平成25年度盲ろう者向け通訳・介助員現任研修会報告書 〜日本のヘレン・ケラーを支援する会R〜 社会福祉法人 全国盲ろう者協会 目次 1.概要 1 2.日程表 2 3.カリキュラム別の報告 (1)全体会「よりよい通訳・介助をするために盲ろう者福祉の現状を知ろう」 3 (2)分科会A「先天性盲ろう児(者)について学ぶ」8 (3)分科会B「音声通訳」13 (4)分科会C・F「心のケア〜1人で抱えていませんか〜」 17 (5)分科会D「ロービジョンと移動介助」19 (6)分科会E「手書き文字通訳」 23 (7)全体会「盲ろう者と通訳・介助員との信頼関係」26 平成25年度 盲ろう者向け通訳・介助員現任研修会 報告書 1.概要 (1)目的 盲ろう者の自立と社会参加を図るため、盲ろう者向け通訳・介助員を対象として、盲ろう者についての知識や、よりよい介助方法をはじめ、コミュニケーション技術等、盲ろう者の多様なニーズに応えることのできる知識並びに技術等について研修することにより、盲ろう者向け通訳・介助員の資質の向上を図ることを目的とする。 (2)日程  平成25年11月15日(金)〜17日(日)3日間 (3)場所 コンベンションルーム AP秋葉原 4、5階 〒110-0006 東京都台東区秋葉原1−1 秋葉原ビジネスセンター内 TEL 03-5289-9109 (4)全体概要  平成25年度「盲ろう者向け通訳・介助員現任研修会」は、平成25年11月15日(金)〜17日(日)の3日間、東京都台東区秋葉原1−1 秋葉原ビジネスセンター「コンベンションルームAP秋葉原」で開催された。全国各地から聴講の盲ろう者1人を含む121人の盲ろう者向け通訳・介助員が参加した。  1日目の全体会では、「よりよい通訳・介助をするために盲ろう者福祉の現状を知ろう」と題して、平成25年4月より「障害者自立支援法」に代わり、「障害者総合支援法」が施行され、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業及び同養成事業が都道府県地域生活支援事業の任意事業から必須事業に位置づけられたことや、障害者の権利条約批准に向けて国内法の整備も進む中で、盲ろう者福祉制度の現状を概観するとともに、これに関連して平成24年度に実施した「盲ろう者に関する実態調査」、「盲ろう者通訳・介助員の養成カリキュラムの内容に関する調査について」、これらの結果等について、当協会山下事務局長が講演を行った。  2日目は分科会に分かれて、「先天性盲ろう児(者)について学ぶ」、「ロービジョンと移動介助」、「音声通訳」、「手書き文字通訳」、「心のケア〜1人で抱えていませんか〜」、これらをテーマに講義や実習、ディスカッションが行われた。  3日目は、全体会「盲ろう者と通訳・介助員との信頼関係」をテーマにパネルディスカッションが行われ、盲ろう者と通訳・介助員4名のパネラー、受講者、皆で活発な意見交換がなされた。  本研修会は、全国レベルでの通訳・介助員が集い、情報交換ができる唯一の場である。例年に比して、全国各地より多くの通訳・介助員の参加が得られたことは大変有意義であった。 2.日程表 11月15日(金) 12:50〜13:30 受付 13:30〜14:00 開講式 14:00〜17:00 全体会「よりよい通訳・介助をするために盲ろう者福祉の現状を知ろう」 18:00〜20:00 意見交換会 11月16日(土) 9:00〜12:30 A分科会「先天性盲ろう児(者)について学ぶ」 B分科会「音声通訳」 C分科会「心のケア〜1人で抱えていませんか〜@」 12:30〜13:30 休憩 13:30〜17:00 D分科会「ロービジョンと移動介助」 E分科会「手書き文字通訳」 F分科会「心のケア〜1人で抱えていませんか〜A」 11月17日(日) 9:00〜12:00 全体会「盲ろう者と通訳・介助員との信頼関係」 12:00〜12:30 閉講式 3.カリキュラム別の報告 (1)全体会 「よりよい通訳・介助をするために盲ろう者福祉の現状を知ろう」 講師:山下 正知(社会福祉法人 全国盲ろう者協会 事務局長) 司会:菅原 智和美(埼玉盲ろう者友の会 通訳・介助員) 内容:平成25年4月より障害者自立支援法から障害者総合支援法へと変わった。このことに伴う、盲ろう者福祉の分野での変更点を講義した。また、平成24年度当協会で行った「盲ろう者に関する実態調査」と「盲ろう者通訳・介助員の養成カリキュラムの内容に関する調査」について、その調査結果を受講者全員で共有した。 以下、講義で使用した資料を掲載する。 ---スライド1 よりよい通訳・介助をするために福祉制度を知ろう  全国盲ろう者協会 事務局長 山下正知 ---スライド2 盲ろう者に関する制度的な枠組みの動向 ・障害者基本法の一部改正 ・障害者総合支援法の施行 ・障害者差別解消法の成立 ・障害者権利条約の批准の動き ---スライド3 障害者基本法の一部改正 平成23年7月に、障害者基本法が一部改正され、障害者は、意思疎通のための手段についての選択の機会が確保され、情報の取得や利用のための手段についての選択の機会拡大が図られるなどの規定が盛り込まれた。 (参考)この改正で、新たに内閣府に設置された「障害者政策委員会」には、現在、2名の盲ろう者が参加している。 ---スライド4 障害者総合支援法の施行 平成25年4月から、障害者総合支援法が施行され、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業と養成事業が都道府県(指定都市・中核市を含む)の必須事業とされた。 また、法施行後3年(平成28年4月)を目途として、意思疎通を図ることに支障のある障害者等に対する支援の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずることが規定された。 ---スライド5 障害者差別解消法の成立 平成25年6月に、障害者差別解消法が成立した。(平成28年4月から施行、施行後3年を目途に必要な見直しを検討) 障害を理由とする差別的取り扱いの禁止や合理的配慮の不提供の禁止などを定めた本法の施行により、盲ろう者を含む視覚・聴覚障害者の情報・コミュニケーション保障(アクセシビリティの確保)などが進むことが期待されている。 ---スライド6 障害者権利条約の批准の動き 2006年(平成18年)12月に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」については、関連する国内法の整備が遅れ、批准がされないままとなっていたが、障害者基本法の一部改正をはじめとする国内法の整備が行われたことを踏まえて、本年10月、国会に上程され、批准の運びとなった。 ※批准、公布され、国内法としての効力を有する条約において「盲聾(ろう)者」という用語が初めて公式に用いられることとなる。 ---スライド7 盲ろう者福祉に関する課題(養成研修カリキュラムの標準化) 障害者総合支援法において、盲ろう者向け通訳・介助員養成事業が都道府県(指定都市・中核市を含む)の必須事業とされたことから、これまで各都道府県でバラバラに実施されていた養成研修の内容を底上げし、カリキュラムの標準化を図ることが必要となった。 ---スライド8 (3年後の見直しに向けた施策のあり方の検討) 障害者総合支援法においては、法施行後3年(平成28年4月)を目途として、盲ろう者等に対する支援のあり方について検討し、所要の措置を講ずることとされている。このため、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業の一層の充実やその他の福祉施策の利用拡大、また、それらと密接に関連する障害支援区分の改善などに向けて、早急に検討を進め、国や地方公共団体、他の障害者団体などとも十分に連携して、制度の再構築を進めていく必要がある。 ---スライド9 総合支援法に関連するその他の問題 (大都市特例の導入) 障害者総合支援法においては、盲ろう者向け通訳・介助員派遣及び養成事業等が必須事業化されるとともに、これら事業の実施主体が指定都市及び中核市に拡大された。 (意思疎通支援事業モデル要綱の作成) 障害者総合支援法の施行に伴い、手話通訳者及び要約筆記者の派遣事業に関し、都道府県及び市町村のモデル要綱が作成された。 ---スライド10 盲ろう者に関する実態調査の概要 ・身体障害者手帳の交付状況 ・目と耳の両方に障害がある方の生活状況 ・盲ろう者地域団体の活動状況 ※上記の調査は、全国盲ろう者協会が厚生労働省の平成24年度障害者総合福祉推進事業補助金を受けて実施 ---スライド11 身体障害者手帳の交付状況 ・視覚と聴覚の両方の障害の身体障害者手帳を交付されている者を対象 ・47都道府県、20指定都市、41中核市の障害福祉主管課に依頼(回収率98.1%) ・視覚と聴覚の身体障害者手帳所持者 13,952人 ・未回収の自治体も含めた推計数 14,329人 ・盲ろう者の手帳交付率 人口10万人対11.3人 ※手帳交付率(人口10万人対)は、都道府県間のバラツキが大きく、最高35.3人 最低4.7人 ---スライド12 ・老年人口(65歳以上)77.4%、生産年齢人口(15歳〜65歳)18.1% ・男性:41.8%、女性:57.0% ・総合障害等級 1級:49.5% 2級:25.6% ・視覚1級―聴覚6級 10.1% ・視覚2級―聴覚6級 10.1% ※平成24年度における通訳・介助員派遣事業登録者940人(推計盲ろう者数の6.6%) ---スライド13 目と耳の両方に障害がある方の生活状況 ・身体障害者手帳の交付状況の調査で把握した視覚と聴覚の両方の障害の手帳交付者で、調査票の配布について都道府県、指定都市、中核市の協力が得られた12,813人を対象 ・回答数 2,879通(回収率 22.4%) ・有効回答 2,744通(有効回答率 21.4%) ・障害の状況 全盲難聴:41.2% 弱視難聴:26.3% 全盲ろう:15.9% 弱視ろう:7.7% 無回答:8.9% ---スライド14 ・最も円滑な発信コミュニケーション方法 音声:65.4% 文字:(筆談、手書き文字、空書き)9.0% 手話:7.2% ・最も円滑な受信コミュニケーション方法 音声(聴覚):59.5% 筆記(筆談):9.4% 手書き文字:4.8% 弱視手話:3.9% ・会話頻度 毎日:50.4% 週に3〜4日程度:11.5% 週に1〜2日程度:10.3% ---スライド15 ・単独移動能力 自宅内の移動はできる:37.0% 自宅周辺の歩行はできる:15.9% ・外出頻度 週に1〜2日程度:20.4% 週に3〜4日程度:16.4% 月に1〜2日程度:14.6% ・福祉サービスの利用 利用している:49.1% 利用していない:47.4% ---スライド16 ・日中の過ごし方 家庭内:67.7% 施設内:16.7% 家事育児介護:11.6% 介護保険通所サービス:11.8% 障害者通所サービス:7.1% ※就労(正職員):2.1% 就労(正職員以外):2.2% ---スライド17 盲ろう者地域団体の活動状況 ・49箇所の盲ろう者地域団体を対象 ・48箇所から回答(回収率98.0%) ・法人格を有する団体:18.8% ・専用の事務所を有する団体:43.8% ・盲ろう者の会員数 10人未満:33.3% 10〜19人:25.0% ・活動内容 交流会を実施:97.8% 機関紙を発行:86.7% 学習会を実施:73.3% 陳情を実施:64.4% ---スライド18 盲ろう者通訳・介助員の養成カリキュラムの内容に関する調査の概要 ・盲ろう者向け通訳・介助員養成事業 ・盲ろう者向け通訳介助員の状況 ・通訳・介助についてのニーズ ※上記の調査は、全国盲ろう者協会が、厚生労働省の平成24年度障害者総合福祉推進事業補助金を受けて実施 ---スライド19 盲ろう者向け通訳・介助員養成事業 ・都道府県障害福祉主管課47箇所を対象 ・44箇所から回答(回収率93.6%) ・平成23年度に養成講習会を実施 93.2% ・委託先 盲ろう者団体:40.0% 聴覚障害団体:20.0% 身体障害者団体:17.5% その他:17.5% ※自治体の直轄で実施 1箇所 ---スライド20 ・区分・コース(初級、中級、手話コース等) あり:14.6% なし:85.4% ・区分・コースにない自治体の平均研修時間数 30時間(最小12時間、最大64時間) ・受講者の要件 地域在住:16箇所 年齢:10箇所 手話技能:5箇所 点字技能:2箇所 ---スライド21 通訳・介助員の状況 ・各都道府県の盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業に登録している通訳・介助員を対象 ・回答数 1,770通(回収率 41%) ・有効回答 1,675通(有効回答率 38.8%) ・性別 女性:86.6% 男性:13.4% ・年齢 50〜59歳:36.1% 60〜69歳:28.5% 40〜49歳:20.0% ---スライド22 ・障害の有無 ある:15.2% ない:84.7% ・手話でのコミュニケーション経験 ある:87.9% ない:11.4% ・手話技能 手話可能:50.6% 日常会話可能:29.9% ・点字経験 ある:23.4% ない:75.8% ・点字機能 長文可能:38.0% 短文可能:33.2% ---スライド23 ・過去1年間の通訳・介助活動の有無 活動した:82.5% 活動していない:16.8% ・過去1年間の通訳・介助活動日数 5日未満:22.8% 10〜19日:17.1% ・最も通訳・介助を担当した盲ろう者の受信方法 触手話:35.1% 音声:20.5% 弱視手話:14.8% 手書き文字:4.0% ---スライド24 通訳・介助についてのニーズ ・通訳・介助員派遣事業に登録している盲ろう者16名を対象 ・事前に作成したインタビューガイドを元に面接調査を実施 ・発言内容を分析し、25の概念に整理し、さらに8の上位概念に分類 ---スライド25 盲ろう者向け通訳・介助員養成カリキュラムの提言 ・調査を踏まえ、全国盲ろう者協会から「盲ろう者向け通訳・介助者養成カリキュラム」を厚生労働省に提言 ・厚生労働省においては、この提言に基づいて、各都道府県、指定都市、中核市宛に「盲ろう者向け通訳・介助員の養成カリキュラムについて」(平成25年3月25日付障企自発第0325第1号自立支援復興室長通知)を発出 ---スライド26 養成カリキュラムの位置付け ・養成カリキュラムは、各都道府県(指定都市・中核市を含む)において、養成研修を企画する際の基本となるもの(直ちに、これをベースとした養成研修を企画できない場合には、数年以内を目途として、段階的な実施が望ましい。) ・養成カリキュラムは、あくまで基本であり、研修を企画する際には、ニーズの高いコミュニケーション方法の習得に重点をおくなど、地域の実情に応じた内容となる。ただし、盲ろう者の多様なニーズに対応していくためには、できるだけ幅広く、実践的な内容とすることが望ましい ---スライド27 1.必修科目と選択科目 ・通訳・介助員の養成には、必修科目42時間、選択科目42時間、合計84時間の研修が必要であり、最低でも必修科目42時間を実施 ☆手話奉仕員養成は80時間、手話通訳者養成は90時間、要約筆記者養成は84時間など ・通訳・介助員養成研修では、必修と選択を合わせた84時間は望ましい水準で「推奨」する。 ・必修科目については、全科目の実施が基本 ・選択科目は、全科目の選択を「推奨」するが、地域の実情に応じて適切な科目を選択すること ---スライド28 2.養成目標と到達目標 ☆養成目標とは、養成研修の狙い、方向性を示したもの ☆到達目標とは、養成研修修了後時における期待される受講者の状態、イメージを示したもの(ただし、当面、研修修了時における効果測定を行うことは想定していない) ---スライド29 必修科目の養成目標 盲ろう者の生活及び支援のあり方についての理解と認識を深めるとともに、盲ろう者との日常的なコミュニケーションや盲ろう者への通訳及び移動介助を行うに際し、最低限必要な知識及び技能を習得する。 ---スライド30 選択科目の養成目標 必修科目の研修修了に加えて、盲ろう者向け通訳・介助員の役割・責務などについて理解と知識を深めるとともに、多様なニーズや場面に応じた通訳及び移動介助を行うに際し、必要な知識及び技能を習得する。 ---スライド31 必修科目の到達目標 盲ろう者と1対1での外出(買い物、食事などに伴う外出)などの日常生活上の場面において、必要な通訳・介助を行うことができる。 ※盲ろう者とコミュニケーションが取れる必要最低限の通訳技能を身につけ、移動介助ができること。このため、最低限、持ち合わせているコミュニケーション方法(手話、点字、手書き文字、筆記、音声など)を使用して、盲ろう者との日常的なコミュニケーションができるようになること。 ---スライド32 選択科目の到達目標 電車、バスなどの公共交通機関の利用を伴う外出や複数のものが参加する講演会、会議などの場面において、必要な通訳・介助を行うことができる。 ************************************** (2)A分科会 「先天性盲ろう児(者)について学ぶ」 講師:三科 聡子(埼玉医大福祉会 医療型障害児入所施設 カルガモの家) 内容:先天性盲ろう児(者)と関わる上で、どのような点に注意すべきなのか、また、コミュニケーション方法としてどのような手段・手法があるのかなど、通訳・介助員としての関わり方を講義いただいた。 以下、講義で使用した資料2種を元に報告する。 資料@ 平成25年度「盲ろう者向け通訳・介助員現任研修会」平成25年11月16日 A分科会 先天性盲ろう児・者について学ぶ ☆はじめに 生まれつき、あるいは2歳までの乳幼児期に視覚と聴覚に併せて障がいを受け、「見ること」「聞くこと」に制限と特別なニーズを要する状態にある者を「先天性盲ろう児・者」と言います。 「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」第3章の中で、視覚障害と聴覚障害が同時に重複した障害については、「特別なコミュニケーション手段が必要」であり、「特に障害の状態に配慮しながら指導する必要がある」ことが明記されています。     これは、人間が外界の情報を入手する最大の窓口である視覚と聴覚の両方に障がいを受けている状態が、他の重複障がいとは異なる独自のニーズを有しており、特別な配慮を必要としていることを意味しています。   T 先天性ろう児・者の多様性 1 原因となる疾病   不明:157名  周産期の異常に関連:40名 先天性風疹症候群:39名 中枢性障害:31名 事故:15名 その他:58名 低(無)酸素性脳症:15名 CHARGE症候群(連合):11名 急性脳症後遺症:6名 コケイン症候群:5名 ダウン症候群:3名 アッシャー症候群:18名 ☆☆CHARGE症候群☆☆  C コロボーマ(Coloboma)脳神経の異常(Cranial nerve problems)   H 先天性心疾患(Heart malformation) A 後鼻孔閉鎖(Atresia of choanae) R 成長・発達の遅れ(Retardation of growth and/or development)  G 外陰部低形成(Genitourinary anomalies) E 難聴・特徴的耳介(Ears anomalies) ☆☆アッシャー症候群(USHER SYNDROME)☆☆ タイプ1   聴覚障がい:先天的な最重度難聴 視覚障がい(網膜色素変性症):乳幼児期から夜盲 平衡機能障がい:内耳の平衡感覚機能が損失 タイプ2   聴覚障がい:先天性難聴。低音部では軽度難聴、高音部に移行するに伴い、重度化 視覚障がい(網膜色素変性症):幼少期から10代に暗点が生じ、視野狭窄が進行 平衡機能障がい:認められず タイプ3   聴覚障がい:先天性難聴。幼少時には軽度難聴、加齢に伴い重度化する場合もある。 視覚障害(網膜色素変性症):乳幼児期から10代に夜盲があらわれ、10代後半から暗点が出現、視野狭窄が進行 平衡機能障がい:軽度の障害が認められ、進行する場合もある。 2 視覚と聴覚以外に併せ持つ他の障害 グラフからも読み取れるように、先天性盲ろう児・者の半数以上は視覚・聴覚の障がいのみならず、肢体不自由(体幹機能障がい、運動機能の障がいや制限など)や知的な障がい、さらには内部障害などのいくつもの障がいを重複していると言える。てんかんによる発作を軽減するための服薬や注入、吸引、さらには呼吸管理といった医療的なケアを必要とする場合も少なくはない。 3 療育・教育機関別の在籍者数 盲学校 機関数42( 71)在籍者数96 聾学校 38(107)54 知的障害養護学校 51 64 肢体不自由養護学校 35 59 病弱養護学校 14 39 併置養護学校 9 22 盲幼児・難聴幼児通園施設 9 4(19) 198 338(353) *国立特殊教育総合研究所  視覚聴覚二重障害を有する児童・生徒の実態調査報告書 平成12年3月 ☆文部科学省 平成19年度「特別支援教育資料」より 特別支援学校在籍者雄数 108.173名 重複障害学級在籍数 35.633名 盲ろう児童生徒在籍数 573名(0.5%) 3 盲ろう児教育の歴史(日本の流れ・世界の流れ) 1837年 ローラ・ブリッジマンの教育開始 1887年 ヘレン・ケラーの教育開始 1949年 山梨県立盲学校 盲ろう児への家庭指導開始 1950年 山梨県立盲学校に盲ろう児入学 1960年代 風疹の大流行、先天性風疹症候群による多数の盲ろう児が誕生する。→ アメリカ、カナダ、ヨーロッパで盲ろう児の教育が確立していく。 1975年 アメリカ 「全障害児教育法」において盲ろうが独自の障害と定義される。 1971年 国立特殊教育総合研究所設立 1970年代 「日本盲聾者を育てる会」設立  1979年 養護学校義務化 1991年 社会福祉法人 全国盲ろう者協会設立 2001年 文部科学省「21世紀の特殊教育の在り方」最終報告 2003年 盲ろう児と家族の会「ふうわ」発足 全国盲ろう教育研究会設立 U 盲ろう障害が発達・成長に及ぼす影響 ☆視覚と聴覚という二つの主たる遠感覚の制限が及ぼす影響 1 情報障害としての盲ろう @ 情報量の制限、情報摂取のために時間と集中力を要する。 A 複数の情報を同時に摂取することが困難。情報相互の関連性、因果関係、全体像の把握が困難。 B 距離が離れている対象物、変化を伴う物は直接触れることが困難であるため、情報としては欠落する <情報の領域>     第1の領域: 直接触れて情報を摂取でき、直接行動に関わることで得ることができる情報 第2の領域: 周囲の状況 第3の領域: さらにアクセスが困難なより広い範囲に関する情報 マスメディアなど コトバの必要性 2 コミュニケーション障害としての盲ろう @ 愛着関係成立の困難 A 自分が属する社会の変化に対する理解の困難 B 概念形成の困難 C コミュニケーションの広がりへの困難       3 移動の制限をもたらす盲ろう障害 空間概念形成の困難さ   V 子ども達と関わるときに 1 コミュニケーションの配慮 フィードバックの重要性 量と質の確保 2 情報障害による見通しを持つことの困難さへの配慮 環境の変化への対応 → 次に起こることへの予告 → 活動の始めとおわり 偶発的なこと、模倣、因果関係や全体像を把握することの難しさへの配慮→ 実体験の重要性:子どもができるだけ自分自身でできるように! 3 集団活動の保障への配慮 一対一の関係から複数の人間との集団へ 他者との人間関係の構築 4 必要とされる十分な時間の保障 W コミュニケーションを育む 1 コミュニケーションの主要な機能 @情報の要求、伝達    A人間関係および共感  子どもからの発信方法 泣き声や表情、実物を示す、手を引くなど:43.5% 身振り:14.1% 手話:5.2% 指文字:3.9% 点字:0.8% 指点字:0.2% 普通文字:6.8% 音声:12.8% キュード・スピーチ:1.9% 写真や絵:2.7% その他:8.1% 子どもの受信方法 特別な合図はなく、直接身体に触ってガイド:32.6% 身振り:13.1% 手話:6.0% 指文字: 4.4% 点字:1.8% 文字 :5.8% 口話・音声:22.3% キュード・スピーチ:1.6% 写真や絵:6.4% その他:6.0% *国立特殊教育総合研究所  視覚聴覚二重障害を有する児童・生徒の実態調査報告書 平成12年3月 X 先天性盲ろう児者のコミュニケーションを考える 1 <信号系構成原則と系統発生図> 自成信号系(対応する事象において自然的に発生する)構成信号系(対応する事象に対応して敢えて作ったもの) 象徴的信号(対応する事象に似ている。わかりやすい。数が増えると紛らわしくなる)非象徴的信号(対応する事象には似ていない。わかりにくい。 数多く紛れずに作れる) 単体的信号(信号が一つの塊から成る。増えすぎると紛らわしくなる)分子合成的信号(信号が有限個の分子を組み合わせて作られる。信号は限りなく作ることができる) 信号の語は少ない、学習が容易、概念の数が少ない 信号の数は無限に可能、学習が困難、概念の数が多い 2 子どもたちはお話しをしようとしています わたしとあなた 発信と受信 資料A 見えにくい、聞こえにくいわたしからのお願い 盲ろうの子どもと家族の会 ふうわ 誰 ? あなたは誰ですか?わたしに手を振ってくれても、遠くから呼びかけてくれても、わたしにはわからないことが多いのです。わたしの近くに来てください。わたしの傍らにいてください。わたしに触れてください。そして、あなたが誰なのか、わたしがわかりやすい方法で教えてください。 いつ? 突然に隣にいたあなたがいなくなったり、突然に物が消えたり、現れたり、突然に口に中に食べ物が入ったり、突然に何かが起こるってとてもびっくりして、こわいことなのです。これから何がおこるのか、それがわかるとわたしはとても安心です。これから何が起こるのか、それがわかるとわたしは心の準備ができます。これがいつ終わるのか、それがわかるとわたしは見通しがもてます。何かをする前には必ず予告をしてください。 どこ? わたしはどこに行くのでしょう?わたしの手をぐいぐい引っ張って連れて行かないでください。どこに行くのか、何をするのか、わたしに伝えてください。どこに行くのかがわかると、わたしは心の準備ができます。 何 ? これは何ですか?わたしに触らせてください。わたしに持たせてください。重さやにおい、あたたかさ、、、いろいろなことでわたしには 「これは何か?がわかります。もちろん、触れないものがたくさんあることも知っています。でも、わたしも知りたいのです。それが何なのか。 どっち? わたしの周りにはいろいろなことがあります。遊ぶとき、食べるとき、何があるのかを知らせてください。何をして遊ぶのか、何を食べるのか、「どっちにしようかな?」って、わたしが選び、決めたいのです。 どうして? わたしの周りにはいつもいろいろなことが起こっています。どうして、そうなるの?どうすれば、こうなるの?不思議なこと、おもしろいこと、たくさん起こっているのです。どのボタンをおしたら玩具が動くの?どうやったら風船を膨らますことができるの?どうして?をわたしは知りたいのです。わたしにもやらせてください。わたしと一緒にやってください。理由がわからないのに、「待っていなさい!」だけは嫌なのです。 ************************************** (3)B分科会「音声通訳」 講師:棟口 健次(広島盲ろう者友の会 副会長) 司会:菅原 智和美(埼玉盲ろう者友の会 通訳・介助員)  今回、この分科会を設けたのは、受講者への事前アンケートから、音声通訳をする機会が少なかったり、きちんと学んだ事がなく基本から学びたいという意見もあり、様々な疑問などのひもを解くヒントに繋げて欲しいとの思いからである。 内容: @「当事者の立場から音声通訳について」棟口氏の講演 A講演を聴いてのまとめ B予め用意したテーマをグループで話し合い、発表する。 @棟口氏 講演「当事者の立場から音声通訳について」 ・聞こえ方について、補聴器にもいろいろあり、低音や高音などの感度も違うので、まずその相手をよく知る事が大事である。(音声の大きさ、左右どちら側で通訳するのか、スピーカー・話者の近くで聞こえるのかなど) ・人混みや雑音の多い所では、聞こえない場合も多いと思う。どうしても伝えないとならない時は、なるべく人混みを避けて、はっきり要件だけを伝えるようにする。 ・盲ろう者の悪口を言わないよう、個人情報や守秘義務は必ず守ること。 ・状況説明については、交流会や会議、移動などの時では違う。会議などでは、発言が必要なので人の意見や周囲の反応などを知らせてほしい。 ・相手を知る事が一番大事。イライラせず、ゆとりをもって通訳することが、盲ろう者にも通訳・介助員にも良い事だと思う。 A講演を聞いて  音声通訳を受ける難聴の状況は様々で、補聴器を使っている人、FM補聴システムを使っている人、聞こえ方などその方に合わせて通訳をしていく。そのためにどこで通訳を受けたらいいのか場所の確認をしたり、人によっては明るさを配慮したり、聞こえ方は周りの状況や、体調などによっても変わるので、緊張しないでリラックスして聞けるような“聞き取りやすい環境づくり”への配慮が大切だという事を確認した。 また、通訳・介助員としての倫理に関する大事なことも、事例を出し、講演いただいた。 通訳・介助員と同行している時ではないが、病院に行ったときに同行者に「レントゲンを見せて」と言われたが、それはなぜなのか。皆さんだって個人的なことを見られるのは嫌であろう。 この言葉を受講生は深く受け止めていた。 何気ない会話の中でそこにいない人の話しを聞くこともあり、それならば、自分がいない場所でも話されているかもしれないと考えられる。そこに個人情報・守秘義務の問題があり、気を付けなければならない。また、通訳・介助員の依頼は、「信用のもと、依頼している」とも話され、信頼関係を改めて考え直す機会となった。 通訳・介助を受けている時、盲ろう者によっては、やりたい事が言えない事も多い。そんな時には全体の状況を見ながら、盲ろう者本人の様子を伺い、盲ろう者がどこまで把握(理解)できているかに合わせるなど、総合的に見て判断したり、倫理的配慮が必要になってくる事を共有した。 B5つのテーマを用意して、各グループで各々のテーマについて話し合い、その後、発表・質疑応答をして皆で意見を共有した。 各々の場面で、どのような問題が想定できるか。また、どのような配慮が必要だと考えられるか。そして自分だったらどうするかなどを話し合う。 (ア)スーパーでの買い物 ・レジでの精算時、盲ろう者の支払いに時間がかかる時には、通訳・介助員の配慮が必要である。盲ろう者には、何人並んでいるのかなど周りの状況を伝えて、盲ろう者から自分で「すみません」と言ってくれると周りも納得してくれる。 ・盲ろう者が希望している物を探すのは大変である。 ・慣れているお店でも、特売品やまとめ買いするとお得な物、見切り品などの情報を伝えるとよい。 ・年末年始などで騒々しい場合は、その場から離れて静かな所で情報を伝える。 ・鮮度や金額、賞味期限は必ず伝える。 ・もし、どう伝えていいのか分からなかったり、答えづらいものは、店員へお願いする。 ・触れてはいけない物には、その旨をきちんと伝える。 ・盲ろう者に荷物を持たせられるが、そういう場合は、「通訳・介助員は目と耳の代わりで、預かるのは命である」と愛情を持って優しく伝える。 ・普段の付き合いの中で、自己責任でやることについて話し合っておくとよい。 ・お金はレジに行く前に準備しておく。 (イ)電車(混雑時)の中 ・白杖を持っていれば席を譲ってくれる。その時の伝え方は、何人がその席から立ったかと話す。 ・周囲の視線も伝える。 ・気まずいと思うことは降りてから話す。 ・電車の中吊りや客の服装も伝える。 ・後ろから押されて転倒した時にも平常心を心掛ける。 ・子供が泣いている状況で、その事を知った盲ろう者が「お母さんはいないの?」と話 しかけた。実際には、隣に母親がいてゲームをしていた。その事は伝えていなかった。そんな経験をしたが、どう対応すればよかったのか。 →「母親は隣にいる」とだけ伝えて、後からゲームの事を伝えればよいのではないか。 ・声のトーンには気を付けるようにしている。 ・他人に迷惑がかかると思ったら通訳をやらない。 (ウ)会議・懇談会 ・発言者の声と重なると困る。 ・他者の音声通訳と声が重なってしまうと通訳している自分の声も聞こえない。そうするとやりにくいので、声が重ならないように席を離す。 ・狭い部屋の場合は上記のように席を離すことができない。 ・音声通訳をしている時、男性が通訳をしている時は表情があまりないのに、女性の通訳に代わると笑顔になった。 ・声の通る人とそうではない人がいる。その場合、声の通る人に任せる。 ・ホールの前側にループ席があり、そこで通訳をしていたが、「もぞもぞしていて聞こえない」と言っていた。事前確認も大事である。 ・会議の進行を止めていいか迷う。 ・「待って」「もう一度」は遠慮なく言う。 ・パワーポイントの通訳方法はどうすればいいか。 ・発言者の言葉をそのまま伝えるのか。わかるような言い方にして伝えるのか。 ・基本的には、言い方やニュアンスなどそのまま伝えるが、盲ろう者によっては、理解できるような言い方にして伝える。 (エ)駅までの移動(慣れている道・徒歩10分程度) ・季節を感じられるような状況説明をする。 ・服や口紅など具体的な色の説明をする。 ・触ってもらったり、匂いを嗅ぐ。 ・秋の葉を触ってもらい、「それと同じ色」とか、「今日のような晴々した空と同じ色」などイメージできるような説明をする。すると、裁縫などをする人は、生地を選ぶときに参考にもなる。 ・事前に何時の電車に乗るか、歩くスピードなどを確認する。 ・通訳・介助員の慣れた道を歩くという考えには気を付ける。 ・身長差がある時は腕を組む。 ・切符を買う時、どこまで介助するのかを聞いて確認する。 ・駅の情報(事故などないか)もきちんと伝える。 ・トイレ介助について、盲ろう者が男性で、女性の通訳・介助員ならば可能だが、逆に女性の盲ろう者に男性の通訳・介助員が付いている場合には、入れないので近くにいる人に頼む(トイレットペーパーの位置など教えているのかなど心配なので確認に行く)。 ・障害者用トイレを鍵なしで利用し、その前で待っている。 ・トイレの後、手を洗ったかチェックする。 ・慣れている道でも工事で危険な所、新しい情報は伝える。 ・トイレも近年新しくなっているので、その事も上手く伝えていく必要がある。 (オ)病院(待合室含む) ・看護師に通訳・介助員だということをわかってもらうことが必要である。 ・盲ろう者自身で診察券を出してもらう。 ・待ち時間に対応方法の確認をする。 ・検査などで盲ろう者が慣れていない場所は、どこまで対応すればいいのか。 ・高齢盲ろう者の受診が多く、家庭に伝えるためノートに記入するのはどうだろうか。しかし、そのノートは誰がどこまで書くのか。 ・通訳・介助員としては、場所が違ってもスタンスは同じだ。 ・通訳・介助員登録証を持って行く。 【感 想】 グループごとに意見を出し合って話し合う事で、自分の対応方法の再確認ができ、更に他のグループの話しも聞くことで幅広い気づきに繋がったと思う。発表された事を更に深く討議できたらよりよいものになったと思うが、時間が足りず発表のみになってしまった。  棟口氏の話しの中で強く印象に残った言葉が、「楽しいと輪が広がる。友達が出来る。お互いに楽しくやっていきましょう」だった。声の様子で、「今日は元気」「調子が悪そう」などわかるそうだ。通訳・介助員を通して、楽しさを伝えていきたいと感じた。 (文責:菅原 智和美) ************************************** (4)C・F分科会 「心のケア〜1人で抱えていませんか〜」 助言者:藤鹿 一之(NPO法人東京盲ろう者友の会 理事長) 杉浦 節子(NPO法人東京盲ろう者友の会 通訳・介助員) 司会:前川 千里(熊本盲ろう者夢の会 事務局長) ねらい:日頃、盲ろう者の通訳・介助をする中で、皆何らかの悩みやストレスを抱えている。こうした悩みやストレスに対して、心のケアは重要である。しかし、こうした悩みやストレスを話し合う場が持てない事から、分科会のテーマとして取り上げた。事前に受講者から寄せられたアンケートや参加者の生の声を聞きながら、解決の糸口を見つけていく。 内容: @事前アンケートに対する助言 A受講者より出された事例 @事前アンケートに対する助言 事前アンケート設問3「ストレスや悩みを抱えた時に相談する相手(または機関)はいますか」 ↓ 通訳・介助員は、悩みを盲ろう者に相談することはできない。よって、信頼できる通訳・介助員の仲間が必要である。相談できる人がいないと悩みを溜め込み、ストレスが溜まって体調も崩す。守秘義務違反にならない程度の通訳・介助員同士のピアカウンセリングが一番のケアになる。ストレスを溜め込まず、きちんと失敗を認めてそれを消化して忘れていくことも大事である。 A受講者より出された事例 本音が出しにくいと言う声が上がり、休憩時間を長めにとり、「気軽に話をする」という時間とした。すると、以下のような事例が出された。 ・盲ろう者の荷物を通訳・介助員が持つ ・盲ろう者からの暴力 ・盲ろう者に体を触られる ・男性の通訳・介助員が少ない 様々な事例が出たが、盲ろう者から誹謗中傷を受けた場合は、善悪をはっきり伝えることが大事である。 今回、ろう者の通訳・介助員の参加も多く、その中からは、ろう者特有の悩みも出された。 ・聴者の通訳・介助員とペアになって通訳をする時は、信頼関係が築きにくい 最後に助言者より、以下のコメントをいただいた。 今こうやって皆さんの前で話せるようになったのも支援して頂いた通訳・介助員のお陰であり、盲ろう者にとって通訳・介助員は貴重な存在である。通訳・介助をする上で、たくさんの問題が起こり、色々なストレスや悩みもあると思うが、盲ろう者の気持ちに寄り添い、お互いに理解しながら通訳・介助を続けて頂きたい。 【感想】  この分科会を通して、通訳・介助員の抱える様々な悩みやストレスを知ることができた。しかし、その全てを知ることができたとは言えず、事前アンケートへの回答も未消化の部分が多く、今後の課題も残った。  今回で終わることなく、もう少し時間をとり、通訳・介助員の本音を引き出して問題の解決を図り、よりよい通訳・介助に繋げていけたら良いのではないか。 (文責:前川 千里) ************************************** (5)D分科会 「ロービジョンと移動介助」 講師:沖村 圭子(札幌盲ろう者福祉協会 事務局長) 三科 聡子(埼玉医大福祉会 医療型障害児入所施設 カルガモの家) ねらい:ロービジョンの見え方は様々である。疑似体験を通して、その人の見え方を理解した上で、どのような配慮や技術が必要なのかを全員で考える。 1.三科氏 講演 「ロービジョンについて」 「ロービジョンの盲ろう者に留意する事項」 パワーポイントを使用し、視機能と見えにくさについて例を挙げながら、具体的にわかりやすく説明した。 ◎視機能とは 視力:どれだけ細かなものを見分けることができるか 視野:どれだけの範囲のものを見分けることができるか 色覚:色を見分けることができるか ◎見えにくさとその対処について @焦点が合わず、ぼやけてしまうために、小さなものや細部が見えにくい。 原因…屈折異常など 対処方法…適切な検査を受け、屈折矯正を行う(眼鏡をかける)。網膜像を拡大する。 ・見たいものを大きくする ・見たいものに近づく ・補助器具(拡大鏡や拡大読書器など)を利用する A視野の中心が見えにくいために、小さなものや細部が見えにくい(中心暗点)。 原因…黄斑変性症、緑内障など 対処方法…@と同様の配慮が必要 読書などは困難さがあるが、移動には困らないという場合が多いため、周囲から理解されにくい状況がある。※色覚異常につながる場合もあるので留意。 Bまぶしさや必要以上の光で効率が低下することで生じる見えにくさ(羞明)。 原因…網膜色素変性症、白内障など 対処方法…照度を低下する、サングラスなどの遮光レンズを装着して、目に入ってくる光量を減少させる。文字の読み書きには白黒反転によって明るい色の部分の面積を減少させる。 C見える範囲が狭いために生じる見えにくさ(視野狭窄) 原因…網膜色素変性症など 対処方法…見たいものと背景とのコントラストをはっきりとさせる。※拡大は逆にわかりにくくなる場合がある。 ◎見えにくさに対する工夫や配慮 @文字の見えにくさ ・その人に合わせた、文字の拡大化や使用する文房具を配慮する。 ・文字の色とその背景の色のコントラストをはっきりさせることで、より見やすくなる。 A物の見えにくさ ・視野狭窄など視野に制限がある場合には、視野の中に入るように配慮する。 ・明る過ぎる光は眩しくて、見えづらくなるので、遮光眼鏡や、つば付きの帽子を装用する、カーテンを引くなどの光を遮る工夫をする。 ・例えば、牛乳を白いコップに注ぎ、白いテーブルに置くと見えにくい。見えやすくするためには、濃い色のコースターやランチョンマットなどをコップの下に置くなどの配慮が効果的である。 B色の活用(色の明度・色相・鮮やかさの3要素) 以上の例を挙げ、見て欲しいもの、見たいものを見やすくする工夫が大切であると述べた。 2.沖村氏 講演 「ロービジョンの盲ろう者として」 ロービジョンの盲ろう者は、見た目は普通の人と同じなので、一般の人には視覚障害があると理解されにくい。また、どの程度の見え方なのかもわかりにくい。 視野狭窄(網膜色素変性症)に白内障を合併した見えにくさと不便さの自身の体験を話し、通訳・介助員に理解して欲しいこと、望むことを説明した。 ◎見え方は一人ひとり違い、また、同じ人でも、その日の体調や、天候、環境によっても変わる。症状は常に同じではなく、変わっていく。 ◎覚えて欲しいこと ・ロービジョンの盲ろう者は、自分でやれることは、できるだけ自分でやりたいと思っているし、やるようにしている。行動する前に相手に必ず事前に確認をして、盲ろう者の主体性を尊重し、見守る姿勢を大切にし、あまり、お世話をしすぎないようにする。 ・盲ろう者の中には、嫌なことがあっても、自分で言えない人もいる。言葉には出せなくても表情には出てしまうものなので、表情の小さな変化を見逃さず、きめ細かく丁寧な観察力を持つ。 ・工事中などの危険な場所、その盲ろう者にとって慣れない場所、暗い場所、狭い場所、自転車が来た時、大勢の人が歩いてきた時、スクランブル交差点などでは手を貸す。   3.演習「ロービジョン擬似体験」 ロービジョンの見えづらさ、不便さを少しでも理解してもらうために、片眼5度の視野狭窄と白濁のシミュレーションゴーグルを付けて疑似的な体験をする。二人一組になり、通訳・介助員役は音声言語を用いないというルールのもとで実施した。  課 題  ≪机上課題≫ @1円玉を床に落として、それを探す。 A渡された用紙を読んで、必要事項を記入する。 ≪移動を伴う課題≫ 課題を記入した用紙を通訳・介助員役に渡した。 (演習 その@) @前方に置いてある飴玉の中から、赤い紙に包まれた飴を2個持ってくる。 A後方に置いてある折り紙の中から、ピンク色を選んで持ってくる、時間があれば鶴を折る。 (演習 そのA) @右側の壁に沿って後ろに行き、数種類のパンフレットの中から、指定されたパンフレットを1部持ってくる。 A左側の壁に沿って前に行き、@とは別の、指定されたパンフレットを1部持ってくる。 擬似体験終了後には、受講生から感じたことなどを発表してもらい、それをもとに話を進めていった。 4.意見交換・まとめ ◎受講生からの主な感想 ・1円玉を探すのに、手で探らないとすぐには見つけられなかった。 ・赤い紙に包まれた飴玉を探すのに時間がかかった。紫と赤とピンクが同じに見えた。かなり神経を使った。 ・物を選ぶのに神経を集中して、すごく疲れた。 ・移動介助ということは信頼関係が大事だと思った。 ・壁をつたって行くことで安心できた。安堵感をすごく感じた。物を探すのに距離感がつかみにくかった。 ・触手話で通訳したが、伝わらないので接近手話にした。または、手書き文字で伝えた。伝えることの難しさを感じた。 ・目的のものを探すのに時間がかかり、普通なら簡単なことなのに、見つかったときは嬉しかった。 ・用紙に記入する課題で、名前を書くということはわかったが、実際に視野狭窄レンズを装用して記入するとなると、何処に書くのかわからなくなった。ここに書いてと指を離さないでくれてはじめて書くことができた。 ≪講師としての自己評価≫ ・視野狭窄と白内障の状態で、具体的な体験をしてもらえたことにより、ロービジョンの盲ろう者がどんな困難を抱えているかが、少しでもわかって貰えた事は良かった。 ・視野に入る範囲の狭さ、見えにくさ、色の判別の難しさ、眩しさ、距離感を実感してもらえたことにより、ロービジョンの盲ろう者に対する自分自身の通訳・介助のあり方を振り返って、気づいて貰えたことは良かった。 ・時間に余裕がなく、事前アンケートの中に記載されていたことに結びつけて、具体的に意見交換ができるまでには至らなかったのが残念だった。 ≪まとめ≫ ・見えにくいという状態は、はっきりとわからない、あることはわかるが確信が持てない、探したいものはわかっているのに見つけるまでに時間がかかる、どこを探していいのか範囲がわかりにくい等の状況にあることを疑似体験を通して実感できたのではないか。 ・見えにくさは、環境や状況によって変化する場合がある。例えば、研修会を行った会議室のように、天井、床、壁が全て白一色だと、蛍光灯の光が反射してよりまぶしさを強く感じられる場合もある。 ・色覚異常がある場合や色の判別が難しい場合には、例えば、「この色と同じもの」と比較できるもの・基準となるものを示すなどの伝える工夫も効果的である。 ・ロービジョンに限らず、全盲ろうの方にも視覚障害者の方にも通じることだが、何もない空間に一人立たされた状態は大きな不安をもたらす。もし移動介助中に、盲ろう者から離れる必要がある場合には、壁や家具などに触れ続けられるような状況を作ってから離れるようにする配慮も必要である。 ・通訳・介助員として、情報を伝えることは大切なことだが、盲ろう者本人が得ることができる情報も大切に考えたい。移動を伴う疑似体験では体験内容を予め紙に記し、それを通訳・介助員役に渡した。ロービジョン当事者である講師の話の中でも「自分ができることはやりたい」という主旨の内容が反復されたが、受講生のなかでその内容を記した紙を盲ろう者役に渡して、「読めるか、どうか」の確認をしている人はいなかった。通訳=手話などの手段を用いて伝えなければいけないと、思い込んではいないだろうか。実際にロービジョンの盲ろう者がその用紙の文字を読み取ることができたならば、自分のペースで読み進め、内容を理解することもできたと考える。盲ろう者の立場になるということのひとつの姿勢だと思う。 ・通訳・介助員として正しく情報を伝えることはもちろんだが、伝えた情報に誤りがあったとわかった場合、いかに訂正するかという問題は日常的に生じること。通訳・介助員としての責任が問われる状況だと考える。 ≪考察≫  この講義・演習を通して、ロービジョンの見えにくさ、不便さを少しでも理解していただけただろうか。ロービジョンの盲ろう者の主体性を尊重して、通訳・介助員は日頃からの付き合いを通して、盲ろう者を知り、多くに気づき、そして見守る姿勢を持てるようになり、どんなことに不便を感じているのか、どんなことをして欲しいのかなどをより深く理解するように努めてほしい。 時間をかけて、ゆっくりとお互いがわかり合えるようになる、それは、同時に強い信頼関係が育っていくことにも繋がることではないだろうか。  ロービジョンの当事者である私も、謙虚にいろいろ学び続けて、より視野を拡げていきたい。通訳・介助員の皆さんが今回の現任研修会で得たことを、自分の地域で少しでも活かして頂ければと願っている。  お互いに、明日は今日よりも少しでもいいから前に進んでいけたら嬉しい。  (文責:沖村 圭子 ・ 三科 聡子) ************************************** (6)E分科会 「手書き文字通訳」 講師:山岸 康子(NPO法人東京盲ろう者友の会 顧問) 石井 弘恵(NPO法人東京盲ろう者友の会 通訳・介助員) 司会:菅原 智和美(埼玉盲ろう者友の会 通訳・介助員) ねらい:手書き文字通訳の基本を理解して、手書き文字のあり方や留意点などについて学ぶ。 内容: @「手書き文字通訳の基本について」 山岸氏の講演 A手書き文字通訳の演習(二人一組で行う) B事前に行ったアンケートやその他思っている事をディスカッションする。 @ 山岸氏 講演「手書き文字通訳の基本について」 ※「盲ろう者への通訳・介助(全国盲ろう者協会・編著)」の第3章「手書き文字通訳の方法と技術」を資料として配布。 手書き文字は、日本語を知っているからと言って、誰でもが手のひらに文字を書ける訳ではない。突然、手を差し出しても書けない。 「手書き文字通訳の方法と技術」(27ページ〜33ページ)を使用し、具体的な例を出して、また、通訳・介助員の姿勢も交えながら、解りやすく説明して頂いた。また、理解度を深めるため、実際に隣同士で手のひらに書いてみながら進めた。 講演における重要なポイントは、以下の4点である。 ・名前から伝える事 ・決して盲ろう者のそばを離れない、盲ろう者を一人にしておかない事 ・離れる時は、その理由といつ戻るのかを伝えてから離れるようにする事 ・盲ろう者は一人ひとり違うので、通訳・介助員の知っている方法で行っても伝わらない事 盲ろう者は、情報が入らない。コミュニケーションが取れず孤立してしまうのは辛い事である。「まず、その盲ろう者を知ることから通訳は始まる」と言われたことに共感し、土台となる大切な部分だと思った。 A 手書き文字通訳の演習 【演習のねらい】 聴こえてくる会話だけでなく、状況説明も伝えることを学ぶ。 【方法】 ・二人一組(盲ろう者役、通訳・介助員役)になり、5分程度の会話を手書き文字通訳する。そのため、事例は2個用意する。 ・盲ろう者役は目を瞑らず、会話の内容も聞いて(見て)いて構わない。 ・演習後の感想を述べ合う。 ・気付いたことや疑問について話し合う。 【感想や疑問などの意見交換】 ・難しくて読み取れなかった。 ・体験できて良かった。 ・普通の会話を伝えるのは難しい。 ・伝える前に打ち合わせをしておくと良い。今回は、親指、小指で発言者を決めておいた。 ・会議などでは、男女の区別をするのに、男性の場合は、名前の次に親指を触り、女性の場合は小指を触る。 ・全部伝えられない時は、要約した。 ・方言は書いてもわからないかもしれないと思った。そのような時は、状況として伝えるのか。会話として伝えられなかった。 ・会話のスピードが速かった。 ・触手話通訳中でわからない時に、手書きをする。確認をしていると話が進み、内容が飛んでしまうそんな時はどうするのか。 ・手話では方向、強弱があるが、手書きの時の工夫は何か。 【講師より助言】 ・二人以上の会話の通訳の時は、名前にカッコ(「」)を付け、名前の次にスラッシュ(/)、または、コロン(:)を書くなど、個々に工夫をするとよい。 ・名前の頭文字を表すなど打ち合わせをしておく。(例:『菅原』の場合、『す/』にする。この方法は時間短縮の一つである) ・方言の場合はそのまま伝える。基本的には、話し手の言葉はそのまま伝える。 ・会議場面では、ついていけない時「ちょっと待ってください」と言う事はできる。進行を止めて状況や発言を伝える。それは大事な役目である。 ・「待ってください」という状況であっても、自身の技術の問題でそれを言うのはいかがなものかと思う。通訳・介助員の伝え方の問題で、盲ろう者の評価を落としてはいけない。技術だけあれば良いという事でもない。 ・講演でついていけなくなった時、次の一、二文は書けないので、それは要約してまとめて伝える。そして次に戻って続ける。 ・通訳者としては、目、耳から入ったものは全て伝えたいが、そういう訳にはいかない。大切だと思う事を考え要約して伝えることも大事。伝えられなかった時、内容を端折ったりした時は、事後に説明してきちんと伝える。盲ろう者と信頼関係を作るためには、そのような方法でよい。 ・相手に合わせて必要な事を伝える。 ・言い回し、話し方などの面白さも伝えてほしい。 ・発言が終わった時の合図も決めておくとよい(軽くポンと触れる等)。 ・相手の盲ろう者を良く知っている時は、打ち合わせをしておく。講演会は当然ついていけないと分かっているから、その時はどうしたら良いか盲ろう者に尋ねる。そして盲ろう者が要約で構わないと言えばそうする。また、難しい言葉はどうするかなども話し合っておく。 ・前もって位置や事柄を決めておいて、手書きで使っていない方の手を利用して伝える。 ・感情的な事は、状況説明として入れる。その方法も前もって決めておくとよい。 B その他フリーディスカッション ・書き方について、「こんにちは」の「は」は、どう書くのか →基本的には「は」だが、盲ベースは「わ」。今はなぜか「わ」になっている。ろうベースの盲ろう者はわかりづらいので、区切るタイミングを考える。書き方は、盲ろう者にもよるが、その方が見えているかのように手書きする。 ・山岸講師の略語はあるのか。 →個々で作られていると思う。伝われば良い。 ・方言の時は、生まれつき聴こえない人には標準語で伝えているのか。 →どんな言葉を使って話しているのかを伝えるために、まずは、そのまま方言で伝えてみる。 ・手書き文字通訳中に、盲ろう者が話しかけてきて別の会話になった。盲ろう者からの質問に答えていると最初に通訳していた内容が伝えられなくなったが、その場合は盲ろう者の会話を遮って話を伝えるのか。 →お喋りの方が大事なら、その場が許すならお喋りをする。話は進んでいるが、どうしたいか盲ろう者に決めてもらう。 ・事前アンケートの設問5「話し手のニュアンスをいかに文章で伝えるか」について。 →言葉(音声)でニュアンスを伝えるのは難しいが、「ね〜」と伸ばす部分を長く書き、優しい雰囲気を表すとか、強い口調の場合は、話の最後に、指で強く打って伝える。驚いたときは、「〜」を長めに伸ばすなど。 ・触手話通訳中、わからない時に手書きをする。新しい言葉は伝わらないので意味を変えず、きちんと内容を伝えて(要約して)ほしいと言われるがよいのか。 →盲ろう者の理解できる言葉に変換するのはいいと思う。 ・通訳者が二人いる場合に、状況説明の通訳は、背中に書くという例を聞いた。 →基本的には手のひらに書く。今後の課題である。 ・数字の「7」とカタカナの「ワ」を見分けるのは大変なのではないか。 →「ワ」の場合は、最後に丸みをつけて書き、「7」の場合はまっすぐにおろして書く。 その他のポイント ・山岸講師の場合は、手書き文字で内緒話しをしているのではないと周りの人に理解してもらえるので、声を出しながら書く。 ・電話の時も声を出す。そうする事で、どこまで伝わっているのかが、対象者や周りの人に分かる。 ・練習方法として、自分の手に書いてみる。速く書ける人は、ゆっくりも書ける。できるだけ「速くきれいに正確に書こう」と思いながら書く。 【講師からのコメント】 盲ろう者から、通訳・介助員として嬉しいのはどういう時かと尋ねられ、「通訳している盲ろう者がいきいきしているのが、通訳・介助員冥利に尽きるのでは」と答えた。それを今も大事にしている。 以前に盲ろう者を知る事から世界が広がると言われた事がある。盲ろうの方をより深く知り、良い関係を作っていけるよう頑張ってほしい。通訳・介助員が頑張っていれば、盲ろう者も慣れてきて、手から伝わってくる。そんな関係ができたら良いと思う。 また、いつも慌てないようにすること。通訳・介助をしていて、想定外の事が起こるのは日常茶飯事である。そんな時こそ落ち着いて行動できる通訳・介助員になってほしい。そして、必ず守秘義務は守ること。変な噂があった時は、「そんな人ではない」と言われるような信頼関係を築く。 養成講習会で盲ろう疑似体験をした時、とても疲れたが、ある盲ろう者から「その状態が私 はずっと続く」と言われてショックを受けた。しかし、ともに頑張って少しでも気持ちが軽くなれたら良い。 講師が話をするだけでなく、受講者が話し合う事も大事だと改めて思った。 これからも、盲ろう者がよりよい生活ができるように、盲ろう者と良いお友達で、信頼関係を築いていきましょう。 (文責:菅原 智和美) ************************************** (7)全体会「盲ろう者と通訳・介助員との信頼関係」 パネラー: 沖村 圭子(札幌盲ろう者福祉協会 事務局長) 棟口 健次(広島盲ろう者友の会 副会長) 菅原 智和美(埼玉盲ろう者友の会 通訳・介助員) 前川 千里(熊本盲ろう者夢の会 事務局長) 盲ろう者の通訳・介助をするうえで、もっとも大切な事は、盲ろう者と通訳・介助員の信頼関係ではないかという事で、研修会のまとめの全体会テーマとした。 各パネラーから経験を踏まえた意見を発表し、その後受講生から意見を引き出していった。 @パネラーからの意見 ・「信頼関係」は、障害があってもなくても難しい問題であり、盲ろう者の自立性や主体性を尊重して、盲ろう者自身が1人でできることを奪わないで見守る姿勢が大切である。 ・口が固い(守秘義務を遵守する)ことがとても大事なことで、信頼につながる。 ・じっくりと真正面から向き合って盲ろう者と話し合ってくれる人は、信頼できる。 ・同じ人間同士として盲ろう者の気持ちに寄り添う温かさ、優しさ、そして、思いやりをもって欲しい。 ・信頼はどちらか片方だけが努力して作るものではない。お互い楽しい時間を共有できれば、心が通じ合い、信頼も生まれるのではないか。 ・支援と介護は違う。自分の力を充分に信じて、盲ろう者と付き合って欲しい。 ・通訳・介助を長く続けるには知識と技術のスキルアップは絶対に必要であるが、目の前にいる盲ろう者の方が、今どんなことを考えているのか、いつも受け止めたいという気持ちを大事にしてほしい。 ・信頼関係を築くのは大変だが、壊れるのは容易い。 ・技術の研鑽以上に、心の研鑽が一番大事である。 A受講生からの意見 ・信頼関係は、お互いに確認しあって積み重ねた経験からできてくるものである。 ・心を開いて、盲ろう者とじっくりと向き合って話を聞く。 ・盲ろう者の育ってきた環境や特性をきちんと掴んだ上で接していくことが大事である。 ・盲ろう者の心のケアをしてくれる場所(ピアカウンセリング)があればよい。 ・カウンセラーの盲ろう者が欲しい。 ・盲ろう者が本当に必要としているのは、自分と一緒に苦しんで、一緒に考えてくれる人なのではないか。 ≪感想≫ 通訳・介助員も盲ろう者も同じ人間同士、同じ気持ちを持って、悲しみも喜びも分かち合い、そっと盲ろう者のそばに寄り添って、手を握り、盲ろう者の微笑みを糧に頑張っていきたい。 盲ろう者の方や、通訳・介助経験者の方から実体験に基づいた貴重な意見が出され、改めて盲ろう者と通訳・介助員の信頼関係の大切さを実感するとともに、人間同士の絆の重要性を考えさせられた研修会であった。 (文責:前川 千里) ************************************** 書名:平成25年度 盲ろう者向け通訳・介助員現任研修会報告書 発行:平成26年3月20日 発行・編集:〜日本のヘレン・ケラーを支援する会R〜 社会福祉法人 全国盲ろう者協会 〒162−0042 東京都新宿区早稲田町67番地 早稲田クローバービル3階 TEL 03−5287−1140 FAX 03−5287−1141