会って、つながりを作る。それが基本。 <盲ろう者のグローバル・レポートについて>  今まで、障害者全体の報告書、視覚障害者に関する報告書、聴覚障害者に関する報告書等はあったが、ヘレン・ケラー世界会議の前に、「盲ろう者の世界報告書はない。国際協力を進める上でも、盲ろう者がどういうふうに生活をしているのか、どのようなニーズがあるのかわからないまま支援することは難しい」という話があった。そこで、初めて世界の盲ろう者の状況に関するレポートを作ることになった。  世界の中で、盲ろう者の福祉が進んでいる国の1つが日本、その他は、オーストラリア、北欧の国々である。  受講者との対話を通じて、このレポートで取り上げられている基本的事柄について、次のような観点で、知識の共有を図った。 「盲ろうは固有の障害である」 →盲ろう者が抱える3つの困難。コミュニケーション、移動、情報入手。 「盲ろう者が他の障害者と比べて貧困になりやすいのはなぜか?」 →職に就く難しさがある。  高所得国の盲ろう者ですら困難、途上国の盲ろう者はもっと困難な状態に置かれている。調査では、高所得国19カ国中、盲ろう者に必要な法的な通訳・介助者サービスがある国は、半分以下。途上国18カ国中、通訳・介助者のサービスのある国はゼロ。通訳・介助者のサービスがなければ、できることが限られ、途上国の盲ろう者ほど社会参加はできないことが分かった。 「盲ろう者の多様性」 →障害を受けた時期、教育環境等によって、コミュニケーション方法も多様であり、また、盲ろう以外の障害を持っている人もいる。 <世界会議の報告>  日本には全国盲ろう者協会があるように、アジアでは、日本、インド、ネパール、バングラデシュの4カ国ではあるが盲ろう者団体がある。また、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ、オセアニア地域でも、各国に団体がある。盲ろう者の地位や理解の促進をはかるために、国の盲ろう者の団体同士がつながった組織がある。それが世界盲ろう者連盟。  世界会議は、6月19日〜27日に、スペインで開かれた。前半は、世界盲ろう者連盟の総会で3日間かけて、時期役員選挙が行われた。私は、5年間事務局長を務めたが、アジアの盲ろう者がいないことに心を痛めていたため、アジア地域代表の福島智氏と一緒にアジアの盲ろう者の活動に力を注ぎたいと思い、今期は辞退した。アジアからは、ネパールの盲ろう者協会のプスパ・ラジ・リマル氏が役員に選ばれた。  後半は、ヘレン・ケラー世界会議。世界盲ろう者連盟の会員に限らず、誰でも盲ろう関係のことを発表したい盲ろう者が登壇できる。意見交換や交流を中心とした会議。  そして、最後の日には、「盲ろう者の日」を祝うイベントがあった。  会議は、全体会といって、全員が集まる会が5回、テーマごとにあった。全体会が終わったあとに、3つの分科会に分かれる。興味のある分科会に自由に参加できる。  全体会の情報保障は、大きなスクリーンがあり、中央に登壇者、その下に英語の字幕が3行、その下にスペイン語の字幕が3行映された。左右に手話通訳者の映像があった。どちらかがスペイン語の手話通訳で、どちらかが国際手話通訳。  分科会の情報保障は、発表者の責任になっていた。例えば、ドイツの発表の場合、ドイツ手話→ドイツ語音声→英語音声→日本語音声→そして私たちにそれぞれのコミュニケーション方法で通訳された。3回くらい、普通に通訳が入ることになる。  テーマは難しいものが多く、障害者の権利条約、情報とコミュニケーションの権利、教育・文化、権利擁護、団体運営について等の内容で報告がなされた。  今回の世界会議で、大切なことは、最初に取り上げた盲ろう者のグローバルレポートを、参加者全員で見直し、意見を集めたこと。盲ろう者の意見を書かないで、盲ろう者のことをレポートにすることはありえないと主張した。  その他には、直接いろいろな国の盲ろう者に触れて、挨拶ができたことである。 (写真)大きなスクリーンの中央に登壇者の映像、その下に英語の字幕が3行、その下にスペイン語の字幕、左右には手話通訳者が映っている。 <アジア会議の報告>  8月31日〜9月3日の4日間で開催した。最初の3日間は、全国盲ろう者大会と同時並行で開催した。  参加国は、日本を入れて、8カ国の参加があった。日本、インド、韓国、マレーシア、ネパール、シンガポール、ウズベキスタン、タイ(支援者のみ)。海外からは、盲ろう者11名、総勢33名の参加だった。盲ろう者のコミュニケーション方法は、手書き文字、触手話、弱視手話、音声、パソコン通訳と、さまざまだった。  4日間の中で、1日毎にテーマを決めた。1日目は、お互いを知る日。2日目は、自分たちのことを発表する日。3日目は、コミュニケーションを深める日。4日目は、これからを考える日。そのようなテーマを決めて、議論した。  主な議論の内容は、次の通り。  1つは、盲ろうが障害として認められているかどうか。  ネパールでは、盲ろうは固有の障害として、最重度に認められている。日本では、重度は1級、2級といったように区分されるが、ネパールは色分けして区分されている。重度の障害者は赤、中度は青、軽度は黄。  盲ろう者は、赤になるが、赤の障害者の意味は、常に誰かが見守り、もしくは介助が必要な人になり、外出が難しい人という意味になる。それで、盲ろう者は重度だから家にいてください、家から出て活動をすることはできない、と言われる。赤の障害者だと、家にいなければいけないが、高い金額の手当てがもらえる。しかし、ネパールから参加したプスパさんは、家から出て活動したい、盲ろう者協会の活動をしたいと思い、政府と交渉して、青の障害者に分類してもらった。  日本では、障害者手帳を取ることは難しい。日本では、盲ろうのサービス制度を使いたくても使えない人もいる。それが理由で外出等が難しくなっているケースもある。ネパールは、障害が重いということで、外出が難しくなっている、そこが日本とは違う点だと思った。  他には、障害者手帳があるかないかの話もあった。  韓国では、障害者手帳がカード型になっていて、銀行のカードの役割も持っている。1つのカードでたくさんのことができることに驚いた。  また、障害者の手帳、障害者の認定制度がない国もあった。シンガポールやマレーシアにはない。 <障害者の権利条約(シンガポールの状況に関連して)>  シンガポールでは、アジア会議に参加したフランシス氏が、地元で報告会を開き、それがきっかけで、新しい盲ベースの盲ろう者が見つかった。その人への支援をどうするか、団体を作るための準備も含めて、試行錯誤している。  障害者の権利条約について、これまでの経緯も含めて、簡単に解説する。  昔の日本もそうだったように、障害者に対して、慈善アプローチという考え方があった。障害がある人はかわいそうだから助けるという考え方。まだ日本でも、少しは残っているが、変わってきた。  その後は、福祉アプローチという考え方に変わってきた。これは、障害者は困っている人たちだから、特別な制度を作ってあげよう。  今は、権利アプローチという考え方に変わってきた。権利というのは、生まれた時から人間は皆持っている。例えば、勉強したり、遊んだり、働いたり、それはすべて権利。それに、嫌なことをさせられない、これも権利。自分の住みたい場所で、自由に生活することも権利。  福祉の中では、盲ろうという障害があることが問題だと思われてきた。しかし、権利の考え方では、本当に問題なのは、私たちが暮らしにくい社会の方が問題である。盲ろうという障害があることが問題ではなく、盲ろうであっても、それに対応できない社会が問題であって、盲ろう以外のどんな障害がある人でも暮らせるように、社会が変わらないといけないというのが、権利アプローチの考え方。  障害者の権利条約は、このような流れでできた。条約は、とても強い国の約束。一番強いのは、憲法。次に強いのが、条約。その次に法律。法律よりも強いのが条約。  障害者の権利という考え方が、1987年に国連で最初に話し合われた。権利というものの大切さがまだまだ分かっていなかったから、その時は、多くの国が反対した。日本も反対した。しかし、だんだんと権利を守ること、社会が変わっていかないといけないことに気づき始めて、ようやく2001年に国連は障害者の権利を守るために条約が必要だと認めた。それから5年間検討を重ね、2006年12月に障害者の権利条約が国連で採択された。5年間かけて条約を作る話し合いの中で、いろいろな障がいの人たちが自分たちの意見を、国連で発言した。  昔、権利という考え方がなかったときは、障害がある人は、自分のことを自分で決めることを許されなかった。誰かが決めていた。家族、先生や周りの人、もしくは国が決めていた。しかし、障害者の権利条約の場合は違う。自分たちのことは、自分たち抜きに決めないで欲しい、と。  シンガポールの話題に戻る。シンガポールは、日本と比べても経済大国になった。しかし、考え方が慈善アプローチで、最初にかわいそうだから助けるという考え方が残っている。  例えば、日本のろうあ連盟はろう者が主体になっている。自分たちのことは、自分たちで考える。しかし、シンガポールのろう者協会は、代表が当事者ではなかった。まだ準備ができていないのかもしれない。歴史が浅く、独立してからあまり時間が経っていないため、意見がまとまっていないだけかもしれない。その背景はわからないが、障害者、障害を持っている当事者が中心となって運営している団体が、非常に少なかったことに驚いた。  また、教会やお寺がたくさんあるが、その入り口に寄付の箱がたくさん置いてある。団体名が書いてあって、自分の気になった団体に、お金をいれて、助けてあげる。これはかわいそうだからかどうか分からないが、そういう文化かもしれない。お互いに助け合うという文化かもしれない。施しという文化かもしれない。しかし、形としては困っている人を助けるという考え方のため、自分たちの意見を言いにくい文化とも言え、盲ろう者が団体で支援者を集めて活動することの難しさを聞いた。 <持続可能な開発目標(SDGs)>  SDGs(Sustainable development Goals)は、簡単にいうと、世界中の皆でめざす2016年から2030年までの目標になる。  Sustainableは「持続可能」、Developmentは「開発」、Goalは「目標」という意味になる。持続可能とは、続いていくこと。開発とは、発展していくこと、人間の成長も英語ではDevelopmentと言う。  簡単にいうと、今までは、「少し支援しておしまい、あなたのことは忘れた」だったが、それではいけない、ずっと続けていくこと、つながっていく必要があるということを示している。  ゴールにはどんな種類があるかについて議論がなされ、17の目標、その下にターゲットとして、いつまでに誰がどのように達成するかという具体的プランが定められた。  今回は、このSDGsのもっとも大切な理念を覚えて帰って欲しい。「だれも取り残さない」というもの。  障害が進行して盲ろうとなり、コミュニケーション方法を失ってしまったケースを考える。コミュニケーション方法がなくなったから、もう繋がることができないというのではなく、そういう状況を生んではいけない。盲ろう者の誰も取り残さない方法を一緒に考えていく、それが開発である。  どんな場面で、日常的に盲ろう者は取り残されているのだろうか。取り残されている状況が把握できないから、取り残されているかどうかが分からない。そういう難しさがある。しかし、どういうところで取り残されているかを意識して、きちんとそれを伝えることが大切。みなさんも考えてほしい。 <今後の取り組み>  アジアの盲ろう者全体が、世界からおいていかれつつある。特に、今はインターネットで人がつながるようになった。盲ろう者が自分自身で情報を得る手段、例えば、私の場合は、点字を使って情報を得られる。ところが、アジアの国は貧しい国が多く、支援機器が手に入らない。また、それを使うために、教える人もいない。そうすると、どんどん繋がりから離れていってしまうという課題がある。アジア会議の後、マレーシアとウズベキスタンの盲ろう者とは、直接という意味では繋がっていない。いつもどうしているのかと気になっている。  今後は、2020年、2022年に、アジア盲ろう者団体ネットワーク会議を開催したい。また、毎年1カ国には出かけて、団体の立ち上げなどへの支援をしていきたい。2019年度には、モンゴルを訪問する予定。  今回のアジア会議では、海外から7カ国の参加が得られたが、次回、次々回には、もっと多くの国からの参加が得られるようにしていきたい。 ***** 参考資料 <参考資料1> 盲ろう者の状況と権利に関するグローバル・レポート 盲ろう者と不平等 −障害者権利条約と持続可能な開発目標の実践から排除されないためにー 謝辞および免責事項  本報告書はゲイール・イェンセン氏(Geir Jensen)の監督のもと、ルネ・イェンセン氏(Rune Jensen)、ヒメナ・セルパ氏(Ximena Serpa)が取りまとめたものである。国際障害同盟(IDA-CIP)のアレクサンダー・コート氏(Alexandre Cote)、センス・インターナショナル(Sense International)のベイリー・グレイ氏(Bailey Grey)とアリソン・マーシャル氏(Alison Marshall)、 国際障害データセンター(International Centre for Evidence in Disability、ICED)のモルゴン・バンクス氏(Morgon Banks)とイスレイ・マクタガート氏(Islay MacTaggart)からは技術的なご支援をいただいた。世界盲ろう者連盟(World Federation of the Deafblind、WFDB)とセンス・インターナショナルの調査にあたっては、世界盲ろう者連盟事務局長(当時)である福田暁子氏(日本)にご協力いただいた。  また、世界盲ろう者連盟役員会メンバー、2017年9月のジュネーブにおける技術会議に出席した国連機関職員、2018年ヘレン・ケラー世界会議の発表者と出席者をはじめ、本報告書にご協力いただいたすべての方に御礼申し上げたい。  本報告書は、国際障害同盟、ノルウェー盲ろう者協会(Norwegian Association of the Deafblind)の組織的・技術的支援および英国国際開発省(UK Department for International Development、DFID)、ノルウェー外務省(Norwegian Ministry of Foreign Affairs、NMFA)の経済協力なしには完成し得なかった。厚く御礼申し上げたい。  本報告書の背景文書に記載された情報や見解は文書の著者に由来するものであり、国際障害同盟、ノルウェー盲ろう者協会、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine)の国際障害データセンター、英国国際開発省、ノルウェー外務省の公式見解を必ずしも反映したものではない。 「盲ろう者と不平等 −障害者権利条約と持続可能な開発目標の実践から排除されないために−」  盲ろう者は世界人口の0.2〜2%を占める。それぞれの盲ろう者の状況は異なっているが、全体として社会から認識されておらず、貧困、非就労、低い教育成果という問題を抱えるリスクが高い。盲ろうという障害はよく知られておらず、誤解されやすいため、適切な支援を受けるのが非常に困難だ。その結果盲ろう者は、開発プログラムからも障害者向けのプログラムからも抜け落ちてしまうことが多い。  盲ろう者の状況に関する初の国際報告書である本報告書は、障害者の権利と開発に関わる国際的なステークホルダーとの対話の糸口となることを目指している。本報告書の作成にあたり、世界盲ろう者連盟(World Federation of the Deafblind、以下WFDB)は複数の調査を行なった。盲ろう者を対象とした過去最大の地域住民調査(低所得国、中所得国、高所得国の合計22か国における集団ベース分析の解析)、文献調査、WFDBとセンス・インターナショナルの会員および協力団体を対象とした2件の調査である。  また、調査結果の確認と推奨事項の記述にあたっては、2018年のヘレン・ケラー世界会議に世界各国から参加した男女の盲ろう者の協力を得た。 ----- 目次 イントロダクション   <盲ろう者の多様性>   <障害者権利条約における国際的義務の概要>   <インクルージョンの前提条件> 盲ろう者と不平等   <方法>   <盲ろう者を見落とさないための課題>  盲ろう者と貧困   <データから分かる事実>   <当事者の声>  盲ろう者と就労   <データから分かる事実>   <当事者の声>  盲ろう者と教育   <データから分かる事実>   <当事者の声>  盲ろう者と保健医療   <データから分かる事実>   <当事者の声>  盲ろう者と政治・公的活動への参加   <当事者の声>  盲ろう者と社会的生活  <データから分かる事実>   <当事者の声>  記事:盲ろうの女性として、母として  結論と推奨事項  引用文献  参考資料i :データ利用に関する方法論上の注釈 参考資料ii:参照データ一覧  ----- イントロダクション  障害者権利条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities、以下権利条約)は社会にさまざまな変化をもたらした。その結果、アジェンダ2030および持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、以下SDGs)の採択時には、インクルージョンの実現と「誰も取り残さない(leaving no one behind)」という指針が強調されることとなった。インクルージョンの思想をもとに変化を起こそうという機運は世界中で高まっている。ミレニアム開発目標においては障害者が見落とされ、排除されがちであったが、その状況は大きく変化した。一方で認識する必要があるのは、障害者とは単一のグループではないということ、また障害者の中にも盲ろう者のように取り残され、多くの場面で見落とされてしまうグループがあるということだ。  盲ろう者は世界人口の0.2〜2%を占めており、他の障害者以上に貧困、非就労、低い教育成果という問題を抱えやすい。支援サービスや情報を利用できないなど、多くの困難に直面し、自分たちが抱える問題を発信することも非常に難しい。  盲ろうという障害は、多くの国で個別の障害と見なされていない。そのため政府が障害者の統計を取っても、盲ろう者という個別のグループは統計に現れてこなかった。こうした各国の状況は国際的な統計にも反映される。たとえば2011年には史上初となる「障害に関する世界報告書(World Report on Disability)」が発表されたが、この中で盲ろう者に関する記述は7件しか見られない[1]。  WFDB、センス・インターナショナル(Sense International)、国際障害者同盟(International Disability Alliance、以下IDA)がこの10年間で得た知見によれば、盲ろう者の持つ問題は大部分が無視されてきたと言ってよい。 開発段階においては、健常者と障害者の間で生活の改善状況に格差[2]が生まれることが分かっている。また、権利条約と誰も排除されないSGDsを実行する取り組みにおいて、社会から取り残されたグループの中でも盲ろう者は特に見落とされる危険性が高い。 盲ろう者の存在が目に留まりにくいということは、障害者の権利と開発に関わるステークホルダーから理解を得られない原因でもあるが、またその結果でもあると、WFDBとセンス・インターナショナルは考えている。盲ろう者が持つ問題の程度や多様性だけでなく、インクルージョンに必要な盲ろう者特有のニーズについても、理解は得られていない。  本報告書の作成のために行った文献調査の結果、盲ろう者に関する良質で比較可能なデータが不足していることが分かった。記録された研究の多くは小規模であり、盲ろう者団体のメンバーや介護施設に住む人、リハビリテーションセンターに通っている人など、研究対象が限定されていた。また研究対象のほとんどが、後天的に障害を持った成人の盲ろう者であった。さらに研究は主に欧米諸国のものであり、低・中所得国からの報告はほとんど見られなかった。  こうした状況を鑑み、本報告書は具体的事例に基づいて社会への啓発を促し、権利条約とSDGsの国際的モニタリングの一翼を担う目的で作成された。本報告書はSDGsの2020年の達成基準に影響を与えるとみられ、2022年、2026年、2030年には追加報告書の発表が予定されている。  本報告書は、盲ろう者を対象とした過去最大の地域住民調査(低所得国、中所得国、高所得国の合計22か国における集団ベース分析の解析)、文献調査、WFDBとセンス・インターナショナルの会員および協力団体を対象とした2件の調査、事例研究からなり、盲ろう者の多様性、盲ろう者の実体験、盲ろう者が直面する課題と不平等を報告するものである。さらにWFDB会員の国や開発局、市民団体に対する具体的な提言を試みている。  本報告書の調査結果は2018年ヘレン・ケラー世界会議にて報告された。世界各国の男女の盲ろう者が自らの経験を語り、本報告書の提言について詳細を述べた。 <盲ろう者の多様性>  社会から認識されにくく誤解を受けやすい盲ろう者は、多くの困難に直面することになる。盲ろう者の中には視力と聴力が全くない人もいるが、視力と聴力のどちらかもしくは両方が多少残っており、それを活用している人も多い。  北欧での定義[3]に従い、WFDBでは盲ろうを「視覚と聴覚の両方に重度障害があり、一方の感覚を他の感覚で補うことが困難であることから生じる個別の障害」と定義している。社会生活、コミュニケーション、情報利用、歩行と移動など、さまざまな生活場面において困難に直面することになる。盲ろう者のインクルージョンと社会参加を実現するには、何よりもまずアクセシビリティの実現、通訳・介助員派遣など、盲ろう者に特化した支援サービスが不可欠である。  それぞれの盲ろう者の状況の違いには、視覚と聴覚に障害を持った年齢が深く関係しており、特にコミュニケーション発達と言語習得への影響は大きい。そのため、以下の区別は重要である。 ・言語習得以前に盲ろうになった盲ろう者:生まれつき、あるいは言語(口話または手話)を習得する前に視覚・聴覚障害を持つ原因としては、母親の妊娠中の感染症、未熟児での誕生、出産時の外傷、遺伝的原因(ダウン症、アッシャー症候群、CHARGE症候群など)などが考えられる。 ・言語習得以後に盲ろうになった盲ろう者:言語を習得した後に視覚・聴覚障害を持つ原因としては、病気、事故、失明・失聴を伴う加齢による病気(白内障、緑内障、黄斑変性症による失明、老人性難聴など)などがある[4、5]。アッシャー症候群は遺伝性の疾患だが、視覚・聴覚障害は言語発達の後、幼児期の後期や青年期に現れることが多い[6]。  盲ろう者は高齢者に多い。しかし盲ろう児や若齢の盲ろう者には、学習や就労への影響といった高齢者にはない課題がある。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 さまざまな障壁と多様な支援の必要性  「私の場合、光の加減がちょうどよく騒音が少ないという最適な状況であれば、何でもうまく対処できます。ですが、たとえば都心に出かけるときは、日差しが強いと何も見えなくなりますし、だいたいの場合騒音が多いので話しかけられても聞き取れず、とてもやっかいです。ですがよく見えて聞こえるときもあるため、そんなときは、私は盲ろう者とは言えないかもしれません。けれども自分を「盲ろう者」として考えた方が、私にとってはずっと都合がいいのです。」  クリスター・ニルソン(Clister Nilsson、スウェーデン) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜    社会や人との関わり方や社会での経験は、盲ろう者によって異なっている。受けられる支援や生活環境における困難の程度、視覚・聴覚障害の程度、障害を持った年齢などの違いにより、盲ろう者はそれぞれ異なる形で社会参加への制約を受けている。盲ろう者とはさまざまな障害経験を持った多様性のあるグループであり、必要な支援やインクルージョンのための方策はそれぞれに異なっている。  以上のことから、盲ろう者にとっては視覚障害者向け、聴覚障害者向けのサービスを併用するのではなく、それぞれが自分のニーズを満たすサービスを利用できることが不可欠である。  盲ろう者がほかの人と同じように自由に情報を利用し、移動やコミュニケーションを行うためには支援が必要だが、必要な支援の方法や程度は人によって異なる。盲ろう者の中には、盲ろう以外の障害を重複して持つ人もおり、その場合にはさらに違った支援が必要となる。 多くの盲ろう者が必要とする支援: ・コミュニケーション  盲ろう者のコミュニケーション支援はさまざまな方法で行われており、標準的なやり方というものはない。言語習得の前後どちらに盲ろうになったか、視覚・聴覚どちらの障害を先に持ったか、視力・聴力が少しでも残っているかどうかといった状況によって、盲ろう者のコミュニケーション方法が異なる場合が多い[7]。もともと重度の聴覚障害を持ち、後から視覚障害を持った人の場合は、従来の手話を少し工夫することでコミュニケーションを取れることもある。反対にもともと重度の視覚障害を持ち、後から聴覚障害を持った場合は点字を使用してきた人が多いが、聴力によっては明瞭な発音で話すことでコミュニケーションを取れることもある。言語習得以前に盲ろうになった人は、まず言語を習得するため、これらとは違ったやり方を用いることになる。  以下に述べるように、さまざまなコミュニケーション方法がある[8]。 ・ 触手話(盲ろう者が手話を触って読み取る方法)、指文字 ・ 弱視手話:盲ろう者が見えるように近い距離で行う接近手話と、複数の盲ろう者に対して用いる「ビジュアル・フレーム通訳(visual frame interpreting)」がある。 ・ 音声通訳:はっきりとした発音で話すこと。盲ろう者が補聴器を用いる場合もある。 ・ 文字通訳:音声を文字にすること。盲ろう者が分かりやすいように工夫する必要があり、コンピューター、スクリーン、点字ディスプレイなどの機器を用いる場合もある。  盲ろう者によって単一の方法を使う人もいれば、複数の方法を組み合わせて使う人もいる。また同じ盲ろう者でも、状況によって複数の方法を使い分けることもある。さらに、使用するコミュニケーション方法が次第に変わっていく場合もある。これは特に障害が次第に重くなっていく場合に当てはまる[9]。  コミュニケーションのための支援技術を利用する盲ろう者もいる。点字ディスプレイ、補聴器、ループシステム、眼鏡、拡大鏡といった支援機器や用具が利用されている。しかしこうした機器や用具は、すべての盲ろう者があらゆる状況で利用できるわけではなく、通訳・介助員による支援などが必要な場合もあることを認識する必要がある。 ・移動  自由に移動ができることは、インクルージョンと平等な社会参加を実現する上で不可欠だ。歩行と移動の際に、資格を持つ介助者の助けが必要な盲ろう者もいる。盲ろう者とコミュニケーションが取れなければ、手引きしたり周囲の状況を説明したりすることができないため、移動介助も通訳・介助サービスの一環であると考えられている。 ・状況説明  盲ろう者が周囲の状況を十分に理解し、社会と関わりを持つためには、周囲の環境について説明を受ける必要があることもある。壁や窓などの物理的な環境だけでなく、周囲のできごとや人の様子、本やポスター、冊子や電子版のカタログなどの説明も含まれる。状況説明は通訳・介助サービスにおいて不可欠なものだとWFDBは考えている。通訳・介助員は状況に応じて、移動介助や通訳と同時に状況説明を行う必要がある[8]。 通訳・介助員の重要性:  盲ろう者によっては、慣れた環境では一般的なコミュニケーションサービスや移動サービスを利用している人もいるが、ほとんどの盲ろう者は、状況に応じて盲ろう者に特化した通訳・介助サービスを受ける必要がある。通訳・介助サービスは盲ろう者に対し、コミュニケーションと移動の両方の支援を責任を持って提供しなければならない。このサービスは権利条約第19条にあるように、盲ろう者の自立生活および地域社会へのインクルージョンを実現するための支援を行うものである。盲ろう者は通訳・介助サービスがあって初めてその他のサービスを受けることができ、教育、雇用、保健医療、文化的活動、レクリエーションといった基本的な権利が保障されることになる。 (表) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう者への多様な支援サービス(代表的なもの)移動とコミュニケーション 通訳・介助員 盲ろう者のコミュニケーションと移動を支援する専門職。盲ろう者のニーズに合わせて介助や状況説明を行う。状況に応じて、常に適切なコミュニケーション方法を用いる必要がある。 コミュニケーション  触覚によるコミュニケーション   触手話:多くの盲ろう者が利用している方法である。通訳者の手話を盲ろう者が手のひらで触って読みとる。   触読式指文字:触手話の一種だが、主に指の動きを用いる。通訳者が盲ろう者の指の部分に触れ、アルファベットごとに決まったパターンに従って自分の指を動かす。   手書き文字:通訳者が盲ろう者の手のひらに、1文字ずつはっきりと文字を書いて伝える。 タドマ法   盲ろう者が親指で通訳者(発話者)の唇に、それ以外の指で通訳者のあごのラインに触れ、通訳者の発声をあごの動き、振動、表情の動きから読み取る。 弱視手話   視力がある程度残っている盲ろう者が利用する。通訳者は盲ろう者の視野に入るよう、狭い範囲で手話を行う。音声通訳   聴力がある程度残っている盲ろう者がよく利用する。点字/ムーン・タイプ   点字:平面から浮き出た六つの点(横2×縦3)の組み合わせで、文字や文字列を表したもの。   ムーン・タイプ:点字と同様に触って読みとるが、点ではなくアルファベットの大文字をそれぞれ簡略化した形を用いている。 支援機器、用具聴覚の支援   補聴器:耳の中あるいは耳の後ろに装着し、音声を増幅する小型の電子機器。音声通訳と組み合わせて用いる。  人工内耳:手術により、障害のある部分を避けて耳の内部に電極を通し、音を認識させる器具。  ヒアリングループ(磁気ループ):補聴器を装着している人が利用する特殊な補聴システム。ヒアリングループにより磁気を発生させ、ループの中にいる補聴器または人工内耳利用者に無線シグナルを送る。 読み書きの支援   点字ディスプレイ:パソコン、スマートフォン、その他点字を表示する機器を利用して、一方向または双方向のコミュニケーションを行う機器。 移動の支援  赤と白の縞模様の杖:盲ろう者が使用する杖。視覚と聴覚に障害があることを周囲に示すことができる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 <障害者権利条約における国際的義務の概要>  権利条約はすべての障害者の権利を保障し、障害者に対してあらゆる人権基準を適用するものである。障害者の多様性とインクルージョンへの多様なニーズが条約により認められ、それらが条約の基本原則となっている。さらに権利条約は、特に徹底した支援を要する障害者グループの権利を保障、促進する義務を認めており、盲ろう者もここに含まれるべきである。障害の種別によって差別や排除の対象になることは、あってはならないことである。  権利条約の第24条「教育」の中には盲ろう者について個別に述べた条文があり、障害者権利委員会の一般的意見(General Comment)、最終見解(Concluding Observation)にも盲ろう者の権利を認めたものがある。盲ろう者の権利がこのように国際法で認められていることに加え、多くの国の行政で盲ろうは個別の障害として認識されている。こうした状況から、盲ろう者のニーズを認識し、それに対応した法律、政策、計画、予算を整備することは各国の義務であると言える。  触覚的コミュニケーション、点字、手話や非音声言語を含む言語など、盲ろう者が利用する幅広いコミュニケーション方法が権利条約によって認められている。  障害者権利委員会の「一般的意見第2号第9条:アクセシビリティ」(CRPD/C/GC/2)では、盲ろう者の自立と効果的な社会参加を実現するため、情報利用手段やコミュニケーション手段、その他必要な支援を盲ろう者が得られるよう整備する義務を各国が負っていることが、より明確に述べられた。各国はさまざまな重要課題に取り組む必要がある。たとえば、支援員が盲ろう者とのコミュニケーション方法を学ぶ機会を十分に得られていないという課題がある。また、盲ろう者がコミュニケーション、移動、その他の支援を確実に受けられるよう、介助者・通訳者などの「ライブ・アシスタンス(人または動物による支援)」および媒介者[訳注:権利条約川島・長瀬訳]を盲ろう者に提供することも不可欠である。さらに、通訳者派遣やパーソナル・アシスタンス制度といったコミュニケーションに関わる支援の最低基準を設け、その基準を国全体に適用する必要がある。  アクセシビリティの課題があるのはコミュニケーションと情報利用だけではない。盲ろう者は公共の場所での歩行と移動にも多くの困難を抱えている。そのため、各国は点字の表示や通訳・介助員などのライブ・アシスタンスおよび媒介者を提供し、盲ろう者の移動とアクセシビリティを保障しなければならない。また公共団体および民間団体によるサービスへのアクセシビリティについて、最低基準を設ける必要がある。こうした取り組みにより、就労、教育、保健医療など、さまざまな場面において盲ろう者のアクセシビリティを高めることができる。  盲ろう者のアクセシビリティを高める方法には合理的配慮もある。これはアクセシビリティ基準が実行されていない場面や、基準の中で盲ろう者のニーズが考慮されていない場面で特に必要なことである。盲ろう者への合理的配慮には、コミュニケーション支援、歩行と移動の支援(補助器具が必要なこともある)、支援機器または通訳・介助員などのライブ・アシスタンスの提供などがある。また重要なのは、アクセシビリティの面だけでなく、盲ろう者の勤務スケジュールや仕事の手順を変更することなど、さまざまな面での対応が合理的配慮に含まれることである。  本報告書の目的に照らして、権利条約の規定を盲ろう者に保障するために各国が適切な手段を講じているかどうかを評価するため、特に重要な二つの代理的指標を設けた。一つは盲ろうという障害が個別の障害として公式に認められているかどうか、もう一つは盲ろう者への通訳・介助サービス事業の有無である。 <インクルージョンの前提条件> 盲ろうの認識と盲ろう者に対する個別事業の提供  盲ろう者が地域社会や就労、教育、政治的活動の場面から排除されることなく参加するためには、環境面での障壁、質の高い支援サービスの利用への障壁の両方を取り除く必要がある。盲ろう者のアクセシビリティへのニーズは、建造物、情報、コミュニケーションの環境に関わる受動的な要素を広く含んでいる。こうしたものは他の障害者も必要としており、点字の文書、字幕、触知式の誘導ブロック、色の対比のわかりやすい施設、ヒアリングループシステム、利用可能なウェブサイトなどがある。  しかし盲ろう者の機能的制約は他の障害者にはない特有のものであるため、こうした形の支援では不十分なことが多く、個々の盲ろう者に合わせた支援が必要となる。 WFDB会員は2018年ヘレン・ケラー世界会議での調査と意見交換において、盲ろう者に対する周囲の理解と認識が不足していることを強調して述べた。実際に多くの国の政府には、盲人、ろう者を対象とした事業があれば盲ろう者に適用できるという誤解がある。アクセシビリティの課題はよく知られているため、本報告書では特に重要な2点に焦点を当ててWFDB会員への調査を行った。1点は盲ろうという障害に対する公的な認識、もう1点は盲ろう者に対する個別事業の有無である。 盲ろう者に対する公的な認識  各国政府や国際・国内機関、地方政府などで盲ろうという障害がどのように認識されているかということは、WFDBとその会員への調査の中で本質的な問題の一つである。盲ろうという障害への認識不足により、一般市民だけでなく障害者を対象とした場合であっても、統計、政策、計画、事業から盲ろう者が抜け落ちてしまうという状況が多くの国で見られる。こうした状況により、盲ろう者に対する個別の事業の必要性に注意が払われず、盲ろう者の排除が続いてしまうことになる。  WFDBとセンス・インターナショナルは2017年、盲ろう者に対する公的な認識と盲ろう者が利用できる事業について、会員に調査を行った。データが得られた50か国のうち、37%を占める19か国で盲ろうは個別の障害として公的に認識されていた。また、盲ろうが個別の障害として認められているか、公式に盲ろうの定義がなされている国では、盲ろう者への個別の支援事業があることが多いことも調査によって分かった。これは特に低・中所得国で当てはまった。 (表) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 出身国で「盲ろう」が個別の障害として認識されている  高所得国(N=19) 32%  上位中所得国(N=13) 38%  下位中所得国および低所得国(N=18) 44%  すべて (N=50) 37% 出身国で「盲ろう」の公式な定義がある 高所得国(N=19) 37%  上位中所得国(N=13) 62%  下位中所得国および低所得国(N=18) 44%  すべて (N=50) 46% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 悪循環:理解の不足と認識の不足  調査対象になったWFDB会員の大多数が、盲ろうの認知度を高める必要性を強調した。また、盲ろう者および盲ろう者のコミュニケーション上のニーズについて社会からの認識を得ることが、盲ろう者が排除されない社会への取り組みの第一歩であるという考えも述べられた。  盲ろうに対する認識不足により、盲ろう者の多様性や抱える課題についての理解が不足し、盲ろうが個別の障害として認識されないという結果につながる。そのことが盲ろう者の存在をさらに見えにくくし、盲ろう者への認識と支援の不足につながるという悪循環が起こっていることが分かった。  「盲ろう者というと『全く見えず、全く聞こえない人』のことだと思われてしまい、いつも説明しなければならないのです!視覚・聴覚の重複障害はみな同じなのではなく、それぞれに異なった状況に置かれているのに、それを理解してもらえないのです。」(2018年ヘレン・ケラー世界会議の参加者)  医療やリハビリテーションの専門家も盲ろう者の状況を理解していないということが報告された。専門家の多くは全盲ろうではない盲ろう者を、視覚障害を持つろう者、または聴覚障害を持つ盲人として認識してしまう。こうして盲ろう者の困難が十分に認識されず、一人一人の特殊なニーズに合わせた適切な支援事業が発達しなくなってしまう。  多くの国で盲ろうは個別の障害として認識されていないため、盲ろう者は重複障害者として位置付けられてしまう。近年インドでは、障害者の権利に関する法律で盲ろうという障害が規定されたが、重複障害に分類された。このように、盲ろうという障害を認識している国であっても重複障害として位置づけることが多い。こうした場合、法的な認識が盲ろう者への支援事業の発達と資源配分に及ぼす効果は限定的になる恐れがある。  国内で盲ろうという障害が認識されていないため、盲ろう者は公式文書ではろう者か盲人として記録され、統計や行政データから抜け落ちてしまうという報告もあった。EU諸国で盲ろう者数の公式な調査結果が集計されていたのは、2014年時点で27か国中わずか3か国であった*1。  *1 ヨーロッパ盲ろう者ネットワーク(European Deafblind Network)「ヨーロッパ全域の盲ろう者の実態調査(2014年)」(Mapping opportunities for deafblind people across Europe2014)より。  こうした認識不足の結果、障害認定の場面では、盲ろう者は視覚障害と聴覚障害の両方の障害認定と診断書を得ることになる。このことは行政上の負担にもなり、盲ろう者と家族の経済的負担も増加する。  盲ろう者のデータがある国でも、盲ろう者は小さなグループであり、最低限の資源配分しか必要ないと政府から認識されがちだ。この場合もまた、盲ろう者の多様性と必要なコミュニケーション支援その他のサービスへの理解が不足し、適切な支援のために必要な資源が過少に見積もられてしまう。  「政府は盲ろう者のための支援活動やプロジェクトを行いません。盲ろう者は小さなグループなので、社会的な影響が小さく、政治的な見返りも少ないからです。」(2018年ヘレン・ケラー世界会議の参加者)  さらなる問題は、盲ろう者は障害者運動の中でも認識されていないということである。近年は進歩が見られるものの、低所得国か高所得国かを問わず、多くの国で盲ろう者団体はいまだに必要な資源を確保できていない。ここでも盲ろうに対する公的な認識の不足によって、必須である啓発活動と権利擁護活動を行うための資源を盲ろう者団体が得られないという悪循環が起こっている。 推奨事項 政府: ・法律上で盲ろうを個別の障害として定め、政策を実行する。 ・盲ろう者特有の状況とニーズについて、啓発を行う。 ・盲ろう者の経験、困難、必要な支援についてデータを集め、分析する。 ・盲ろう者のコミュニケーション方法の特殊性について認識する。 ・盲ろうを個別の障害として認め、障害認定を進める。 ・盲ろう者団体による周囲への働きかけ、啓発活動、権利擁護活動を支援する。 障害者団体: ・障害者運動の中で盲ろう者団体が個別の団体として認識され、ともに運動に加われるようにする。 ・盲ろうが公式に個別の障害として認められ、法律上で定められ、政策が実行されるよう支援する。 ・権利条約のもとでの盲ろう者に対する義務について、加盟国への啓発に努める。 国連および開発機関: ・盲ろうが特殊かつ個別の障害であるという共通認識を持ち、国際的な障害分類の項目に含める。 ・盲ろう者の経験、困難、必要な支援についてデータを集め、分析する。 ・権利条約のもとでの盲ろう者に対する義務について、加盟国への啓発に努める。 ・加盟国が法律上で盲ろうを個別の障害として定め、政策の策定、実行を進めるよう支援する。 ・盲ろう者団体による周囲への働きかけ、啓発活動、権利擁護活動を支援する。 個別事業の提供  調査では盲ろう者に対する事業が不足していることが明らかになった。また、事業が利用できるとされている場合でも、国内全域で十分に事業が利用できるとは限らない点にも注目する必要がある。都市部では利用できるが地方では利用できないなど、一部の地域でしか事業が利用できない場合もある。  予想に違わず、盲ろう者向けの事業を提供している国は圧倒的に高所得国に多かった。しかし高所得国でも、通訳・介助サービスが利用できるのはわずか58%であり、政府の資金で事業が行われている国は42%であった。中・低所得国の状況はさらに厳しい。通訳・介助サービスが利用できるのは10%であり(31か国中低所得国と上位中所得国から該当)、政府の資金で行われているのは1か国のみであった。ただし、通常のコミュニケーション支援や移動介助のみの事業は、より多く行われていた。 (表) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 専門職による通訳・介助サービスがある   高所得国(N=19) 63%  上位中所得国(N=13) 15%  下位中所得国および低所得国 (N=18) 6%  すべて(N=50) 30% 政府が通訳・介助サービスに資金拠出している   高所得国(N=19) 42%  上位中所得国(N=13) 8%  下位中所得国および低所得国 (N=18) 0%  すべて(N=50) 20% 専門職による移動介助サービスがある   高所得国(N=19) 74%  上位中所得国(N=13) 15%  下位中所得国および低所得国 (N=18) 22%  すべて(N=50) 40% 専門職による情報利用支援サービスがある  高所得国(N=19) 63%  上位中所得国(N=13) 31%  下位中所得国および低所得国 (N=18) 33%  すべて(N=50) 44% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 継続中の取り組み  法律から制度へ―通訳・介助制度の承認と実現を目指す権利擁護運動の長年の取り組みセンス・インターナショナル・ペルー  2010年、ペルー政府は二つの重要な法案を通した。第29524号法案(Law 29524)は、盲ろうを独立した個別の障害と認定し、第29535号法案(Law 29535)はペルー手話を正式に認めた。二つの法律はその後、異なる展開をたどることになる。第29524号が、翌年、女性社会開発局最高通達006-2011号(Supreme Decree 006-2011-MIMDES)として制度化されたのに対し、もう一方の法律は、最近ようやく女性擁護局最高通達006-2017号(Supreme Decree 006-2017-MIMP)の一部に組み込まれたところである。これら二つの法律及び通達は、通訳・介助員及び手話通訳者の資格要件の修正を教育省に義務付けている。  しかし、教育省は迅速に対応しようとしなかったので、センス・インターナショナル・ペルーは、2011年、通訳・介助員養成プログラムを実施した。具体的な研修内容と実践例をこのプログラムで示すことにより、ペルー当局によるサービスの計画、導入、実践に役立ててもらおうという狙いがあった。  翌2012年には、教育省特殊教育局との連携の下、通訳・介助員の資格要件の具体案策定が行われたが、当局に承認されるまでには至らなかった。  これと並行して、センス・インターナショナル・ペルーは、障害者社会参加全国評議会(CONADIS)と連携して手話通訳者及び通訳・介助員の名簿を作成した。大統領通達第020-2017号(Resolution of the Presidency 020-2017-CONADIS/PRE)の承認により実現したこの名簿には、教育省に認可された通訳者と通訳・介助員が記載されている。  2017年になっても、教育省は法により義務付けられている通訳者制度の改定を認可していなかった。センス・インターナショナル・ペルーは、法律で義務付けられている制度の見直しを教育省に対して再三にわたり要請し、改定案策定に向けたワーキンググループ設置を提案した。2017年10月、教育省は市民団体に呼びかけ、通訳者及び通訳・介助員の資格要件制定のための二つのワーキンググループを立ち上げた。12月末までに、両ワーキンググループは具体的な改定案をまとめた。  ところが、教育省長官や特殊教育局長の度重なる交替により、改正は遅々として進まない。そこで、2018年の初めに、センス・インターナショナル・ペルーは、教育省のすべての関係部局に呼びかけて検討委員会の設置を提起し、通訳者及び通訳・介助員制度の具体的な改正案策定を目指した。  2018年4月に出された教育省通達144-2018号(Ministerial Resolution 144-2018-MINEDU)により、通訳者、通訳・介助員研修制度案策定の権限がこの委員会に正式に認められた。また、同委員会は180日以内に制度案を策定すること、教育長官は委員会が出した制度案を承認することが通達により定められた。  法律を制度として具体化するまでに必要な膨大な時間と労力。これは多くの国々に共通する事態である。ここで重要なことは、盲ろう者とその支援者が実践を継続し、権利擁護運動に取り組み、当局に対して力強く、粘り強く働きかけることだろう。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   2018年ヘレン・ケラー世界会議におけるWFDB会員の意見交換では、盲ろう者への通訳サービスと通訳・介助員数が不足していることが確認された。盲ろう者特有のニーズへの理解と認識の不足により、盲ろう者は視覚障害者や聴覚障害者と混同され、ろう者や盲人を対象としたサービスに頼らざるを得なくなる。しかしそれらのサービスでさえ、十分に提供されているとは言えない。  「手話は単なるコミュニケーション方法ではなく、ろう者が使用する言語です。ですが多くの盲ろう者にとっては、手話はコミュニケーション方法の一部です。盲ろう者の手話は通常とは異なる要素を持ち、視覚だけでなく触覚も使ってコミュニケーションします。ひとりひとりが自分に合った方法を作り出しているのです。」(2018年ヘレン・ケラー世界会議の参加者)  一方で優れた実践例もある。たとえばスペインの法律27/2007(Law 27/2007)は、盲ろう者特有のコミュニケーション方法を認めている。  ほとんどの低・中所得国では、数少ない盲ろう者向けサービスは都市部に集中しており、地方や僻地ではほとんど、あるいは全くサービスが提供されていない。盲ろう者への認識不足と、盲ろう者の数が比較的少ないことにより、盲ろう者に対する財政支援は非常に少なくなっている。  「(前略)盲ろう者によっては一日中通訳者が必要になるということを政府は分かってくれません。政府は数字しか見ていないのです。盲ろう者を差別しています。政府は私たちを人間として認識し、盲ろう者のすべてのニーズを理解しなければなりません。」(2018年ヘレン・ケラー世界会議の参加者)  予算が限られているため、障害者関係の団体同士が競合してしまうこともある。たとえばろう者向けの事業団体が、財源を確保するために通訳派遣サービスを独占してしまうという例がある。しかしクロアチアなどの国では、ろう者団体と盲ろう者団体の間で効率的な協力関係が築かれている。  サービスの不足は盲ろう者の社会的・経済的活動への参加を妨げ、盲ろう者の依存度を高めてしまう。  「通訳者の数は少ないですし、政府は通訳・介助サービスに資金を拠出しません。家族や友人にお金を払うか、無償で通訳をしてもらうしかありません。就職活動や就労にも通訳者が必要ですが、通訳・介助サービスのお金を払うと給料の半分はなくなってしまいます。」(2018年ヘレン・ケラー世界会議の参加者)  高所得国の状況はもう少し進んでいるが、主な問題は同様だ。盲ろう者特有のニーズを十分に認識している国はほとんどなく、サービス提供は不十分である。サービスがある国でも、政府からの資金提供は限られている。盲ろう者の就労や地域社会への参加、盲ろう者の家族の支援には十分ではない。  適切なサービス提供の実現には、政府の意思決定者、活動的な障害者団体やサービス提供団体の意識が国の豊かさ以上に重要であることが、WFDB会員のコメントやフィードバックから伺えた。  盲ろう者へのサービス提供が最も進んでいるとされたのは、日本、オーストラリア、多くの北欧諸国である。これらの国では地方・中央政府の助成によって、訓練を受けた通訳・介助員の派遣事業が行われている。サービス内容は盲ろう者の多様なニーズ(点字、音声、手話、触覚的サインなど)を反映したものであり、職場での支援も行われている。しかし多くの高所得国では、盲ろう者の特殊性が理解されていないため、サービスが不十分か全くない状況である。  地方分権が進んだ国では、サービスの不足だけではなく格差という問題もある。たとえば、盲ろう者への通訳者派遣時間の限度が地域によって異なるという国もあった。  現状は十分ではないものの、一定の進展は見られる。多くの国は現在、盲ろうという障害が広く認識されていく過程にあると言えるだろう。国の認識が不足していても、地方で実践を始めている国もあった。たとえばインドでは、国では盲ろうが重複障害として分類されているが、いくつかの州では個別の障害として証明書が発行されていた。 推奨事項 国: ・権利条約にしたがい、インクルージョンと自立生活を促す支援サービスを盲ろう者が利用できるよう保障する。盲ろう者の情報、コミュニケーション、移動へのアクセシビリティを確保する。以下の方法が考えられる。  アクセシビリティと支援サービスに関する盲ろう者特有のニーズを公的に認める。  障害者団体、NGOその他の民間セクターと協力関係を築き、あらゆる分野における支援サービスを開発する。  既存および新規のサービスに対し、十分かつ持続的な資金提供を行う。  質の高い支援機器を低価格で購入できるようにする。 ・盲ろう者に対する既存の支援サービスの質を維持する。 ・十分な支援体制を持つ国と、今後取り組みを進めようとしている国の間で、国際協力関係を強化する。 ・商品、サービス、通信サービス認定などのあらゆる公共調達において、アクセシビリティ保障と差別禁止の要件を設ける。 国連および開発機関: ・政府が盲ろう者への支援サービスを開発できるよう、技術支援、資金援助などの支援を行う。国際的な技術交流を促進する。 ・公共調達規則において、アクセシビリティ保障と差別禁止の要件を設ける。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 テレコミュニケーションをアクセシブルに: 行政と民間の連携の重要性  218年のヘレン・ケラー世界会議において、スプリント(Sprint)社の顧客サービスマネージャー、ライアン・ボンドロフ(Ryan Bondroff)氏は、米国で提供されている幅広いアクセシブルなサービスを紹介し、同社が連邦政府及び州政府との連携の下に、バリアフリーな通信サービスを盲ろう者に対して提供する仕組みを解説した。  スプリント・アクセシビリティ(Sprint Accessibility)は、ろう者、盲ろう者、視覚・聴覚障害者、認知、発話、運動に障害のある人々のコミュニケーションのバリアを取り除くための多様な製品とサービスを提供している。その一つにスプリントIPリレーサービスがある。大活字画面や点字ディスプレイの利用により、盲ろう者が自力でリレーサービス経由の電話の送受信ができるこのサービスは、盲ろう者にとって完全にバリアフリーなサービスである。  このようなサービスの実現は、ネットワーク接続環境に加えて、次の3点が前提条件となる。  ・盲ろう者が不自由なく通話サービスを利用するためには、まず行政が、盲ろう者特有のコミュニケーションのニーズを把握することが求められる。  ・リレーサービス提供団体の設立。  ・行政、リレーサービス提供団体、通信事業社の三者間の交渉と合意。  リレーサービス提供団体の設立のために、スプリント社は、当事者間の交渉を仲介し、適切な環境と協力関係の構築に貢献したい。その取り組みの一環として、ろう者、盲ろう者、難聴者のためのサービス実施を決定したニュージーランド政府の要請を受け、スプリント社はニュージーランドにおけるリレーサービス導入に関わった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ----- 盲ろう者と不平等  本報告書のデータ収集にあたっては、文献調査、WFDBとセンス・インターナショナルの会員および協力団体を対象とした2件の調査、複数の事例研究が行われた。さらに調査結果の定量分析と大規模調査も行った。盲ろう者の状況を分析した報告書としては過去最大のものであり、集められたデータはこれまでになく国際性に富んでいる。 入手できた文献の大部分は欧米のものであり、低・中所得国の文献はほとんど見られなかった。そのため本報告書は、発展途上国における量的データ分析と実態調査に重点を置いている。  調査で分かったことは、2018年ヘレン・ケラー世界会議でWFDB会員に発表された。会議に参加した男女の盲ろう者が自らの経験を語って調査結果を補足し、推奨事項について詳しく述べた。 <方法>  文献調査  2017年8月から11月にかけて、PubMed、Google Scholar、Web of Science、米国教育資源情報センター(Education Resources Information Center)を利用して文献を調査した。検索対象となったのは、@「盲ろう(deafblindness)」、A「重複障害(dual sensory impairment)」、B「ろう(deaf)」と「盲(blind)」、あるいは「視覚障害(visual impairment)」と「聴覚障害(hearing impairment)」の両方の単語を含む文献である。またこれらに参考文献として記されている論文も確認し、さらなる情報を得た。  調査の対象としたのは、盲ろうの評価(定義、発生率の推定、原因)について、または盲ろうという状態がもたらす影響について書かれた英語またはフランス語の文献である。調査地や調査環境には制限を設けなかった。 国別データ分析  22か国における政府による集団ベース分析をもとに、盲ろうの発生率を計測した(図1)。そのうち、盲ろうの評価基準、分析に使われたサンプル数の大きさから妥当性が高いと思われた11か国において、さらに詳細な追加分析を行った。 図1:データ分析の対象国 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 対象国が色分けされた世界地図  赤:Included in detailed analyses  青:Included in prevalence only 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  調査対象の居住地域と所得層に偏りが発生しないよう留意した。調査対象は22か国9,760万人以上に及んだ。盲ろう者に関する集団ベース分析としては過去最大のものであり、多様な地域と所得水準の盲ろう者からデータを得たものである。  「参考資料i」では分析方法について詳細に記述しており、「95%信頼区間」や「オッズ比」などの主要な統計用語も説明している。 WFDBとセンス・インターナショナルの会員および協力団体への調査  盲ろう者が抱える問題を認識し、困難を取り除くためには、支援団体の見地を生かすことが不可欠だ。よってWFDBの全加盟団体に対してアンケート調査を行なった。アンケートは76の盲ろう者団体に送付され、56%を占める43団体から回答を得た。さらに、国際的なレベルで盲ろう者と共に活動しているか、盲ろう者を支援する活動をしている専門家に対しても同様にアンケートを送付した。センス・インターナショナルの各国プログラム、国際障害と開発コンソーシアム(International Disability and Development Consortium、IDDC)会員、デフブラインド・インターナショナル(Deafblind International、 DbI)会員にもアンケートを送付した。これらのうち20団体から回答を得た。この2件の調査により、盲ろう者団体および協力団体からの情報を集計、照合し、以下50か国のデータを集めることができた。  高所得国:オーストラリア、チリ、カナダ、スウェーデン、スペイン、スイス、日本、マカオ(中国)、オーストリア、ベルギー、米国、ウルグアイ、ハンガリー、イタリア、チェコ共和国、ノルウェー、デンマーク、ドイツ  上位中所得国:南アフリカ共和国、マレーシア、ドミニカ共和国、ルーマニア、クロアチア、ロシア、ペルー、ブラジル、コロンビア、エクアドル、メキシコ、ベネズエラ、タイ  下位中所得国および低所得国:インド、ガーナ、バングラデシュ、グアテマラ、エルサルバドル、ケニア、ウガンダ、タンザニア、エチオピア、マラウィ、ネパール、フィリピン、ボリビア、ホンジュラス、ニカラグア、コートジボワール、ナイジェリア、ザンビア <盲ろう者を見落とさないための課題>   文献調査では盲ろう者の定義と評価基準の各国間の差が明らかになったが、「ベストプラクティス(最良の事例)」への合意はなされていない[7、10、11]。盲ろうの定義は大きく二つに分けられる[10]。一つは医学的評価に基づく視力・聴力による定義であり、もう一つは機能ベースの定義(見え方、聞こえ方や日常生活に与える影響について、本人が申告したか、第三者が観察したものに基づく)である。しかしそれぞれの定義の中でも、認定基準には国によって大きな差が見られる。たとえば医学的評価に基づく場合でも、盲ろうと認定される視覚・聴覚障害の程度はそれぞれに異なっていた。明確で一貫した盲ろうの定義がないため、研究、環境、時間を横断して比較できるデータを集めることは困難である[7、9〜11]。しかし多くの定義に共通する点もいくつか見られた。たとえば、ほとんどの国の定義では、視力・聴力が全くない場合だけでなく、ある程度残っている場合にも盲ろう者として認定している[12]。盲ろうの主な特徴は、視覚・聴覚の重複障害がコニュニケーション能力に与える影響である。両方に重い障害を持ち、一方の障害がどちらかの障害を補うことができないような状態を指す[10、12]。  すべての年代における盲ろうの発生率を調査した大規模な集団ベース分析は、文献調査では見つからなかった。したがってこの度の各国データの分析は、さまざまな背景における盲ろうの発生率を推定できるという点で、非常に貴重なものである。図2は、最初にデータを集めた22か国における盲ろうの発生率を示している。盲ろうの評価基準はデータによって異なる。たとえばイラン、インドネシア、エクアドル、ベネズエラ、ハイチでは視力・聴力が全くない人しか含まれないが、その他の国ではある程度残っている人も含まれる。一部のデータは「ワシントン・グループの質問セット(Washington Group Question)」を利用していた。これは視覚・聴覚を含む六つの機能に問題があるかどうかを尋ねたもので、国際的な比較が可能なリストである。追加調査はこのリストを使用しているデータを対象に行った。  22か国の調査において、重度の盲ろうの発生率(5歳以上)は0.01%(カンボジア、ハイチ、イラン、ベネズエラ)から0.85%(米国)の間であった。平均値は0.21%だった。 図2 22か国における盲ろうの発生率(5歳以上) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 人口の平均0.2%が盲ろう者である  対象国:ボツワナ、ブラジル、カメルーン、コロンビア、エクアドル、ガーナ、ハイチ、インドネシア、イラン、アイルランド、メニア、マラウイ、メキシコ、モザンビーク、サウスアフリカ、スーダン、タンザニア、ウルグアイ、USA、ベネズエラ、ベトナム 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ワシントン・グループの質問セットを用いたデータからは、盲ろうの発生率を障害程度別に調査することができた。図3は軽度の基準に基づく盲ろうの発生率を示しており、視覚や聴覚に「ある程度」あるいは「大いに」問題を抱えている人を含んだ数値である。この「比較的軽度」の盲ろう者は重度の盲ろう者よりずっと数が多く、人口の0.4%(タンザニア)から3.1%(ブラジル)であった。 図3 ワシントン・グループの質問セットを用いたデータにおける、全年齢における比較的軽度の盲ろうの発生率 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 比較的軽度の盲ろう者数はさらに多い(人口の2.1%)  対象国:タンザニア、ウルグアイ、ベトナム、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  図4は、追加分析が行われた11か国のデータから、盲ろうの発生率を年齢別に表したものである。このグラフから、年齢と盲ろうの発生率の間に強い相関関係があることが分かる。40歳以下での盲ろうの発生率はほぼすべての国で人口の0.1%未満だが、75歳以上では6%に上る国もあった。  加齢に伴う盲ろうの発生率の増加は文献調査からも明らかである[11、13〜18]。ヨーロッパ11か国の50歳以上の人を対象とした感覚障害に関する大規模な一般集団調査では、盲ろうの発生率は5.9%であった[18]。盲ろう者が高齢者に多いのは事実だが、盲ろう児や若年の盲ろう者は、教育や雇用などさらに多くの課題を抱えていることにも留意しなければならない。 図4 加齢に伴う盲ろうの発生率の推移 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 高齢になるにしたがって盲ろう者数は増加する  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  調査が行われたすべての国で、女性の盲ろうの発生率は男性の盲ろうの発生率よりわずかに高かった(図5)。一般に女性は男性よりも平均寿命が長いため、年齢の影響を排除した分析も行った。この場合でも、アイルランドとウルグアイ以外の国で、男女の盲ろうの発生率には統計的に有意な差が見られた。 図5:男女別の重度盲ろうの発生率 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ほとんどの国で、盲ろう女性は盲ろう男性より数が多い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 推奨事項  ・盲ろう者と盲ろう者団体の助言を得て、盲ろうの一貫した定義と評価方法を定める。データを収集、分解、分析し、盲ろう者の状況を調査、査定する。その際、ワシントン・グループの短い質問セット(Washington Group Short Set)などを利用した国のデータの分析も行う。  ・盲ろう者が抱える問題についてさらなる調査を行う。健康状態、医療サービスの利用、社会参加、福祉、仕事や教育の質、盲ろうの原因、発生時期などが調査事項として考えられる。盲ろう者のインクルージョンを促進する介入策の影響を評価する。 ----- 盲ろう者と貧困 <データから分かる事実>   文献調査の対象となった論文の大部分は、盲ろう者の社会的・経済的水準の実証データを示してはいなかった。データを分析した全11か国で、盲ろう者のいる家庭はそうでない家庭に比べて、下位40%の社会的・経済的水準にある比率が高かった(世帯資産と住居特性の主要構成要素分析による)(図6)。この差が特に大きかったのはアイルランド(25.9%)、米国(18.9%)、ガーナ(16.9%)、タンザニア(17.6%)であった。世帯状況(規模、年齢構成、居住地域など)による調整を行った後では、ベトナムを除くすべての国で統計的に有意な差が見られた。盲ろう者以外の障害者がいる家庭と比較した場合でも、ベトナム、スーダン、タンザニアを除くすべての国で、盲ろう者のいる家庭は下位40%の社会的・経済的水準にある比率が統計的に高かった。  労働年齢の盲ろう者は貧困に陥る危険性がより高いということを、この調査は示している。例外的にベトナムでは、盲ろう者のいる家庭は盲ろう者以外の障害者のいる家庭に比べて、貧困状態にある比率がわずかに低かった。 図6:盲ろう者のいる家庭、他の障害者のいる家庭、障害者のいない家庭それぞれの下位40%の社会的・経済的水準にある比率 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ほとんどの国で、盲ろう者は他の障害者や健常者に比べて貧困に陥る危険性が高い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  盲ろう者の年齢別(49歳以下と50歳以上)に家庭の貧困状態を分析すると、49歳以下の盲ろう者のいる家庭は、ブラジル、南アフリカ共和国、ベトナム、米国、インドネシアの5か国[訳注:グラフによれば南アフリカ共和国、ベトナム、米国、ガーナ、ウルグアイの5か国]で、50歳以上の盲ろう者がいる家庭に比べて貧困状態にある比率が高かった(図7)。若年の盲ろう者がいる家庭は、貧困に陥る危険性がより高くなるという可能性がこのことからうかがえる。 図7:盲ろう者がおり、下位40%の社会的・経済的水準にある世帯における盲ろう者の年齢(49歳以下または50歳以上) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 若年の盲ろう者がいる家庭は貧困である比率が高い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 <当事者の声>   予想した通り、高所得国では中・低所得国に比べて社会的保護プログラムが手厚く提供されていることが分かった。WFDB会員によれば、盲ろう者向けの支援プログラムがある場合、それらは実際に盲ろう者の利益に繋がっている。第1章で述べたように、視覚と聴覚の両方で障害認定を受けなければならないといった評価・認定プロセス上の問題はあるものの、そのために盲ろう者がサービスを受けられなくなることはない。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 社会的保護:社会的保護および福祉の法律・政策が盲ろう者のニーズを十分に網羅している   高所得国:66%  低・中所得国:27% 社会的保護:盲ろう者向けの社会的保護または貧困削減事業がある   高所得国:66%  低・中所得国:45% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  低・中所得国と一部の高所得国では、社会的保護プログラムは貧困に関わる最低限の課題に特化しており、通訳や移動の支援には予算が当てられていない。サービス提供の範囲が限られており、社会活動のための支援が少ない状況では、盲ろう者が必要とする支援が提供されているとは言えない。政策立案者がそうした支援サービスや支援技術を「基本的ニーズ」とは考えず、住居や食料に比べて贅沢なものと見なしているということは、主要な問題点の一つだ。しかしこうしたサービスは、特に高度な支援ニーズを持つ盲ろう者の日常生活に不可欠なものである。  また、障害者手当を含む多くの社会福祉給付は、就労ができないか、一定の収入基準を満たさない人を対象としている。こうした前提のため、盲ろう者が就労を望んでいる場合でも、交通費や合理的配慮のための費用の支援はない。またこうした費用を雇用主が負担することもまれである。 貧困の罠:障害に起因する費用が盲ろう者と家族に与える影響  南アフリカ共和国の画期的な研究により、障害に起因する費用が盲ろう者とのその家族に多大な影響を及ぼしていることが明らかになった(DSD、2014)。たとえばコミュニケーション用の支援機器の費用は、盲ろう者にとって最も大きな出費となっている。また、パーソナル・アシスタンスの費用も最大の出費の一つである。  南アフリカ共和国における障害補助金は2014年時点で月額1,340ランドであり、大部分の盲ろう者にとって、上記のような支援を得るのに十分ではない。その結果、家族が家にいて盲ろう者を支援するため、機会費用が失われる。このことはすべての障害者グループに当てはまり、最も大きな損失となっている。以下の表は、研究から明らかになったさまざまな費用をまとめたものである(表は完全に網羅的なものではない)。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 人的支援  費用の種類:有償介助者   費用: 6,000〜14,000ランド/月   注釈: フルタイム勤務。介助者の能力により額は変動  費用の種類:家族   費用: 0ランド/月   注釈:所得喪失による機会費用の損失  費用の種類:専門の通訳者   費用:2,200ランド/月   注釈:なし 移動  費用の種類:公共交通機関   費用:通常の2倍   注釈: 本人に加え介助者の料金が必要  費用の種類:運転手   費用:7,000ランド/月   注釈: なし 支援技術  費用の種類:コンピューター   費用: 8,000〜32,000ランド   注釈: 機器の種類による(例:点字ディスプレイ、APICSブラインドリーダー)  費用の種類:ソフトウェア   費用:0〜6,000ランド   注釈: NVDAは無償、代替ソフトウェアは有償 費用の種類:インターネット、携帯電話   費用:600ランド   注釈:なし   出典:Hanass-Hancock Jill (2015). Elements of the Financial and Economic Costs of Disability to Households in South Africa. A Pilot Study. National Department of Social Development, Republic of South Africa, Pretoria. 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 推奨事項  ・障害認定と審査プロセスの際、盲ろう者を個別の障害グループと見なす。  ・障害者向けプログラムの策定の際、支援技術、パーソナル・アシスタンス、通訳・介助サービスなど、盲ろうに起因する費用の大きさを考慮する。 ----- 盲ろう者と就労 <データから分かる事実>   盲ろう者の就労について書かれた研究は、文献では3件のみ見つかり、2件が米国、1件がデンマークのものだった[4、19、20] 。いずれもサンプル数は少なく、大人数のデータを集めたものではなかったが、雇用への障壁があることを示していた。強調された課題としては、教育から就労への移行の難しさ、職業訓練の必要性[20]、成人後に盲ろうになったことによる早期退職の問題などがあった[19]。  図8は、盲ろう者、他の障害者、健常者の就労状況を各国データ間で比較したものである。この調査では、過去1年間を通して就労により給与または現物支給を得ているかどうかを尋ねている。調査対象となったのは15〜64歳の労働年齢人口のうち、教育課程にある人を除いた人である。 図8:過去1年間を通して就労している18歳以上の盲ろう者、他の障害者、健常者の比率(教育課程にある人を除く) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう者の就労率はすべての国で健常者より低く、ほとんどの国で他の障害者より低い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  11カ国すべてのデータで、盲ろう者は健常者に比べて就労率が低かった。盲ろう者の就労率は、高所得国より低所得国の方が高かった。たとえばアイルランドでは、健常者の就労率が70%であるのに対して盲ろう者の就労率は23%であり、米国ではそれぞれ75%と29%である。これに対してスーダンとガーナでは、盲ろう者と健常者の就労率の差はより低く、それぞれ15%(比率ではなくパーセントポイントの差)と11%である。ただしインドネシアでは55%、ベトナムでは73%と大きな差が見られ、前述の傾向とは一致していない。  サンプル数が少ないために年齢別の分析ができなかったウルグアイを除き、ほぼすべてのデータで、盲ろう者は全年齢層において健常者より就労率が低かった。例外はスーダンで、15歳〜29歳では統計的な差が見られなかった(図9を参照)。盲ろう者と健常者の就労率の差は年齢にしたがって広がり、高所得国の高い年齢層で最も差が大きかった。  年齢・性別による調整を行なった結果、11か国中7か国(スーダン、アイルランド、米国、ベトナム、インドネシア、タンザニア、南アフリカ共和国)のデータで、盲ろう者は他の障害者に比べて就労率が低かった。ただし若年層では、米国とブラジルで盲ろう者は他の障害者に比べて就労率が高く、その他の国では統計的に有意な差が見られなかった。30歳から49歳では、盲ろう者の就労率はアイルランド、タンザニア、南アフリカ共和国では他の障害者より低く、ガーナとブラジルでは他の障害者より高かった。最も高い労働年齢層(50歳〜64歳)では、盲ろう者はアイルランド、米国、南アフリカ共和国で他の障害者より就労率が低かった。  年齢・性別による調整の結果、男性では盲ろう者と他の障害者の差に一貫した傾向はなかったが、女性では11か国中7か国(スーダン、アイルランド、米国、タンザニア、南アフリカ共和国、インドネシア、ブラジル)で盲ろう者は他の障害者より就労率が低かった。 図9 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 就労していない盲ろう者は、就労していない健常者よりも求職している比率が低い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  就労していない労働年齢の盲ろう者は、就労していない健常者に比べて求職している比率が低かった。11か国中8か国で、統計的に非常に有意な差が見られた。また就労していない他の障害者と比べた場合も、米国、インドネシア、ベトナムの3か国で、盲ろう者は求職している比率が統計的に低かった。ブラジルでは、盲ろう者は他の障害者より求職している比率が高かった。  重要な点として、このデータは労働上の保障や職種については考慮していないということを注記する。たとえば低・中所得国では、インフォーマル経済が主な就労の場である。インフォーマルな仕事に就くのは比較的容易だが、不安定で収入が低く、労働者の保護(健康保険、労災保険、年金、代表権など)がなされていない場合が多い[21]。障害者は全体的にインフォーマル分野で働いていることが多いという調査結果があり[21]、これは盲ろう者にも当てはまるだろう。また、社会福祉や補助金を受けられる場合、盲ろう者の就労率は低くなると予想される。たとえばデンマークでの調査では、18歳から64歳の後天性の盲ろう者163名のうち、就労しているのは8名(5%)のみであった。調査対象の盲ろう者の63%は、障害者向けの生活手当を受けていた[4]。 <当事者の声> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 雇用:国の雇用政策が盲ろう者のニーズを十分に網羅している  高所得国:50%   上位中所得国:0%  低所得国:9% 雇用:盲ろう者の雇用サービス利用への支援がある  高所得国:17%   上位中所得国:34%  低所得国:35% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  盲ろう者に仕事と雇用の平等な機会を与えるための政策に対し、WFDB会員の大部分は否定的な見解を示した。高所得国の半数が、国の雇用政策は盲ろう者のニーズを網羅していると答えたものの、実際に適切な雇用支援対策が行われていると感じているのは17%に留まった。政策と実態の間に乖離があることが会員により強調された。  低・中所得国のWFDB会員は、国の雇用政策は盲ろう者について考慮していないと述べた。しかし、特に生活支援や自営業者への支援など、労働者への支援サービスは存在していた。高所得国と低所得国の状況の違いの一因として、低所得国ではインフォーマルな形での就労が一般的で、社会的保護がほとんど存在しないということがあるだろう。しかし正規の労働市場が大部分を占める高所得国では、障害者の就労自体に対する障壁が非常に大きい。その結果、多くの盲ろう者は障害者手当を受けることになるが、そのためには資産あるいは就労不能の基準を満たさなければならないことが多い。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 継続中の取り組み: インドにおける職業訓練、自営業、社会参加  最近制定された2016年障害者権利法(Rights of Persons with Disabilities Act 2016)は、雇用の1パーセントを盲ろう者を含む重複障害者に当てることと定めている。この法律以前には盲ろう者に言及する法律は何もなかったが、この法律の効果はまだ目に見える形では現れていない。    インドの盲ろう者の大多数は自営業で生計を立てている。そこで、センス・インディア(Sense India)および22州の連携団体が協力して、盲ろうの青年を対象に職業訓練プログラムを実施した。このプログラムの手法は多岐にわたる。  権利擁護啓発活動の成果として、職業訓練校(Industrial Training Institute、ITI)が設立され、盲ろうの青年たちが職業教育を受けることになった。同時に、90名の盲ろう者が訓練と技術指導と起業資金の支援を受け、自営で収入を得る活動に就いている。各地の連携団体との協力により、450名以上の盲ろうの青年たちが、この訓練校や地域の訓練プログラムで訓練を受けられるようになった。また、職業訓練や自営開業支援は盲ろう者の社会的孤立解消にも役立っている。この側面をさらに強化するために、家族や地域住民の協力を得ながら、社会参加活動も進められている。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  以下は各国のWFDB会員が指摘した共通課題である。  ・教育と就労は大きく関連している。北欧諸国には、質の高い盲ろう児教育への政府による投資の好例があった。こうした取り組みは盲ろう児の力を引き出し、自信と就労に必要な技術を身につけさせる手段となる。しかし多くの国では、言語習得前後の盲ろう児や若年盲ろう者への教育、歩行と移動の訓練、日常生活技能の訓練が不足しているため、彼らの就労の機会は大きく制限されている。さらにほとんどの国では、教育を就労へと結びつけるための効果的な職業指導、インターンシップ、就職斡旋サービスなどの支援が行われていない。  ・雇用者側に偏見がある。雇用者の姿勢は多くの盲ろう者にとって大きな障壁となる。盲ろう者のコミュニケーションニーズへの理解不足によって、偏見は大きくなる。この傾向を助長しているのは政府の通訳・介助事業の不足である。政府による支援があれば、盲ろう者を雇用する人は費用を大きく削減できる。政府が通訳・介助サービスに資金を提供している国では盲ろう者が就労しやすいことは明らかである。障害者枠や税制上の優遇といった政策も理論上は有効だが、上記の問題があるため、効果の程度は大幅に抑えられてしまう。税額控除のために盲ろう者を雇用し、実質的な仕事を与えずに自宅待機させている企業の例もあった。  ・盲ろうを個別の障害とする認識が不足している。その結果多くの国では、盲ろう者が法律から抜け落ちている。たとえばボリビアの雇用法には、盲ろう者についての言及がない。障害者向けの職業訓練や雇用対策プログラムも、盲ろう者を対象にしていないことが多い。  ・ほとんどの国では、職場での通訳・介助サービスへの政府による財政支援がないことが報告から分かった。このことは盲ろう者の労働市場への参入を大きく制限している。  ・多くの国では、盲ろう者の法的能力が制限されている。たとえば盲ろう者が銀行口座を開設する際、契約書への署名のため同行者を求める銀行がある。こうしたことは盲ろう者が金銭管理を行い、経済活動に参加する能力を制限してしまう。   2018年にセンス・インターナショナルがペルーで行った調査では、障害者、特に盲ろう者の就労への主な障壁は雇用者と同僚の偏見であると結論づけられた。この研究では、盲ろう者の就労支援について、典型的な障害者向けの仕事に限定するのではなく、それぞれの盲ろう者が経歴や希望に沿う仕事を得る支援を行うことを推奨している。また就労の場への参加を持続させる効果的な方法として、「内部の助言者」を利用することの重要性を強調している。盲ろうを個別の障害と認め、盲ろう者を支援する通訳・介助員の養成と認定を国に義務付ける法律29534の実行が状況の改善に不可欠であることが、この研究で強調された。また、現在の税制優遇措置は不十分で効果が薄いとして、企業による障害者、特に盲ろう者の雇用をさらに促すインセンティブを設けることも推奨された。   WFDB会員が語った中には、さまざまな興味深い取り組みもあった。たとえばピア・サポートと求職者への助言を仕事にしている盲ろう者などがいた。 推奨事項  ・雇用に関する法律、政策、プログラムから盲ろう者が排除されないようにする。  ・就労の場における通訳・介助員の十分な提供を保障する。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 継続中の取り組み ピア・カウンセリングによって、若年の盲ろう者の学校から仕事への移行を支援する取り組み(ドイツ)  卒業から就職へと移行する多くの若者たちは二つの困難に直面する。一つは、ロールモデルとなる盲ろう者の先輩との出会いがないこと。盲ろう者の多くは健聴者の家庭で育つ。彼らは成長の過程で、視覚と聴覚が前提の環境というバリアと闘い続けることになる。また、盲ろうの若者たちは、精神的な課題やアイデンティティーの問題に直面することになる。こうした課題は、関係団体の支援プログラムでは適切にカバーされていないのが実情である。  ドイツ労働社会省(German Federal Ministry of Labour and Social Affairs)の予算を得て、ケルン大学(University of Cologne)とアーヘン大学(RWTH-Aachen)が実施するこのプロジェクトは、ピア・カウンセリングという支援により、盲ろうの若者たちの労働市場への適応、再適応を支援している。メンターは社会参加に成功している盲ろう者から選ばれ、ピア・カウンセリングの講習を受けた上でピア・カウンセラーになる。次に、カウンセリングが必要な盲ろうの若者(メンティー)とメンターとの「マッチング」が行われる。ピア・カウンセリングのセッションでは、メンターは、受け持ちのメンティーが自分の置かれた状況を受け入れ、自分が選んだ進路に進んでいけるように励ます。このプログラムのポイントは、若者に自信を持たせ、自立へと導くことである。カウンセリングの過程は専門のカウンセラーによってモニタリングされる。また、メンターは、自分自身の経験を語ったり、盲ろう者の役に立つ支援や条件などの情報を提供することで、若者たちのやる気を引き出し、自信を持たせていく。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう者の声 エドガー・レイェス(Edgar Reyes) ドミニカ共和国  ドミニカ共和国の国立図書館の視覚障害サービス部門で20年間働いた後、障害と直接関係のない仕事をしようと、私は中学校の教師の職に応募しました。盲ろう者の応募は初めてのケースでした。採用試験の結果は100点満点中85点でした。  2015年10月、私は、自分が住むモンテ・プラタ市のドクトル・フリオ・アブレウ・クエリョ(Dr Julio Abreu Cuello)中学校に着任し、1、2、3年生にスペイン語を教え始めました。私の着任は同僚たちには驚くべき事態でしたが、生徒たちとの交流や職員たちとの良好な関係により、間もなく同僚の教師たちとスムーズな関係を築くことができました。採用試験に合格し、教師の職を得たと知ったとき、私は満足と不安の両方を感じました。「健常者の生徒たちとどうやってスムーズにコミュニケーションがとれるだろうか?同僚たちにはどのような目で見られるだろうか?自分の障害が授業や学内業務や生徒たちとの関係に支障をきたさないためにはどうしたらいいだろうか?」と自問自答しました。  校長と教師たちとの最初の話し合いの席で、私は盲ろうという障害の特徴を説明し、これまで自分の障害ゆえに、文化事業を担当したり、ラジオやテレビ、新聞などの活字媒体の記者として働くことを諦めたことはなかったと話しました。自分は10代の健常者の生徒たちを教えることができると信じているし、また、バリアを乗り越え、障害者への偏見を跳ね返す姿を生徒たちに見せることができるだろうと思いました。  学校が始まると、私は生徒たちに分かりやすい言葉で、自分が盲ろうという障害を持っていることを伝え、生徒たちに、はっきりと大きい声で話すように協力を求めました。また、チェックリスト作成、授業態度の見守り、私には利用できない機器の操作、黒板の利用などの際に協力してほしいと呼び掛けました。その結果、生徒たちは自然な形で、必要に応じて素早く、積極的に協力してくれるようになりました。  難しかったのは約30名の学級運営、課題の準備、教室の備品の管理、学校周辺の移動などでした。校長やコーディネーターと相談して、1度に受け持つ生徒は15人にしてもらい、同じ授業を2度行うことにしました。課題の準備、備品の管理、移動については、私を支援してれる同僚の教師や生徒たち、学校職員たちの協力が得られました。  教師になるには学ばなければならないことが多く、普通の人よりも努力が必要であり、より良いコミュニケーションのために創造力と想像力が求められます。その結果、私自身、能力や自信を身に着け、自立した社会生活を獲得することができました。  翌年、マドレ・アセンシオン・ニコル中学校(Secundario Madre Ascension Nicol)に転任しましたが、それ以降の学校への受け入れはスムーズで、より深い関係を築くことができました。生徒たちとその家族、そして同僚の教師たちという幅広い人間関係の中で仕事をすることにより、盲ろう者に何ができるかを多くの人々に示すことができます。自分たちの能力を日常生活の中で具体的に示すことは、会議やメディアで話をするよりも大きな意義があると思います。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ----- 盲ろう者と教育 <データから分かる事実>   サンプル数が不足していたウルグアイとアイルランドを除く9か国のデータから、5歳〜17歳の盲ろう児の就学状況が分かった。すべてのデータにおいて盲ろう児は健常児より就学率が低く、差の大きさの上位3か国はメキシコ(33%の差)、インドネシア(62%)、ベトナム(75%)であった。  9か国中ブラジルを除く8か国で、盲ろう児は他の障害児より就学率が低かった。差の大きさの上位3か国はメキシコ(15%)、インドネシア(15%)、ベトナム(16%)であった。男女の盲ろう児の間に差はなかった。  現在就学していない5歳〜17歳の子どものうち、一度も就学経験のない盲ろう児の比率は9か国中7か国で健常児より高く、4か国で他の障害児より高かった。しかしサンプル数が少なく信頼区間が広いため、解釈に注意が必要な項目もある。 図10 5歳〜17歳の盲ろう児、他の障害児、健常児の就学状況 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう児の就学率は健常児に比べて最低で23分の1であり、他の障害児に比べても低い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 図11 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 現在就学していない盲ろう児は就学していない健常児に比べて、就学経験がない比率が高い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  すべてのデータで、成人の盲ろう者はその他の障害者と健常者より、子どもの頃に就学経験がない比率が高かった。年齢・性別による調整後(成人の盲ろう者は成人の健常者より平均年齢が高い傾向にある)でも、メキシコとウルグアイを除くデータで統計的に有意な差が見られた。メキシコとウルグアイでは、盲ろう者とその他の障害者の間に有意な差は見られなかった。成人の盲ろう者の多くが就学年齢を超えてから盲ろうになっていることを考えると、就学経験のない盲ろう者は社会的・経済的水準が低く、そのために就学できなかったか、加齢に伴う身体機能の低下に対する医療措置を受けられなかった可能性が考えられる。 図12 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ほとんどの国で、成人の盲ろう者は健常者や他の障害者に比べて、子どもの頃に就学経験がない比率が高い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  重要な点として、この分析結果は盲ろう児が受けている教育の質については何も示していないということを注記する。文献調査で得られた資料は主に米国の研究であったが、こうした研究は盲ろう児教育の質に懸念を示していた。盲ろう児と若年の盲ろう者は数が少ないため、教育の専門家は盲ろうの生徒と関わるための訓練や支援をほとんど、あるいは全く受けていない[22、23]。また盲ろうの生徒はそれぞれが非常に異なっているため、指導・学習対策も個々によって大きく異なる。たとえば盲ろうになったのが言語獲得の前後のどちらか、視覚・聴覚障害の程度がどれくらいかによって異なる[10]。さらに、盲ろう以外の障害を持ち、別の学習支援が必要な盲ろう児と若年の盲ろう者も多い[24、25]。  早期発見と盲ろう児向けプログラムの紹介は、教育上の成果に加えて認知的、社会的な成果をもたらすためにも不可欠だ。しかしそうした支援が遅れる例は多い。たとえば米国全州にわたる調査では、3歳までに適切な支援を受けられた盲ろう児の比率は0〜26%だった[26]。インクルーシブ教育への投資の少ない低・中所得国では、状況はさらに厳しいと考えられる。 <当事者の声> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 教育 :国の教育法・政策が盲ろう者のニーズを十分に網羅している  高所得国:44%  低・中所得国:18% 教育 :インクルーシブ教育と特殊教育の両方が行われている  高所得国:55%  低・中所得国:55% 教育 : 特殊教育のみが行われている  高所得国:33%  低・中所得国:45% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  WFDB会員にとって教育は主要課題である。盲ろう児と若年の盲ろう者が教育を受けられることが、雇用と社会参加に深く関係していることが確認された。教育の課題は低所得国で特に深刻であるものの、高所得国でも、国の教育政策が盲ろう児のニーズを網羅していると答えたのは半数以下だった。本調査の対象国の半数以上が、政府はインクルーシブ教育と特殊教育の両方を提供していると答えた。一方で、高所得国の3分の1および低所得国の約半数は、特殊教育しか提供されていないと答えた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 インドの現状 インクルーシブ教育推進の動きから取り残される盲ろう児たち  インドの公教育は、公立の小中学校教育に障害児を受け入れるインクルーシブ教育推進のモデルケースとして評価されることが多い。国の教育政策が対象にするのは盲ろう児(6〜18歳)を含む「すべての」障害児であり、約55,000名の盲ろう児が国のインクルーシブ教育プログラムの対象だと言われている。公教育はすべて無償で、支援機器、給食、個々の児童に対応した人的支援などを提供するプログラムもある。  しかし、コロンビアなど多くの国々と同様、普通学校の教師たちの研修やインクルーシブ教育に対応したカリキュラムの改定が不十分な状態にあるというのが、インクルーシブ教育の取り組みの現状である。この事態を改善するために、センス・インディア(Sense India)は、人的資源開発省及び世界銀行と連携し、既存のカリキュラムを盲ろう児に対応したカリキュラムに改定するためのガイドラインの作成に普通学校の教師たちが取り組んできた。  また、公立学校の他にインド各地の多くの私立の普通学校が障害児のニーズに対応する支援センターを併設し、盲ろう児を含む障害児を受け入れている。成人の盲ろう者が高等教育に進んだり、職業訓練を受けたりする際にもこの支援センターが活用されている。  こうした取り組みはあるものの、盲ろう児の多くがNGOが運営するデイケアセンターや地域生活プログラムにより支えられているのが現状である。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  2018年ヘレン・ケラー世界会議における議論では、以下の課題が強調された。  ・多くの国では、家族・教育機関の両方の盲ろうに対する理解が不足している。そのため、盲ろう児の教育を受ける権利、障害の有無に関係なくすべての子どもに教育を受けさせる義務が認識されていない。  ・早期発見と介入の不足により、盲ろう児の親が子どもとのコミュニケーション方法を学べない。その結果、親が子どもの障害を理解、受容し、支援を受けることが困難になる。これは子どもの発達に悪影響を与えてしまう。  ・大部分の国では、就学している盲ろう児、就学していない盲ろう児の数を示すデータが不足している。  ・多くの国では、盲ろう児と若年の盲ろう者に特化した教育支援プログラムが存在しない。支援プログラムの大部分は盲、ろうの単一障害の子どもを対象としている。教員は十分な訓練を受けておらず、盲ろう児のために組まれたカリキュラムも存在しない。盲ろう児を想定していない教育政策の例が多数の会員から挙がった。盲学校やろう学校の中には盲ろう児を支援しているところもあるが、体系的な取り組みは存在しない。  ・高所得国の中には盲ろう者向けの支援サービスがある国もあるが、低・中所得国の大部分には存在しない。また、サービスが首都や主要都市に集中しており、地方や小さな都市では受けられないという国内格差もある。  ・子どもの頃に教育を受けられなかった盲ろう者に対する公式・非公式の教育サービスの発達も重要である。  ほとんどのWFDB会員はインクルーシブ教育を支持している。一方で多くの会員が、盲ろう児が就学に備えるためにコミュニケーション、移動、日常生活の訓練を提供するリソースセンターのさらなる充実も必要であるとした。リソースセンターが普通学校と協力し、盲ろう児を受け持つ教員にコミュニケーションや教育適応の訓練を施して支援している国もあった。  さらに地域社会に根ざしたプログラムを通して、家庭内で盲ろう児の就学準備を行い、親の理解と自信を促すための最初の盲ろう児支援を行うこともできる。盲ろう児のインクルージョンを実現するには、学校、家庭、地域社会とのつながりを構築することが重要であるとWFDB会員は主張した。  いくつかの国からは、公的機関より私立学校の方が十分な支援を受けやすいという可能性が示されたが、貧困家庭にとっては格差が増大することになる。 推奨事項  ・インクルーシブ教育に関わる法律、政策、プログラムにおいて盲ろう者のニーズが考慮され、カリキュラムの適応、教員への訓練、生徒への支援がなされることを保障する。  ・普通学校および盲ろう児とその家族を支援するリソースセンターが利用できるようにする。  ・通訳・介助員の十分な提供を保障する。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう者の声 ヘルマン・ゲヘーロ(German Guerrero) コロンビア  10歳のころから視力が落ち始め、14歳で完全に見えなくなりました。家族はあらゆる手を尽くしてくれましたが、ある日、医者から「最も効果的な治療は『教育』です!」と言われ、そのときから私たちは日常生活への適応に力を注ぐようになりました。  家の近所の普通の学校になんとか通っていました。でも、視力が落ちるにつれて黒板が見えなくなりました。医者からは盲学校で教育を受けるようにと言われました。小学校卒業後、中学校に進みましたが、多くの困難に直面しました。米国に親類がいたので、より良い教育の機会を求めて、家族は私を米国に送り出す決心をしました。私は6か月ごとに試験を受けるオープン・プログラム制度で中等教育を受け、音楽の勉強を始めたのですが、聴力が落ちていることに気がついたのです。とても辛い時期でした。そして、盲ろう者協会(Association of People with Deafblindness)と出会ったのです。  2009年、コロンビアでも国連障害者権利条約が発効しました。コロンビア障害者協会は障害者権利条約の条文の実現に取り組み始めました。第24条には盲ろう者について言及されていますし、すべての障害者に質の高いインクルーシブ教育を保障すると書かれています。  私が大人になるまでのコロンビアは厳しい状況にありました。今ではインクルーシブ教育を可能にする法律や制度ができてきています。盲ろうは個別の障害として認められています。約350校の学校がインクルーシブ教育を実践しています。盲ろう児が普通学校に入学し、通常学級で学ぶためのガイドラインもあります。  しかし、課題も多く残されています。現在の教育制度は、すべての人たちに質の高いインクルーシブ教育が保障されているとは言えない状況です。アクセシビリティが整備されていない学校も多く、障害に対応したカリキュラムもなく、盲ろう児教育の研修を受けた教師もいませんし、通訳・介助者も不足しています。政治家も行政も、盲ろう者のニーズを理解していませんし、盲ろう者支援に予算を使おうとしません。盲ろう者運動のリーダーである私たちは、コロンビア障害者連盟(National Council for People with Disabilities)と連携して、政府に対して法律や制度にどのような改正が必要なのかを訴えているところです。  私が過去に味わった苦労を他の人に体験させたくありません。誰もがインクルーシブ教育への機会を保障されるべきです。そして、盲ろう者のリーダーである私たちは、私たちの国々における教育の権利の実現を働きかけていかねばなりません。教育は自立への鍵となるものであり、様々な権利獲得のために闘う原動力になるからです。権利条約の内容は実現させねばなりません。つまり、教育課程を整え、学校をバリアフリー化し、盲ろう児教育を担当する教員の研修を充実させ、通訳・介助者を増やすことが必要です。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 継続中の取り組み ルーマニアにおける早期発見と支援  盲ろう児の発達やリハビリテーションは、学齢に達してからでは成果を上げるには手遅れになる恐れがあり、その後の学習、コミュニケーション、社会生活上大きな影響が残る。  2007年、ルーマニアの教師たちからのこうした問題提起を受け、センス・インターナショナル・ルーマニアは乳幼児の盲ろう児スクリーニングプログラムを立ち上げた。ここで発見された盲ろう児たちは早急に早期支援サービスに送られ、そこで感覚刺激療法などを受ける。これにより、盲ろう児の発達や学習、自立が促進される。  国内の四つの地域で地域児童福祉当局、学校、病院の連携体制が採られた。全国的には、特に教育省の下、乳幼児の聴力検査スクリーニングおよび視力検査の結果に基づく早期支援カリキュラムが開発、認可された。  障害児教育教師、心理学者、ソーシャルワーカー、理学療法士、眼科医、小児科医、聴覚機能訓練士といった各領域の専門家からなる支援チームが組まれ、研修を受ける。自分の子どもに早期支援を提供する親たちもまた支援チームの重要なメンバーである。  盲ろうの疑いのある乳幼児たちは聴覚スクリーニングと視力検査を受ける。早期支援センターに送られた子どもたちは多感覚刺激や視機能訓練、聴覚知覚訓練、言語療法、理学療法などを受け、また親たちも情報提供やカウンセリングといった支援を受ける。支援の中心に位置づけられるのは盲ろう児であり、個々の盲ろう児のニーズに合わせた支援プログラムが組み立てられる。  この早期支援試行事業は、国の教育制度に組み込まれることにより、さらなる充実が期待される。現在、政府による承認を待っている段階である。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 継続中の取り組み ケニアにおける感覚障害を持つ乳幼児への早期支援サービスの提供  センス・インターナショナルは、1か所の病院と3か所の保健センターと連携して、2017年に、早期介入プログラムを開始した。この3年間のプログラムでは、ケニアでは初めての取り組みとして、0〜3歳児の感覚検査スクリーニング検査と早期介入が行われている。同プログラムでは75,000人の乳幼児の先天性疾患の有無を調べ、単一感覚障害のある乳幼児については専門医の診察を受けさせ、盲ろうの乳幼児については早期介入プログラムにおいて感覚刺激などの治療を受けさせる。  早期介入診療所は保健局病院と3か所の保健センターに設置されている。保健士と地域の保健ボランティア達は、講習を受けた上で、第1段階の感覚障害質問票調査に携わる。この段階で感覚障害の疑いが認められた乳幼児には視覚・聴覚検査機器を用いたスクリーニング検査を受けさせる。次に、専門の医療スタッフが視覚と聴覚を検査する。こうした検査の結果を踏まえ、個々の子どもに応じた治療を受けさせることになる。  クリスティーナ・モラア(Christina Moraa)さんの息子のサイモン(Simon)君(写真)は、最初に検査を受けた乳幼児の一人だった。「息子の聴力に問題があるなんて全然気がつきませんでした」とクリスティーナさんは言う。「ありがたいことに検査は無料で受けられて、今後の息子の検査や治療も支援してくださるそうです。」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ----- 盲ろう者と保健医療 <データから分かる事実>   国別分析では、健康状態と保健医療サービスの利用に関するデータはほとんど得られなかった。健康状態に関する指標は他の障害の有無のみである。図13はそれぞれのデータについて、視覚・聴覚以外の機能の制約を持つ盲ろう者の比率を示している。20%〜75%の盲ろう者が体の動きや認知に関わる他の機能の制約を持っており、その比率は子どもを含むすべての年齢層で高かった。盲ろう者、盲ろう児が複数の障害や疾病を持っているという傾向は文献調査にも現れていた。一例では、カナダのモントリオールの盲ろう児の86%が他の障害を併発していた[25]。 図13 他の機能の制約を持つ盲ろう者の比率 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 20%〜75%の盲ろう者が他の機能の制約を持っている  対象国:メキシコ、アイルランド、USA、ガーナ、スーダン、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  盲ろう者は保健医療サービスの利用が困難であり、受けている医療のレベルが低いという傾向も文献調査から明らかになった。しかしこうした調査結果は主に高所得国に限られた。たとえば米国と日本では、自身の健康状態について盲ろう者は他のグループよりも低く評価しており[14、27、28]、死亡率も高かった[29〜31]。一般医療とリハビリテーションの両方の利用に関して、複数の共通課題が明らかになった。特に情報利用や代替的コミュニケーション方法に関する医療機関での配慮の不足、保険適用外の費用による医療費の増加、サービスの都市への集中と地方での不足、医療専門家の盲ろう者に関わる知識と訓練の不足である[12、32]。  感覚障害のない人や単一の視覚障害者・聴覚障害者に比べて、盲ろう者はうつ病やその他の精神保健上の問題を抱えやすいという研究結果も増えている[13、33〜39]。盲ろう者は精神保健サービスの利用に困難を抱えることが多い。たとえば英国での調査では、調査対象の盲ろう者の60%が精神的な問題を抱えていたが、精神保健サービスを利用したことがあるのはわずか5%だった[33]。米国でも、盲ろう者のニーズに配慮した治療を行なっている精神保健サービス業者はわずか16%だった[40]。 <当事者の声> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 保健医療 :国の保健医療制度が盲ろう者のニーズを十分に網羅している  高所得国:55%  低・中所得国:36% 保健医療 :保健医療に特化したサービスを利用できる  高所得国:66%  低・中所得国:27% 保健医療 :盲ろう者のリプロダクティブ・ヘルスに関わる権利に注意が払われている  高所得国:11%  低・中所得国:9% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  特に高所得国において、盲ろう者にとって保健医療サービスは教育よりも利用しやすいことが調査によって示された。保健医療に特化したサービスを利用できると答えた人の比率は、高所得国では3分の2に上ったが、低所得国では27%に留まった。しかし、盲ろう者のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関わる健康)に関わるサービスは、高所得国・低所得国の両方で不足していた。  2018年ヘレン・ケラー世界会議における相談では、盲ろう者と保健医療についてより詳細な情報が得られた。以下は強調された課題である。  ・盲ろうの原因や特殊性に関する医療の専門家の知識が不足している。これは特に盲ろう児について当てはまり、その結果、早期発見と介入が妨げられている。  ・医療関係者も盲ろう者特有のコミュニケーションニーズを理解しておらず、盲ろう者自身ではなく通訳・介助員や家族に話しかけてしまう人が多い。盲ろう者自身が自分の症状を説明できないため、誤診などの重大な問題が発生しかねない。さらに、提案された治療に関する情報を盲ろう者が得られないため、自分自身の病歴を十分に理解できない状況に置かれる。  ・医療関係者は多くの場合、緊急時における盲ろう者とのコミュニケーション方法を全く分かっていない。状況の分からない盲ろう者にとってそうした状態は非常に恐ろしく、権利を侵害された状態にもなりかねない。  ・予防接種、非感染症、HIVエイズになど関する健康促進・予防キャンペーンに参加できないことが多い。  ・非常に孤独な状況に置かれ、社会との関わりが不足した盲ろう者は深刻なうつ状態になることがある。精神保健サービスの不足が状況を悪化させている。  保健医療サービスの利用に関わる課題に取り組むための各国の優れた実践例について、WFDBは情報共有を行った。以下の興味深い取り組みが共有された。  ・デンマーク盲ろう者協会は、各自のコミュニケーション上のニーズを記載した個人カードを会員に与えている。ベッドの上に置いておけば、緊急時に自分のニーズをスタッフに伝えることができる。盲ろう者に関する情報一式も医療関係者に提供する。  ・スウェーデンでは、盲ろう者の保健医療、リハビリテーション、社会へのインクルージョンを精神保健分野に重点を置いて支援する「盲ろうチーム」を政府が結成した。  ・オーストラリアでは、盲ろう者が医療機関を受診する際、通訳・介助員の予約ができる国のサービスがある。効果的な実践例だが、こうしたサービスは公的事業より民間事業による方が機能しやすい。  ・メキシコでは、看護師と盲ろう者の意思疎通支援を目的とした訓練課程が開設された。大学の看護学生にも、基本的な盲ろう者とのコミュニケーション方法を学ぶ訓練ワークショップが提供されている。この取り組みは成功しているため、今後も各地で行われていく予定だ。  ・センス・インターナショナルはタンザニア、ルーマニア、ケニア、ウガンダ、インドで早期発見・介入プログラムを実施している。  ・マラウィではマラウィ盲ろう者協会(VIHEMA Deafblind Malawi)が、盲ろう者のリプロダクティブ・ヘルスへのアクセシビリティ向上を目的としたパイロット・プロジェクトを行っている(以下のコラムを参照)。 推奨事項  ・盲ろうの原因、盲ろう者特有のコミュニケーションニーズを理解させるため、医療関係者に十分な訓練を施す。  ・特に盲ろうの女性と女子に対して、リプロダクティブ・ヘルスサービスのアクセシビリティを保障する。  ・教育スタッフと連携し、早期発見・介入サービスの提供を保障する。  ・通訳・介助サービスが十分に提供されるようにする。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 継続中の取り組み マラウィの盲ろう者の性と出産の問題  マラウィは国連障害者権利条約を批准し、持続可能な開発目標を支持している。しかし、条約の恩恵が必要な人々に行き渡っているとは言い難い状況である。とりわけ困難な状況にあるのは盲ろう者、特に盲ろうの女性たちである。彼女たちは保健サービスや保健施設の利用が難しく、保健に関する知識もなく、コミュニケーションの支援も受けられないために医療従事者の理解が得られない。その結果、盲ろうの女性は医療機関に行けなくなってしまう。また、女性ゆえの暴力や望まない妊娠に見舞われる危険にさらされている。  このような状況の下、マラウィ盲ろう者協会(VIHEMA Deafblind Malawi)は、盲ろうの女性たちが妊娠出産に関わる医療と家族計画サービスの利用を可能にする取り組みを始めた。  マラウィ盲ろう者協会は、盲ろうの女性とその家族を対象とした訓練プログラムと、助産師、臨床医、保健士などの医療従事者対象の研修を試行プログラムとしてスタートさせた。この研修で医療スタッフたちは性や出産についての効果的な伝え方を学ぶと同時に、盲ろうの女性を支援する方法についても情報提供を受けた。  この研修が始まる前は、盲ろうの女性たちは保健センターに行こうとしなかった。医療スタッフは盲ろう者とのコミュニケーション方法を知らず、中には盲ろう者に対して不親切な態度を取るスタッフもいたからだ。盲ろうの女性と医療スタッフ双方を対象とした二本立ての研修制度により、盲ろう者と医療スタッフの間の壁が取り除かれ、盲ろう者は保健医療サービスを利用しやすくなった。家族計画というテーマについて健常者の女性たちと話し合う盲ろうの女性も出てきた。また、この事業を進める中で、強制的避妊手術により障害者の女性を性暴力から保護することができるという誤った考え方を修正することができた。  この事業は成果を上げてきているが、マラウィの保健政策や制度はまだまだ改善すべき点が多く、人権擁護の立場から我々はさらに活動を進めていきたい。状況が改善されていけば障害者、特に盲ろう者がより積極的に社会参加できるようになるだろう。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ----- 盲ろう者と政治・公的活動への参加 <当事者の声> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 政治参加 :盲ろう者の投票権・被選挙権に法的な制限がある  高所得国:17%   上位中所得国:0%   低所得国:20% 政治参加 :盲ろう者の政治参加が積極的に支援されている  高所得国:17%   上位中所得国:17%   低所得国:25% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  盲ろう者の投票権を法的に制限している国はまれであるが、社会参加への支援が行われている国も少ないことが調査結果から明らかになった。  2018年ヘレン・ケラー世界会議では、政治参加と公的活動への参加に関する経験が熱心に話し合われた。盲ろう者が認識され、適切な配慮と必要なサービスを得られようになるにはこの課題の達成が唯一の方法であるという、切実な感覚が共有されていた。議論は主に3点の課題に集中した。投票権とアクセシビリティ、協議体制などへの参加、障害者団体の発展である。 投票権とアクセシビリティ:  ・政治参加にはアクセシビリティが不可欠である。政党やプログラム、選挙日についての情報を得る必要があるためである。  ・多くの国ではテレビのニュースや政治的議論を通訳するサービスがないため、盲ろう者は情報を得て決定することができない。盲ろう者は政治に関する情報を十分に得られず、政党名や政党名の意味を知らない場合も多い。そのため、盲ろう者は投票できないという先入観が家族の間でも助長されてしまうことがある。  ・利用できない投票方法が多い。利用可能な投票方法があっても、投票のための適切な支援を受けられないこともある。 盲ろう者の政治的代表権:  ・すべての政治段階で、盲ろう者を代表する人が不足している。選挙で選ばれたり、政治的な役職に任命されたりしている盲ろう者は少ない。  ・健常者や他の障害者から偏見を持たれてしまう。 盲ろう者団体の発展:  ・盲ろう者団体が政府からも障害者運動側からも認識されていない状況について、多くのWFDB会員が懸念を示した。  ・進展が見られる国もあるが、盲ろう者が正しく十分に理解されている国はない。そのため、盲ろう者の政治参加に関する支援や補助金はほとんどない。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう者の声 地域レベルでの行政サービスの向上に欠かせない盲ろう者の参加 エウラリア・アウヴェス・コルデイロ(Eulalia Alves Cordeiro) ブラジル、サンパウロ  私の名前はエウラリア・アウヴェス・コルデイロです。私は盲ろう者です。私は首都サンパウロの障害者協議会(Municipal Counsel of the Persons with Disabilities)でカウンセラーをしています。2002年から、ブラジル盲ろう者協会(Brazilian Association of Persons with Deafblindness、ABRASC)の盲ろう者はサンパウロの障害者協議会(Municipal Counsel of the Persons with Disabilities)に参加しています。協議会への参加は盲ろうという障害の周知に繋がり、参加者は自己主張の機会を得て、自分たちの権利を主張し、他の障害者と同じように自分たちも公共政策に積極的に関わることができるのだと声を上げてきました。しかし、この協議会では盲ろう者は正式なメンバーとして認められていません。盲ろう者は、ろう者や視覚障害者、重複障害者と交替する形で協議会に参加しているのが実情です。  2017年12月現在、三つのブラジルの都市で、7名の盲ろう者がカウンセラーとして、またはワーキンググループの委員として活動しています。彼らが取り組む課題は障害者問題にとどまらず、女性問題や健康問題にも取り組んでいます。  現状では、ブラジルの多くの州の盲ろう者たちは学校や大学で通訳・介助者サービスを受けられずにいます。サンパウロは市の制度として盲ろう者向け通訳・介助者サービスが提供される唯一の都市です。これは私たちが働きかけてきた結果です。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  課題は多いもののWFDB会員からは進展や取り組みについての心強い発表もあった。  ・クロアチアでは、盲ろう者が選挙日に通訳派遣を受けるための予算を盲ろう者協会が要求し、承認された。拡大文字や点字など、利用可能な候補者リストも作成された。各政党やプログラムについての情報も盲ろう者に提供された。さらに盲ろう者1名が国会議員に選出された。  ・スウェーデンでは、次回選挙において、点字を使用する盲ろう者は選挙情報と投票用紙を自動的に点字で受け取れることになっている。  ・インドでは、選挙委員会との連携のもと、有意義な権利擁護活動が行われている。選挙委員会のメンバーを招いて、選挙方法や投票機の使い方を盲ろう者に指導してもらうという内容である。こうした交流により職員の盲ろう者への理解も深まり、選挙のアクセシビリティ向上のために対策を講じてもらうことができる。2018年のヘレン・ケラーの日、センス・インターナショナル・インドは、盲ろう者が初めて選挙に参加できる見通しだという報告を選挙委員会から受けた。次回の総選挙に盲ろう者が参加できるよう、アクセシビリティ向上対策が講じられる見込みだ。  ・マラウィでは、選挙委員会が触知式の投票用紙を導入した。しかし投票用紙には改善の余地があり、盲ろう者がより理解しやすい様式を検討する必要がある。  ・ブラジルのサンパウロでは、盲ろう者が市議会に積極的に参加している(上記のコラムを参照)。  ・デンマークでは、盲ろう者が抱える主な課題とニーズについて政策立案者と政治家に伝えるため、盲ろう者協会が年2回情報雑誌を発行している。 推奨事項  ・すべての盲ろう者の投票権を保障する。  ・選挙キャンペーン、投票に必要な用具、投票所などに関して、盲ろう者のアクセシビリティのためのニーズを考慮する。  ・盲ろう者が政治や公的活動に関われるよう支援する。  ・盲ろう者団体を支援し、障害者運動の協議において、盲ろう者団体が常に個別のグループとして参加できるよう支援する。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ケニアの現状 政治参加と社会参加  選挙権、被選挙権という参政権を享受することは、政治参加、社会参加の基本である。盲ろう者は政策決定の過程から排除されることが多く、政府機関、一般の職場、公共の場で責任ある立場に就くことができない。どのレベルの政治であれ、盲ろう者が立候補し、当選し、公職に就くことは極めて稀なケースだと言える。  盲ろう女性であるエマ・ムブグア(Emma Mbugua)さんは、2013年から2017年、ナクル(Nakuru)郡議会議員を務めた。ケニアでは、地方議会、国会の双方で議員に選ばれる障害者が増えてきている。その背景には、公職の定員の5%に障害者が就かなければならないと定めた法律の影響もある。  長年、ケニアの障害者運動に精力的に取り組んできたムブグアさんは、議員に当選する前から教育、選挙権など幅広い分野で活動してきた。こうした活動を通して、彼女はジュビリー(Jubilee)党と出会い、同党の指名で郡議会議員の職を得た。  当初、エマさんは、議員の仕事に必要な支援者の費用を自分で負担していた。しかし、彼女が必要な支援機器や、移動、文書処理、議会参加に必要な支援者の雇用費用を、郡が徐々に負担するようになった。  2014年、センス・インターナショナルの支援を受けて、エマさんは、ナクル郡障害者法案を提出した。同法案は政令として成立し、エマさんは法案の施行に取り組んできた。エマさんは、盲ろう者も公的に責任のある仕事ができることを身をもって示し、障害者が公職に就くことを妨げる偏見を取り除くことに尽力した。  (写真)「エマ・ムブグアさん」「地元のフットボール大会で若者を表彰するエマさん」  取材:エドウィン・オスンドワ(Edwin Osundwa)(センス・インターナショナル・ケニア) edwin@senseint-ea.org 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ----- 盲ろう者と社会的生活 <データから分かる事実>   国別の分析では、配偶者の有無と盲ろう児の生物学的な両親の有無のほか、社会的生活については最低限の情報しか得られなかった。スーダンとウルグアイ(訳注:グラフによればスーダンのみ)を除くすべての国で、盲ろう者は健常者よりも未婚率が高かった。 図14 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう者は健常者よりも未婚率が高い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、ウルグアイ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  年齢を考慮に入れた場合でも、すべての国で盲ろう女性は盲ろう男性に比べて未婚率が非常に高かった(図15 を参照)。また他の障害を持つ女性と比べた場合は5か国で、健常者の女性と比べた場合はすべての国で、盲ろう女性の未婚率はより高かった。 図15 盲ろう女性、盲ろう男性の配偶者の有無 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう女性は盲ろう男性よりも未婚率が高い  対象国:スーダン、メキシコ、アイルランド、USA、インドネシア、ガーナ、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  9か国のうち南アフリカ共和国、スーダン、米国、インドネシア、メキシコ(訳注:グラフによればメキシコに代わりブラジル)の5か国で、18歳未満の盲ろう児は、生物学的な両親の少なくとも一方がいない家庭に暮らす比率が高かった(図16を参照)。他の障害児と比べたときは、ほとんどの国で統計的に有意な差は見られなかった。例外的に、スーダンとインドネシアでは、盲ろう児は両親の少なくとも一方がいない比率が他の障害児より高かった。 図16 生物学的な両親の一方または両方がいない家庭に暮らす5〜17歳の子どもの比率 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 9か国中5か国で、盲ろう児は健常児よりも両親が揃っていない比率が高い  対象国:スーダン、メキシコ、USA、インドネシア、ガーナ、ベトナム、タンザニア、サウスアフリカ、ブラジル 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  文献調査では、盲ろう者の社会生活に関する他の指標について述べた研究も見つかった。それらの大部分は高所得国のもので、高齢の盲ろう者に関するものだった。いくつかの研究から、調査対象となった高齢の盲ろう者の多くが、日々の活動への参加率が低いことが明らかになった[14、41〜43]。高齢の盲ろう者を対象としたスウェーデンのある研究では、スティグマや自尊感情の低さなどの原因から、医療機関や福祉局と連絡を取るといった行動をとらない人がいることが分かった。  盲ろう者の社会的孤立をテーマとした文献も多かった。欧州11か国で、50歳以上の盲ろう者は感覚障害のない人と比べて、社会的に活発でない比率が2倍であった[18]。他者との相互理解の困難は社会的インクルージョンへの大きな障壁となり、倦怠感、不満、ストレスの原因にもなる。後天的に盲ろうになった高齢者の生活の質と幸福度の低さを報告した研究も複数見られた[13、44、45]。 <当事者の声> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  地域社会へのインクルージョン:地域社会の通常サービスが利用できる   高所得国:50%   上位中所得国:50%   低所得国:40% 地域社会へのインクルージョン:地域社会で支援サービスが受けられる  高所得国:83%   上位中所得国:33%   低所得国:20% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜    通訳・介助員の利用ができないという課題が強調される現状では当然と言えるが、通常の地域社会のサービスを日常的に利用できると答えた盲ろう者は、高所得国と中所得国では半数、低所得国では40%に留まった。家族の手を借りなければこうしたサービスを受けられず、自立的なサービス利用が極めて困難であるという現状がWFDB会員の議論から明らかになった。通訳・介助サービス以外の地域社会による支援サービスが利用できると答えたのは、高所得国では85%だったが、中所得国では33%、低所得国では20%であった。NGOによる地域に根ざしたプログラムを除いては、障害者への支援サービスは極めて少ないことが分かった。  文献調査の結果を裏付けるように、ほとんどの盲ろう者が深刻な孤立を経験していることをWFDB会員たちは強調した。アクセシビリティの欠如、雇用の機会の不足、数多くの障壁のために、盲ろう者の社会参加は大幅に制限されている。  個々の盲ろう者の経験は異なっており、主に障害が先天性と後天性のどちらであるか、盲ろうになった年齢がどれくらいかによって違いが出る。しかし、本人や家族への支援の不足、支援機器の費用、通訳・介助サービスやリハビリテーションサービスの不足といった共通課題により、盲ろう者は社会参加を制限され、より孤立した状況に置かれている。  家族や友人の中でも、固定観念や知識不足により、盲ろう者が孤立してしまうという問題もWFDB会員は強調した。コミュニケーションや家族の支援が不足すると、暴力、放置、虐待といった問題も起こり得る。極端な場合では、盲ろう者が家庭に閉じ込められたり、薬を投与されて一日中寝たままの状態に置かれたりする可能性もある。また、家族が過保護になり、盲ろう者が何かに挑戦したり、地域社会に参加したりするのを妨げてしまうこともある。盲ろう者が孤立し、自立生活の方法を身につけていないために、家族が強い不安を感じることもある。特に高齢の両親の場合、成人した盲ろうの子が自分たちの死後どのように生活していくのかについて、不安を感じている。  盲ろう女性は性差別のためにより高いリスクを負っており、虐待や性暴力の被害を受けやすい。  盲ろう者の周囲で盲ろう者のコミュニケーション方法を習得している人は極めて少ない。したがって周囲の人間は、通訳者などの仲介する人を通して盲ろう者とつながりを持つことが多い。特に地域社会のサービスの提供者など、周囲の人が盲ろう者の基本的なコミュニケーションニーズを理解できるよう、啓発に努めなければならない。概して盲ろう者に視力と聴力が多少残っている場合、周囲の人は適切な方法でコミュニケーションを取らない傾向がある。  通訳・介助サービスへの支援の不足は、すべての国とあらゆる環境で決定的な障壁となっている。本報告書で述べたように、盲ろう者が有意義な教育、就労、社会参加の機会を得るための質の高いサービスを十分に提供している国はほとんどない。多くの場合、支援が受けられる限られた時間内で何をするかを選択しなければならず、生活のすべての面が保障されるわけではない。  ソーシャルメディアとアクセシブル技術の発展により、世間や他の盲ろう者と交流できる新たな機会が数多く生まれたという良い面についてもWFDB会員は強調した。この事実は政府にとって、情報通信技術のアクセシビリティを保障する主要なモチベーションとなるはずである。  家族や地域社会も巻き込んだ社会活動を起こし、そうした活動を進めていく上で、盲ろう者団体は重要な役割を担っている。残念ながら前述のように、盲ろう者と家族の多くは当局から必要な支援を受けられていない。 推奨事項  ・盲ろう児の家族に対して早期介入と相談サービスを提供する。  ・地域に根ざした介入プログラムを実行し、盲ろう者の社会参加とインクルージョンを促進する。  ・通訳・介助員の十分な提供を保障する。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 盲ろう者の声 カルロス(Carlos)とソフィア(Sofia) ブラジル  私たちはアッシャー症候群による盲ろう者の夫婦です。私たちは結婚して12年になります。サンパウロ在住です。私ソフィアは、補聴器を使うと物音が聞こえます。カルロス・ホルヘ(Carlos Jorge)は全盲ろうです。  私たちが最初に住んだアパートに住んでいた人々は私たちとどのようにコミュニケーションを取ったらいいのかがわかりませんでした。カルロスは触手話を使い、私はタドマ法と触手話を使います。  私たちが交際を始めたとき、リオデジャネイロのカルロスの家族は2人の結婚について大変心配しました。盲ろうの22の結婚生活は困難を極めるだろうと思ったからです。私の先生が、2人は結婚して自立して生活していけると説得してくれて、家族も理解してくれました。  私の家族も心配して、私に彼のことを忘れさせようとしました。サンパウロの学校の先生が家族を説得してくれました。私がリオデジャネイロに行って彼の家族に会ってみると、彼らは私たちの結婚についてそれほど心配していないようでした。  友達に手伝ってもらって教会を予約し、私たちが結婚式を挙げるには通訳・介助者に一緒にいてもらわなければならないことを神父様に説明しました。  自分たちで生活していけるように、私たちは生活訓練を受け、自宅で使う機器は自分たちが使えるものをそろえました。料理や掃除も自分たちでやっています。  私たちはアパートの守衛さんや近所の人たち、友人、親類の助けで教会やスーパー、銀行などに行きます。通勤には使い慣れているタクシーを使います。学会や行政の会議に行くときは行政が提供する障害者交通サービスを利用します。医者にかかったり健康診断を受けたりするときは、通訳・介助者と一緒に行きます。  結婚生活を始めたときの記念すべきできごとは、子犬を飼い始めたことです。私たちが盲ろうだということに気がついた子犬は、電話やドアのノックやドアのベルが鳴ったときなど、物音がすると私たちに教えてくれるようになりました。  2人だけの生活には困ることもたくさんあるだろうと思っていました。ときには緊急事態、危険な状況も起こるのですが、何とか工夫してやってきました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 記事:盲ろうの女性として、母として カミラ・インダレシオ(Camila Indalecio) ブラジル <はじめに>  女性の歴史は、平等と社会参加の機会を求めての闘いの積み重ねと言えます。性別を理由に排除され、差別されてきた女性たちは、女性への先入観を取り除き、男女平等を勝ち取るために闘わねばなりません。今日でも、人種差別、暴力、貧困という問題に直面し、機会の平等から阻まれる女性が世界中に存在します。盲ろう女性の場合は、他の人たちと異なっているという理由でさらに差別を受けることになります。しかし、女性の歴史は、健常者の女性たちによって語られてきました。つまり、障害女性は、女性というマイノリティの中のマイノリティなのです。障壁を乗り超えようとする私たちの闘いの体験が見過ごされがちな理由はここにあります。  障害者運動の中で、盲ろう女性は盲ろう女性であるがゆえの差別を受けます。他の障害を持つ人たちは、私たちには政治的活動に参加したり、家庭を築いたり、雇用されて働くなど無理だろうという目で見ています。他の人たちとは違う独自の方法で会話する私たちには参加の機会が与えられず、その結果、多くの盲ろう者は自分たちの存在をアピールすることも、機会均等を訴えることもできずにいます。  盲ろう女性である私たちは、女性であるというだけで様々な問題に直面します。実に多くの障壁が私たちの前に立ちはだかります。家庭内暴力や性的暴力の被害に遭っても、家族によって隠されてしまいます。保護や援助の手が差し伸べられないまま、来る日も来る日も、盲ろう女性はただ黙って耐えるしかありません。彼女たちは教育や医療の情報を得る手段もありません。彼女たちにとって、この世はまさに無音の暗闇です。  しかし、社会に参加しながら生き生きと生活する盲ろう女性も存在します。女性として、母親として、権利保障を訴えて活動し、家庭生活を護ろうと奮闘する盲ろう女性たちです。一人一人の盲ろう女性が、自分たちの存在を社会に認めさせるために闘っているのです。 <盲ろう女性であるということ>  私はアッシャー症候群により盲ろうになった中途盲ろう者です。13歳のときに、自分が盲ろうになりつつあると自覚しました。11歳から聴力が衰え始め、23歳で視力を失いました。自分が将来盲ろう者になると13歳で自覚したときには、それほど動揺はしませんでした。10代の私は、毎日の生活をエンジョイすることの方が大事でした。尊敬する私の母は、私が視力と聴力の両方を失うということを決して隠したりしませんでした。また、私の姉はすでに盲ろうになっていました。  それでも、学校生活では、耳が聞こえなくて補聴器を使わねばならないことが恥ずかしく、友達から仲間はずれにされるのではないかと心配でした。学校生活を送るために、私は読唇法を身につけました。高校2年のとき、私は初めて授業中に差別というものを体験しました。先生が音読する文章を生徒たちに書きとらせるという授業でした。先生は下を向いて、音読しながら教室を歩き回っていたので、私は先生の唇の動きを読み取ることができません。私が先生の唇を読めるように、私の前で話してくだささいと先生にお願いしました。先生は言いました。「私には関係のないことだわ。あなたの耳が聞こえないのは私のせいではないのだから。ここはろう学校ではないのですよ」。同級生たちは大笑いして、私のことをからかいました。私は恥ずかしさで泣きながら家に帰り、他の学校に行かせてほしいと母に懇願しました。その後、様々な障害を持つ生徒が通うインクルーシブ教育の高校に転校し、卒業しました。学費を工面できなかったので大学進学はかないませんでした。それで、自分の姉の通訳・介助者になったのです。  私は姉を職場や行事、余暇活動に連れて行ったり、新聞や本、テレビ、家族との会話などを姉に通訳しながら、自分自身が盲ろう者として生きていくための準備を始めました。姉が日常生活で直面する様々なバリアを間近に見ながら、盲ろう者になった自分の生活がどうなるのかを想像してみました。でも、実際に自分が盲ろうになってみると、想像していたものとは全く違う世界でした。  通訳・介助者は、盲ろう者と周囲の人々との会話を支援するにあたって、できるだけ多くの情報を伝えようとします。しかし、ときには、通訳・介助者が苛立ったり、通訳の現場でストレスを感じたりすることもあります。また、「これは盲ろう者本人には伝えない方がいいのではないか?」と通訳・介助者がためらうこともあります。通訳・介助者としてのこうした経験から、私は予備知識を得ることができました。たとえ通訳・介助者が最善を尽くしたとしても、その場のすべての情報が盲ろう者に伝わるわけではないことをすでに知っていました。今振り返ると、私は姉に対して十分な通訳ができていなかったと思います。  姉や他の盲ろう者と接したり、通訳・介助者としての訓練を受け、仕事をしてきた私は、自分が盲ろうになったとき、盲ろうという障害が引き起こす困難についての心構えができていると思っていました。しかし、姉との経験があったにも関わらず、私は心の準備ができていませんでした。予想をはるかに超える大きな困難に直面したからです。「盲ろうの母親になる」という大問題に直面したのです。私は絶望と無力感に打ちのめされました。それまで盲ろう者や専門家から学んだことはすべて意識から抜け落ち、私は暗中模索の状態に置かれました。  家族の支えはあったものの、盲ろうという障害を受け入れるのは容易ではありませんでした。自問自答が始まりました。「これからどうすればいいの?盲ろうの姉さんや他の盲ろう者たちの支援を続けていけるのだろうか?子育てはどうする?子どもの勉強や日常生活を見てやれるのだろうか?」次々と湧きおこる不安と恐怖は悪夢のようでした。母親として子どもの生活にどこまで関われるのか?盲ろうの私のことを息子は母親として認めてくれるだろうか?障害を受け入れる過程で、私はこうした疑問や不安でいっぱいになりました。盲ろうの母親たちの多くがこうした困難に直面します。しかし、彼女たちは自分が抱える困難を誰かに相談することをためらいます。弱い母親だと思われるのが怖いのです。その結果、苦痛や動揺や絶望感を自分ひとりで抱え込むことになるのです。 <盲ろう者が母親になるということ>  盲ろう者が母親になる場合の大きな困難の一つに、家族からの過干渉があります。盲ろうの母親には子育ては無理だろうという世間が勝手に作り上げた幻想に、母親は自尊心を傷つけられます。そして母親は盲ろうという自分の障害を憎むようになり、自分には他の親のような子育てができるはずがないと諦めてしまいます。家族の態度によって、母と子の絆の強弱が決まります。家族の接し方によっては、子どもは母親よりも他の家族を信頼するようになります。  現実を受け入れていく過程で、私の家族は、私が息子と向き合えるように手助けしてくれるようになりました。私と一緒にいるように息子に働きかけたり、私の障害を息子に理解させようとしたり、私たちは他の家庭と同じような家族なのだと息子に分からせようとしてくれました。  私が盲ろうになったとき、息子は3歳でした。そのときには私の視力はほとんどありませんでした。それでも毎日が新しい経験の連続でした。息子の入学準備もその一つです。心配なことはたくさんありました。そこで、私たちはゲームを採り入れました。息子とサッカーをしたり、息子が絵を描く様子がわかるゲームです。どんなゲームかと言うと、息子が絵を描くときには、今何を描いているかを言葉で教えてくれるのです。2人で床に座って、手と手でサッカーをするのです。息子と一緒に触って遊べるおもちゃも探しました。また、いろいろなできごとを私に伝える方法を息子に教え始めました。たとえば、子ども向けの音楽のビデオを見ながら、ダンスのステップや歌詞を私に教えてくれるようになりました。  後に私の通訳・介助者になってくれたもう1人の姉妹のアンドレアもいろいろとアイデアを出してくれました。また、私のガイドのやり方を息子に教えたり、息子が何か困っているときに私に教えてくれたりしました。この時期は比較的スムーズでした。難しかったのはその後の学校生活と、息子が病気になったときでした。  息子の入学手続きのときには母に付き添ってもらわねばなりませんでした。校長たちは、盲ろうの母を持つ息子の受け入れに難色を示しました。盲ろうの私には息子の学校生活に適切な対応ができないだろうと考えたのです。私はどうしていいかわかりませんでした。母は、私が取り乱したり怒りだしたりしないように、私に付き添って学校に行った方がいいと考えました。激しい性格の私は、息子のことで私を手助けしようとする母に反発することが多かったからでしょう。  幼稚園では、息子は学習困難があり、なかなか授業に集中できませんでした。担任教師と校長は、息子のことで相談したいと母と連絡を取りました。母は私に家で待っているようにと言いましたが、私は母と一緒に学校に行きました。教師は、親の私が盲ろう者であるために息子の発達が遅れているのだと言いました。私は頬を殴られたような大きなショックを受けました。そして怒りを覚えました。私は教師を指さして言いました。「息子の行動に問題があったとしても、それは私が盲ろうだからではありません。障害のない親の子どもでも同じ状態になる子どもはいます。息子の状態は私の障害とは無関係ですし、息子が学校生活についていけるように、私が息子をサポートします」。  教師たちの前で最初は申し訳なさそうな態度を取っていた母も、次第に、私が親としての自己主張をするべきだと考えるようになりました。私はブラジル盲ろう者協会(ABRASC)やブラジル協議会(Grupo Brasil)でリハビリテーション活動に参加していたので、盲ろう児の教育指導に携わる教師たちの指導を受けることができました。特にダウヴァ(Dalva)先生は熱心に指導してくださり、息子の目と手の供応のトレーニングに粘土の模型を使う方法を教えてくださいました。  文字を書くことも自然に学んでいきました。私はタトゥーをしているので、息子は私の足でタトゥーごっこをして遊ぶうちに、足の甲など私が感じ取りやすい部分に文字を書くようになりました。この遊びをヒントに、私は息子に文字などを足に書かせて、私が間違いを直してやるという学習法を編み出し、息子は徐々に学校の授業についていけるようになりました。  学校生活で苦労する場面に発表会やパーティーがあります。息子が初めて学校で参加した発表会、それは私が自分の目で息子を見ることができた最後の機会になりました。ダンスの発表会でした。息子の姿をこの目で見たいという欲求をこれほどまでに感じたことはありません。息子のダンスを自分の目で見届けたかった。もちろん家族が息子の衣装や歌の文句や息子のダンスの様子などをこと細かく説明してくれましたが、私に見えたのはカメラのフラッシュだけでした。私はこらえきれなくなって激しく泣きました。ダンスが終わると、先生は生徒たちを親のところに連れてきました。息子のアーサー(Arthur)は、私が泣いているのを見て、「どうして泣いているの?」と訊きました。「お前のダンスを見て感激したのよ」と私は嘘をついたのですが、息子の反応に驚かされました。まだ3歳だった息子は、「お母さんがもう目が見えないのはわかってるよ。でも、僕、上手に踊れたよ。転んじゃったけど、すぐに立ち上がれたんだよ!」と言ったのです。このとき私は悟りました。息子は私の盲ろうという障害に気がついているのだと。私と私の家族が息子に授けてきた教育が成果をあげていたのです。息子は私のことを理解し、私のすぐそばにいてくれました。  別の学校でのことです。太っているから、母親が障害者だから、という理由で息子は苛められました。このときも、校長や担任教師は私に関わらせようとしませんでした。そして、今回も教師たちは、息子の発達の遅れは私の盲ろうという障害が原因だと言いました。しかし、今回は、私もそれまでの経験を活かして対応できました。  多くの人々は、子どもの生活に積極的に関わる盲ろうの親に会ったことがありません。子どもの面倒は他の家族が肩代わりすることが多いからです。また、タドマ法のような盲ろう者特有のコミュニケーション方法を知っている人はほとんどいません。私が妹と一緒に息子を学校に連れて行ったとき、妹が私に話しかけるのを見た周囲の親たちは、まるで私たちがレズビアンであるかのように気味悪がりました。そして、自分の子どもたちを私の息子から遠ざけようとしました。そうした親たちの態度を見た息子の同級生たちは、息子をひどい言葉でからかい、仲間はずれにしました。  私は再び校長や担任教師、そして今回は親たちとも向き合いました。私の母は、息子が学校でどんな目に遭っているかを私に知らせないように、母の手で問題を解決しようとしました。しかし、私は母にはっきりと言いました。我が子に何が起こっているか、いいことも悪いことも含めて親として知る権利がある、と。 ある日のことです。何人かの母親たちが私のことをひそひそと話していました。私が妹の顔を手で触っていると陰口を言っていると、妹が私に伝えてくれました。私は妹にその母親たちのところに連れていってもらいました。私は彼女たちに自分のコミュニケーション方法を説明した上で、もし仮に私がレズビアンだったとしても、私を差別してはいけないと付け加えました。このことがきっかけとなって、母親たちは私に敬意を払うようになり、私への見方も変わっていきました。私のことを「かわいそうな人」、「病気の人」と言っていた人に対して、「私は病気ではありません。私は障害者なんです」とはっきりと言いました。Disability(障害)からdisという否定語を取り去ると、ability(能力)になるではありませんか。  盲ろうの母親の家族が果たす役割は重要です。もちろん、家族に頼りすぎることなく、まず母親自身が困難に立ち向かう勇気と意欲を持たなければなりません。しかし、盲ろうの母親と子どもとのやり取りを家族が手助けしなければ、親と子を結びつけるように仕向けなければ、親子の絆は深まりようがありません。そのような状態では将来はどうなってしまうでしょう?  息子は道路で自転車に乗ることがあります。他の親たちは子どもと一緒に自転車に乗っていくのですが、私は座ったままです。車の騒音や他の子どもの叫び声を聞くたびに私は震え上がります。それでも私は周囲の人に話しかけて助けを求めることができます。触手話や一般の人が知らない方法でしかコミュニケーションが取れない盲ろうの母親の場合はどうなってしまうでしょうか。盲ろうの母親たちと会う機会があると、私は自分の体験を伝えて、我が子の学校生活にどのように関わっていけばよいかを話すようにしています。  家族による支援も大切ですが、様々な政策の実現を求める活動への参加も重要です。こうした取り組みにより障壁が取り除かれていくからです。しかし、盲ろう女性、母親、そして活動家という三つの役割を同時に果たすことは困難を極めます。私はコミュニケ―ションと移動に多くの時間がかかります。また資料の点訳や通訳、通訳・介助者のような専門スタッフによる支援も必要です。その結果、現在のブラジルでは、政策決定過程に積極的に参加する盲ろう女性がほとんどいないというのが現状です。  最後になりますが、母には本当に感謝しています。母親であるがゆえに、私に苦労をさせまいと過保護になってしまうこともありましたが、母はいつも必要なときに必要な支援をしてくれました。くじけずに闘い続けなさいと私を励まし続け、私が自信を失わないように支えてくれました。私の姉と私の可能性を信じてくれました。兄弟たちも、甥や姪も、義理の兄弟たちも同様に私を支えてくれました。盲ろう者を支えてくださるすべての皆さんに感謝の言葉を贈りたいと思います。 ----- 結論と推奨事項  本報告書は、盲ろう者を対象とした過去最大の集団ベース分析(低所得国、中所得国、高所得国の合計22か国における集団ベース分析の解析)、文献調査、WFDBとセンス・インターナショナルの会員および協力団体を対象とした調査、2018年6月のヘレン・ケラー世界会議に参加した男女の盲ろう者75名以上との協議をまとめたものである。このような報告書は史上初であり、各国政府が権利条約で確認された通りに盲ろう者のニーズに対応しているかどうかを調査したものである。  盲ろう者の権利を実現するための進展状況を権利条約とSDGsの観点から監視するため、最長で2030年までの間、何回か追加報告書を作成する予定である。 盲ろう者団体とその協力団体が多くの優れた成果を出し、権利擁護活動を絶え間なく続けているものの、盲ろう者が抱える問題の多くは見過ごされているということが本報告書で示されている。その結果SDGsの基本原則とは反対に、盲ろう者は「取り残された」状態にある。  個別の障害者グループとしての盲ろう者に対する理解と認識が不足しているため、盲ろう者は見えにくい存在となり、その結果インクルージョンへのニーズを政府に認識されないという悪循環が世界中で起こっている。障害の特殊性のため、盲ろう者は多くの困難に直面し、特に通訳・介助サービスや個々の状況に合わせたリハビリテーションサービスなど、個別のサービスを必要としている。  こうしたサービスを利用できる国は少なく、権利条約の実践を目的としたものを含む支援プログラムの恩恵を盲ろう者が受けられることは少ない。 主な調査結果  過去の推計では、盲ろう者は世界人口の0.2%を占めるとされている。しかし本報告書における盲ろうの発生率データの分析では、この数字は比較的軽度の盲ろう者を無視したものであることが分かった。こうした盲ろう者の数は多く、重度の盲ろう者と同じく社会参加への困難と差別という問題を抱えている。盲ろう者の多様性を反映すると、より正確な数字は2%となる。以下は盲ろう者について明らかになったことである。  盲ろう者は高齢者に多いが、盲ろう児や若年の盲ろう者は日常生活の中でより重大な影響を被っている。たとえば教育、雇用、社会参加への障壁、貧困リスクの増大などである。  ・盲ろう者の就労率は健常者の10分の1であり、他の障害者に比べて30%低い。  ・盲ろう児の就学率は健常児の17分の1、他の障害児の2分の1である。  ・盲ろう者がいる家庭は、障害者がいない家庭および他の障害者がいる家庭と比べて、下位40%の社会的・経済的水準にある比率が高い。  ・女性の盲ろう者はさまざまな活動への参加を制限されることがより多い。  ・盲ろう者の20%〜75%が他の障害を併発している。  ・盲ろう者はうつ病を発症することが多いが、精神保健サービスが利用できないことが多い。  ・盲ろう児は両方の親と共に生活していないことが多い。  ・盲ろう者は未婚率が高い。  ・盲ろう者は生活の質が低い状態に置かれ、さまざまな活動を制限されている。  ・50歳以上の盲ろう者は盲ろう者以外の人と比べて、社会的に孤立している比率が2倍である。  WFDBとセンス・インターナショナルのチームと協力団体が提供した情報は、政府による政策対応の不十分さを示している。  ・盲ろう者を個別の障害者グループとする認識と理解が全体的に不足している。現存するろう者、盲人へのサービスを組み合わせて利用すれば十分であるという間違った認識があることが多い。しかしそれでは、個々の盲ろう者の個別の障壁とコミュニケーションニーズが無視されてしまうことになる。  ・低所得国の方がより状況が厳しいが、公的資金による効果的な盲ろう者への支援事業、特に通訳・介助事業が行われている国は世界的にも少ない。支援の不足が盲ろう者の社会的・経済的水準、政治参加に悪影響を与え、孤立する盲ろう者を増加させる。  ・国の雇用政策や事業は盲ろう者とって不十分である。  ・教育の提供は概して不十分である。特殊教育に過度に依存しており、インクルーシブ教育に関わる政策と実践の両方において、盲ろう児特有のニーズにほとんど注意が払われていない。  ・成人盲ろう者の保健医療サービスの利用状況は比較的良好だが、リプロダクティブ・ヘルスに関わるサービスは例外である。コミュニケーション上の困難と医療関係者の否定的な態度が、盲ろう者が受けるサービスに影響を与えることが示された。多くの国では、盲ろうの原因や一人一人の特殊なコミュニケーションニーズについて、必要な知識と訓練を医療関係者が身につけていない。  ・盲ろう児の早期発見・介入サービスが十分にある国は少なく、その結果盲ろう児の発達、家族との関係に悪影響が出てしまう。  ・社会的保護に関しては、高所得国と低所得国との間に大きな格差がある。ほとんどの国では、障害によって発生する費用を補填するような支援がない(南アフリカ共和国では、こうした費用が障害者にとって最も高額であると推定された)。    事例研究では、保健医療、教育、盲ろう者個人の体験に関する革新的な実践例が見られた。こうした例から、盲ろう者の効果的で完全な参加を保障するのに必要な行程を理解することができる。 推奨事項  本報告書で示された調査結果は、障害者のインクルージョンと開発の取り組みから盲ろう者が排除されていることを明らかにしている。アクセシビリティ、差別禁止、参加とインクルージョンに関する障害者運動の共通の要望に加え、WFDB会員は以下の事項を推奨する。これらの事項は、SDGsの達成と権利条約の実行のための現在および今後の取り組みに盲ろう者が貢献し、そこから利益を得ることができるよう保障するものである。 インクルージョンのための前提条件:  ・法律上と実態において、国際社会と各国が盲ろうを個別の障害として認識する。  ・盲ろう者および盲ろう者団体の助言のもと、特に通訳・介助サービスなどの必要な支援サービス、通訳サービスを開発する。また、盲ろう者の教育、就労、地域社会での生活を支援するための十分な公的資金を提供する。  ・盲ろう者団体を個別の障害者グループとして認識し、障害者との協議に必ず含まれるようにする。  ・啓発やインクルージョンのプログラムにおいて、盲ろう者および盲ろう者団体がロールモデル、指導者、ピアサポーターとして関わる。  ・盲ろう者および盲ろう者団体の助言のもと、一貫した盲ろうの定義と評価基準を設ける。また、ワシントン・グループの短い質問セットやその他の方法を使った国内データ分析など、盲ろう者の状況を評価、監視するためのデータ収集、分類、分析を進める。  ・盲ろう者の抱える課題(健康状態、保健医療サービスの利用、社会参加、福祉、仕事と教育の質、盲ろうの原因、盲ろうになった年齢など)についてさらなる調査を行う。インクルージョンを促進するための介入策の影響評価を行う。 社会的保護:  ・障害認定、需給資格認定のプロセスにおいて、盲ろうを個別の障害グループとする。  ・障害者向けプログラムにおいて、盲ろうに起因する費用(支援技術、パーソナル・アシスタンス、通訳・介助サービスなど)の大きさを考慮する。 教育:  ・インクルーシブ教育に関わる法律、政策、プログラムにおいて盲ろう者のニーズを考慮し、カリキュラム適用、教員養成、盲ろうの生徒の支援を目的とした取り組みを行う。  ・普通学校、盲ろう児、盲ろう児の家族を支援するリソースセンターが利用できるようにする。  ・通訳・介助員の適切な提供を保障する。 保健医療:  ・盲ろうの原因と盲ろう者の個別のコミュニケーションニーズについて、医療関係者に十分な訓練を施す。  ・特に盲ろうの女性と女子が、リプロダクティブ・ヘルスに関わるサービスを適切に利用できるよう保障する。  ・教育提供者と連携し、適切な早期発見・介入サービスを保障する。  ・通訳・介助員の適切な提供を保障する。 就労と雇用:  ・雇用関連の法律、政策、プログラムにおいて、盲ろう者が適切に組み入れられるよう保障する。  ・就労の場における通訳・介助員の十分な提供を保障する。 政治参加:  ・すべての盲ろう者に投票権を保障する。  ・選挙キャンペーン、投票に必要な用具、投票所などに関して、盲ろう者のアクセシビリティへのニーズを考慮する。  ・盲ろう者の政治、公的活動への参加を支援する。  ・盲ろう者団体を支援し、障害者運動側との協議において盲ろう者団体が必ず個別の障害者グループとして含まれるようにする。 社会参加:  ・盲ろう児の親に早期介入・相談サービスを提供する。  ・盲ろう者の社会参加とインクルージョンを支援するため、地域に根ざした介入プログラムを施行する。  ・通訳・介助員の適切な提供を保障する。  本報告書が結論するように、盲ろう者は世界各国でいまだに取り残されている。この状況を改善し、格差を埋めるため、以下のような最初の行程を示す。  ・盲ろうが個別の障害であるという認識、盲ろう者の抱える困難、障壁、支援やインクルージョンのためのニーズへの認識を世界的なレベルで構築する。  ・公的資金による盲ろう者への通訳・介助事業を確立する。  ・今後の調査と権利擁護活動の強化に必要な資金を提供する。これには用具や技術的支援への拠出が含まれる。  こうした行程により、完全で効果的な参加とインクルージョンがより平等な形で実現に向かう過程において、男女の盲ろう者および盲ろう児が参加し、支援し、貢献することができるものと考える。 本報告書についてのお問い合わせ:globalreport@wfdb.eu 世界盲ろう者連盟(WFDB)に関する詳細情報:www.wfdb.eu センス・インターナショナルに関する詳細情報:https://senseinternational.org.uk ----- 引用文献 [1] World Health Organization & World Bank, World report on disability. 2011: World Health Organization. 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Aging & mental health, 2016: p. 1-8. ----- 参考資料i. データ利用に関する方法論上の注釈 国勢調査データ利用にあたって  量的データ解析でどの統計データを採用するかを検討する際、ワシントン・グループによる短い質問セット(Washington Group Short Set)による調査結果を採用すべきだという意見が強かった。ワシントン・グループの短い質問セット(下記の表参照)は、障害統計に関するワシントン・グループ(the Washington Group on Disability Statistics)により作成され、2020年に国連統計部により実施される、国連障害者権利条約及び性差別禁止法(SDA)施行後の社会参加の実現状況の調査に採用されるべき項目として定められた。[42〜44] 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ワシントン・グループによる短い質問セット はじめに:以下は、健康上の理由により行うことが困難な活動についての質問です。 1.眼鏡を用いても見ることが難しいですか? 2.補聴器を用いても聞くことが難しいですか? 3.歩行や階段の上り下りが難しいですか? 4.記憶したり集中したりすることが難しいですか? 5.身の回りのこと(身体を洗う、着替えをするなど)を自分で行うことが難しいですか? 6.コミュニケーション(相手の言うことを理解したり、自分が言いたいことを理解してもらうこと)が難しいですか? 回答の選択肢 1)難しくない 2)少し難しい 3)とても難しい 4)まったくできない (出典:http://www.cdc.gov/nchs/citygroup.htm) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  この短い質問セットは、使いやすさと、国や時代を超えての比較が容易にできることを念頭に作成され、国勢調査のデータから盲ろう者を抽出する際に役立っている。困難の度合いによる分析ができるからだ。(例:「少し難しい」という選択肢がある一方で、「とても難しい」、「まったくできない」という細かい選択肢が示されている。)  しかし、ワシントン・グループの短い質問セットを用いた調査結果だけでは分析に十分なデータ量が確保できず、今回の調査では、この短い質問セットが使用されていない調査結果を含めざるを得なかった。この調査方法が今後の人口調査に広く採用されることが重要である。たとえば、質問項目の1から4を採用する調査は多いが、盲ろうという障害の分析に有効な身辺自立とコミュニケーションについての質問が省略される調査が多い。特定の質問項目を省略したり、比較対照ができない選択肢を用いているため、「その他の障害」と分類される群の実態は個々の調査により異なり、比較対照を難しくしている。  国勢調査データから盲ろうに関連する情報を得る際のもう一つの問題点は、調査対象者の抽出や障害の種類の特定の際に、施設入所者やホームレスの人々が除外されることが多いことだ。これらの集団における盲ろう者を含む障害者の割合は非常に多いはずであり、これらの集団を調査対象から除外した場合、盲ろう者数が実態を下回ることが懸念される。また、盲ろう者の多くは複数の障害が重複しているため、視覚や聴覚の障害が正確に把握されないことがある。障害および機能上の困難を具体的に尋ねる調査方法ではなく、「当てはまる項目をすべて選ぶ」方式の調査では、特にこの問題が懸念される。また、家族の状況についての質問には、各自が自分で回答する代わりに、家長が代表して答えることが多い。こうした代理回答は障害の過小申告を引き起こすことが多い。これは盲ろう者には特に起こりがちな問題である。また、こうした人口調査はコミュニケーション方法に配慮されずに実施されるので、盲ろう者が自分の経験を直接提供することは難しい。  もう一つの問題は、若年層における盲ろうの出現率は比較的低いとされるものの、大規模な国勢調査データにおいても、分析の根拠として十分な数値が示されていないことである。保健や社会参加という項目が抜けている調査も多い。さらに、就学や就労の調査結果はあっても、就労・教育環境の質を問う調査項目が含まれていない。  今後に向けて、盲ろうの定義と障害の程度の記述法を統一し、今後の調査が時代や地域を超えた比較対照に耐えるものにしていかなければならない。さらに、質的調査法や盲ろうという障害に特化した詳細調査などの新たな調査手法を取り入れることにより、大規模調査ではカバーできない盲ろう者の実態が反映される調査になるだろう。以上の調査手法を共有することで、国連障害者権利条約と持続可能な開発目標の下での盲ろう者の実態把握が可能になるだろう。 ----- 統計資料1:データ解析手法 <データの入手>  量的分析に用いるデータは、国際ミクロ統計データベース(IPUMS-International)のウェブサイト(https://international.ipums.org/international/index.shtml)に掲載された2016-2017年のデータを使用した。国際ミクロ統計データベースは、ミネソタ大学、各国政府の統計局、国際統計アーカイブや国際団体が共同運営するプロジェクトである[45]。このプロジェクトは国勢調査データを世界規模で収集し、資格要件を満たす研究者による二次的研究の資料として提供することを目的として運営されている。 データは次の項目を基準に選択された。  ・地理的、所得的分布  ・盲ろうを分類できる程度の細分化が可能なサイズのサンプル数  ・ワシントン・グループの短い質問セットによる調査において優先される、盲ろうを適切かつ広範に比較できる指標 <データ処理>  すべてのデータはStata SE version 15.0を用いて解析を行った。 <データ分析>  盲ろう者と非盲ろう者  5歳未満の調査回答者については、この年齢層の盲ろうを評価するための信頼性のある分析ツールがないために分析から除外された。5歳以上の年齢層の回答者は、相互に背反する以下の三つのグループに分類された。  ・盲ろう者(調査方法により以下の回答者を盲ろう者と分類した:見ること、聞くことについて、「かなり難しい」かそれ以上の困難があると回答した者。見えにくさ、聞こえにくさがあるかを尋ねた「はい」「いいえ」の二者択一の質問に「はい」と答えた者。また、「あなたは目が不自由で、耳も不自由か?」という質問に「はい」と答えた者。)  ・他の障害を持つ者(他の機能障害において「かなり難しい」かそれ以上の困難がある者。調査により質問形式は異なるが、「盲、ろう以外の障害があるか?」という二者択一の質問に「はい」と答えた者。)  ・健常者(上記の二分類に該当しない者) <障害発生率推計>  障害発生率推計は、クラスタリングを裏付け、信頼区間を得るために、‘SVY’コマンドにより計算された。また、推計値は、個々に対する国際ミクロ統計データベースのサンプル・ウェイトにより調整した。障害発生率は年齢と性別による階層化を行った。 <信頼区間とオッズ比とは>  オッズ比(OR)とは、ある要因への暴露と結果の関係の尺度である。本調査でオッズ比により算出されるのは、家庭の貧困という要因への暴露と、その人が盲ろう者であるかどうかという結果との関係性である。オッズ比は、ある特定の環境要因への暴露により特定の結果が引き起こされる確率を示すもので、同一の要因への暴露がない場合の同一の結果の出現率と対比させて用いられる。オッズ比1の場合、暴露と結果に関係性はないと考える。オッズ比が1より大きい場合、暴露と結果の因果関係があると推測される。オッズ比が1より小さい場合は、暴露とそれが引き起こす結果の因果関係はより小さいと考えられる。  95%信頼区間とは、95%の出現率を伴うオッズ比の範囲を表わす。信頼区間が1を含まない場合、(上記の例が示すように)オッズ比は統計的に有意となる。また、信頼区間は、実際の人口統計においても95%の確率で起こりうると推計されるように、障害発生率推計においても信頼区間が示される。 例  ・最貧困層における盲ろう発生率のオッズ = 250/262 = 0.95  ・最富裕層における盲ろう発生率のオッズ = 46/26 = 1.77.  ・オッズ比 = 1.77/0.95 = 1.9〜95% 信頼区間1.1〜3.1.  つまり、最貧困層における盲ろう発生率は、最富裕層における盲ろう発生率の2倍近いと推定される。そして、この推定は95%信頼区間により統計的に有意と見なされる。 <貧困推計>  回答者の社会的、経済的な位置を推計するために、各国における世帯の耐久資産所有状況(自動車、インターネット、携帯電話など)と、家屋の状況(床材や壁材、衛生設備など)の状況から主成分分析を行った。次に、主成分得点は五分位置に分割される。貧困は、最下位の二つの五分位置(最下層の40%)に位置すると定義される。盲ろう者がいる家庭、盲ろう以外の障害者がいる家庭、障害者がいない家庭を比較したオッズ比が算出され、都市/農村地帯、世帯規模、扶養家族率(15歳未満と65歳以上の家族が世帯構成員に占める割合)といった要素による調整が行われた。  また、貧困推定値は、盲ろう者が50歳以上か49歳以下かにより細分化された。異なる年齢層に属する複数の盲ろう者が属する家庭の場合、その中に49歳以下の盲ろう者が1人でもいた場合、その家庭は50歳未満に分類される。49歳以下の盲ろう者がいる家庭と50歳以上の盲ろう者がいる家庭を比較してオッズ比が算出され、家庭規模と扶養比率による調整が加えられた。 <人口構成>  成人(18歳以上)におけるいくつかの人口構成推計が算出された。  現在の婚姻関係は二つの方法で評価された。まず、個人は、未婚、既婚、死別または離婚、別居に分類される。次に、「現在結婚している/現在結婚していない」という二値変数が加えられる。盲ろう者と、盲ろう以外の障害者、健常者を比較してオッズ比が算出される。さらに、年齢、性別、居住地域(都市部/農村部)という要素により調整され、年齢と性別により階層化される。  家庭における実父母の存在は、家庭の構成員の調査結果に基づいて算出された。子ども(18歳未満)の父親または母親がその家族の構成員として登録されていない場合、その子どもは少なくとも片親はいないと見なされ、盲ろう児、他の障害を持つ子ども、健常児とを比較して、オッズ比を算出する。その結果は、年齢層、性別、居住地域(都市部/農村部)によって調整される。 <教育>  識字率は、習熟度を問わず、「読める/読めない」の二者択一的評価で算出され、上記のようにオッズ比が決定される。学歴も同様に算出される。(教育レベルは問題にせず、学校に行ったか、行っていないか)。 <生計>  生計の分析は就労年齢層(15歳〜64歳)で、現在学校に通学していない集団に限定して行った。過去12カ月間に働いたことがあるか、まったく働いていないかという二者択一の変数を設け、上記の方法で階層化、最適化されたオッズ比を算出した。  過去12か月間、どんな形であれ働いたことがないと答えた回答者の活動状況は、「無職求職中」または「活動休止中」と位置付けられた。「活動休止中」の集団には、育児や退職、就労能力不足と見なされるなどの人々がすべて含まれる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 年齢別盲ろう者発生率 (%)  スーダン:5〜17歳 0.012、18〜39歳 0.028、40〜59歳 0.210、60〜74歳 1.520、75歳以上 5.660  メキシコ:5〜17歳 0.012、18〜39歳 0.013、40〜59歳 0.075、60〜74歳 0.590、75歳以上 3.540  アイルランド:5〜17歳 0.036、18〜39歳 0.047、40〜59歳 0.150、60〜74歳 0.470、75歳以上 2.910  アメリカ合衆国:5〜17歳 0.012、18〜39歳 0.028、40〜59歳 0.210、60〜74歳 1.520、75歳以上 5.660  インドネシア:5〜17歳 0.110、18〜39歳 0.140、40〜59歳 0.470、60〜74歳 1.200、75歳以上 5.640  ガーナ:5〜17歳 0.071、18〜39歳 0.088、40〜59歳 0.180、60〜74歳 0.540、75歳以上 1.480  ベトナム:5〜17歳 0.064、18〜39歳 0.063、40〜59歳 0.105、60〜74歳 0.764、75歳以上 5.910  ウルグアイ:5〜17歳 0.018、18〜39歳 0.017、40〜59歳 0.083、60〜74歳 0.360、75歳以上 1.740  タンザニア:5〜17歳 0.009、18〜39歳 0.008、40〜59歳 0.036、60〜74歳 0.170、75歳以上 1.310  南アフリカ共和国:5〜17歳 0.100、18〜39歳 0.066、40〜59歳 0.220、60〜74歳 0.710、75歳以上 2.930  ブラジル:5〜17歳 0.060、18〜39歳 0.080、40〜59歳 0.310、60〜74歳 1.040、75歳以上 4.570 盲ろう者、盲ろう以外の障害者、健常者の貧困(最下層40%)の状況(%)   スーダン:盲ろう者 43.45、 盲ろう以外の障害者 41.93、健常者  40.35、調整オッズ比1 1.01(0.94〜1.08)、 調整オッズ比2 1.19(1.11〜1.28)*  メキシコ:盲ろう者 50.42、 盲ろう以外の障害者 43.27、健常者  39.22、調整オッズ比1 1.16(1.13〜1.20)*、 調整オッズ比2 1.13(1.10〜1.17)*  アイルランド:盲ろう者 59.40、 盲ろう以外の障害者 43.20、健常者  33.50、調整オッズ比1 1.65(1.44〜1.90)*、 調整オッズ比2 2.41(2.11〜2.77)*  アメリカ合衆国:盲ろう者 56.02、 盲ろう以外の障害者 46.85、健常者  37.76、調整オッズ比1 1.38(1.34〜1.43)*、 調整オッズ比2 2.16(2.09〜2.24)*  インドネシア:盲ろう者 52.07、 盲ろう以外の障害者 47.25、健常者  39.80、調整オッズ比1 1.11(1.06〜1.16)*、 調整オッズ比2 1.27(1.22〜1.33)*  ガーナ:盲ろう者 55.79、 盲ろう以外の障害者 50.70、健常者  38.91、調整オッズ比1 1.14(1.03〜1.26)、 調整オッズ比2 1.39(1.25〜1.55)*  ベトナム:盲ろう者 46.48、 盲ろう以外の障害者 47.21、健常者  39.59、調整オッズ比1 0.91(0.89〜0.94)、 調整オッズ比2 1.01(0.99〜1.04)*  ウルグアイ:盲ろう者 51.23、 盲ろう以外の障害者 46.88、健常者  39.10、調整オッズ比1 1.19(1.01〜1.40)、 調整オッズ比2 1.57(1.33〜1.84)*  タンザニア:盲ろう者 57.14、 盲ろう以外の障害者 50.22、健常者  39.50、調整オッズ比1 1.09(0.97〜1.24)、 調整オッズ比2 1.38(1.22〜1.57)*  南アフリカ共和国:盲ろう者 49.96、 盲ろう以外の障害者 44.10、健常者  39.49、調整オッズ比1 1.18(1.12〜1.26)*、 調整オッズ比2 1.48(1.40〜1.55)*  ブラジル:盲ろう者 52.93、 盲ろう以外の障害者 47.38、健常者  38.66、調整オッズ比1 1.21(1.17〜1.25)、 調整オッズ比2 1.67(1.62〜1.72)* 1 盲ろうと盲ろう以外の障害との比較 2 盲ろうと、障害のない場合の比較 * 95%信頼レベルにおいて統計的に有意な値を示す。 18歳以上の盲ろう者、盲ろう者以外の障害者、健常者の就労状況(%)  スーダン:盲ろう者 29.65、 盲ろう以外の障害者 38.84、健常者  45.58、調整オッズ比1 1.32(1.16〜1.5)、 調整オッズ比2 2.08(1.82〜2.37)*  メキシコ:盲ろう者 39.92、 盲ろう以外の障害者 38.85、健常者  52.38、調整オッズ比1 0.95(0.81〜1.12)*、 調整オッズ比2 2.48(2.12〜2.91)*  アイルランド:盲ろう者 22.90、 盲ろう以外の障害者 34.99、健常者  70.38、調整オッズ比1 1.75(1.33〜2.32)*、 調整オッズ比2 7.3(5.52〜9.63)*  アメリカ合衆国:盲ろう者 28.73、 盲ろう以外の障害者 32.05、健常者  75.00、調整オッズ比1 1.14(1.06〜1.22)*、 調整オッズ比2 7.27(6.79〜7.79)*  インドネシア:盲ろう者 39.92、 盲ろう以外の障害者 38.85、健常者  52.38、調整オッズ比1 1.95(1.7〜2.24)*、 調整オッズ比2 23.29(20.30〜26.71)*  ガーナ:盲ろう者 69.50、 盲ろう以外の障害者 67.82、健常者  80.82、調整オッズ比1 0.92(0.81〜1.04)、 調整オッズ比2 2.16(1.9〜2.45)*  ベトナム:盲ろう者 15.86、 盲ろう以外の障害者 36.20、健常者  88.94、調整オッズ比1 3.31(3.05〜3.60)、 調整オッズ比2 61.05(56.27〜66.25)*  ウルグアイ:盲ろう者 41.67、 盲ろう以外の障害者 26.96、健常者  77.37、調整オッズ比1 0.44(0.25〜0.76)、 調整オッズ比2 4.81(2.79〜8.27)*  タンザニア:盲ろう者 51.05、 盲ろう以外の障害者 60.86、健常者  81.44、調整オッズ比1 1.69(1.31〜2.19)、 調整オッズ比2 5.34(4.14〜6.90)*  南アフリカ共和国:盲ろう者 24.10、 盲ろう以外の障害者 28.77、健常者  46.28、調整オッズ比1 1.20(1.09〜1.32)*、 調整オッズ比2 2.47(2.25〜2.71)*  ブラジル:盲ろう者 39.84、 盲ろう以外の障害者 39.86、健常者  64.72、調整オッズ比1 0.96(0.91〜1.00)、 調整オッズ比2 2.50(2.37〜2.63)* 1 盲ろうと盲ろう以外の障害との比較 2 盲ろうと、障害のない場合の比較 * 95%信頼レベルにおいて統計的に有意な値を示す。 盲ろう者、盲ろう以外の障害者、健常者(15歳-29歳)の就労状況(%)  スーダン:盲ろう者 32.56、 盲ろう以外の障害者 33.51、健常者  38.03、調整オッズ比1 0.93(0.6〜1.46)、 調整オッズ比2 1.2(0.77〜1.87)  メキシコ:盲ろう者 20.06、 盲ろう以外の障害者 28.65、健常者  43.32、調整オッズ比1 1.12(0.75〜1.66)、 調整オッズ比2 3.87(2.61〜5.73)*  アイルランド:盲ろう者 31.03、 盲ろう以外の障害者 30.71、健常者  50.18、調整オッズ比1 1.00(0.45〜2.24)、 調整オッズ比2 2.29(1.03〜5.1)*  アメリカ合衆国:盲ろう者 34.39、 盲ろう以外の障害者 33.53、健常者  64.47、調整オッズ比1 0.79(0.64〜0.98)*、 調整オッズ比2 2.73(2.21〜3.38)*  インドネシア:盲ろう者 8.67、 盲ろう以外の障害者 19.19、健常者  57.98、調整オッズ比1 2.70(1.82〜4.01)*、 調整オッズ比2 20.90(14.12〜30.92)*  ガーナ:盲ろう者 63.37、 盲ろう以外の障害者 60.04、健常者  70.27、調整オッズ比1 0.88(0.71〜1.09)、 調整オッズ比2 1.43(1.16〜1.77)*  ベトナム:盲ろう者 12.05、 盲ろう以外の障害者 33.73、健常者  90.25、調整オッズ比1 4.15(3.46〜4.97)*、 調整オッズ比2 102.32(85.72〜122.13)*  タンザニア:盲ろう者 47.22、 盲ろう以外の障害者 56.49、健常者  77.42、調整オッズ比1 1.97(0.99〜3.90)、 調整オッズ比2 6.19(3.13〜12.24)*  南アフリカ共和国:盲ろう者 23.57、 盲ろう以外の障害者 25.96、健常者  38.05、調整オッズ比1 1.05(0.81〜1.35)、 調整オッズ比2 1.83(1.42〜2.35)*  ブラジル:盲ろう者 42.26、 盲ろう以外の障害者 37.48、健常者  62.16、調整オッズ比1 0.77(0.66〜0.90)、 調整オッズ比2 2.19(1.87〜2.57)* 盲ろう者、盲ろう以外の障害者、健常者(30歳-49歳)の就労状況 (%)   スーダン:盲ろう者 37.86、 盲ろう以外の障害者 47.53、健常者  54.40、調整オッズ比1 1.32(0.99〜1.77)、 調整オッズ比2 2.24(1.68〜2.98)*  メキシコ:盲ろう者 44.81、 盲ろう以外の障害者 45.63、健常者  61.98、調整オッズ比1 1.12(0.75〜1.66)、 調整オッズ比2 3.87(2.61〜5.73)*  アイルランド:盲ろう者 27.00、 盲ろう以外の障害者 40.56、健常者  73.30、調整オッズ比1 1.86(1.17〜2.97)*、 調整オッズ比2 7.51(4.74〜11.93)*  アメリカ合衆国:盲ろう者 34.40、 盲ろう以外の障害者 35.47、健常者  78.88、調整オッズ比1 0.99(0.88〜1.12)、 調整オッズ比2 7.04(6.24〜7.94)  インドネシア:盲ろう者 17.58、 盲ろう以外の障害者 32.26、健常者  75.17、調整オッズ比1 2.59(1.97〜3.39)*、 調整オッズ比2 60.49(46.29〜79.03)*  ガーナ:盲ろう者 79.08、 盲ろう以外の障害者 74.93、健常者  89.13、調整オッズ比1 0.78(0.64〜0.97)、 調整オッズ比2 2.34(1.91〜2.88)*  ベトナム:盲ろう者 14.74、 盲ろう以外の障害者 39.73、健常者  92.57、調整オッズ比1 -、 調整オッズ比2 -  タンザニア:盲ろう者 48.86、 盲ろう以外の障害者 62.36、健常者  84.45、調整オッズ比1 1.94(1.34〜2.79)*、 調整オッズ比2 6.41(4.47〜9.20)*  南アフリカ共和国:盲ろう者 30.42、 盲ろう以外の障害者 35.30、健常者  54.33、調整オッズ比1 1.19(1.03〜1.38)*、 調整オッズ比2 2.52(2.19〜2.91)*  ブラジル:盲ろう者 48.82、 盲ろう以外の障害者 46.22、健常者  71.59、調整オッズ比1 0.89(0.82〜0.97)*、 調整オッズ比2 2.67(2.46〜2.91)* 盲ろう者、盲ろう以外の障害者、健常者(50歳-64歳)の就労状況 (%)  スーダン:盲ろう者 26.34、 盲ろう以外の障害者 34.24、健常者  52.39、調整オッズ比1 1.07(0.9〜1.29)、 調整オッズ比2 2.28(1.91〜2.72)*  メキシコ:盲ろう者 40.88、 盲ろう以外の障害者 38.03、健常者  53.52、調整オッズ比1 0.89(0.73〜1.09)、 調整オッズ比2 2.01(1.65〜2.45)*  アイルランド:盲ろう者 18.92、 盲ろう以外の障害者 26.22、健常者  62.25、調整オッズ比1 1.60(1.09〜2.36)*、 調整オッズ比2 7.57(4.73〜11.93)*  アメリカ合衆国:盲ろう者 25.85、 盲ろう以外の障害者 30.44、健常者  71.27、調整オッズ比1 1.34(1.23〜1.46)*、 調整オッズ比2 7.92(7.27〜8.63)*  インドネシア:盲ろう者 18.25、 盲ろう以外の障害者 29.46、健常者  72.44、調整オッズ比1 1.74(1.43〜2.11)*、 調整オッズ比2 18.66(15.44〜22.55)*  ガーナ:盲ろう者 62.58、 盲ろう以外の障害者 64.50、健常者  84.06、調整オッズ比1 1.07(0.87〜1.33)、 調整オッズ比2 3.26(2.65〜4.02)*  ベトナム:盲ろう者 19.24、 盲ろう以外の障害者 35.00、健常者  76.79、調整オッズ比1 2.39(2.12〜2.70)*、 調整オッズ比2 19.84(17.67〜22.28)*  南アフリカ共和国:盲ろう者 20.18、 盲ろう以外の障害者 24.02、健常者  41.52、調整オッズ比1 1.21(1.06〜1.39)*、 調整オッズ比2 2.55(2.24〜2.90)*  ブラジル:盲ろう者 34.32、 盲ろう以外の障害者 34.76、健常者  53.33、調整オッズ比1 1.06(0.99〜1.13)、 調整オッズ比2 2.22(2.08〜2.37)* 1 盲ろうと盲ろう以外の障害との比較 2 盲ろうと、障害のない場合の比較 * 95%信頼レベルにおいて統計的に有意な値を示す。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 参考資料 ii. 記載データ (以下、22の国について「所得群」「地域」「年」「サンプル数」「調査名」「調査機関」「盲ろうの評価方法」を記載する) <発生率推計のみのデータ > ボツワナ   中間層上位   サハラ以南アフリカ   2011年   201,752   2011 Population and Housing Census   Botswana Central Statistics Office  セクションAまたはBにリストアップされた者の中に次の障害を持つ者が含まれるか? 弱視、全盲、難聴、ろう。 カンボジア   中間層下位   東アジア太平洋   2008年   1,340,121  General Population Census of Cambodia, 2008   Cambodia National Institute of Statistics, Ministry of Planning   回答者が身体または精神障害者の場合は、下記の中から当てはまる番号を選んでください:視覚についての番号、聴覚についての番号 カメルーン   中間層下位   サハラ以南アフリカ   2005年   1,772,359  Third General Census of Population and Housing   Bureau Central des Recensements et des Etudes de Population, Cameroon   回答者は移動、労働、社会生活等の活動への参加を困難にするような重度の障害があるか? a)視覚(はい/いいえ)b)聴覚(はい/いいえ) コロンビア   中間層上位   ラテンアメリカ・カリブ海   2005年   4,117,607   General Census 2005 (XVII of Population and Dwelling and VI of Housing)  Departmento Administrativo Nacional de Estadistica (DANE)   回答者は、コンタクトレンズや眼鏡を使用しても改善されない視覚障害があるか?(はい/いいえ) 補聴器を用いても改善されない聴覚障害があるか?(はい/いいえ) エクアドル   中位層上位   ラテンアメリカ・カリブ海   2010年   1,448,233   VII Censo de Poblacion y VI de Vivienda, 2010   Instituto Nacional de Estadistica y Censos, Ecuador  (一年以上続く永続的な障害があると答えたすべての回答者について)回答者の障害は(複数回答可)視覚(盲)か? 聴覚(ろう)か? ハイチ   最下層   ラテンアメリカ・カリブ海   2003年   838,045   Recensement General de la Population et de l'Habitat   Republique d'Haiti Ministere de l'Economie et des Finances, Institute Haitien de Statistique et d'Informatique   この人は障害がありますか? (当てはまる項目をすべて選んでください)a.盲 b.ろう イラン   中間層上位   中東北アフリカ   2011年   1,481,586   2011 ational Population and Housing Census   Statistical Center of Iran   家族の中に、以下の障害を少なくとも一つ持っている者はいますか?(1人につき選べるのは3つまで)a.盲 b.ろう ケニア   中間層下位   サハラ以南アフリカ   2009年   3,841,935   2009 Kenya Population and Housing Census   Kenya National Bureau of Statistics   この人はどの種類の障害を持っていますか? (三つ以上挙げないこと)a.視覚 b.聴覚 マラウィ  最下層  サハラ以南アフリカ   2008年   1,343,078   2008 Population and Housing Census   Malawi National Statistical Office   回答者は次のような困難や問題がありますか? 障害の種類 a.視覚 b.聴覚 モザンビーク   最下層   サハラ以南アフリカ   2007年   2,047,048   III Recenseamiento Geral da Populcao e Habitacao, 2007   Mozambique Instituto Nacional de Estatistica   この人は何らかの障害がありますか?あると選択した場合、a.盲 b.ろう ベネズエラ   中間層上位   ラテンアメリカ・カリブ海   2001年   2,306,489   XIII Censo General de Poblacion y Vivienda   Venezuela Instituto Nacional de Estadistica (INE), Unidad Tecnica censal (UTC)   この人は何らかの障害がありますか?あると選択した場合、a.盲 b.ろう <完全解析データ> ブラジル  中間層上位   ラテンアメリカ・カリブ海  2010年   9,693,058   XII Recenseamento Geral do Brasil. Censo Demografico 2010  Instituto Brasileiro de Geografia e Estatistica   ワシントン・グループのショート・セットに含まれる視覚と聴覚を問う質問。両方の質問に「とても難しい」と答えた場合。 ガーナ   中間層下位   サハラ以南アフリカ   2010年   2,466,289   2010 Population and Housing Cesus   Ghana Statistical Service   回答者は移動、労働、社会生活等の活動への参加を困難にするような重度の障害があるか? a)視覚(はい/いいえ)b)聴覚(はい/いいえ) インドネシア  中間層下位  東アジア太平洋  2010年   22,928,795   2010 Population Census  Central Bureau of Statistics   視覚と聴覚についてのワシントン・グループの質問(回答の選択肢:困難が全くない、少しある、非常に困難)二つの障害双方について「非常に困難」と答えた場合を盲ろうとみなす。 アイルランド  最上層  ヨーロッパ・中央アジア  2011年   474,353   Census of Population of Ireland, 2011   Central Statistics Office   以下の永続的な状態や困難がありますか? ろうまたは重度の聴覚障害(はい/いいえ) 盲または重度の視覚障害(はい/いいえ) メキシコ  中間層上位  ラテンアメリカ・カリブ海  2015年   11,344,365   Intercensal Survey 2015  Instituto Nacional de Estadistica, Geografia e Informatica (INEGI)   回答者は日常生活において次のような困難がありますか? a.眼鏡を使用しても見ることが困難(はい/いいえ) 補聴器を使用しても聞くことが困難(はい/いいえ) 南アフリカ共和国  中間層上位   サハラ以南アフリカ   2011年   4,337,697   Census 2011  Statistics South Africa   ワシントン・グループのショート・セットに含まれる視覚と聴覚を問う質問。両方の質問に「とても難しい」と答えた場合。 スーダン   最下層   サハラ以南アフリカ  2008年   542,765   5th Sudan Population and Housing Census   Southern Sudan Centre for Census, Evaluation and Statistics   回答者は移動、見ること、聞くこと、話すこと、学習に困難がありますか?(当てはまるものをすべて選ぶ)a.聞くことが困難 b.ろう c.見ることが困難 d.盲 タンザニア   最下層  サハラ以南アフリカ   2012年   4,498,022   2012 Population and Housing Census   National Bureau of Statistics, Tanzania   視覚・聴覚についてのワシントン・グループのショート・セット。両方の分野で「とても難しい」と答えた場合、盲ろうとみなす。 アメリカ合衆国  最上層  北アメリカ  2010年   3,061,692   National Census  US Census Bureau, USA   この人はろうですか?または聞くことが非常に困難ですか(はい/いいえ) この人は盲ですか?または眼鏡をかけても見ることが非常に困難ですか?(はい/いいえ) ウルグアイ   最上層  ラテンアメリカ・カリブ海   2011年   328,425   General Population Census VIII, Homes IV and Housing VI National Institute of Statistics, Uruguay   視覚・聴覚についてのワシントン・グループのショート・セット。両方の分野で「とても難しい」と答えた場合、盲ろうとみなす。 ベトナム   最下層中位   東アジア太平洋   2009年   14,177,590   2009 Population and Housing Census   General Statistics Office, Vietnam   視覚・聴覚についてのワシントン・グループのショート・セット。両方の分野で「とても難しい」と答えた場合、盲ろうとみなす。 ***** <参考資料2> World Federation of the Deafblind, WFDB WFDB Constitution Constitution of the World Federation of the Deafblind Adopted by the Founding General Assembly, in Auckland, New Zealand, 11-12 October 2001. Amended at the 4th WFDB General Assembly in Tagaytay, Philippines, 10-11 November 2013. Amended at the 5th WFDB General Assembly in Benidorm, Spain, 20 June 2018. Article 1: NAME, LEGAL FORM, REGISTERED ADDRESS AND DEFINITION 1.1 This association is called the World Federation of the Deafblind (WFDB). It is a non-governmental, charitable and non-profit making worldwide organisation. 1.2 The association must have at least one legally registered address in a national membership country. 1.3 The headquarters of the organisation will at any given time be located where the Executive Council sees fit. 1.4 Deafblindness is a unique disability, caused by a combination of severe auditory and visual impairments. 1.5 WFDB is the legitimate voice of the world’s population of persons with deafblindness. 1.6 The official working language of WFDB is English. Article 2: RELATIONSHIPS WFDB shall develop and maintain official relations with the United Nations (UN) and its specialised agencies and organisations. WFDB shall also cooperate with other international organisations promoting the interests of persons with deafblindness and international organisations representing people with disabilities. Article 3: AIMS AND FUNCTIONS 3.1 The aim of WFDB is to improve the quality of life of persons with deafblindness worldwide, with the objective of achieving their equal rights and equal opportunities in all areas of society, to be a worldwide forum for the exchange of knowledge and experiences in the area of deafblindness, and to increase international solidarity among organisations of persons with deafblindness. 3.2 Functions of WFDB: a. to advocate social inclusion and equal participation in all areas of society b. to ensure accessibility to all areas of society c. to advocate improvements in the field of education, rehabilitation and employment of persons with deafblindness d. to combat discrimination of persons with deafblindness e. to advocate guide interpreters and other services for all persons with deafblindness f. to raise awareness of deafblindness as a unique disability g. to advocate and support the establishment of national deafblind organisations h. to support national deafblind organisations i. to publish relevant material for persons with deafblindness Article 4: MEMBERSHIP 4.1 WFDB has two (2) forms of membership: a. National members b. Special members Applications for membership must be made to the Executive Council. In case of rejection the applicant can request a decision by the General Assembly. 4.2 National members represent the deafblind population in their country. Each country can only have one national member. Each National member elects one National representative, who must be a person with deafblindness. 4.3 National members have the right to participate in all WFDB activities. At the General Assembly, National representatives have the right to speak and the right to vote. 4.4 Special Membership can be divided into four (4) categories of membership: Individual membership Honorary membership Associate membership Sponsoring membership Special members have the right to participate in all WFDB activities, but do not have the right to vote at the General Assembly. 4.5 Individual members are persons with deafblindness who are not representing the deafblind population of the country they reside in. Individual members have the right to speak at the General Assembly. 4.6 Honorary members are chosen by the Executive Council in recognition of their contribution to, and support of, the interests of persons with deafblindness and their organisations. 4.7 Associate membership of WFDB is open to individuals, national, regional and global organisations and institutions who are in agreement with the aims of WFDB. 4.8 Sponsoring membership is open to all individuals, organisations and institutions who want to support WFDB financially. Article 5: GENERAL ASSEMBLY 5.1 The governance of WFDB consists of the following bodies: The General Assembly The Executive Council 5.2 The General Assembly is the supreme governing body of WFDB. 5.3 Meetings of the General Assembly are open and consist of deafblind representatives representing the National Members. Each representative has one vote. No proxy voting is allowed. Providing that notification for the meetings of the General Assembly is in accordance with this Constitution, the General Assembly is quorate regardless of the number of representatives present. 5.4 The General Assembly shall meet at least every four (4) years. If this is not possible, the General Assembly shall meet as soon as it is practically feasible, and within six (6) years. 5.5 Meetings of the General Assembly are announced in writing by the President at least eighteen (18) months before the date of the meeting. Applications and motions to be considered by the General Assembly must be received by the Executive Council at least twelve (12) months before the date of the General Assembly. The agenda and all relevant documents related to the General Assembly are circulated to all members by the Secretary General at least four (4) months before the date of the meeting. The date of the postmark is taken as the date of dispatch. 5.6 The General Assembly has the following particular responsibilities: a. to determine policy b. to discuss all recommendations presented by the Executive Council and make the necessary decisions c. to receive reports from the Executive Council represented by the President, all regional representatives and all the committees and give or withhold approval d. to set budget parameters strategically e. to receive the Treasurer's report and give or withhold approval f. to determine the membership fee g. to elect the President, Vice President and three (3) members to the Executive Council. Amongst these five (5) positions, a minimum of two (2) persons must be elected from the Global South. The General Assembly should strive to achieve gender balance in the Executive Council. h. to elect six (6) regional representatives, representing the following six regions: a. Africa b. Asia c. Europe d. Latin America e. North America f. The Pacific i. to consider all proposals presented to it j. to elect two members of the General Assembly to act as auditors who examine and report on the management of WFDB finances k. to elect an election committee comprised of one leader and two members l. to consider resolutions to amend the Constitution m. to make decisions concerning the dissolution of WFDB 5.7 Voting is through consensus or through the raising of hands, unless a representative requests a secret ballot. In this case a secret ballot is held. 5.8 All voting, with the exception of amendments to the Constitution and the dissolution of WFDB, requires a majority of the votes cast. 5.9 Elections are carried out by secret ballot. In order to be elected, a person must receive a majority of more than 50% of all votes cast. Article 6. EXECUTIVE COUNCIL 6.1 The Executive Council is elected by the General Assembly. National members of WFDB have the right to nominate candidates. All nominated candidates must be persons with deafblindness who are members of a national or associated member organisation. 6.2 The Executive Council consists of the Elected Officers: President, Vice President, And three (3) members. The Executive Council appoints the Treasurer and the Secretary General. These will have right to speak and the right to submit proposals, but not the right to vote. Elected members of the Executive Council may be appointed as Treasurer and Secretary General. In the event of elected members being appointed to these positions, they will have the right to vote as elected members of the Executive Council. When a new President is elected, the resigning President continues as Immediate Past President. The Immediate Past President will act as an advisor and support the elected President and the Executive Council as needed, including for representation. The Immediate Past President does not have the right to vote in the Executive Council. 6.3 Auditors and other advisors may be summoned to meetings of the Executive Council as needed. They will be given observer status. 6.4 The term of office of the Executive Council begins at the end of the General Assembly and ends at the end of the next General Assembly, when a new Executive Council is elected. If an elected member retires between elections, the Executive Council may appoint a replacement, representing the same region, until the next election. If one of the Elected Officers, except the President, retires, the Executive Council may appoint a replacement until the next election. 6.5 The function of the Executive Council is to undertake the business of WFDB. 6.6 The Executive Council meets at least once a year, either face to face or via email. 6.7 The face to face meetings of the Executive Council shall be announced in writing by the President at least three (3) months before the date of the meeting. The agenda and all relevant documents are circulated to the members of the Executive Council at least one (1) month before the date of the meeting. The date of the postmark is taken as the date of dispatch. 6.8 The Executive Council has a quorum when at least four (4) elected members are present. 6.9 The President has the final vote in case of a tie in the Executive Council. Article 7: RESPONSIBILITIES OF ELECTED AND APPOINTED OFFICERS, AND REGIONAL REPRESENTATIVES 7.1 Elected officers are: The President, the Vice President, and three (3) members. Elected Officers carry out their tasks under the supervision of the Executive Council. 7.2 The President is responsible for: a. The coordination of the work in WFDB b. Leading the General Assembly and Executive Council meetings c. The representation of WFDB, but may delegate this responsibility to others d. The Annual Reports of WFDB 7.3 The Vice President serves in case of absence of the President or if the President retires before the end of the president’s term of office. The Vice President will participate in the decision-making process in the EC and take on tasks assigned by the President. 7.4 The three (3) EC members will participate in the decision-making process in the EC and take on tasks assigned by the President. 7.5 The Treasurer and Secretary General will be assigned responsibilities by the Executive Council. In day to day operations they will collaborate with, and report to the President. 7.6 Regional representatives will act as a reference group to the Executive Council. Regional representatives are responsible for information to the Executive Council about the work and activities in their respective regions. Article 8: DISSOLUTION 8.1 Dissolution of WFDB happens if no meetings of the General Assembly have taken place during a period of nine (9) consecutive years or after no meetings of the Executive Council have taken place during a period of five (5) consecutive years. 8.2 A resolution containing the dissolution of WFDB must be circulated to all members at least twelve (12) months before the General Assembly at which it is to be discussed. For such a resolution to be carried, a two third majority of all votes cast is required. 8.3 In the event of dissolution, any funds or other assets owned by the WFDB shall be transferred in accordance with the relevant law and dealt with in accordance with the wishes expressed by the General Assembly. Article 9: AMENDMENTS AND APPROVAL 9.1 Resolutions to amend the constitution must be received by the Executive Council at least twelve (12) months before the date of the meeting of the General Assembly at which they are to be discussed, and must be circulated to all members at least eight (8) months before. For such a resolution to be carried, a two third majority of all votes cast is required. 9.2 Other rules not mentioned in this constitution are described in the bylaws of WFDB. 9.3 Bylaws of WFDB are prepared by the Executive Council and approved by the General Assembly To approve bylaws, only a simple majority of all votes cast in the General Assembly is required. Constitution was approved by the 5th WFDB GA, 20 June 2018, Benidorm, Spain Geir Jensen,President Sonnia Margarita Villacres,Vice President ***** <参考資料3> Nordic Definition of Deafblindness Deafblindness is a combined vision and hearing impairment of such severity that it is hard for the impaired senses to compensate for each other.Thus,deafblindness is a distinct disability. Main implications To varying degrees,deafblindness limits activitiles and restricts full participation in society.lt affects social life,communication,access to information, orientation and the ability to move around freely and safely. To help compensate for the combined vision and hearing impairment, especially the tactile sense becomes important. Com ments: On the combined vision and hearing Impairment The severity of the combined vision and hearing impairment depends on: ・the time of on-set,especially in relation to communication development and language acquisition ・the degree and nature of the vision and hearing impairments ・whether it is congenital or acquired ・whether it is combined with other impairments ・whether it is stable or progressive On the distinct disability The fact that it is hard for the impaired senses to compensate for each other means that: ・Attempting to use one impaired sense to compensate for the other one is time consuming, energy draining and most often fragmented. ・A decrease in the function of vision and hearing increases the need for making use of other sensory stimuli(i.e. tactile,kinaesthetic, haptic,smell and taste). It limits the access to distance information It creates a need to rely on informotion within the near surroundings. To create meaning,it becomes necessary to rely on memory and to draw con clusions from fragmented information. On activities and participation Deafblindness limits activities and restricts full participation in society.ln order to enable the individuaI to use their potential copacity and resources, society is required to facilitate specialized services: ・The individual and their environment should be equally involved, but the responsibility for granting access to activities lies on society.An accessible society should at least include: available competent communication partners available specialized deafblind interpreting,including interpreting of speech, environmental description and guiding available information for everyone human support to ease everydoy life adapted physical environment accessible technology and technologicaI aids ・A person with deafblindness may be more disabled in one activity and less disabled jn another activity. Variation in functioning might be the conseqluence of both environmentol and personal factors. ・Specialized competence related to deafblindness,including an interdisciplinary opproach,is vital for proper service provision. ***** <参考資料4> 「日本における盲ろう者の社会参加促進の取り組み」 (パワーポイントの資料。グラフ等はタイトルのみ記載する) Japanese Approach to Promote Social Participation of Persons with Deafblindness Tarzan(Nobuyuki Takahashi) President of japan Federation of the Deafbllnd Mail:Dr.dbTarzan@gmail.com Sex:Male job:Teacher, Matsuyama School for the Blind Impairment:Deafblind Educational Background:Doctor of Engineering 1.1 Number of Persons with Deafblindness by Age,Population of Japan in 2012 1.2 Increasing Ratio of Persons with Deafblindness by Age 1.3 Possible Causes of Deafblindness by Age 1.4 Ratio of the Most Useful Communication Means for Persons with DeafbIindness 1.5 The Employment Status for Persons with Deafblindness of 20 to 60 Years old A. Fulltime Staff 9.9% ' B. Non-fulltime Staff 8.9% C. Self Employed 6.3% D. Unemployed 74.8% 1.6 Frequency of Talking with Other Persons by Degree of Impairment 1.7.a Frequency of Going Out by Degree of Impairment 1.7.b Ratio of Persons with Deafblindness with Low Frequency of Going Out by Age 2.1 Local Community of Deafblindness The first local community of deafblindness was formed in Tokyo in1991. Now,all 47 prefectures have communities of deafblindness. 2.2 The Activity Image of JFDB, JDBA, Local Communities of Deafblindness 2.3 Training and Dispatch System of Interpreter-Guides 2.4 Requests for Medical Institutions  ・Early Detection and Early Treatment of Diseases Causing Deafblindness  ・Sufficient Information about the Diseases  ・Enough Consulting Time according to Communication Means  ・etc 2.5 Requests for Educational Institutions  ・Early Education  ・Development of Educational Method for Deafblind Children  ・Placement of Teachers with Skills  ・etc 2.6 Requests for Social Welfare Institutions  ・Services for the deaf are almost for the visible people.  ・Services for the blind are almost for the hearing people.  ・So, persons with deafblindness could not use these servises.  ・We hope services not for the deaf, not for the blind, but for the deafblind. 2.7 We need National Rehabilitation Center for Persons with Deafblindness  ・To solve issues on deafblindness, collaboration of related institutions is more important.  ・Roles of National Rehabilitation Center  - A Conductor for Collaborate with Related itutions  - Training for Persons with Deafblindness Communication Means Daily Living Motion Job etc  - etc ***** 書名:平成30年度盲ろう者国際協力推進事業海外調査報告書 発行日:平成31年3月31日 編集・発行:〜日本のヘレン・ケラーを支援する会〜 社会福祉法人全国盲ろう者協会 〒162-0042 東京都新宿区早稲田町67番地 早稲田クローバービル3階 TEL 03-5287-1140 FAX 03-5287-1141 **********